仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦 作:ボルメテウスさん
「……話は分かった」
短くそう言ってから、青年は一歩前に出た。
風に揺れるジャケットの裾。その背にある違和感を、ゲイツは見逃さない。
「俺の名前はソラト。――仮面ライダージェットだ」
名乗りは簡潔だった。誇示も、虚勢もない。
ただ事実を述べるだけの声音。
ツクヨミが一瞬だけ目を細める。
「未来の……ライダー、なのね」
「そうなるな」
ソラトは空を見上げる。雲一つない、静かな昼の空だ。
「俺の時代じゃ、こんな空はもう見られない。
空は“立ち入り禁止”で、飛ぶものは全部、敵だった」
淡々と語られる言葉の裏に、重い現実が滲む。
「俺はジャンク屋で働いてた。動かなくなったジェット機を直して……
飛ばないって分かってても、触ってると落ち着いた」
一拍置いて、拳を握る。
「でも、ある日……空から降りてきた連中が、街を壊した。
理由もなく、人を踏み潰していった」
ゲイツは黙って聞いていた。
「逃げるのは、簡単だった。
でも……それじゃ、空を取り戻したことにならない」
ソラトは二人を見据える。
「だから戦った。
俺の空は、奪わせないって――そう決めた」
それが、彼がここに立つ理由だった。
短い沈黙が落ちた。
ソラトの言葉が、風に溶けるように消えていく。
最初に口を開いたのは、ツクヨミだった。
「……空を奪われた世界」
その声は、どこか遠くを見ているようだった。
「理由も分からないまま、日常が壊れていく。
逃げることはできても、守ることはできない」
ゆっくりと息を吸う。
「それ、私たちの時代と……よく似ているわ」
ソラトが視線を向ける。
「あなたたちも?」
「ええ」
ツクヨミは頷いた。
「私のいた未来も、救いようのない破滅だった。
人々は“どうしてこうなったのか”を考える余裕さえなくて……
ただ、生き延びることだけに必死だった」
その言葉を、ゲイツは黙って聞いていた。
拳を握り、視線を地面に落としたまま。
「……同じだな」
低く、短い一言。
ソラトが振り返る。
「俺たちもそうだった。
戦うか、壊れるか……それしか残ってなかった」
「違う」
ゲイツは顔を上げる。
「戦う“理由”を失った時点で、未来は終わる」
一瞬、強い光がその瞳に宿った。
「俺たちは、終わった未来から来た。
だから分かる。
お前が言ってる“空を取り戻す”って感覚が、ただの理想じゃないことも」
ツクヨミが、静かに続ける。
「失われたものを前にして、それでも立ち上がろうとする人は少ない。
でも……あなたは選んだ」
ソラトは、少し驚いたように目を見開いた。
「選んだ、って……」
「ええ」
ツクヨミは、はっきりと言った。
「絶望の中で、何を守るかを」
ゲイツは一歩前に出る。
「だから、お前はここにいる。
未来が違っても、その選択は同じだ」
ソラトはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……あんたたちも、同じ地獄を見てきたんだな」
「そうだ」
ゲイツは即答した。
「だから分かる。
お前が戦う理由も、迷いも」
三人の間に、言葉以上の共通認識が生まれていた。
それは未来の違いを越えた、確かな理解だった。
――ドン……ッ。
鈍く、腹に響くような音が、遠くから遅れて届いた。
続けて、建物が軋む低音。衝撃は一度きりではない。規則性のない破壊音が、街の向こう側で連なっている。
「……かなり遠いわね」
ツクヨミが音の方向を見据える。
だが、その目は即座に判断を下していた。
「でも、ただの事故じゃない。
あれは……“暴れている”音よ」
「間違いない」
ゲイツはすでに歩き出している。
迷いはなかった。
「行くぞ。
被害が広がる前に止める」
ソラト――ジェットは、短く頷くと一歩前に出た。
「空から行く。
俺が先導する」
言い終えるより早く、腰のジェットドライバーに手をかける。
「変身!」
『FLIGHT!Take off!
Attention please!』
テイクオフ・チケットが装填され、ドライバーの機構が展開する。
『Go to the sky!
JET!JET!JET!!
Have a nice flight!』
轟音と共に、翼が展開。
仮面ライダージェットがその場に立つ。
それを横目に、ゲイツもまたジクウドライバーを構えた。
「……行くぞ」
『ライダータイム!
仮面ライダーゲイツ!』
紅い装甲が身体を包み、ゲイツが変身を完了する。
「ツクヨミ、下がれ。
現場は俺たちが押さえる」
「ええ。無理はしないで」
ジェットは一歩踏み出し、背中のエンジンを低出力で噴かす。
「掴まれ。
振り落とされるなよ」
ゲイツが躊躇なく腕を掴んだ瞬間、
ジェットは地面を蹴った。
爆風。
次の瞬間、二人の姿は空へと消えていた。
破壊音の中心へ――
高度を上げたジェットの背後で、街の輪郭が一気に広がった。
昼の光の下、普段なら穏やかなはずの住宅街が、異様な姿を晒している。
「……酷いな」
ゲイツが低く呟く。
道路は抉られ、建物の外壁には無数の裂傷が刻まれていた。
爆発ではない。焼け跡でもない。
何かが鋭利なもので、叩き壊した痕跡だった。
次の瞬間――
ガガガンッ!!
金属を叩き潰す耳障りな音が、空気を震わせる。
商業ビルの上階が、内側から弾け飛んだ。
壁材とガラス片が粉雪のように舞い落ちる。
「内部から……?」
ジェットが進路を調整する。
その直後、巨大な影のない衝撃が、別の建物を貫いた。
まるで不可視の刃が振り下ろされたかのように、
コンクリートが斜めに切断され、上半分がずり落ちていく。
爆煙の中、細長い何かが一瞬だけ跳ね上がった。
槍か、刃か――判別する前に、それは再び視界から消える。
「姿が見えない……」
ゲイツが歯を食いしばる。
「だが、武装している。
しかも……狙いは人じゃない」
ジェットが視線を走らせる。
破壊されているのは、人のいる場所を“避けた”構造物。
避難経路を潰すような動きでもない。
無秩序だが、完全な暴走とも違う。
次の瞬間――
ドォンッ!!
地面が盛り上がり、アスファルトが裂ける。
その衝撃で、信号機が根元から折れ、横倒しになった。
「……あれは」
「間違いない」
ゲイツが低く告げる。
「アナザーライダーだ。
しかも……厄介な部類だな」
ジェットは高度を下げ始めた。
「着地する。
姿を見せる前に、止めるぞ」
破壊音は、まだ止まらない。
だがその中心にいる“何か”は、
まだ一度も、その姿を現していなかった。
ジェットのエンジンが唸りを落とし、二人は崩れた交差点へと降下した。
着地と同時に、ひび割れたアスファルトが小さく跳ねる。
「ここか……」
ジェットが周囲を見渡す。
だが、そこに“敵”の姿はなかった。
代わりに残されていたのは、異様な破壊痕だけだ。
街灯は根元から切断され、鉄骨は無理やり引き裂かれたように歪んでいる。
爆発ではない。
刃物でも、銃でもない破壊だった。
「……何だ、これ」
ジェットの声に、戸惑いが混じる。
次の瞬間――
ズガンッ!!
背後の建物が内側から弾け、外壁が吹き飛んだ。
瓦礫の隙間から、黒く鈍い“何か”が一瞬だけ姿を覗かせる。
腕――いや、腕に“似た構造体”。
人間の筋肉を模した外殻の先端が、刃のように変形していた。
「……武器が、体から……?」
ジェットは思わず一歩引く。
「ライダー……なのか?
いや、でも……」
理解が追いつかない。
ジェットの時代に存在した“敵”とは、あまりにも性質が違っていた。
一方、ゲイツは動じていなかった。
破壊された断面、変形の瞬間、動きの癖――
その全てを冷静に見ている。
「違うな」
低く呟く。
「仮面ライダーじゃない。
だが、ライダーの力を歪めた存在だ」
再び、壁の向こうで衝撃音。
刃が収納され、別の武装が展開される金属音が響く。
「身体そのものが武装化している……
しかも制御が不完全だ」
ゲイツは確信を深める。
「ツクヨミの言っていた通りだ」
視線を向け、静かに言い切った。
「――アナザーライダー。
そして、あれは……」
瓦礫の隙間に、一瞬だけ浮かび上がる刻印。
歪んだ肉体に刻まれた、二文字。
《 Z O 》
「……アナザーZOだ」
その言葉が落ちた瞬間、
再び、街が軋む音を立てた。