「本日、修行という口実で山に籠ってしまった徐晃に代わり、この于文則が怠惰な訓練にも手を抜いているであろう貴様たちを叩き直す。まず、ここ洛陽より始まり、長安に配置した給水兵から水を受け取って任意で飲みこの訓練場へと帰還する。では私に続け」
続々と走り出した。ほどなく
「于禁将軍早い!!!と、とても追いつけん。こんなんじゃ長安なんて・・・」
「最初から強行軍かよ・・・」
ダダダダダタッタッタッタ・・・とぼとぼ、ふらりパタリ。
「どうされましたか!?于禁将軍!」
全身を膨らませたり縮ませながら
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・だ・・誰が・・・はぁはぁはぁ・・・とまれと・・・うぅぅ・・・はぁはぁ・・・」
10分ほどしてやっと立ち上がり于禁は言った。
「誰が止まれといった?早く走らんか!これでは訓練にならん。私は洛陽で待つ。」
「は、はい・・・では、僭越ながら・・・全軍駆け足。目標長安」
「于禁将軍!戻りました!なれどもう深夜です。本日の訓練は・・・」
「愚か者!そんなことだから戦場で早死にするのだ。今から槍術だ。よし、全員で突きからだ!!」
全員が一斉に突きをして見せる。とある兵士が于禁を尋ね、
「于禁将軍、どうも自分だけ力が入りにくいというか遅いというか・・・」
「大した向上心だ。評価する。突きは力ではない。軸足をしっかりと、地面を踏みしめ魂で突く。」
「はぁ・・・こ、こうでしょうか?」
「魂が入っていない!」
「では、こう・・・ありゃ穂先がぶれる・・・于禁将軍・・・コツがわかりません!」
「仕方がない私が見せてやろう」
于禁はあろうことか、両方の手を同じ動きで突いてしまった。
「う、于禁将軍の型は独自ですね。利き手で力を入れ、もう片方の手は柄の動きを支えるように合わせて動くと聞きましたが・・・」
「うむ。私のように極めるとそう見えるであろう。」
兵士はまた列に戻り繰り返す。
次の兵士がやってきた。
「于禁将軍、どうも狙いを定めても微妙にずれます。これでは敵の急所を的確に突くことができません!ご指導を!」
「(速さは趙雲に並び重さは典韋殿が繰り出すほど・・・どうしよう・・・)で、ではまず型を見直してはどうだ?速さも力も申し分ない。(やったか?)」
「はい、では僭越ながらやってみます。」
兵士はおもむろに右手でグルグル槍を回し、頭上で左手に持ち替えたままやはり回転を続け、左右の袈裟を払い、両手で回転して右手で回転し、大きくかがんで腰の後ろで左手に持ち替え、飛び上がり、穂先を地面すれすれにたたきつけるように振り下ろして着地、くるっと一周回してコンと石づきを地面に置いた。
「(やヴぁい・・・)演武をしろと誰が言った?命令違反は厳罰を与える。」
「申し訳ございません。ただちに訓練を続けます」
そして、次に
「よし、では、そのまま二人組を作って乱取りをせよ!」
ほどなくぽつぽつと兵士が歩いてきた。
「于禁将軍!私だけ相手を見つけられませんでした!おこがましいながら、一手ご指導願えませんか?」
「ふむ。では・・・どこからでも打ち込んでくるがいい。」
「ははっ!!」
カン!コロン・・・コロコロカラン
「喉元には袋が寸止めされていた。」
「お、オラが初めて誰かに勝った?ほぇー。あ、ありがとうございますだ。」
「聞け!一人の兵が私から一本取った。連帯責任の手柄であり、褒章としてただいまをもって訓練を終了する。ご苦労!徐晃が戻るまで総員休暇とする!軍人としてたるむことなく心身を養生せよ!」
数日後
「徐晃将軍!オラ、初めて乱取りでも一本取れましただ。」
「そなたは李洪か、よく鍛錬しもうした。して誰から記念すべき一本をとれたのだ?」
「ハッ、于禁将軍御自らお相手いただき勝利しました。」
「・・・精進いたせ。決して他言召されるな。」
耳を澄ますと聞こえる。
「李洪も一つ曹操軍をわかったみたいだな。」
「ああ、まさか将軍に勝っちまうなんて夢みたいな話、あえて見て見ぬふりをしてりゃ鋭いやつは気が付くよ」
この逸話は真実でありながら後世に決して語られることはなかった。