1話
その土地は、幾多の表現で呼ばれた。
__曰く、全ての国々がそこに集まる。
__曰く、幾つもの宗教の聖地であり、三つの大陸の橋である。
__曰く、天と地が交わる場所である。
__曰く、荒れ野と乾いた地は喜び、砂漠は花咲き乱れる、と
一面に広がる乾ききった高原に、焼け焦げた戦車の残骸がいくつも放置されていた。
民族の長年の悲願である聖地を含む祖国独立、複雑怪奇な国際情勢に助けられ正しく天運によって成立したラコブス共和国。
その国は今周辺諸国からの奇襲を許しその結果、過去に存在していた国となる一歩手前まで追い詰められていた。
野戦陣地を構築するには不向きな地形であり、更に兵数が絶対的に不足しているラコブス国防軍にとって取りうる唯一の選択肢は機動防御のみである。
ラコブス国防軍所属第三機甲旅団はその打撃力を遺憾なく発揮し、数に勝る敵軍を幾度の激戦の結果退けていた。その代償として
「…何両残った?」
「16両です」
機甲旅団の残存戦車数は定数200両に対して、僅か16両となっていた。しかもその内訳は奇襲に対応する為動員されたそのままバラバラに戦場に投入された予備役など所属も雑多な物である。
「その上弾薬も殆ど底をついておりこのままでは機動防御はおろか戦闘に耐えうるかすら怪しいかと…」
「それでも我々に撤退の選択肢はない」
戦略的縦深が無いという絶対条件の前にして車上の作戦会議は粉砕され、重い沈黙が場を制圧した。
兵士達は無言で煙草を吹かせる。
押っ取り刀で前線に駆け付けその後数時間以上も前線に張り付いている彼らは後方の補給部隊との接触も途切れがちであり、弾薬は愚か嗜好品ですら心細くなっていた。
疲弊しきった頭にニコチンを与えても取り留めも無い思考がぐるぐると回り続ける。
戦略的な選択肢が限りなく少ないそんな事分かり切っているんだから奇襲された時の作戦計画ちゃんと立てておけよ上層部の馬鹿野郎そもそも何で奇襲を許したんだ情報機関の無能共生きて帰れたらリンチしてやるいやまず生きて帰れないから怨霊になって末代まで呪ってやるそもそも占領を投入するだけして沈黙したままの旅団司令部は何を遊んでやがる動員を終えたはずの予備役はどこで油売っていやがる
などと建設的に考えていると
「旅団規模の敵戦車群発見!こちらに向かってきます!」
偵察車両からの急報が現実を容赦なく突きつける。
「手筈はいつものように高所から打ち下ろす。彼の他に神は無し」
「「「彼の他に神は無し」」」
荒野を蠢く戦車の大群による波状攻撃を幾度となく迎撃し続けてもまだ敵の戦車は押し寄せてきた。
「5号車は先頭、21号車は後方の車両を狙え。…よし…撃テェ!」
「すぐ後退しポイント443で再集結!」
奇襲を受けた敵の戦車集団は一瞬動揺したものの果敢に突撃してくる。
まとまった数の戦力が残っていた時は先手を打って要地を確保し機先を制する積極的な用兵で数的不利も誤魔化せていた消耗を続け組織の残骸となってしまった今は守勢に回り、ずるずると後退を繰り返していた。
そして破局は遂に訪れる。
「7号車被弾!42号車も弾切れです!」
「体当たりしてでも敵を突破させるな!」
「大尉!4両接近!」
1両に命中させたものの、外しようが無いほど接近した3本の砲塔の照準が定められたのを見て車長は最期を悟る。遺される家族の事に思いを巡らせたその瞬間
「貫通術式、撃てぇっっ!」
轟音を立て敵戦車が吹き飛んだ。
「…!?何が起こったっ!?」
「回線繋がりました!友軍です!」
周りに敵の戦車がいなくなりハッチを開けた車長は遊弋する兵士を認める。
「こちらは第148特技大隊です。近接航空支援を行うので今のうちに下がって下さい。」
「第3機甲旅団所属第三大隊だ。やっと休めると言いたいところだが弾薬切れの車両だけ補給に戻らせる。ここを突破される訳にはいかん」
それに、と疲弊を見せずに獰猛に、そして不適に笑いながら続ける。
「獲物を横から総取りされるのは極めて癪だ」
「…了解です。ですが仲良く折半は約束できませんよ?」
交信を終えた特技兵大隊隊長は対地襲撃を続行している部隊に発破をかける。
「聞いての通りだ。蹂躙せよ!彼の他に神は無し」
空を駆ける魔導士達は次々と敵戦車を撃破していく。対空砲火の中潜り抜け突破し、トップアタックにより戦車の脆弱部を正確に痛打。多少ぎごちなさはあるもののその打撃は指揮系統をもズタズタにし瀕死の戦車旅団も航空支援のもと逆襲に転じた。
祖国は侵略に対して決然と抵抗し、見事撃退した…といった英雄譚、美談、はたまたプロパガンダにはならなかった。
第三機甲旅団は前線の指揮官クラスが全滅、残存した数量の戦車は動員された予備役部隊に組み込まれ機甲旅団は書類だけの存在と化した。
そして第148特技大隊、かつて大戦時猛威を振るい恐れられた航空魔導士の末裔であり、ラコブス国防軍が建軍以来陰に陽に積み上げてきた集大成でもあり、そしてなにより高度な機動性と柔軟性を備えた内線戦略の要としての即応部隊という戦略上の鬼札は
「ルーア1、ロスト!指揮権をルーア5に継承!」
「第3中隊、有力な敵魔導士集団と戦闘中、半数が被弾!至急救援求む!」
「ルーア25よりHQ!第34小隊残り1機!主に栄光あれ!」
「ルーア5被弾!指揮権を次席に継承!」
連続する激戦の中戦力をすり潰し、指揮官率先の対価として制空権を辛うじて拮抗状態まで持ち込むが激戦、まして圧倒的な数的劣勢において奇跡を起こした代償、当然の成り行きとして次々と指揮官は戦死。
「以後、ルーア36が指揮権を継承。第一、第二中隊は対地襲撃を続行。第3中隊で敵魔導士を引き受ける」
その結果として大隊の指揮権はある訓練生上がりの女性、正確には少女の少尉に引き継がれる。
「喜べ諸君、主は我らに試練を与えられた!」
多少人より多い魔力量を持つだけの特にこれといって高い能力も評価も無い彼女はただの平均的な、近代軍隊の到達点である組織の優秀な歯車と認識されていた。
「すなわち栄光は約束された!戦死すれば殉教だ!」
その認識は何も間違っていなかった。
ただ一つ間違いがあったとすれば彼女の信仰は常軌を逸していた。
無論宗教国家である共和国軍において信仰は呼吸のようにごく自然に存在している。
しかし、ソレは余りにも異常だった。
「第三機甲旅団司令官イルデル少将。貴方を処刑します」
「ふ、ふざけるな!貴様自分が何をしているか分かっているのか!?」
「罪状は敵前逃亡、非戦闘員の殺害、捕虜の虐待及び殺害。」
夜にも関わらず煌煌と燃え盛る村の周りは明るかった。
そして血まみれの軍服を着た黒髪の少女が将官含む数人を今まさに処刑しようとしていた。
始まりは陳腐なものだった。
激戦の中場当たり的に、ほぼ自棄になって戦力を最前線に投入した司令官は劣勢の中指揮をほぼ放棄して後方で 現実逃避をしていたが優勢となったと分かった途端前線に進出してきた。
ここまでなら稀によくある無能な指揮官のエピソードだった。
その後彼らは占領した村に到着し“戦争犯罪を行った捕虜”と“民間人に扮した国際法に保護されない敵軍の兵士“の処刑を始めた。
些細な問題があるとすれば証拠も証言も存在しない“戦争犯罪”であったことと、“便衣兵”
“諜報員”扱いされた多数は女性、老人、子供であったことだろうか。
“正式な手続きに基づく処刑”を“命令に背いて妨害しようとした”挙句“反抗した”その少尉は興奮状態の彼らに“軍規に基づき”処刑されようとした彼女が宝珠を起動して抵抗した結果逆に彼らが処刑対象となっているのは規律上の悪夢というより質の悪いコメディ映画だろう。
「警告への無視、貴方の部下に関しては情状酌量の余地がありなおかつ証人として保留とします。」
「これは明らかな反逆行為だ!分かっているのかこの魔女が」
複数の銃声の後沈黙が訪れる。
「…我が仕えるのは主のみ。ただ主の御名を広めよ」
彼女の行動は軍や政府を震撼させた。
反逆者として処刑される事を覚悟し、むしろ望んでさえいた彼女_ディナ・ヘイル少尉だったが結果として一人でも航空魔導士を必要とする逼迫した戦況において必要が全てに優先された。
すなわち事件に関する記録は全て抹消され、旅団司令官を含む処刑された人間は戦死とされ彼女の行動は無かったことにされた。
彼女はその戦場を皮切りに“活躍”をする事になる。
その戦闘での活躍も合わさり、その信仰に対する狂信への畏怖や恐怖、そして本能的な拒否感から、その偶像崇拝を否定する教義における忌むべき存在になぞらえ敵味方は彼女をこう呼んだ。
“高原の巫女”と。
ただの幼女戦記の末期戦を書きたいという素人の願望、拙い文章力に貧弱な創造力から出力された薄っぺらいキャラクターがまさか〇〇〇や〇〇〇〇〇を相手にする事はない…と、そう思っての創作だった。
だが…奴は弾けた。
短く収める予定(プラン17並の計画性、合理性)で頑張るので生暖かく見守るか忘却して歴史のゴミ箱送りにでもして下さい。
2026/04/13 誤字修正しました。報告頂きありがとうございます。