「次のニュースです。昨日贈賄の疑いで逮捕された議員の家宅捜索が行われ、――」
「警察の連中は忙しそうで羨ましい」
ラジオから流れるニュースを聞いて皮肉でも無くアズラ少佐は呟く。憲兵本部犯罪捜査部は“高度に政治的”な事情が絡む事が多く、捜査には“諸般の事情”による制約が雁字搦めになることが多々ある。
「話がついた。」
自室から出てきた部長が煙草を吹かしながら告げる。
「上からは何と?」
部長は紫煙を吐いて投げやりに言う。
「他に優先するべき案件が存在するからそれに集中しろとの御達しだ。殆どの容疑については情勢が落ち着くまで保留」
「偉い人達は気長に考えられているようで」
枯れた笑いをしながらアズラ少佐は煙草をくわえてライターを探す。
「あとなるべく“影響を最小限度に抑えられる”容疑者の罪状を明らかにする事で一罰百戒とするようにと」
やっと見つけたライターを着けながら彼は停止する。
「…それはそれは…素敵な…本当に素敵なアイデアですね」
煙草に火をつけて白け切った様子で呟く。
もし捜査して罪を明らかにした場合に生じる悪影響。具体的にはその人間が所属する人種などのコミュニティ、そしてその集団を代表する政党に好ましくない影響が出るということだ。
例えば真剣党に属していた例のイルデル少将などはその影響力、特にルーシー連邦からの移民、北方派に絶大な影響力を持っていた。もし生きている彼が虐殺の容疑がかかったとしても“超法規的措置“が適用されて終わりだっただろう。
「所で話変わりますが今の政権って過半数確保してましたっけ?」
「さあ…専門家ではないから政治は難しくて良く分からんね、うん」
“民主主義“を建国の理念とする国家に属する”善良“な二人の市民の会話が空しく響く。
ラコブス共和国議会においては今や誰が味方で誰が敵かもはっきりとしない万人の万人に対する闘争が繰り広げていた。
二人こそ口には出さないが、そんな冗談で包んでもとても呑み込めない苦々しい現実。
すなわち、共和国の政争がせめて身内の“じゃれ合い“で終わっていれば、という切実な、そして惨めな嘆息。
「そこまで言うならいっそ“例の彼女“でも軍法裁判にかけますか?」
「法務相や内務相は幸せにも何も知らないからなあ…もしかすると釣れるかもしれんが…いややめておこう。“外道“は嫌だから釣りの時生餌を使うのは好みじゃない」
会話が途切れる。つけっぱなしのラジオのニュースが響く。
「――市内で押収された過激派の武器は小銃から爆弾からロケット弾と多岐にわたりーー」
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戦況は大きくラコブス軍に傾いていた。そもそも質で勝る上に数ですら優勢、しかも制空権も確保し戦術的にも完封し、劣勢のパルミラ軍には増援の当てもない。
“些細”な問題が二つあるとすればこの戦闘自体が手痛いタイムロスとなっているということだろうか。ただし、北部国境から危機を一掃するという“十分“な戦果をたたき出した。
そして、もう一つはまだ完全にクネトラ市を制圧できていないということだろうか。
「デンギャ?」
戦場の片隅で応急手当をされながらディナは衛生兵に尋ねる。
「友軍は追撃に移行しているようですね。ただ、敵の統制は完全に崩壊していないようで手古摺っているようです」
口に巻いた包帯が破れたからかまた不気味な声を漏らすようになった彼女は再び尋ねる。
「…ギャグガッ…ジギガガ?」
「いや動かないでください。貴女十分重症ですよ。なんで意識が明瞭なのか不思議なくらいには」
「ジギガッ…キギアギャゴゲッ!…」
制止に構わず彼女は話し続ける。頭に再び巻かれた包帯から覗く左目は爛々と輝いていた。
「世界が極彩色に輝いて見えるって?いやソレただの軍用麻薬の副作用で頭がハイになってるだけですから。御国違いますって」
「ギャグァッ…ギギャゼジジズッ!」
「はいはい、じゃあ処置は終わったのでここで大人しくしていてください。」
崩れた建物の壁に背を預けて横たわっていたまま不満げな(顔は包帯を巻かれていて表情は分からないが)ディナに声をかけて衛生兵は離れていく。
ふと彼女が振り返るとそこには誰もいなかった。
「ハァ…まあ彼女ならしょうがないか」
しょうがないと言ったのは制止が無駄と悟ったのかそれともあるいは見放されているのか、それとも別の理由か。
「…主はあなたを見守る方、あなたを覆う陰、あなたの右にいます方。昼、あなたは太陽を撃つことが無く…夜、月もあなたを撃つことはない」
そのまま戦死されても目覚めが悪いので彼女の為に祈りつつ他の負傷兵を求めて走っていった。
「くそっ!パルミラ軍の連中やけに頑張る!」
「ルーア52被弾、下がります!」
戦闘は概ね掃討戦に移行しつつあったがそれが問題であった。
「爆裂術式、撃てぇぇっ!」
町の区画毎魔術師を吹き飛ばす。敵の魔導部隊の統制はズタズタにしたものの個々の兵士の戦意が異様に高く町や陣地の残骸に潜んではゲリラ的に攻撃を仕掛けてくる。その為一人一人見つけ出しては“潰す“しかない。たとえ単独であろうと通常戦力に対する脅威を考えると放置はできない。
「十分掃討は完了したと見なすべきでは?追撃している連中もかなり手古摺っているようだから加勢するべきだ」
「いや、この状態では足手纏いになる。命令を完遂するべきだろう」
しかし、連日の作戦で消耗著しい第148にとっては過酷な任務だった。
「しかしっ…っ!」
魔導反応を至近距離で感知し即座に防殻を張ろうとした瞬間その反応が長距離術式で吹き飛ばされた。
死体に近い外見の少女が残存兵力を蹂躙していた。魔導反応が感知される前から正確に場所を捕捉し術式でたたき潰し、反撃も防殻で防ごうともせずそのまま直進してくるという恐怖。
「――――――!」
もはや人の言葉には聞こえない哄笑をしながら淡々と暴れる彼女、ディナは悪鬼羅刹という表現が一番ふさわしかっただろう。
「…少尉を支援するぞ!」
どうしても敬意というより悍ましさに近い感情を抱かずにはいられなかったが、気を取り直して掃討作戦が続行された。
作戦中、もはや彼女と意思疎通ができているのかも怪しかったが、特に問題は無かったので最初は戸惑っていた航空魔導士達もじきに慣れた。
偶に捕虜や民間人をそのまま射殺しようとした、またはしていた兵士が不幸にもその状態の彼女と遭遇してしまい、その先は語るまでも無いだろう。
いやそれは果たして本当に“偶然”の遭遇だったのだろうか。
結局誰も分からなかった。神のみぞ知ると言うべきか。
そして南部戦線にてプトレマイオス連邦、あるいはトレミー連邦が共戦国たるパルミラ帝国の苦境に際して開戦以来となる全面攻勢をかけた。北部軍はパルミラ帝国軍に対する追撃を即座に停止することになり機甲部隊や航空戦力、そして魔導部隊などは悉く南部戦線に転用され、南部軍はその攻勢を迎え撃った。
一方、生きた死体と化したディナは取り押さえられ病院に叩き込まれた。
その後、
「ディナ・へイル少尉、貴官には民間人に対する殺害容疑がかかっている」
に搬送される最中、彼女の前に現れたラコブス警察の人間が彼女に令状を突きつけそのまま警察病院送りとなった。
関係部署でヴォルデモートと化しつつある主人公
19世紀のヨーロッパが舞台の作品だと某コルシカの人食い鬼が例のあの人扱いされてて草生えますね
これにて第一章は完結です
めでたく豚箱エンドです
今年一杯はこのペースで投稿したいですが一月は投稿できないかもしれないのでこのまま二章に入ったとしてどこまで話進めるか悩んでいます