巫女戦記   作:零デイ

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12話

「ルーシー連邦からラコブス共和国に移住して来て自由を得られたと思っていました」

 

「…誉むべきかな、私達の神、世界の王である主よ__」

 

 ディナは食後の祈りを始めた。彼女、ベラ・コヴァルスカと名乗った少女が今も拳銃を突きつけたままだが特に気にならないらしい。

 

「でも、自由なんてどこにも無かった。どこにも。」

 

「…あなたの大いなる善なる故に、常に食が欠けることはありません」

 

「結局の所、この国においても我々は余所者だった。連邦では監視が、この国では無関心が蔓延っていました。しかし、それでも救いはありました」

 

「…主よ、私達の神よ、あなたの御名が祝福され、常に感謝されますように」

 

 相変わらず相手の反応を気にせず身の上話を続ける彼女と、食後の祈りを続けるディナ。そんな茶番はしばらく、具体的には五分間ほど続いた。腕が疲れたのか拳銃を持ち替えたりしていた。

 

「…誉むべきかな、善にして善を施される主」

 

「…だから私は貴女に主に代わって裁きを下すべくここに来ました。どうやら貴女は正当な手続きで裁かれないようですからイルデル少将を殺害した罪過を私が正すべきだ。今までの日々は単に今日の為だった」

 

 ベラの宣言を聞いて尚ディナは特に様子に変化は無かった。

 

「少将閣下は名誉の戦死を遂げられた、という事になってますよ」

 

「白々しい。真実は貴女が一番知っているでしょう」

 

「…」

 

 やっと視線を合わせるディナ。包帯から覗く目は光が無い虚無だった。

 

「殊勝に死を覚悟しましたか?抵抗しようと思えば手錠なんて関係ないでしょう?」

 

 警察病院で面会時は警察官が同席する事が規則だが、“偶然“にも不在。面会者にも持ち物検査はあるはずだが、”見落とし”により拳銃はパスしたらしい。あるいは兵営国家らしく(?)武器の持ち込みは許可されているのか。

 

「…君は“敵“ではないですから」

 

「は?」

 

 相変わらず虚無の眼差しでその生きた屍は淡々と続ける。

 

「貴女は銃剣であり、銃から放たれた弾丸でしかない。私が殺すべき“敵”ではない」

 

「死に瀕しているなら子供でも抵抗しますよ?」

 

 呆れたようにベラは言う。ディナはそれに対して特に反論せず無表情のまま続ける。

 

「…今の私には一つしか関心が無いです」

 

「というと?」

 

「私の罪を贖える死に方、このまま教えに逆らわずに終われる死に方、理想を言うなら“殉教“ですね」

 

「はい?」

 

 困惑した様子のベラを放置して彼女は自らの唯一残った願望について語る。

 

「戦死すれば確実に殉教だと思うのですが、それもまだ果たせていない。国家の欺瞞をつまびらかにしてその罪で銃殺されるというのも許されなかった。だから貴女をむしろ歓迎していますよ」

 

 口の傷跡のせいで微妙に歪んだ笑みをうっすら浮かべた不気味な笑顔でディナは続ける。

 

「罪に対して正当な裁きが下される事が無い私ですから、貴女の故人に対する恩義としての復讐は主も良しとされるでしょう。それで死ぬ事ができたら…まあ殉教ではないでしょうが主の教えに逆らわずに“今度“こそ”終わる“ことが出来ます」

 

「…」

 

 自らと異なる価値観を知る事は大事である。それを知り、想像する事が出来る者は幸いだ。例えば覚悟を決めて人を殺そうとしに来たのに絶句するような羽目になる体たらくになるからである。

 

「まあ貴女に“同胞“殺しの罪を押し付けるのは心苦しいですが…定義次第で私は”同胞”ですらないですから安心を。まあそもそも」

 

 ディナは心底残念そうに言い放つ。

 

「貴女じゃ私は殺せませんから杞憂ですがね」

 

 一瞬の沈黙の後、6発の銃声が病室に鳴り響く。

 

「がっ…」

 

「……」

 

「やっぱりこうなる…」

 

 ディナはよろよろ立ち上がって震えたまま拳銃を握りしめたままのベラに近づく。震えが酷く6発の弾丸の内2発しか命中せず、しかも1発は肩の固定具に当たって逸れた。もう1発は頬を掠めた。

 直接被弾はしなかったものの肩に間接的に命中した激痛に顔を歪めながらディナは彼女の手を解いて拳銃を回収する。

 

「貴女や貴女の家族に恩義を施した亡き少将もあなたが駒として使われることを望んでいないですよ」

 

 いけしゃあしゃあと口にするディナ。

 

「ううっ…うわぁぁぁっ!」

 

 ベラはとめどなく涙を流す。人は周囲の雰囲気に流されやすく、正しい判断を失うことがある。

 色々大丈夫かこの子と思いながらディナはとりあえず彼女を慰めることにした。

 

 この後部屋の片付けを手伝わせてその後彼女は帰っていった。

 

 そしてそんな日々も唐突に終わった。そもそも警察病院に入院して数日しか経っていないが。

 突如轟音が病院を震わせる。

 

「何事だっ!?」

 

「こちら警備室!侵入者は一名!全く歯が立ちません!」

 

 警察病院に“災厄“が舞い降りる。

 

「北部戦線での活躍は聞いている。まあ色々と“不幸な誤解“があって不便な思いをさせたようで済まなかったなディナ“中尉“。退院だ。仕事を君に頼みたい。」

 

 突如訪れたその“災厄“の肩書は魔導総監であった。政治マターには一切無関係を貫いて来て、過去にはとても記録に残せない所業もあると噂され、積極的に部下の魔導士を庇おうとしないだろうという”彼らの“楽観的な見込みは徹底的に粉砕される。

 

「ああきっちり“苦情”は入れておくから安心したまえ」

 

「手続きは全て終わりました閣下」

 

後ろからひょっこり現れたアズラ少佐が魔導総監に報告する。

 

「手間をかけさせたな少佐」

 

「いえいえ皆“協力的“でしたよ」

 

さて、圧倒的影響力の塊が“法的なお墨付き”を得て暴れたらどうなるだろうか。答えは分かり切っている。

 

「さて、」

 

 もはや誰も制御出来ない“軍閥”への階段をスキップで上がっている彼、魔導総監は特に気にするでもなくディナに告げる

 

「仕事の話をしよう。なに、前線よりは安全だから安心したまえ」

 




魔導総監は過去にアレリア人との事件の噂があり、右派からは右に共感していると期待されていました
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