巫女戦記   作:零デイ

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13話

 魔導学校、航空魔導士の養成学校の校庭に訓練生が整列していた。理外の怪物未満人間以上の集団が、共和国の魔導士の最後の人的資源が並んでいた。

 

 彼らの前に包帯を巻いている、殆ど年も変わらない少女が現れる。その学校の卒業生ではある(書類上はつい最近卒業したばかりだが)彼女はせめて親しみを持ってもらおうと笑顔を無理やり作って“部下“となる彼らに話しかける。

 

「初めまして、ディナ・へイル中尉です。短い付き合いですがよろしく。難しい任務ではないので、ちょっとした”社会科見学”のつもりで気を張らずに頑張ってください」

 

 本人としてはどういう意図で言ったのか分からないが立ち会った関係者達は一様に複雑な表情を浮かべた。

 

__

 車中でディナ中尉はアズラ少佐から説明を受けていた。

 

「まずは昇進おめでとう中尉。」

 

「あっはいありがとうございます」

 

 繰り上げ昇進とはいえ昇進は昇進だ。階級が“保障”されている間は有難く喜ぶべきだろう。

 ディナ中尉は魔導総監が別れ際に渡してきた階級章ともう一つの箱を眺める。

 

「それは?」

 

「“懐中時計“と言われましたね。昇進祝いにと。もう今では生産していない貴重な物らしいです」

 

 ディナは無表情のままソレをしまいながら小さく呟く。

 

「遺物か…」

 

「…?」

 

 少佐は聞き取れなかったようで話を続ける。

 

「今回の件に関しては何も心配無用だ。“民間人殺害“という件の遊牧民の族長殺害については正当防衛だと確証がとれている。」

 

 そもそも共和国にとって彼らは“自国の民間人”としてすら見ていなかったが…この場合重要な事ではない。

 

「一部の功績欲しさのはねっ帰り、及び過激な排外主義者、特にアレリア人差別が酷い連中が共謀して君を陥れようとした。という事になった」

 

事件の“真相“はそういう事になった。それが確かかどうかは藪の中で確かめる術などない。

 

「私は快適に過ごせましたので特に興味は無いです」

 

「…」

 

関係者に“優しく“話を詳しく聞いたところ、“偶然にも“食事の量が少なかったり、”偶々医師が多忙で手が離せず“負傷に対する処置を最低限度にしていたり、”手続きの複雑化“に伴い数十時間の取り調べなどがあったらしい。が、本人としては快適だったらしい。皮肉でもなく本心で言っていそうな雰囲気にそれ以上聞くのをやめることにした。

 

「…それで実務の話だが、一個魔導中隊が新編されることになった。指揮幹部“歴戦有能な者”を当て、一般隊員には“新鋭の者”を出来るかぎり投入する事になる。」

 

「…そんな歴戦の方が都合良くおられたんですね」

 

戦場で嫌と言うほど叩き込まれた危機察知能力をフルに活用して彼女は答える。

 

「…君の事だ」

 

 沈黙が車内を支配する。

 

「“過分な評価”に恐縮しているのですが…まさか本気ですか?」

 

「正式に決められた」

 

「お聞きしたいのですが、“新鋭“というのは…?」

 

「その通りの意味だ。魔導学校から選抜…主に君の一個下のクラスから編成する」

 

「…そんな部隊前線に出せば三日で全滅しますよ」

 

 絶句しながらもディナ中尉は客観的な評価を伝える。

 

「前線になら、そうだろうな。」

 

「ではどこに投入されるのですか?」

 

 更に嫌な予感がしながらディナは尋ねる。

 

「…ちょうどニュースの時間か。外部の情報も一切遮断されていたらしいから初めて聞くだろうが…この新設の中隊、第199特技中隊はここに投入される」

 

 ラジオからはニュースが流れる。

 

「では次のニュースです。蜂起したアレリア人過激派のテロリスト集団は人質を取ったまま依然立てこもりを続けていますが、既に包囲されており鎮圧は時間の問題と見られます。次のニュースです。――」

 

__

 今回の戦争における緒戦で多くの成功と過誤を犯した魔導兵団。彼らは迅速にその豊富な戦訓から学びつつあった。

 「防空の傘」対策や諸兵科連合の重要性の再確認、など多岐に渡った。

そしてある“奇妙”な現象に気付く。新兵の“特定の年代層”の航空魔導士の生存率が他の新兵のソレと比べ異様に高かったのだ。しかもその中からエースを輩出している。

 その原因を分析した結果、ある結論が得られた。

 すなわち、構造上被弾面積が小さく、それに伴い被弾率が下がり防殻術式をより少ない面積に集中出来るため抗堪性、生存性が明確に良好。ただし持久性や強靭性にやや劣り持久戦には不向きでもある。しかしその打撃力は遜色ない。おまけに戦場での適応が早く、それまで手付かずであったから人的資源も比較的豊富にある。

 総括して切り込み役に打ってつけであるとの結論に。または高リスク任務要素、消耗を前提とした部隊とも言うが。

 その特定の年代層とは肉体が成長しきる18歳未満の、それまで実戦投入に適さないとされてきた年代の事である。

 それまで無かった発想、まさしくコペルニクス的転回と言えるものだろう。

 子故にこそ、万のあはれは思ひ知らるれ。

 こうして、強固な“理論的裏付け”を得て第199特技中隊の創設計画が承認され、強力に推進された。

差し当っての問題としては流石に初戦から最前線に投入するのは不可能、さすがに軍事的合理性、いやそれ以前に“人としての良識”が咎める。戦闘経験を積める“手頃”な相手でもいない限り今回の戦争では精々予備兵力としての編成だけで終わるだろう、と考えられていた。

 が、天は彼らに微笑んだ。見放した、とも言う。

 

 “分離主義的”アレリア人、数か月前成立した参政基本法の撤回、自治権回復という共和国を脅かす“過激”な、主張をする彼らを支持基盤とする議員が突如逮捕され、さらに一斉摘発。しかも彼らの与り知らない武器が押収されたという報道。配置転換に伴い前線から本国を通過して南部に戦略的再配置をする過程で広まったアレリア人に対する前線での“英雄的“な扱い。さらに北部で活躍したアレリア人をルーツに持つ魔導士が与えられた報酬は監禁だったという噂もあまり大きくないが駄目押しした。

 

「これらが同時期に進行した結果、今回の“不幸“な事態となった。国家によって特定民族に対する弾圧が行われようとしているという”誤解”を生みだしたのは“当局”として極めて遺憾だ」

 

「…では、実際にそのような事は行われていないと?」

 

 説明する少佐に相変わらず無表情のディナは訊ねる。

 

「無論だ。“まともな“国家理性を持つ国家ならば自国民への迫害などという不正義を許すはずが無いだろう。今回の一連の動きはあくまでそれぞれの動きが”偶然“にも組み合わさった”不幸”な結果だ」

 

「…」

 

 この共和国に国家理性以前に国家としての意志が明白にあるのかすら疑っているアズラにとっては歯が浮くような言い回しだが、それでも公人としてはそう言わざるを得ない。

 

「立てこもっている武装した“テロリスト“の数は数百以上。脱走兵も混ざっている。既に民間人の被害も多数出ている。これ以上の混乱は許容されない。故に”手段を選ばず”迅速に鎮圧する必要がある」

 

「…」

 

「憲兵も国内治安出動で駆り出されて暇な部署からも人員が抽出される。犯罪捜査部から私も出向することになった。短い付き合いだがよろしく」

 

「…」

 

 説明を受けている間も沈黙したままの彼女が何を考えているか相変わらず読めないが、一応は同胞が相手だから葛藤があって当然だろうと気遣って少佐は話を進めることにした。

 

「何か質問はあるか?」

 

「いいえ、ありません少佐。要はいつもと何も変わらず“敵“を排除するだけでしょう?」

 

 特に動揺した様子も無く口にするディナ。彼女の顔には薄っすら笑みが浮かんでいた。口元の傷跡に引きずられて引きつった不気味な笑み。達観したような、皮肉げのような、歓喜しているような、悲痛なようなあるいは嘲笑するような形容し難い笑みが。

 

 




この作品では、なるべく合法を旨としています。
条約が成立していない時期なので18歳未満の徴兵は合法です()
あと個人的な都合で申し訳ありませんが、一月の間は投稿を休ませていただきます。
再開は2/1を予定しています。
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