巫女戦記   作:零デイ

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14話

 ラコブス共和国の綺麗に整備された街道、日常的な光景に軍用トラックなどの車列が進んでいた。普段は専用の移送車両に搭載され運ばれる戦車もその自らの履帯で道路を前進していた。

 兵営国家たるその国においては軍とは日常の一部でしかない。が、市街の一角を完全封鎖しそこに完全武装の将兵が続々と集結するのはお世辞にも”日常”とは言い切れなかった。

 

「――繰り返す。諸君が不当にも拘束している民間人を直ちに解放せよ。従わない場合は」

 

「退避勧告はこれで何度目だ?」

 

「5度目です」

 

「頃合いだな。作戦は予定通り実行する」

 

 指揮官が口にすると安堵とも緊張とも言える奇妙な雰囲気が流れる。南部での攻勢にタイミングを合わせての蜂起。因果関係がどうあれ敵国との共謀の可能性が限りなく高い。そう、“公共の敵”だ。一切の躊躇も容赦も無く叩き潰すべきだ。

 

「部隊の状況、士気は問題ないか?」

 

「はい、大佐殿。極めて“士気旺盛”、“装備も良好”、練度にやや不安はありますが鎮圧程度なら問題はないかと」

 

 予備役から駆り出された小学校の校長といった感じの穏やかな風貌の予備役大佐。指揮官である彼の質問に高位の参謀、つまりアズラ少佐が答える。主力は悉く南方戦線、二線級は北部戦線に送られており戦力や司令部要員は寄せ集め、兵器も前線には投入出来ないような独立戦争や大戦期の骨董品が終結していた。

 

「砲撃許可は下りている。“幸い”民間人への被害を抑えられる地形だ。存分にやりたまえ」

 

 アレリア人居住地区は地形などの“諸般の事情”を考慮した結果ハイウェイで他の主要な市街地から大きく隔たれている。日常生活において不便極まるがこのような“想定外の不幸”なケースにおいては不幸中の幸いというべきか軍事行動が大いにやりやすい。

 

「これで問題無く作戦は進められそうですね」

 

「…うむ」

 

「しかし完全に排除する事は不可能です。それに民間人に紛れられたら“処理”が複雑化してしまいます」

 

「それに人質の安否も確定しておりません」

 

 参謀たちがこもごもと言う中アズラ少佐も進言する。

 

「それに大佐殿、この作戦の実施方法は問題があるかと。この手法では攻撃対象があまりにも広過ぎます。国際法に抵触する危険性が極めて高いですし、」

 

 一瞬言うか悩んだがアズラ少佐はそのまま言う事にした。

 

「こういった手法はアレーヌ市やインデンシナにおけるフリー・ファイア・ゾーンといった前例と比較されやすく、諸外国より“独自の主権的見地に基づく多様な疑義”を呈される蓋然性は否定できません」

 

 外交的にマズいよということを言うだけでこの分量?

 それはともかく外交はもちろん共和国も重視している。共和国におけるアレリア人への配慮と同じくらいには。

戦争は外交の一手段であり、他の手段をもってする政治の延長であるとのたまったかの軍事思想家がこの有様を見れば驚愕する、あるいは既視感を覚えるのではないだろうか。

 

「つまり…前例があるから法的に問題無いという事ではないかね」

 

 好々爺然とした雰囲気の予備役大佐は軽く言った。

 

「……」

 

「それに問題があったとしてもソレは君の仕事だろう。これは命令だ」

 

「…了解しました。実務は私に一任という事でよろしいですか?」

 

「ああそんな“些事”は君の方でやってくれ。なんせ相手は害虫だ。害虫駆除に手段は選んでられんだろう」

 

 雑事を手早く、てきぱきと指示を出した予備役大佐は他の参謀に尋ねる。

 

「偵察に出ている魔導部隊…あー何といったか」

 

「第199特技中隊です」

 

「そうそれだ。報告はまだ?」

 

「交戦中と報告が来たきりですが…」

 

 参謀の報告に大佐は舌打ちする。

 

「まともな報告も寄越せんのか。これだから今時の新兵は…儂が新兵の頃は」

 

 司令部で老人のテンプレートプログラムが走っている少し前、

 

「寝込んでいる時に見る悪夢のソレだ…」

 

「どうしましたか中尉殿?何か問題でも?」

 

 市街地を僚機とペアで高速で飛行しながらディナ。とても軍隊の部隊とは言えない集団である自分の部隊、魔女の鍋さながらに共和国の様々な部署が入り混じったカオスな鎮圧軍など“些細”な諸問題に思いを巡らせたのか彼女は呟く。

 呟きに反応した僚機であるベラ・コヴァルスカに問いかける。

 

「君も問題なんだが?」

 

「えっ」

 

 困惑した声を出す彼女にディナは問い詰める

 

「なぜ君がこの部隊にいるんだ?」

 

「私も航空魔導士ですから。知り合いなのにそんなに嫌がられると傷つきます」

 

「そっかー…統制も碌に取れていない反乱軍と事前に説明されたけど静か過ぎる」

 

 諦めて偵察任務に戻ったディナに対して慌ててベラは説明する。

 

「あの後アズラ少佐に接触されて」

 

「狙われた。速度を自然に落として。一撃して高速で離脱する。攻撃があっても防殻は使わないように。あと余計な事はしないで」

 

 説明しようとした彼女を遮ってディナは爆裂術式を展開し始める。その小銃の照準は何の変哲もないビルに向けられた。

 

「ただの建物ですよ中尉!?それに余計って何か信用されてなくないですか!?」

 

「君いらん事するでしょ…主のいつくしみは絶ゆることなく、その哀れみは尽くることなし」

 

 一切の躊躇い無くディナは術式を命中させる。4階のビルは2階と破壊的に改築されさらにその爆炎の中から連鎖的に爆裂音がした。二機はその上空を高速で飛ぶ。

 

「あそこに民間人…いや司令部から許可されていないのに勝手に戦闘をして」

 

「あのビルには“敵”しかいなかった。さっきからまばらにいたがアレほど密集していれば狙うしかない…0時と4時から攻撃!防殻は使わずこのまま振り切る!」

 

 急加速に慌てて追随して突然の凶行を問い質すベラ。ディナはそれをまともに答えず警戒を促す。その瞬間地上から対空射撃やロケット弾の熱烈な歓迎が打ち上げられる。

 

「っ!?何で急にっ!?」

 

「バカ」

 

 攻撃に対して反射的に防殻術式で防ごうとして一瞬動きが鈍ったベラに対空砲火が集中する。ディナは悪態をついて彼女を庇いながら退避する。幾ら盛んな対空網とはいえでっち上げの急造品であり、「防空の傘」の圧に比ぶべきもない。

 

「すみません助かりました!」

 

「…結果論だけど良いエサになった。…っと」

 

“追尾”してきたロケット弾を防ぎながらディナはフォローする。

 

「対魔導ロケット…しかも北部で喰らった物より性能がいい…最近の“暴徒”は裕福だね。しかも」

 

対空砲火が一斉に止んだ。静かな空を二機は飛ぶ。

 

「統制も文句なく取れているときた。これは予想以上に長引くか…いやでっち上げのこの部隊にとってはいっそその方が有難いか」

 

 つぶやくディナにベラは訊ねる。

 

「それでさっきは何で急に攻撃したんですか?制圧された官庁やバリケードを目標にしても」

 

「彼らだけが狙ってきたから…ポーン1とポーン16、帰投する」

 

 彼女は質問をはぐらかし、管制に帰投連絡をした。そして速度を上げたためベラは慌てて追随した。

 

 拠点に向かって飛びつつディナはチラッと振り返る。共和国の他の綺麗な市街地と違い雑然と建物が密集した街並み。一見してごく普通の下町…正確には人口流動性が高く、歴史的に形成された密集市街地の光景。要はどこにでもあるようなスラム街。

 ただ一つ違っていたとすれば、そこに遍く充満していたのは憎悪や怨嗟と言った単語では足りないナニカであったという事だろうか。

 

「偵察の魔導士を追い払うためとはいえ切り札の最新鋭対魔導ロケットまで晒したのは痛手ですね。しかしなぜ武器の仮置き場の位置がばれたのでしょう」

 

 離れていく魔導士ペアを双眼鏡で観測していた蜂起軍の一員は地下室に降りて司令官に言う。

 

「追い払えたから良しとしよう。どうせロケット弾の数は大して無い。魔導士の跳梁を抑止できるかもしれないしな」

 

 司令官は答える。薄暗い地下室に置かれた司令部からは僅か数人しかいない。

 

「それに対魔導ロケットは“彼ら”も巻き込みかねん」

 

 慌ただしく伝令が地下室に入ってくる。

 

「司令官、人質の件についてですが“処理”の準備は完了しております。それと先ほどの偵察を撃退したことでこちらの士気も上がっています」

 

「…私が直接見届けよう。少しの間ここを任せる」

 

「はっ」

 

「わざわざご足労願った親愛なる鎮圧軍の方々に我々から贈り物を進呈しよう」

 

 反乱軍から人質の“解放”を通告された鎮圧軍は最大限警戒しながらその指定された場所に到達した。

 そこではこの世のあらゆるしがらみから解き放たれた物体が整然と並んでいた。丁寧に顔には布がかけられ丁寧に横たわっているその肉塊の数はちょうど人質と同じ数。

 

 偵察により敵情を把握し、制約から解放された鎮圧部隊は作戦行動を開始。

倉庫からかき集められた牽引砲が“鉄の暴風”を吹き荒らした。その中には大戦型の骨董品も混ざっていたが、腐っても戦場の女神だ。バリケードも庁舎も学校も市場も一切合切分け隔てなく瓦礫と化す。土は土に、灰は灰に、塵は塵に。市街地の標的を石器時代に戻すのにそうは長くはかからなかった。




お待たせしました。
前の作者はチェックのサポタージュを行いしれっとミスを放置していた反逆者でしたが次の作者はもっとうまくやるでしょう。
歴戦の幹部新鋭の隊員の元ネタは某第一航空艦隊です。破綻した戦略の妥当な末路だとか決して言ってはいけない。
レーダー、CIC、近接信管などなど完備した機動艦隊とか”まともな手段”だと本当にどうしようもないでしょう。
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