鎮圧軍にとっても、あるいは蜂起軍にとっても全て想定通りのシナリオで演目は進む。
「こちらβ班、目標地点付近で敵の伏撃に遭い、戦車一両大破、座標支援を請う」
「了解」
前線ではルールとマナーを守って戦争をしていた騎士道に基づく闘争が行われていた。
「大尉!罠を解除するのに20分はかかります!」
「確保した現地人に“協力”を要請するから問題ない。」
騎士といっても古のクルセイダーが近いかもしれないが。装甲車の前面に括りつけられた住民や歩兵のはるか前を歩く住民達。協力に“快く“応じた現地住民に”道案内”をしてもらい部隊は前進を続ける。
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「憲兵部隊の任務は早期鎮圧の為の予防的処置となる。非武装の人間をひとまとめにして後送し、作戦の円滑化を企図する。この件については大佐から“一任”されている私が指導、助言を行う」
拡大解釈、飛躍的曲解極まれりだが、確保できた武器だけで間に合わせるしかない。
「…了解した。相変わらずだな貴様は。どうせ命令をいじくりまわしただろ?」
ニヤっと笑いながら憲兵部隊の指揮官は言う。
「前の貸し、これで清算だ。なに、夢を見たい人間の為に夢をでっちあげるのが今の俺の仕事だ。言いくるめはこっちの仕事だ。」
軽口で返すアズラ少佐。“偶然にも”憲兵部隊の指揮官が彼と同期なのは“望外”の幸運だった。日頃の行いが良いからであろう。ある中二病の騎士も言ったではないか。勤勉は幸運の母である、と。
「それで貴様なんでまたこんな場所に飛ばされた?同期の俺が回されたという事は大方碌でもないことを企んでいるんだろうが」
部下に安全区画や移送車両の確保、友軍への連絡を出しつつ前線に向かいながら指揮官はアズラ少佐に尋ねる。
「ノーコメントだ。同期の好で言うが、本当に正式な任務以外の任務はない。あえて言うなら付随的被害を最小限に抑えることと、脱走兵の調査だ」
「そりゃそうだ。聞いた俺が馬鹿だった」
「まあそうだな。後送先の手配も人員の確保も何とかなった。問題は移送手段と安全区画だ」
「避難していない人間は少なく見積もっても数十万人だ。捌くのは無理だ」
冷静に苦言を呈する指揮官に少佐は煙草を勧めながら答える。
「今はまだ、我々の泣き言で済む。今は、な。取り合えずこれが此処のコミュニティの指導者、宗教関係者や町長、自治会長とか。あと警察官や消防団、自警団のリストだ。」
「何人か、いや下手すれば全員蜂起軍の幹部だぞ?」
「気にしてられん。そもそも我が軍の定義によれば」
少佐は苦々しげに言う。
「彼らは一括で反乱軍だ」
「…」
短い沈黙の間に町中から聞こえる発砲音や砲声が聞こえる。
数人の少佐の部下が車両から箱を次々と運び出す。
「あれは?」
「彼らへの説明は検疫にする。選別が終わった人間にマスクを着用させる。」
「了解」
アズラ少佐は周りを軽く確かめて声を潜めて話しかける。
「鎮圧軍司令部は蜂起勢力の人間と見なせばすべて処分しかねん。ある程度方がついた後この町の“熱消毒”をやりかねん」
「なっ!?“選択肢”でも無ければ無理だろ!」
同じく声を潜めはしたものの動揺を隠さない指揮官。
「流石に通常兵器だと思うが上層部の理性はかなり限界に近い。先の開戦時や投石作戦が失敗した時に使用を検討していたと噂がある」
「S.B.Fから聞いたのか?」
「直接聞いたわけではないが、S.B.Fの動向がこの数日不穏だったというだけだ。ただの杞憂かもしれんが…まあとにかく我々は最大限“善処“するだけだ。」
そう言うと少佐は自然に続きを口にする。
「自分は“脱走兵の調査”があるからこの場を貴様に頼めるか?」
あんまりな虫の良い要求に苦笑しながら指揮官は答える。
「はっ前の貸しじゃ足らんだろう覚えとけよ?彼の他に神は無し」
「彼の他に神は無し」
敬礼をして別れようとした瞬間二人の近くに砲弾が落下し慌てて伏せて地面に張り付いた。そのまま締まらない微妙な雰囲気で別れた。
「今度は第235歩兵中隊より救援要請です!」
「司令部からです!」
一方、人間を救う側の彼らと正反対の業務に勤しむ最前線の第199特技中隊。焼夷術式で建物を焼き払いながらディナは声を張り上げる。灼熱地獄と化した建物では腕章をつけた私服の兵士が火だるまとなってのたうち回るがもはや誰もそれを気にしていない。
「現地部隊からの要請は却下!特技中隊は司令部の命令でのみ動くと通知があったでしょうが!」
「しかし中尉!司令部からの最優先支援要請ポイントですら既に5,6か所を超えています!」
鎮圧作戦に投入された唯一の魔導戦力である第199特技中隊は当然の如く酷使されていた。航空魔導士の頑丈さ、機動性、展開力、高い単一火力、術式の柔軟性は市街地戦において絶大な威力を発揮した。碌に錬成もされずに投入された魔導兵力であるだけに期待を遥かに上回る活躍をしていた。してしまった。その結果がこれである。
「部隊を分ける。各小隊はそれぞれ近接航空支援を続行。敵の伝令も可能な限り排除し敵の指揮系統に打撃を与えるように。私の小隊は市街地の中心部、敵司令部を強襲します。司令部に許可を取ってください…っ!」
急造の対空砲火を躱しながら地上に爆裂術式を叩き込む。地上の装甲車と歩兵もタイミングを合わせて拠点と目される違法建築ビルに突入する。
「司令部からは兵力の分散は避けるようにと指示がありましたが…」
「この消耗ペースでは支援続行は困難であり、作戦完了を待たずに我々が使い潰されます。第199特技中隊は貴重な予備戦力でありここで戦闘力を喪失することは許容できません」
支援がひと段落して部隊が再集結した後にディナは隊員達に告げる。疲労こそ濃いものの未だ被害は数人の負傷者のみ。
現役兵ですら躊躇する、付随的被害の発生や脅威の無力化など”複雑”な作戦任務に彼らは着々と適応していた。染められるままに何色にも変ずる白い糸。戦争という荒々しい教師は新兵を容赦なき戦争機械に仕立て上げていた。もはや軍規以外に彼らを束縛しうるものは何もないかもしれない。
「しかし敵司令部の所在は未だ特定できて…」
「時間が無いので、司令部の許可が下り次第休憩を終了し分散して作戦行動を再開します」
戦闘糧食を水で胃に流し込みながら有無を言わせない態度でディナは言う。今の彼女はこのインスタント部隊の中において最も実戦経験豊富な古参兵でありその技量を遺憾なく発揮しており新兵が反撥できるはずがなかった。一か月にも満たない彼女の実戦経験だがそれでもその差は歴然であった。
「心配せずとも敵の対空網は脆弱であり地上部隊との連携を疎かにしない限り“七面鳥”でも十分な脅威足りえます。それこそ飛んでいるだけで敵にプレッシャーをかけられるでしょう。敵の魔導部隊でも出てくれば話は別」
さて、話は唐突に変わるがこの時代における魔導技術は大戦期と比べて停滞こそあれど着 実に進歩していた。特に重視されたのは性能でなく、むしろ性能を犠牲にしてでも画一化、量産化を指向していた。つまり、かつては航空魔導士には適さないような魔導資質の人的資源も航空魔導士として活用できるよう必要とされる魔力量を抑えとにかく航空魔導士の数を揃えるという事が最優先された。
かつて存在したライヒ、帝国の数十分の一の人口しか持たないラコブス共和国が隣国に対抗しうる数の航空魔導士を実戦投入出来ているのも単にその高度な魔導技術、他国の数世代先と謳われる技術によるものだった。しかしその共和国ですら航空魔導士を振り絞って数合わせをしている有様だ。
何を言いたいかというと、まとまった数の魔導戦力はさすがにこの時代でも国家か、あるいは国家と深いコネクションを持つ民間軍事会社でも無ければ保有出来ない。
のはずだった。
ディナ率いる小隊は市街地中心部に侵入する。練度不足により覚束ない陣形の小隊は通信量、敵伝令の動きの傾向、地上部隊の情報を睨みながら目標を求める。その瞬間
「各自散開!」
辺りをつけた地点に接近した小隊に“頭上”から術式が降り注ぐ。
「ッ…!」
地上に気を取られていた彼らの反応は鈍く、彼らに貫通術式の雨が、死が舞い降りる。
術式が命中した轟音と爆炎の中彼らを庇ったディナが姿を現す。左目への被弾で複数の術式をしのぎ切った彼女の胸には魔導総監からつい先日贈られた“懐中時計“が起動していた。
エレニウム工廠製九七式突撃機動演算宝珠、かつて帝国軍が大戦において少数を実戦投入したと伝わる悪名高き”奇跡”の残滓が。
市街地とジャングルって似てますよね。
ところでナパームや火炎放射は現代の火計と言ってもいいのでしょうか。ちょっと火力が弱いから夷陵やレッドクリフみたいな火計のイメージにそぐわないような…
古の火計は現代での砲撃による面制圧のようなものでは?(論理の飛躍)
個人的な事情で申し訳ありませんが、2/15の投稿は休ませていただきます(2/15追記)