巫女戦記   作:零デイ

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16話

「まさか再び貴様が此処を訪れるとはな。南部戦線では大活躍だったそうじゃないか」

 

 蜂起に対する鎮圧作戦が発動した直後の憲兵総監室。夕日が差し込んでいるのに相変わらず陰鬱な雰囲気の部屋に客が訪れていた。

 

「結論から先に言おう。私は三日後死ぬ。そして貴様も数日を待たずして死ぬ」

 

 共通の友人ハインほどこの国で交友関係が広い存在はそういないだろう。

 

「ふむ…また急だな。つい先日も南部では航空魔導士の大群相手に大立ち回りをして一国の魔導戦力を単騎で牽制した“伝説“の発言とは思えん」

 

「2機を落とすのが限界だった。昔ならあの程度の戦力は敗走させられただろう…いや敗走させるしか、奇跡を起こすしか我々に活路は無かった。今やそれを知っている現役の人間は我々二名くらいだろう」

 

 異様に口数の多い彼、特技兵団司令官という肩書の年齢不詳の魔人を憲兵総監は宇宙人でも見ているように眺める。

 

「我々は崖淵まで進んだ。共和国は限界まで拡張した。アレリア人からも遊牧民からも土地を奪いつくした。北のパルミラ帝国や南のプトレマイオス連邦、あるいは東の王国からから奪うしかなくなり、我々は崖淵への前進をしていた。その成果が先の戦争の大勝利だった。それでもまだ足りない。飢えを満たすに足りない。その共和国人の絶望は憲兵が一番把握しているだろう」

 

 憲兵総監は彼に煙草を勧め、自分も吹かせる。慣れた匂い。だが味はしない。

 

「建国以来のドクトリンは機能していない。軍事的な選択肢が脆弱かつ限定された状況下において共和国の選択肢は自然と定まる。選択肢が無いことの絶望、閉塞感とは感染する。現状将兵の士気は勝利の美酒で辛うじてもっているだけだ。それでもイルデル少将のような事案が発生する。彼は今までの戦役においてのような行動を取る軍人では無かった。我が軍で無能な人間が許されるはずがない」

 

「そこまで貴様が饒舌に話すとは。明日は雹かあぶでも降ってくるんじゃないか。子羊の血でも門柱に塗っておくとしよう」

 

 冗談でもなく半分ほど本気で言う憲兵総監に彼は言う。

 

「無駄だ。我らの主が如何に万能でも救えぬものはある…況や万能では無い我らが同じ人間をだ。だから今日は貴様に最期の頼みを伝えに来た」

 

「一応聞いておくが何だ?」

 

「私が死んだ後、貴様も死んでくれ。頼む。不確定要素は全て排除せねばならん」

 

 彼は畳みかける。

 

「私の唯一の望みは平和な隠居生活だと知っての頼みか?」

 

「…そうだ」

 

「まあ考えておこう。残念ながら俺は貴様ほど勇敢な人間では無い。自らの保身の為に逃げてこの共和国まで流れ着いた人間だ」

 

 魔導総監はそれを聞くと軽く笑う。

 

「安心した。では時間が無いから私は帰る」

 

「待て。秘蔵の酒がある。今生の別れだから付き合え」

 

「酒は断ってる身だが…まあいいだろう」

 

「航空魔導士だから酒は関係無いだろうに…何に乾杯する?共和国の繫栄か?」

 

「いや単なる私の忌まわしく輝かしい思い出のせいだ。酒を飲むと“あの作戦“の飲酒飛行を思い出す…乾杯するとするなら、」

 

 そして彼は杯を掲げる。

 

「過去に」

 

「…過去に」

 

 話を終わり、部屋から去る前に一つ彼の外見の異常に気付き訊ねた。

 

「そういえばいつも身に付けている97式はどうした?」

 

「退院記念にヘイル中尉に渡した」

 

「やけに気に掛けているのだな」

 

 魔導総監は振り返らずに答える。

 

「…惨い事をした。長生きなどするものではないな…手ずから殺すべきだった…いや愚痴でしかないか。あと少し私の身体が保つなら何も問題が無かった」

 

「どういうことだ?」

 

「天と地の間にはな、我々の哲学では思いも及ばぬことがいくらでもあるのだ。私は見てしまった。だから彼女を使い潰すしかない」

__

 

「ッ…!?カハッ…ぅ、あ…おえっ……げ……っ、は……」

 

 ディナは左目から血を流しつつ吐血しつつ追撃を辛うじて躱す。彼女の魔力保有量を遥かに越えて97式は魔力を貪り彼女の身体を蝕んでいた。

 

「中尉!?大丈夫ですか!?」

 

「…コヴァルスカ少尉。部隊の指揮は任せます。私は上の魔導部隊を叩く」

 

「待っ」

 

「主の右の手は、その力によって栄光を輝かせる。主よ、あなたの右の手は敵を打ち砕く。」

 

 ディナはベラの返答を待たずに上昇する。防御膜、防殻術式で打ち下ろされる術式をはじきながら急速に上昇するその姿はすぐに小さくなった。

 

「…ッ!ああもうっ…中尉の命令通り我々は敵司令部と思われる建物に突入する!」

 

「了解!」

 

 地上にある目標、何の変哲もない古びた建物に魔導士が殺到してゆく。

 

「敵単独で上昇中、高度500…1000…!速度を落としません!」

 

 上空から奇襲した反乱軍側の魔導部隊。アレリア人民解放戦線の虎の子。複雑な経緯で入手した最新の魔導宝珠を装備した彼らはその機密性かから実戦経験こそ無いものの練度は非常に高いものとなっていた。

 

「光学狙撃術式、撃てぇぇっ!」

 

 その為彼らは定石通り数と高度の優位を生かして反包囲の体勢を取り無謀にも単独で上昇してきた自殺志願者を交差射撃で打ち下ろした。教科書的とも言える理想的な展開。真っすぐ上昇するディナは一方的に撃たれる。

 

「目標、依然健在!尚も接近!」

 

「馬鹿な!?」

 

 が、理外の存在に対して理性とは往々にして通用しない。

 

「目標から高魔力反応!」

 

「かいh」

 

 命令を出そうとした指揮官を下から長距離狙撃術式が貫く。

 

「隊長!?糞っ!陣形を組みなおせ!接近戦用意!」

 

 兵力に高度とあらゆる点で優勢な魔導部隊がたった一機の魔導士に蹂躙される?有り得ないだろう。それこそ大戦期の伝説的な撃墜王、現代においてはラコブス共和国の“亡霊”ことトップエースでも無ければ不可能だ。そう考えながらも彼らの脳には絶望という文字がちらつく。

 

「目標、更に加速!5機墜とされました!」

 

「なんだコレは…」

 

 陣形を食い破ったソレは更に上昇して高度を取って急降下。追いかけようとして突出した航空魔導士を次々と屠り、包囲されると見るや瞬時に異次元の変則的な機動で包囲網を破っては撃墜していく。

 

「態勢を立て直す!一旦撤退」

 

 そして彼らは殲滅された。全滅ではなく殲滅。

 

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