巫女戦記   作:零デイ

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18話

 アズラ少佐たちが一旦前線から引き上げると不思議な光景が広がっていた。

 

「何だこれ」

 

 兵士達が隔離していた住民を流れ作業で木造建築に詰め込んでいた。選別したマスクを付けている人間もちらほら混じってる事も不幸にも明確に見えてしまった。

 

「公安が到着したようですが、拘束した人間の移送をしているのでしょうか」

 

「連中が来るのはともかくそんな話聞いてないぞ…そもそも住民を建物に押し込めてどうするんだ…おい君、これは誰の指示で何をやってるんだ?」

 

 手近にいた若い少尉に訊ねる。

 

「はっ国家安全保障特別行政令 第109号に基づく公安局の指揮による“管区内の抜本的な正常化措置”であります!」

 

「…何て?」

 

「国家安全保障特別行政令 第109号に基づく“管区内の抜本的な正常化措置”でありま」

 

「あー分かった君に聞いてもしょうがないという事は分かった。ここの責任者は?」

 

「自分でありますが…」

 

 兵士達の建物の扉や窓を木材を打ち付けて封鎖する作業にアズラ少佐は絶句する。完全に封鎖した建物は出入りも出来ずとても建物としては極めて不便だろう。簡易的な火葬場兼集団墓地とするなら話は別だが。その場合ならば極めて効率的だろう。

 

「アレは何をしている?まさか…いや、もういい」

 

「少佐殿?」

 

「ここの作業は中止だ。さっさと封鎖を開けろ。私はアズラ・フリードマン憲兵少佐だ。私の指示で差し止めしたと言え」

 

「ですが…」

 

「抗命か?」

 

 アズラ少佐は拳銃をちらつかせて脅す。相手が場数を踏んでいない新米少尉で辛うじて通用した。

 

__

 

「聞いていた話と違うようですが」

 

「どうされましたか?何か不幸な誤解があるようですが…」

 

「この虐殺はなんだ?君らがテロリスト共を処刑するのは聞いていたから別に構わんが見境なく虐殺して回るのは流石に聞いていない!蜂起勢力の鎮圧も完了していないのに兵士達に余計な負担をかけて作戦に支障が出ているのは許容出来ない!即刻中止するよう要請する!」

 

 鎮圧軍司令官は激怒した。必ず邪知暴虐の公安に懲らしめねばならんと決意した。彼には政治や一般的な倫理は分からぬ。しかし部下が酷使され自分のキャリアの汚点になりうる事は断じて許容出来なかった。

 

「鎮圧作戦は順調と聞いておりましたが」

 

「何?」

 

 公安の指揮官は激怒する司令官に淡々と答える。

 

「これは国家の安全保障に直結する案件です。貴方が作戦に耐えられないようでしたら残念ですが別の人間に交代してもらうように取り計らえますが」

 

「…っ!いや待ちたまえ。命令に逆らうというつもりは一切ないが現地部隊の負担を考慮して頂きたい!せめて増援の到着か鎮圧が完了するまで延期出来ないのかね?」

 

 政府を盾にされた瞬間即座に喧嘩腰を改める司令官。せめて問題を先送りしようとするが、

 

「不可能です。現下の安全保障情勢は極めて危機的かつ流動的であり即座の対応を必要とします。最低限反乱勢力の処理を行わない場合国家に後の禍いを齎す可能性があります。そうなれば貴方の責任も問われざるを得ないでしょう」

 

「…」

 

 沈黙する司令官。共和国において安全保障という言葉は何よりも重い。時に気ままに一人歩きしがちな愛嬌もある。

 

「この状況は何ですか司令官!」

 

 間が悪いのかそれともいいのかその時司令部に入ってきたアズラ少佐が問いかける。

 

「国家安全保障特別行政令 第109号に基づく治安攪乱要因の完全な鎮静化と当該地域における秩序再構築の処理を」

 

「貴方には聞いていない。司令官!現場の能力を遥かに越えております!せめて選別済みの住民への処刑は即刻中止して頂きたい!」

 

 公安の担当者の説明を遮りアズラ少佐は司令官に食い掛る。既に処理が行われている光景を道中いくつも見てしまった彼には引き下がれない。司令官は沈黙したまま答えない。

 

「越権行為ですよ…えー」

 

「犯罪捜査部から派遣されたアズラ・フリードマン少佐です。どうやらその行政令は現場の状況と著しく乖離が見られるようですが」

 

「その乖離を最大限解消するのが我々の仕事でしょう。ああ不穏勢力とその現地協力者の整理を指示してくれた“実務能力に長けた”方は貴方でしたか?」

 

 公安の担当者は得心したように頷く。

 

「彼らは既に選別済みの現地住民です。直ちに害を為すとは考えにくいです。慎重な対応をどうかお願いしたい」

 

「用件はそれだけでしょうか。我々は業務がありますのでこの話は保留にさせて頂くきます」

 

「“お忙しい”中、手数をおかけした。失礼する」

 

 空の空、いっさいは空。話を続けても無益だと悟った少佐は司令部を後にした。彼らは耳をもっているが、聞くことができないのだ。

 

「戻られましたか少佐、憲兵部隊に連絡をしたのですが…」

 

「憲兵指揮官に可能な限り移送をするよう伝えたか?」

 

 司令部から立ち去ると憲兵部隊に走らせていた部下と合流する。アズラ少佐は一縷の望みとして既に移送したという既成事実を作ろうとしたがもう何もかも手遅れだった。

 

「指揮官が殉職しており、また公安の担当者が派遣されており駄目です」

 

「奴が死んだか…奴がそう簡単にくたばると思えんが」

 

 煙草に火を着けながら茫然となりながら少佐は呟く。

 

「いえ、それが…」

 

「何だ?」

 

「安全が確認された住民のトラブルの仲裁に向かった時マスクを付けた子供が近寄って」

 

「…そうか」

 

 少佐は絞り出すように呻く。見積りが甘かったと思い知らされずにはいられない。煙草を踏みつぶして瞑目する。

 

「良い奴から死んでいく…いや違うか死んだ人間が良い人間なのか」

 

「…」

 

「奴がやたら死にたがるのはもしかすると…あーマズいな連中この調子だと奴とかち合うな」

 

 呟き続けるアズラ少佐に気を遣って沈黙する部下に指示を出す。

 

「…確保した捕虜は絶対に公安に渡すな。連中やたらと処刑を急いでいる。まさかとは思うが…何か連中も焦っている。絶対に渡すな」

 

「了解しました。少佐殿は?」

 

「前線に戻る。一人で構わん。もう十分血は流れるが…流石に“尊敬すべき”公安の職員の方々や“善良な”兵士達が奴に無残に殺されるのを放置はできんだろう」

 

「…?了解しました。尊敬に善良ですか…連中が。」

 

「…まあ詰まる所彼らは“普通の人々”なんだ。仕方あるまい。我々も、な。」

 

__

 

「中尉。ここは外れのようですが…」

 

「というかただの民家のようですが」

 

 魔導部隊が司令部候補を手当たり次第に荒らして回って既に9か所目。部隊の疲弊も限界に達しつつあった。

 

「…」

 

 ディナは民家にいた母親と子供を見る。震えていた彼女はディナに話しかける。

 

「…お願いします。どうかこの子だけ安全な場所に連れていって頂けないでしょうか」

 

「…そこで止まってください」

 

「どうかお願いしま」

 

 民家に突如響く発砲音。足を止めなかった母親は子供と撃たれて倒れ伏す。

 

「中尉!?相手は非戦闘員ですよ!」

 

「いや“敵”です」

 

 ディナは近寄ると子供を包んでいた布に手榴弾が繋がっていた。その子供は既に死んでいたのか今の銃撃で死んだのか分からない。

 

「なっ…」

 

「葬ってあげてください。多分ここも司令部の予備の一つですかね」

 

 彼女が壁を魔力で強化した銃床で壁を殴るとごく一般的な家庭にならあるであろう暗号書や無線機、火炎瓶などが出てきた。

 

「なぜ彼女がテロリストだと分かったのですか?」

 

「んー…何ででしょう。慣れですかね。遊牧民の時も何故か分かったんですよね…まあそんなことよりこの一帯の司令部はほぼ全て覆滅出来た…と見ていいでしょう」

 

 外に出ると戦闘音が近くから聞こえるようになっていた。鎮圧部隊が市街地の中心まで進出してきた雄弁な証拠だ。

 

「もう斬首の効果も薄いでしょう。拠点に凱旋しましょう」

 

「流石に後方には敵はいないでしょうね…」

 

そして出撃拠点へ戻った彼らは“正常化”作業で大わらわな後方の光景を見る。そして疲れ切った彼らはとにかく休息を取ろうとその光景を見なかったことにしようとした。限界を迎えた彼らに人道や倫理についての決然とした抗議を期待するのは酷だろう。

 

「…は?」

 

 ただ、一人を除いて。

 

「…敵か」

 




あと2話で折り返しになるとは思います多分おそらくおおよそメイビー
マーヴェリック何度見返しても面白いですね。パクスアメリカーナの象徴としての空母打撃群と言っても過言ではないでしょう。ロマン重視のストーリーだけど面白ければ何でもいいじゃんって個人的には思います。
現実のほうが創作よりよっぽど奇妙ですし
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