動員が完了した予備役部隊が次々と投入された結果、北部戦線異状なしと見なしても問題ない程度に落ち着いた。
すなわち血で血を洗う膠着した消耗戦が続いていた。
「ルーア36よりコントロール,無人航空機の観測情報を確認。グリッド177 544の敵陣地に二個小隊規模の敵部隊。対空砲、大型レーダーは確認できない、オーバー。」
「防空の傘」と忌み嫌われる偏執的染みた防空網により甚大な損害を出した魔導部隊は十八番の対地襲撃を事実上封じられ、原点回帰ともいえる偵察、観測などの支援任務にほぼ徹していた。
「コントロールよりルーア36、待機中の部隊の制圧を支援せよ」
無人航空機といっても写真を撮るだけの物で高度な観測機器は無く、しかも写真は直接回収する必要がある、電池はすぐ切れる、一機当たりクルーザー並みの価格帯、電子戦に脆弱など赤子のように慈しむ事を強いられる仕様のせいで取り回しが最悪となっていた。
「了解、アウト。」
そこで万能薬こと航空魔導士に目がつけられた。元々長距離進出、浸透が可能な魔導士は偵察、観測にも酷使されておりドローンと組み合わせる事でより広範囲の偵察・観測が見込まれた。
墜落した時に回収にすぐ向かえるという点もコスパ面で非常に魅力的、しかも適正や練度が不十分で最低限飛べるだけの魔導士に操縦技術を習得させるのにうってつけの存在もいるという完璧な目算により計画はとんとん拍子に進んだ。
定数の三個中隊に対して常時一個が欠けた二個中隊だった第148特技大隊が危機的状況の北部戦線に投入されるに当たって訓練生からなる一個中隊を補充して帳尻を合わせたのもあくまで練度の低い魔導士は偵察や観測、そしてドローン運用になら十分耐えうると判断されたからだった。
「スピリットは直ちに地面に下ろして隠蔽、残りは攻撃準備。」
「こう言っては何ですが割り振られる予定の二機が間に合わず一機だけで良かったですね。あと二機あったとしても今頃土の肥やしか敵に投げつけるかだったのでは?」
繰り上がりで部隊長代理となったディナ少尉は、先任下士官のジョークに対してぎごちなく笑った。
中世の魔女が操る使い魔になぞらえて命名された最新鋭の無人航空機だったが、実際の運用は当然のごとく泥縄式だった。
片手間の講習でまともな操縦技術を習得する訳が無く、ダチョウやエミュー並みの巨体を抱えて移動するだけでも文字通り重荷になり、前線からは一人でも多く航空魔導士が必要とされる状況でドローン操作を悠長に出来る訳が無く、そのジレンマは実際の現場に過労という形で攻め寄せてきた。
「指揮官代理、友軍の前進を視認しました。」
とはいえ、歴戦の将兵という魔道部隊の骨格は健在であり、新米少尉の指揮というあって無い様な物でもオーバーワーク兼マルチタスクに対しても対応出来ていた。
「さて、本業の時間です。爆撃術式により面制圧を行い、その後友軍の前進に合わせて突入します。敵の携帯式対空火器に留意を。」
___
「少佐!クルセイダー共の戦車が陣地に乗り上げました!救援を!」
「くそっ魔導小隊を上げろ!無線機と暗号書の処分を行い撤退準備!」
少数ながらも戦車と機械化歩兵、そして航空魔導士による諸兵科連合はパルミラ帝国軍の最精鋭である空挺兵の陣地を蹂躙した。
元より、友軍が到達するまでの観測拠点の維持、最悪到達できなくても奪還に動かざるを得ない共和国軍の部隊を一部誘引でき、止めに魔導小隊も加えることで戦力を底上げし後方への挺身襲撃も睨めるといった目的の降下作戦だったが、友軍の突破が完全に挫折してもいないのに僅かな時間で有力な部隊が殴りかかってくるのは完全に想定外だった。
圧倒的な数の魔導部隊や戦闘機、そして奇襲の際の航空殲滅戦により制空権は掌握できるはずだったのに。
「連中ご自慢のオールタンクドクトリンはどうした!?こんな時に限って定石に頼りやがって!」
「魔導小隊から後退許可が!」
「許可する!撤退を支援させろ!」
対戦車用の即席陣地は魔導士につぶされ、対魔導士用の対空火器は砲兵につぶされ、切り札の魔導小隊もそれを上回る共和国魔導士に封殺されるとなっては撤退するまでの時間稼ぎがやっとであった。
かくして共和国軍の頭痛の種であった観測拠点に陣取った帝国軍の空挺は開戦から間もなく排除された。
そして、共和国軍の別の頭痛の種もひとまず解決されようとしていた。
連絡手段の発展により軍隊にも様座な恩恵がもたらされた一方様々な弊害も同時にもたらされていた。上層部による前線への過干渉、命令系統の混乱など弊害も多種多様だ。
そして、前線からの凶報がダイレクトに上層部に届くのもある意味弊害かもしれない。
「略式ながら、査問を行う。私は本件を担当する憲兵少佐のアズラ・フリードマンだ。」
それなりに憲兵としてのキャリアを重ねていた彼だったが、そのケースは悪夢だった。
「尚、本件は諸般の状況を鑑み略式に審理を行い、後日、正式な軍法会議で再審理される。」
まさか16才の少女を軍法で裁くことになるとは!それも上官殺し!
「その為本件は証言や状況証拠に基づき審理が行われる。何か質問は?」
「ありません。」
年端もいかない少女まで戦場に投入した結果、実際に問題が起きているのだから世話がない。
「ディナ・ヘイル少尉、父親、母親ともに他界、ノア孤児院で成長。士官学校に在籍。三日前から第148特技大隊に所属。すでにエース並の活躍をしているようだな」
本来なら即座に拘束、監禁されるはずの彼女は、書類上は拘束されていた事になっていた。ただし、結果さえ出せばあらゆる無法が通るのが戦場の常であり「攻撃からの退避」などの名目で何度も出撃しているのが実態だった。
「確認しておくが、准将に対して個人的な怨恨は無かったか?」
銃殺された准将ら数名は、控えずに言えば死ぬべき人間だった。重度の戦争犯罪に敵前逃亡、始末の悪い事に政治的なバックもあり生存する事にすら政治的リスクがある。
自分も立場さえ無ければ彼女の行動に共感していただろう。
「ありません。」
主を讃える言葉を発していただの一切躊躇せず流れ作業のように射殺しただの物騒な証言を聞いて身構えていたものの開き直りなど反抗的な態度も見せず淡々と応じる彼女に拍子抜けする思いだった。
「さて、ここまではあくまで建前だ。」
本来なら徹底的に軍法会議にかけ、事件を明らかにし事件の再発を防ぐべきという常識的な意見はそんな暇あるか寝言は寝て言えという現実的な理由に蹴り飛ばされた。
それだけなら簡単だが、被害者と加害者の殺された准将が「居住活動の推進」を積極的に進める真剣党の大物、そして他の3名も真剣党に属する札付きの「愛国者」というのが問題だった。
そしてさらに彼女の素性が曰く付きだった。
「確認するが面識は一切無かったのか?もしくは彼らの事について何か知っていたことがあったか?」
彼女の父親はラコブス教だが、母親は違う。無論本人の信仰が最優先という事にはなっているが、女方の血縁を重視するその宗教においては微妙な立場、異質な存在であった。
「ありません。」
事件を聞いた真剣党は当然裏切り物、内通者だと彼女を糾弾したが戦争犯罪の証拠と彼女の活躍を盾に辛うじて黙らせることが出来た。しかし辛うじて、だ。
「なるほど。了解した。この件は機密指定され、准将以下4名は名誉の戦死として、貴官への処分は行わない。これは上層部の決定だ。」
しかし何かずれがあった。
「つまり、あのような許されざる行為が黙認されるということですか?」
大人しく質問などに答えていた彼女が一つだけ質問してきた時にした嫌な予感に気を付けるべきだったと彼は後に後悔した。
「言葉を濁さず言えばそうなる。ただし、これはあくまで特例だ。情勢が落ち着き次第徹底的に調査され、公開される。」
これも建前だ。連立により辛うじて政権を維持している今、連立に参加している真剣党への刺激が許される訳がない。
「…そうですか。」
「老婆心ながら言うと君は生き残る事を最優先にするべきだ。君がそれに徹していた事を誰が責められる?」
これを言った瞬間、彼はある逸話を思い出した。民衆への怒りや疲労によりつい口を滑らせ約束の地にたどりつけなかった指導者の逸話だ。
「私にとって信仰より優先するべきものは無いですよ。」
それに、と彼女は続ける。
「他の物に意味が無いんですよ。」
「それはどういう」
そう彼が言いかけた瞬間警報が鳴った。
「もう聴取は終わりましたか?」
警報の瞬間、彼女は直前までの思いつめた雰囲気から臨戦態勢に豹変した。
「…ああ。構わない。」
「では失礼します。」
そう言い残して彼女はスクランブルの為走り去っていった。
残された彼はそれまで控えていた煙草に火を付ける。前線で調査するなりもみ消すなりするべき案件が山のようになりゆっくりしていられないが、無性に煙草が欲しかった。
そしてつぶやかざるを得なかった。
「我々は何を間違えた?」
短めです。
かなり分かりにくい書き方ですが、ラコブス共和国に対して北のパルミラ帝国、南のプトレマイオス連邦などが協力して奇襲開戦し、ある程度固定された戦線が形成されつつあるといった感じの戦況です。
どうでもいいですがパルミラ帝国の指導者は女帝です。
筆者の趣味です。
最近新作がリリースされた某電子ドラッグのシリーズでビザンツプレイ中にUR女帝×2を神引きした快感は今でも忘れられないです。