巫女戦記   作:零デイ

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22話

「聞くべき事はもう何もないな」

 

「我々の義挙の正しさはいずれ証明される。結局の所我々の行動以外に貴様等の幸せな展望など不可能だ。今までイシュマエル人の末裔共に恩をかけてそれが何か報われた試しがあるか!?我々ラコブス人が生き残る為にはっ、この土地を全て奪還するしかない!それがなぜ分からない!?」

 

「分かる必要など無い」

 

 アズラの表情は暗闇に隠れて見えない。

 

「軍人は政治を考えるべきではない。君ら公安の流儀はまた別のようだが、まあ組織文化の違いという物だろう」

 

 そう吐き捨てるように言い残して取り調べ室から出ようとする彼に声が掛けられる。

 

「同胞の誼で言うが、まあ精々頑張ることだ。無意味な欺瞞を」

 

__

 

 共和国の軍人の墓は一様の簡素な物だ。憲兵総監の墓に上司である大佐と訪れたアズラ少佐は石灰岩で出来た石板に石を置く。偶像崇拝を否定する教義によりその墓には個人を示すものは刻まれた文字以外何も無い。

 

「亡くなられる数日前に酒を頂いたのですが、やはり総監は死を予感されていたのでしょうか」

 

「どうだろうな。クーデターの予兆はあったとはいえあのような杜撰な形で突如始まるのはまず考えられないとは思うがね。そもそもクーデターで要人を殺害して回るなんて正気の沙汰とは思えん」

 

 何の気なしに呟いたアズラの言葉に大佐は返す。

 

「制圧できるだけの数が揃わず制圧より権力の空洞化を狙ったと言ってはいました。実際のところはかき集めた民兵の統制が取れずに暴走したといった所でしょうが。連中も随分と大層な墓穴を掘ったようです」

 

「それはどうだろうな。報告書を読んだ限り直接手を汚したのは民兵やごろつきだ。単なるクーデターで死刑にはなるかどうか…これを見てみろ。愉快な事が書いてあるぞ」

 

 まだ完治しておらず腕を吊った大佐は新聞を渡す。一見するとクーデターに批判的な文面。

 

「感情を煽っていて端的に言うなら同情的ですね。まさかこれが民意とでも」

 

「そのまさかだ。入植地の放棄と引き換えの講和の受けは芳しくない。有体に言うなら売国、敗北主義と考える人間が多い。講和の意図を隠し通せばまた別だっただろうが先の作戦で入植地を見捨てたからな。おまけに“良心”にかられた善人が外交交渉の情報を漏らしたらしい」

 

「はっ」

 

 上司の前とはいえ失笑が洩れる。

 

「まさかハッピーエンドの御伽噺がここまで人気を博しているとは浅学ながら知りませんでした」

 

「今の議会はどうなっているか知っているだろう。アレリア人穏健派の政党を逮捕し和平派も何人もクーデターのどさくさで暗殺された」

 

 数人程度でしかない。しかし、この国の議会はたった“数人”ですら多数派になりうる。何せ第一党の議員は二桁に満たない。

 

「時勢という物は人の手に余る。かといって我らの主がそのような低俗な些事に拘るはずが無い。困ったものだな」

 

 

__

 

「全戦線で攻撃!共和国軍の攻勢です!」

 

 パルミラ帝国の首都、陸軍総司令部。その知らせは司令部を狂乱に叩き込む。

 

「既に」

 

「通信妨害により最前線の部隊との連絡途絶」

 

「第一軍司令部より有線回線で急報!敵有力な空挺部隊に襲撃を受けていると」

 

「馬鹿な!一個師団ですら優に跳ね返す戦力が配備されているはずだ!」

 

「そもそも既に複数の地点で空挺降下が確認されているのにまだいるのか!?」

 

「市街地に敵の侵入を確認!」

 

「数百規模の飛行物体の報告です!」

 

「なんであれ、既定の計画は何も覆らないでしょう」

 

 喧噪の度合いが増す。狂騒と言ってもいい程加熱した中、一瞬訪れた沈黙を縫うように声が響く。響く声とはそれすなわち前線での統率力だ。

 

「では失礼します」

 

 注目が集まる。白けた雰囲気の作戦室を当の本人は後にして足早に彼の司令部に向かう。

 

「最悪は前線部隊が全て溶けるか…それならそれで方策はあるが」

 

 慌ただしく人が出入りする司令部の建物を呟きながら通り抜ける。

 

「いや数が足りないからそれは物理的に無理だ。空挺降下にしても共和国が回せるのはどうかき集めても一個師団が限度。それを越える数を揃えるのは無理…いやヘリボーンなら別か…しかし悲しいなァ」

 

 無意識の内に表情から喜色が洩れる。悲しむべき惨事が起きるだろう。一昔前なら亡国などありふれた悲劇でしかないが昔の、今や歴史上の話だ。

 

「俺の作戦計画…いや計画ですらない“願望“が実現してしまう」

 

__

 時は少し遡る。前線の第一軍団司令部。飽きるほど味わった共和国の斬首戦術に対抗して少ない数から集めた対空ミサイルに旧式の対空砲など可能な限りの防空網が築かれている。そして軍団の予備兵力も兼ねて数個大隊が付近に展開していた。通常の空挺降下なら確実に殲滅するには十分な備え。

 

「おい!何だあれは!?」

 

「警報は鳴ってないぞ!?いつの間に接近してきた」

 

「これだけの備えに突っ込んでくるとか連中どうなってる!」

 

「アレは何だ!?」

 

 重厚なローター音を響かせ無数にも見えるヘリの集団。空を飛ぶ騎兵の群れが襲来する光景が見えた。

 

「何でヘリがあんな大量に有る!?共和国があんなものを持っているなんて聞いた事が無いぞ!?」

 

「いいから所定通り配置に付け!」

 

 動揺はありつつも兵士たちは冷静に対応する。ヘリは予想外だが、それ以外は想定通りの状況だ。日頃の備えは絶大な安心感をもたらす。正常性バイパスという

 

「おい、対空ミサイルが叩き落されてないか」

 

「っ司令部にすぐ連絡しろ!敵は多数の航空魔導士を連れてきやがった!ミサイルが効いていないっ!」

 

ヘリからは航空魔導士が次々と飛び出していた。

 

「なぜ、わたしは母の胎にいる内に死んでしまわなかったのか。せめて生まれてすぐに…流石にダメかー…」

 

 ヘリの騒音の中ディナは呟く。激しい騒音の中誰にも聞かれず気兼ねなく呟ける。が、その一節を口ずさむのを途中でやめた。

 

「中尉!出撃の合図が来ました!」

 

「了解」

 

 信号を確認したベラの声に反応して彼女は降り口から飛び降りる。

 

「まともな軍隊相手の戦場は諸君は初めてだが、いつも通りやれば何も問題は無いです。相手も軍人なので気楽だから安心してください」

 

 彼女のジョークにいつも通り特に笑いは起きない。彼女は気にせず飛行を始める。

 

「彼の他に神は無し」

 

「「彼の他に神は無し」」

 

 ディナに続いて第199特技中隊の隊員も次々と降下を始め、彼女に唱和した。

 

 




日曜投稿は頑張りたいです…→4/7投稿になりそうです(4/4追記)
BGMは多分いつものワルキューレの騎行でしょう
そういえば某国ではワーグナーの演奏がタブー視されているらしいですね
気の毒に
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