巫女戦記   作:零デイ

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23話

「くそっ例の“バッタ“共だ!」

 

「いいから撃ち続けろ!」

 

 戦線の遥か後方、空港が襲撃されていた。例によってここにも守備隊が配備されていた。パルミラ帝国軍は開戦以来空からの脅威に脅かされ続けた結果異常ともいえる戦力配置を強いられた。無限ではない兵力からあらゆる重要拠点や司令部に守備隊を配置せざるを得なくなり当然ながら正面戦力は極めて弱体化していた。しかもその防衛態勢すら航空魔導士とヘリボーンを合わせた未知の戦術により正面から突破されている。

 

「浮足立つな!敵も連戦続きだ!すぐに友軍も駆けつける!」

 

 陣地に飛来し術式で次々と沈黙させる航空魔導士に向かって射撃するよう叱咤しながら指揮官は自らも自動小銃を撃ち続ける。

 楽観的な願望だ。それでも溺れる者は藁を掴まずにはいられない。

 

「やっと今日の最終目的地に着いた…」

 

 ディナはヘリコプターから飛び出しながら密かに嘆息する。字面を見ればロマン溢れる空中騎兵も実態はお粗末なものだった。

 

 ヘリコプターも人員も元々は全く異なる密林地形での実戦経験が豊富だが、それ以外の地形の経験がまるで無い歪な“歴戦“達だ。密林とはまるで別、いや正反対と言ってもいい砂漠を碌な適応訓練も無く進撃するという作戦がそもそも破綻していたのだろう。

 乗員の技量で騙しだまし飛行していたものの、大量の砂塵や敵の迎撃に耐えかね脱落する機体が頻発した。前線で共和国軍が圧倒しているため脱落機までに敵の手が回らない事がまだ不幸中の幸いというべきか。

 

「これ以上の消耗は許されないので、対空砲火に当たるような馬鹿はしないようにしてください」

 

 消耗が他人事で済めば前回の「投石」作戦で叩きのめしたパルミラ帝国軍の追撃、完全なる覆滅という、要するに死体蹴りだったはずだ。警備程度の戦力しかいない空白地帯の戦線後方、敵の背後に悠々と進出するはずだった。

 

「弔い合戦です。敵航空魔導士には厳に警戒してください!」

 

 しかし、摩擦は容赦なく部隊を磨り減らす。脆弱なはずの司令部や補給拠点には対空陣地が例に漏れず準備されており、止めと言わんばかりに前線から姿を消した帝国軍航空魔導士も押っ取り刀で駆けつけてくる有様だ。前線部隊にとっては楽園だが、敵後方に進出するヘリ部隊からすれば悪夢でしかない。第199特技中隊も既に二名の戦死、数名の負傷者を出していた。

 

「まだ余裕がありそうですね」

 

 離れた場所に降下して空港に接近する空挺部隊を支援するために待機している最中ディナは疲弊が色濃く見える隊員達の中で元気に“浮いて”いるライ・サラーハに声をかける。

 共和国の組織的陰謀の生き証人であり、身の安全の為に部隊にねじ込まれた解放戦線の捕虜。彼らが捜査に焦ってクーデターを起こし失敗した今、彼が部隊に留まる必要は無かった。魔術的素養を見込まれ解放戦線の元訓練されていただけとは言え色々な意味で存在が許されないアレリア人の彼だったが、本人の強い希望や人員不足もあり有耶無耶のまま部隊に留まることになった。

 

「総飛行時間は大して無かったはずですよね?」

 

「…はっ!およそ50時間です!」

 

「…?」

 

 彼女が声をかけるとなぜか一瞬怯えた様子の少年兵が返した言葉に彼女は絶句する。通常最低水準の数百時間を遥かに下回る時間で戦力となっている彼は尋常ではない。

 

「…子供は常識で測れるものでは無いですね」

 

 彼女は言葉を絞り出す。

 

「なぜこんな地獄まで付いてきたんですか?」

 

「…共和国は祖国なので。軍に志願した人間は概ねそんな感じの理由でしょう。そもそももう解放戦線にはいられませんしね。中尉もそうでは?」

 

「そうですね」

 

 ディナの返事に対してライは続ける。

 

「失礼ですが…中尉は今まで自分が見てきた人のどれとも微妙に違う気がします。具体的にどうとは言えないのですが…何となく中尉は“何か”を確信しているような…ある意味動揺が一切感じられないです」

 

「…人に違いがあるのは当然でしょう」

 

 それだけ言ったディナに隊員が声をかける。

 

「中尉!空挺部隊の進出を確認しました!」

 

「任務はあくまで空挺部隊の直掩です!離れすぎないよう留意してください!」

 

 隊員の報告に反応して部隊は行動を始める。展開した空挺部隊を支援して攻撃ヘリと連携しながら敵陣地を攻撃する。

 空港からの対空砲火はまばらでここまで戦力が回り切っていないことを期待出来そうだ

 楽観的な願望だ。それでも溺れる者は藁を掴まずにはいられない。

 

__

 

「作戦局から説明は以上となります」

 

「作戦"ナーカー"の発動は遅くとも一週間以内、作戦完了は二か月後となる見込みです」

 

「では次に戦略局から“ワクチン“”バグ“の準備状況の報告を」

 

 和平交渉が頓挫したとはいえ共和国はあくまで強気だった。主導権を握っているのは共和国だ。しかも勝利を裏打ちする最良の戦力を投射可能。

 共和国が保有する六個機甲師団全てを投入し、さらに虎の子である数百機のヘリコプターを集中配備した一個空挺師団を投入。開戦前二千近くあった戦車の内半数を消耗したが合衆国の支援により定数をほぼ充足。その全てと空軍が保有する約五百機の作戦機、特技兵団の数百機の航空魔導士全てが作戦に惜しみなく投入される。

 

 もはや和平という発想が忘れ去られたその会議でS.B.Fは苦笑を噛み殺しながら真面目に発言する。

 

「戦略局の__です。準備状況は順調です。ただし運用に際して人員不足の懸念があり…」

 

 共和国に対する包囲網を打破し、安全保障を確保するという事はラコブス共和国の建国以来の悲願だった。その千載一遇の好機が突然舞い降りた。

 南のプトレマイオス連邦軍は叩きのめされ運河沿いに強固な防衛線を形成。東のフィラデルフィア王国は先の奇襲開戦にも参加しなかった。すなわち中立性は確約されている。そして北のパルミラ帝国は奇襲を撃退され疲弊しきっていた。鉄鎖といえども弱い環を砕けば鎖は切れる。パルミラ帝国を征服すれば悲願が成就するのだ。

 あわよくばその拡張の成功で大ラコブス主義の実現も夢では無くなる。それは作戦が内包するリスクを踏まえても尚余りにも魅力的だった。

 人間的な、あまりに人間的な楽観的願望だった。

 __

 

 ある所に悲劇的な戦争があった。戦争とは悲惨な物だという常識の話ではない。何の為に始まったかも分からず、どうすれば勝利出来るかも分からず、何故敗北したのかも分からない。その歪みは全てにおいて噴出した。

 ある勇者は駐車場の警備員の仕事にも就けず、ある新兵は教官を撃ち殺して自殺。またある大佐はジャングルの奥地で王国を築いた。

 勝ち戦なら得た物を数える事が出来る。負け戦で数えられるのは失わずに済んだ物くらいだ。

 

「“商品”と“派遣”は以上ですね。こちらが納品書です。内容のご確認をお願いします。」

 

“カンパニー”から派遣された担当者が書類を渡す。共和国の沖合に浮かぶ合衆国空母打撃群。その無言の圧力もあり海路、空路ともに盤石。合衆国による緊急軍事空輸作戦が展開され次々と戦闘機やヘリコプター、輸送機、戦車、対戦車ミサイルにECMポッドが運び込まれていた。

 

「追加の物資は輸送船団が数週間で到着予定です。」

 

 特筆すべきは数百に及ぶヘリコプター、そしてその運用に関わる人員に機材のコンバット・パッケージ。どんな国でも即座にヘリボーン部隊を編成できるバリューセットだ。

 

「確かに確認しました」

 

 十年以上かかった泥沼の戦争から漸く抜け出した合衆国はその後始末に奔走していた。特に兵器と人員の整理は余りにも数が膨れ上がったそれを前に困り果てていた。

 

 そんな時に発生した絶好の商機。軍事顧問団という体裁で共和国に派遣し地域でのプレゼンスを高めるとともに社会に馴染めない復員兵の一時的な就職先を斡旋し国内の治安対策をし、さらに兵器の在庫を処理した上でラコブス系のロビー団体からの票集めをし、止めに軍事支援という抑止力による地域の衝突の鎮静化という一石五鳥の魅力的な案に合衆国は飛びついた。

 

 "些細"なリスクの懸念はあったものの、取引相手は情報統制において定評のある共和国。しかもそれまで手を焼かされたお手製傀儡政府と違い自らの意志で国を守る共和国への評価は上がり続けた。

 




ヘリと航空魔導士組み合わせたら強くね?という妄想で書きました。
取り合えず諸兵科連合にすれば強いって古事記に書いてあった気がします。
そういえば古事記では天若日子をドローン活用してスポットしてカウンタースナイプとかエグイ事やってた気がします(あやふやな記憶)
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