巫女戦記   作:零デイ

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26話

「共和国軍の機甲師団の市街地侵入を確認しました」

 

「敵戦車は市街地に引き込め!まだ外縁で粘っている部隊も突出しないよう順次市街地に下がらせろ!絶対に戦車と街の外で戦うなと伝えろ!」

 

 市街地と戦車というのは悪くない組み合わせだ。敵対する側にとって。何故なら強みの機動性は削がれ弱点の上部を高所の敵兵に晒す。その上主砲の射角が限られる。

しかしそれでも尚諸兵科連合として組み合わされた時の打撃力という、その厳然たる脅威は変わらない。

 

「南西部の防衛線が的諸兵科連合により圧迫!至急援軍を求めています!」

 

「2個中隊をまわせ!ただしこれ以上は割けん!」

 

「司令官!我が方の機甲軍支隊の所在を確認出来ました!」

 

場所の報告を受けた参謀達に動揺が走る。

 

「遠すぎる!南から戦闘加入する為には大きく市街地を迂回する必要があるではないか!?」

 

「旧方針に従った結果とはいえ南下し過ぎだ!もはやこの市に呼ぶより崩壊しつつある前線の補強をさせる方が早いではないか!」

 

 パルミラ軍の機甲師団は開戦以来甚大な損害を被り、とても再編の目途がたたなかったので統合し機甲軍支隊という戦略単位として編成され野戦軍の予備兵力として温存されてきた。

 首都の予備兵力ではなく、前線の予備兵力だ。つまり停戦破棄後共和国軍の攻勢にさらされる中当然前線司令部は虎の子の機甲師団に火消しをさせようと南下させた。そして前線司令部たる南部方面軍司令部は空挺作戦の後の止めとしてガス攻撃が行われ壊滅。

 上位の司令部が壊滅しようと本来は下位の司令部が指揮を継承すれば問題無いしそうなることになっている。はずだった。

 

「普通司令部との連絡が途絶えたら司令系統の継承先と命令の変更を確認するだろう!?そうでなければまず状況を固定するだろう!」

 

今回の場合下級司令部に至るまで刈り取られ続け指揮系統が崩壊した、いやそのレベルを越えて愉快な事になってしまった事が混乱に拍車をかけた。

しかもすったもんだの果てに前線ではない首都防衛軍司令部に指揮権が移譲される事になったが、指揮系統の混乱は重荷となった。

 

「しかし前線の火消しが機甲軍支隊の存在意義である以上、命令を待たずに南下した指揮官の判断は正しいだろう」

 

「しかし現在位置が余りにも悪いです。宙に浮いているといってもいい。今から首都に呼び出そうにもまさか敵が押し寄せている南から入る訳にもいきませんし迂回して北から入るしかないのでは?」

 

 実際の所はそこまで合理的に考えて動いた訳ではなく軍支隊の指揮官は根っからの機甲屋だった。つまり砲声が聞こえる方角に本能に従って動いただけだったが。

アバ―シュは地図を凝視して呟く。

 

「前任者達は空襲を恐れる余り機甲部隊を前線から下げ過ぎていたか…?そのせいで結局は前線に戦闘加入できず遊兵と化して…いや無傷な状態で自由に動かせるという事は…素晴らしい!」

 

 聞き取れぬ声で呟き続けていたアバ―シュが突如声を上げた為司令部は一斉に彼の方を向く。彼は喜悦を隠さずに指示する。

 

「迂回する必要は無い。直ちに“突撃”させろ。いや命令を伝える必要も無いか。直ぐに伝令を飛ばして行動を“追認”しろ」

 

__

 

「第二機甲師団の先鋒が到着したようです。一旦仕切り直して連携されますか?」

 

「ガギッジアゼゼ」

 

「…うん何言ってるのか全然分からない」

 

 ベラは引きつった笑顔で茫然とする。戦場で指揮官と意志疎通が出来ないというのは海で方角を見失うような絶望だろうか。

 

「貴女の案に同意すると言っているようですね。あと十五分程で言語機能が戻るはずだからそれまでは貴女に指揮権を代行してもらいたいと」

 

 横からライが口を挟む。ベラは驚いて少年兵を見る。

 

「僭越でしたか?」

 

「いや助かるけど…分かるの?なんで?」

 

「何となくのニュアンスにはなりますが…あー妹が同じような症状で慣れているので」

 

「…悪い」

 

「いえお気になさらず」

 

 淡々と話すライからベラは視線を逸らした。

 

「戦場で戦いの事だけ考えられたらどれだけ楽だったか」

 

 苦々しげに呟いた。

 

__

 

「こういう事は得意ではないし好きでもないのだが…」

 

 壁に身を隠して煙草に火を付けながらアズラは嘆息する。適材適所という単語は貧乏軍隊の常用句だが人材不足を行きつくところまで行くと適性が無くても数合わせが優先される。などと益体も無い事を考えている間も頭上で銃弾が飛び交う。

 

「数はそこまで…か。統制も取れていない。偵察ご苦労様。伏兵の様子は?」

 

「地形的にありえません。敵兵も訓練がされていない民兵同然ですな」

 

 老兵といってもいい壮年の兵士の報告にアズラは頷く。彼が掌握している兵力はクーデター以降有耶無耶の内に大隊長を続けている一個憲兵大隊に後方の後備兵数個小隊。

 

「前進して圧迫する。ある程度近づいたら機動攻撃を敢行。殲滅の必要は無いから指揮官クラスの捕虜の確保を優先する」

 

「はっ」

 

 本格的な戦闘には耐えられない貧弱な部隊だが民兵相手なら腐っても正規兵が負ける道理はない。あっさりと拠点を制圧し数十人の投降者を確保した。

 

「さて、なぜ急に攻撃を仕掛けてきたか聞いてくれ」

 

アズラは通訳に頼む。

 

「――――!――――」

 

「何と?」

 

「使い捨てにされるくらいなら抵抗を選ぶのは当然だ、と言ってます」

 

 通訳の言葉を聞いてアズラは首をかしげる。

 

「どういうことだ?」

 

「あの恐ろしい兵器を使った事は認めるがその罪を一方的に我々に擦り付けようとするなら必ず貴様等にも神罰が下るだろう、とも言っていますね」

 

「詳しく聞いてくれ」

 

 その後も通訳を介して詳しく話を聞いたアズラは辟易として話す。

 

「“不幸”な誤解があったようだな」

 

 そもそも彼と部隊がこの村を訪れたのは“六型防腐剤”なる生物兵器の所在を追っている内に共和国軍に協力するパルミラ帝国内の少数民族のある集団について情報を得たからだ。

曰く、

 

「生物兵器の使用をアウトソージングを請け合ったのは彼らで間違いないな。それでトカゲのしっぽ切りに部隊が派遣されたと勘違いしたか」

 

 諦めたような口調でアズラは口にする。万事が万事この調子だ。

 

 共和国の〇〇○まで、残り二日――。

 

 




短めです。投稿時間が遅くなりがちでご迷惑をおかけします。
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