巫女戦記   作:零デイ

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27話

「首都中心部は目と鼻の先だ!突撃せよ!」

 

 共和国軍第二機甲師団所属第168機甲旅団は開戦以来活躍できなかった。ただし共和国軍において劣弱な部隊、それも劣弱な機甲部隊など許される筈が無い。つまり彼らは単に武運に恵まれず、そしてこの局面において無上の幸運を手にしていた。消耗が少なく優良な練度を維持し、さらに実戦経験も豊富。そのような精鋭が戦争の趨勢を決める一戦に真っ先に加入した。

 

「歩兵は魔導士、工兵と連携して引き続き周囲の建物の掃討を継続。戦車は遮蔽に隠れつつ障害を排除せよ」

 

「敵歩兵の対戦車兵器に注意!なるべく建物に直接射撃は避けろ!」

 

 魔導士、歩兵、突撃工兵が戦車の支援の下建物に突入する。機甲部隊に並んで消耗が激しい工兵部隊は練度の低下が著しい。その為、この首都制圧の為にわざわざ練度優良な部隊を抽出してかき集めるという対処療法も行われていた。

 アレリア人工兵が手際良く壁を爆破して歩兵が突入する。マッピングの概念を破壊する迷宮攻略の邪道を駆使して奇襲を仕掛けるが敵兵はブービートラップだけ残して包囲される前に消え失せる。

 部屋一つずつ抵抗を排除して制圧する市街地戦の進捗は遅遅として進んではいた。

 

「負傷者多数!至急衛生兵を回してくれ!」

 

「建物のスナイパーにより進撃を阻害されている!近くの魔導士に排除させろ!」

 

 しかし、パルミラ帝国軍の抵抗は熾烈を極めた。燃え盛る市街地、しかも徹底的な航空攻撃や砲撃で瓦礫が散乱し進撃は阻害される。次々と後続がパルミラ市街に到着するがその兵力は直ぐに前線で摺りつぶされた。

 正規軍同士が数メートルの至近距離で手榴弾や火炎放射器、分隊支援火器、短機関銃、果ては銃剣、スコップが活躍する懐古的、古典的な戦場となった。戦場から煌きと魔術的な美が失われたと嘆いた某肉屋が見れば歓喜でむせび泣くことだろう。

 人間のみがこの地獄に耐えるのだ。神よ、なぜ彼らを見捨てたもうたのか。

 

__

 

「第255大隊から増援、もしくは撤退許可の要請が…」

 

「どちらも却下だ!死守しろと伝えろ」

 

 アバ―シュが怒鳴ると参謀の一人が反論する。

 

「しかし第15旅団なら今からでも間に合います!」

 

「駄目だ。あの旅団はトラックが優先配備された部隊だ。機甲軍支隊の増援に回せ。市街地に投入して機動性が持て余すだけだ」

 

 煙草をガンガン吸い潰しながら彼は答える。表面上冷静さは保っているが既に司令部の移動を三回も行っており首都への圧迫は深刻だった。麾下の部隊の疲弊、消耗も限界を迎えつつあった。もはや部隊の編制は完全に崩壊しており臨時編成に次ぐ臨時編成で師団の所属する部隊は混沌としていた。味方が苦しい時は敵も同じように苦しんでいるという根拠も何もない言い回しに縋るしか無い状況だ。

 

「実際に共和国軍の衝撃力はかなり鈍った。こちらが破壊したヘリや戦車の数は相当なものだ。敵の主力は全てここに殺到してかなり消耗された…はずだ」

 

 十分に敵に出血を強いるという最低限の戦略的意義は果たしたのだからここで首都を放棄しても十分だという誘惑につい駆られるし、実際放棄しても勝ち筋は残っているだろう。優位性たる機甲戦力、空軍を消耗しきった共和国軍に比べたら状況は遥かに恵まれている。

 

「首都放棄の選択肢は無い。ただ死守と厳命しろ」

 

「はっ」

 

 しかし、“何か”が彼のその誘惑を断ち切っていた。無論首都を放棄した際の政治的動揺、特に帝国内の少数民族の反乱や帝国の威信の失墜とそれに伴う士気の崩壊、撤退の失敗により軍の全面的な崩壊などリスクの考慮ももちろんある。

だがそれ以上に“何か”を確信していた。そしてその瞬間がついに訪れる。

 

「将軍!至急報告が!」

 

 息せき切って司令部に駆け込んでくる通信兵。急報に慣れた司令部は最初は手短に対応しようとしたがその投下された“爆弾”は余りに衝撃的だった。

 

「機甲軍支隊からか?」

 

 何かを察したかアバ―シュは先回りして聞く。

 

「機甲軍支隊からの報告です!」

__

 

「次は中央駅の制圧の支援に回ります。いつも通り私が単独突入して指揮はベラ少尉が代行する…何かありましたか?」

 

 血と戦塵に汚れ切った魔導部隊を率いながら、正確に言うと指揮は代行させているから率いていないが。ディナは無線機にかじりついて無線を聞いていた通信兵の異変に気付く。

 

「中尉!た…大変です!…帝国軍が!帝国軍が!」

 

「やはりここが死地かー…やっとだ」

 

 その尋常でない錯乱ぶりを見て他の隊員が落ち着かせて聞き出そうとする中ディナは何かを察して天を仰ぐ。

 

__

 

 共和国首脳部が集まる会議室。フィラデルフィア王国の不穏な動向に対して急遽開催されたその部屋に爆弾が放り込まれる。

 

「我が軍の背後にパルミラ帝国軍機甲戦力が多数進出しました!」

 

 一瞬その言葉の意味を理解できず、いや脳が理解を拒んで静まり返る会議室。

 

「どういうことだ!敵の通信状況からも敵戦力は全て首都防衛に回されていたのではないのか!?」

 

「そもそも連中にまだ機甲戦力が残っていたのか!?少数ではないのか!?そのような報告は聞いていないぞ!?」

 

「今は対応するべきだ!今からでも敵の機甲戦力を排除して帝国首都制圧を!あとは中央駅と中央官庁を残すのみだぞ!」

 

「無理だ!全ての機甲師団は首都に釘付けだ!首都制圧よりも主力を撤退させるべきだ!」

 

「パルミラ帝国を打倒する千載一遇の好機を諦めろという事か!?」

 

「続報です!?中央軍からフィラデルフィア王国軍と解放戦線の越境の兆候ありと!」

 

 S.B.Fは本当の爆弾が投げ込まれてもこう慌てないだろうなーとその狂乱を眺めながら考える。そして彼女は更に“爆弾“を投擲する。世界を震撼させるに至る威力抜群の爆弾を。

 

「戦略局からは“選択肢”の発動を提案します」

 

__

 

「予備の空軍、魔導士を全て投入しろ!連中を一兵たりとも無事に帰すな!」

 

「「はっ」」

 

 アバ―シュは奇跡を神に感謝する。共和国軍の機甲戦力が全て首都に引き寄せられ背後に一瞬空いた間隙。そこに帝国軍機甲軍支隊が神がかり的なタイミングで浸透した。余りにも理想的な展開だった。最低限挟撃の姿勢を示して共和国軍の攻勢を停止させることが出来れば上出来だと思っていた。攻撃を察知され待ち構えていた共和国機甲師団に袋叩きにされる事も覚悟していた位だったが全て杞憂だった。

 

「神は偉大なり…か。しかしなぜ敵は気付かなかった?」

 

「報告では激しい砂嵐で行動意図の隠匿が助けられたとか」

 

「なるほど」

 

 彼らは知らなかったが、それ以上に共和国の諜報はパルミラ帝国以外にも東のフィラデルフィア王国、南のプトレマイオス連邦にもリソースを割かれており、パルミラ帝国に対しては主に偵察と通信傍受や暗号解読に頼っていた。そして砂嵐により偵察が阻害され、更に帝国軍の通信の混乱に伴い機甲軍支隊の所在を一時は把握出来なかったために共和国軍も所在を見失っていた。この通信状況の混乱下で、まさか機甲部隊が独断でしかも共和国の背後に単独で突進してくるような事は夢想だにしなかった。

 閑話休題、勝利を確信した彼らは絶えず禁酒を強いられていた勝利の美酒に酔いしれる。だから一つ見落としてしまう。そもそも認識していたとしてもどうしようもないのだが。

 

 総崩れとなる共和国軍。軍隊という物は規律があるからこそ軍隊なのだ。希望の高みから絶望の淵へ叩き落された時、戦場の勇者と言えど悲惨な迷える子羊に変貌する。

 

そのような共和国軍にとっての悪夢、帝国軍にとっての理想の状況で運の悪い帝国軍は“ソレ”と対峙する。

 

 高速で市街地を飛ぶ“ソレ”に気付いた瞬間爆撃術式で帝国の戦車は吹き飛ぶ。

 

 

「―――――ッ」

 

 人間の声とはとても聞こえないような笑い声で“ソレ”は蹂躙する。

ディナは九七式演算宝珠と自らの肉体を使い潰す勢いで酷使していた。

魔力を注ぎ込んだ高火力の術式を姿を現した帝国軍に掃射する。光線のような照射で町の区画ごと消滅させる。

 次々と飛来する対魔導ロケットをもはやかわそうともせずに強固な防殻を常に展開して対空網を突破する。複数の追尾術式を同時に展開という荒業で個々の歩兵分隊にも的確に痛打した。

 

 そして少女は“終わり“を眼前に捉えた。魔力の生成が間に合わず一時的に消滅する激しく肩で息をしながら機動で追尾してくる対魔導ロケットを躱そうとするが今も血をとめどなく流す左目。左下方から飛来する複数の弾頭に対処が遅れる。

 

 彼女の歓喜はその瞬間、無残にも断ち切られた。弾頭と自分の間に滑り込んでくるベラが見えた。絶望と共に彼女はベラの笑顔を見た。

 

 呟きと共に彼女は墜落する。

 やっぱり君は碌な事しなかったなあ、と。

 

 そして共和国の“織物工場“から出荷された”ソレ”が地対地弾道ミサイルに搭載され、燃料を注入された二発のソレが飛び立つ。

 

 共和国の国境を越えて展開したアレリア解放戦線とフィラデルフィア王国軍、そしてその後方のアレリア人難民キャンプが地上に現出した地獄により消滅した。

 二発の核ミサイルは一切合切を消し去った。

 

 そのミサイル名称の由来曰く、

“祭司たちが角笛を長く吹き鳴らし、そのラッパの音があなたがたの耳に入ったとき、民は皆大声で叫びなさい。 そうすれば、町の城壁は崩れ落ち、民はそれぞれ、真っ直ぐに突入することができる”、と。

 




今更ですがこの作品は小説の設定に準拠しています。
完結していないのにどうやって準拠してんだこの修正主義者がと言われそうですが敬虔深い作者には天啓が舞い降りて先の展開を予知することが出来る…訳が勿論なくアルカディア版と小説を睨みっこしてまあこれならそこまで外れないだろうと高度な戦略的曖昧さと高度な柔軟性(以下略)で同様に確からしく見せようとしてます。
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