巫女戦記   作:零デイ

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3話

 ラコブス共和国軍の心臓たる参謀本部、そのビルの中、正確に言うと下層階の奥に憲兵本部がある。

 夕暮れが反射するビル街は明るいのにどことなく陰鬱だった。

 そう見えるのは単に自分が疲れているだけだろうと自覚しつつ彼が勤務する憲兵本部の一角_憲兵犯罪捜査部にたどり着く。

 

「お疲れ様」

 

「ああアズラ少佐、前線任務お疲れ様です。」

 

 帰任した足でそのまま帰任の報告に出向くと数人の事務員が作業しているだけだった。

 

「他はまだ動員に回されたまま?」

 

「こっちの処理も溜まって溜まって…いつ開放されるんでしょうね」

 

「…なるほど」

 

 北部では殆ど動員が完了しているのを実地に見てきて、動員作業が完了しつつあるなら雑務を押し付ける人手の余裕もあるだろうという机上プランは脆く崩壊した。

 

「部長は部屋にいるかい?」

 

「いや憲兵総監に呼びつけられています」

 

「ご愁傷様」

 

「あなたも戻り次第すぐに出頭するようにと」

 

 彼は無言で煙草に火をつけ一服し、総監室の方に歩きだす。

 

 憲兵総監室、全体的に薄暗い憲兵本部の中でも最も闇の深い場所、東洋的な文学表現で言うならば魑魅魍魎が湧き出るような陰翳と書くと格好いいが、文字通り日陰部署の総締めだ。

 

「アズラ・フリードマン少佐、入ります。」

 

 声をかけて入ると部屋には三人の人間がいた。。

 憲兵総監とアズラの直属の上司である犯罪捜査部部長がいるのは想定内だった。

 

「ご苦労だった少佐。早速だが報告をしてくれ」

 

 が、特技兵団司令官、すなわち共和国に存在するすべての魔導士の長がいるという戦略上奇襲をしたたかに食らった。

 

「分かっていると思うが本件は一部の閣僚、参謀総長に次長、そして実務を担当する我々憲兵のごく少数、そして彼、特技兵団司令官のみに共有される最重要機密だ」

 

 かつて大戦において魔導士は正しく伝説と化した。特に名高いのはかの戦務参謀次長、稀代の詐欺師として畏れられた恐るべきゼートゥーアの手品の種として活躍した帝国軍航空魔導士だろう。彼らの獅子奮迅の暴虐は人々の脳裏に深く刻まれた。正しく魔導士の春だった。

 大戦後すぐ冬が訪れた。

 彼らは余りにも脳裏に深く刻まれ過ぎた。

 アライアンスにおける魔導士の活躍は棚に上げて魔導士という異物への憎悪、恐怖が大手を振るい魔導士という存在は世間で忌み嫌われる事になってしまった。

 それはかつて中世に吹き荒れたという魔女裁判の再現と言うべき物だった。

 公職追放を受ける者、戦争犯罪に問われた者、軍縮に伴い失職した者、世間から迫害を受ける者、窮乏に追いやられた者、犯罪に手を染める者、ラーゲリに逆戻りした者など様々に流転した。

 敗戦国のライヒにおいては勿論、戦勝国であるアライアンス諸国においても帝国シンパという謂れもない風評を浴びた。それでも煮られた走狗ことルーシー連邦の魔導士の方が、最初の辛い十年を耐えればいいラーゲリの方が恵まれていたのか。

 陸海空の三軍にとってもかつての戦友、今の予算競合相手が世間の荒波にさらされている時に手を差し伸べるのでも吝かでなく、優しく慈悲をもって止めを刺そうとした。

 そんな世間の逆境の上、ラコブス教の教義において魔導士とはまやかしの奇跡を発現させ人々を惑わすものであり、本来ならば兵科は愚か存在さえ許容されるものではない。

 

「突然押しかけて申し訳ない。気にせず普段通りにしてくれ」

 

 そんな魔導士が今や陸空に次ぐ三軍とも揶揄される兵団(海軍の活躍らしい活躍と言えば駆逐艦をミサイル艇に撃沈された事で戦史に対艦ミサイルの価値を刻んだ事だけだった)に成長したのは一重に彼の功績と言って過言ではない。

 曰く独立戦争の時一人で戦車群を殲滅した 曰く魔力が枯渇した時に戦車大隊を敗走せしめた、曰く敵後方で魔力切れを起こし徒歩で敵勢力圏を踏破した、曰く勲章などのあらゆる名誉、報酬を贈り尽くしてしまい窮余の策として魔導士を特技兵として公認し、独立した兵科として扱うようになったなど様々な伝説を残した英雄、建国神話に登場する勇者であり、魔導士という凶暴な暴力装置達の信望を一身に集めているのが大戦型旧式宝寿を首に掛けたこの老体(外見からはとても老人には見えないが)だった。

 

__

「蹉跌は幾つかあったが大分順調に進んでいるな」

 

「二正面作戦に耐えられた国なんて歴史上存在しませんよ。今度こそ“第三神殿”とやらもお終いですよ」

 

 疲弊を見せながらも目を爛々と輝かせる参謀の言葉に返事をせず師団長は地図を凝視していた。

 

「共和国軍の空軍、魔導士の出撃回数も減少しているが転用したのか?」

 

「無線状況によると一部が引き上げているらしいです。南部の圧力が凄まじいですし転用したのでは?」

 

「南部で陣地の奪還に動いた共和国軍はまた撃退されたとか」

 

 参謀達の発言を聞いて一瞬動きを止めた彼だが、参謀達に指示を出す。

 

「仮眠をとる。30分したら起こしてくれ。司令部からの返信があればすぐに教えるように」

 

「了解しました」

 

パルミラ帝国軍の野戦軍の主力たる第三師団の指揮官を務めるラマル・アバーシュ少将は参謀に言い残して休みを取った。




中途半端ですがここで切ります。
今回の筆者は多忙にかまける反逆者でしたが次の筆者はもっと上手くやるでしょう。

(2026/5/03追記)誤字修正しました。報告頂きありがとうございました。
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