巫女戦記   作:零デイ

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四章
31話


 母親に言われて彼女は黙って家を出る身支度をする。普通、子供の将来の夢という物はスポーツ選手、作家、アイドルなど人々に夢と希望を与える存在だろう。現代日本において普通とは望む物では無く、夢破れた時の保険のようなものだ。夢破れたという詩的な言い方ではないのなら単に大人になって現実が見えるようになったというだけの事だ。

 

 訳を尋ねるでもなく言われた通り黙って準備を始める彼女の夢はごく普通に働いて結婚もして普通の幸せな生活を送るという事だった。

数日位茫然自失だった母親と一緒に住んでいた家を離れる事となった。新天地に向かうというような明るいものでは無くどちらかというと夜逃げに近いように感じた。

 

 荷物の準備が出来た後、ふと彼女は気付いて彼女は父親、正しくは父親だった人の所有品を指して訊ねようとした。が、やはり止めた。彼女が実の父親について考えた、ないしは思いやろうとした最後の事だった。

 それ以降、収監されている父親に連絡を取ることも無く、二度と会うことも無かった。

 六親和せずして孝慈有りと古の賢者が嘆くのも無理は無いだろう。彼は嘆く余裕があるだけ余程恵まれているとも言える。

 

 環境が変わったからといって必ずしも心機一転で状況が改善するというわけではない。結局は何かが根本的に間違っていたのだろう。どんな恵まれていない状況でも成功できる人間はいる。自分はそうではなかったのだろう。というより自分の代わりなんてこの世にいくらでもいるのだ。

 

 そして気が付けば。

 

「なぜこうも人の子は過ちを繰り返すのだ」

 

 コップ一杯の洗剤の喉越しを味わったかと思うと謎の存在に話され続けていた。それは老翁のような、すぐ連想したのはカウンタートラップの人か。

 また失敗したということだろうか。洗剤なら確実と思ったが、見つかって病院で医者のご厄介になってしまったのだろう。それにしても様子がおかしい。

 

「創造主の言葉をなぜそうも軽々しく扱う。貴様らはやはり信仰のかけらも無いのか」

 

 しかし彼はどう見ても医者の先生には見えないし自分も病院のベッドに寝転がっている訳では無い。夢にしてもここまで冷静に考えられている時点で夢でも無さそうだ。自分はどんな奇天烈な夢を見ても夢だと思った事は今まで一度も無く、いつも素直に順応してしまう。

 

「普通はただ輪廻に返すだけだ。預言を与えるはずが無かろう。貴様の場合は仮にも信仰に目覚めても尚自ら与えられた命を捨てるなどと愚かな事をしたからだ!エリヤもヨナも私との対話で考えを改めたというのになぜ先人に学ぼうとしない!あとそれと僅かながら縁があったからな」

 

 万に一つ創造主が現れるとしたら?まさか神が数十億人の中から自分を選んで声をかけたとでも?それとも死者一人一人に話しかけているとでも?他に神が自分に話しかけるとしたら何だ?

主が声をかけるとしたら、

 

「まさかあの不信心な、人間性を狂った輩を突き落として殺した者の娘がこうも歪むとは。だから別に貴様に何か含む物があるという訳ではない。気まぐれでしかない。聞いているのか?」

 

 それは“自分が罪を犯した”からに他ならないのでは?

 

「まあ貴様は珍しくも信仰心という物に目覚めてはいたようだ。そうでなければ多少縁がある程度では声をかけん。ただどうしようも無いほど誤った信仰心であったことが問題だ。貴様が“正しく”信仰の道を歩めるように導くべきだろう」

 

 今相対しているのが本当に主なら、さっき直視したのはやはり“死”だろうか。あれを見る羽目になって“主”から声をかけられるほどの罪という事だろう。

 

「だから貴様が与えられた命を粗末に扱った事についてはとやかく言うつもりが無いと言ったろうに…いや待て、貴様聞いているのか?」

 

 つまり罪が贖われない限り、自分は輪廻を繰り返して死を見る事になるのだろうか。

 

「待て、だからそこまでの罪とは言っていないぞ。次の生で信心深く全うすればよいと言っているではないか」

 

 次は“過ち”を絶対に犯さずに使命を果たさなければいけないのだろう。何があってもどんな手段で有ろうと確実に。

 

「…話が噛み合わぬゆえ、理解したとみなす。汝を再び地上へ送るにあたり、ちょうど同じように自ら命を絶った愚かな者がおった。その者の魂に混ざり、汝の歩みを進めるがよい。無から人を創るのは、今の世では少々…いや、色々と面倒なことになりかねんゆえ、この形が良かろう」

 

 所でそれは、その人間も空を飛べると思ってしまって飛ぼうとして失敗しているのでは?それに自分は具体的にどう生きればいいのか?

 

「自害に失敗するよう理を整えてやる。まあ“死ににくい”体にするだけだからそこまで理は歪むまい。汝が赴く国家は、不遜にも我を忘れ、世俗の力という偶像に溺れている。実に嘆かわしいことだ。ならば、一度その偶像を粉々に砕いてやろう。その後で、泣き叫んで我を呼ぶというのなら、また考えてやる。汝を遣わすのも、そのための『機会』だ」

 

 つまり、自分には“贖罪”の機会が与えられていて“信仰“を果たして”殉教“を遂げればあの死を直視せずに終わる事が出来ると?

 

「……やはり貴様、何か決定的な勘違いをしておらぬか? 我はそこまで重苦しい意味で言ったつもりはないぞ? その勘違いをこじらせる悪い癖、次の生では直したほうがよいぞ、人の子よ」

 

 そして彼女は目が覚めた。

 




一週間空いたのに短くなってすみません。
小説の存在Xもアニメの存在Xも漫画版の存在Xある意味どれも原作通りな気がして面白いでうよね。
原作より何なら威厳あるまで…おやこんな時間に誰だろう
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