巫女戦記   作:零デイ

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34話

 航空魔導師の万能さは折り紙付きだ。しかし、状況によってはそれらの長所を上回る長所がある。

 

「三食同じ携帯食料はどうにかなりませんかね…魔導師だからまだ優遇されているのは分かりますが」

 

 燃料がただの“カロリー”であるという事だ。例えば燃料の供給が絶たれたのに降伏も出来ず、ただ破滅を先延ばしにする戦争の為の戦争を戦う国家においてこれ以上の存在はあるだろうか、いや無い。

 

「…え?特にそう感じた事は無いですが…」

 

「…」

 

 絶句するライ。

 

「時間か…」

 

 寄りかかっていた家の残骸からディナは立ち上がる。ズボンの左足がしぼんで揺れるのが目に入り顔をしかめる。簡易的な義足は用意されたが飛行には足が無くても特に支障が無くむしろ重量が軽い分快適ですらあったようだ。“蛇足”とすら宣う程だ。

 

「テンプル・コントロールより大隊規模の航空魔導師が侵入。迎撃せよ」

 

「こちらルーア51。了解」

 

「敵はいつも通り遠巻きに火力戦を仕掛けてくるでしょうから敵が合流する前に食らいついて接近戦。一撃離脱を徹底してください」

 

 魔導師は万能だが、幸か不幸か現在の共和国国防軍所属の精鋭たる航空魔導師の役割は遊撃だけだ。その理由は単純明快。魔導師以外の兵科が壊滅しているのだ。

 

 戦場の女神たる砲兵は先のパルミラ侵攻作戦で投入した自走砲から重砲まで悉く敗走の際に破壊か遺棄しており僅かに移動が儘ならないほぼ固定砲台に大戦期の骨董品か残っているだけだ。要は侵攻作戦で投入を見送られた“遺物”だ。パルミラ帝国軍の攻勢を破砕するのはおろか下手に砲撃すれば対砲兵射撃で沈黙させられるので極散発的。したがって砲兵の観測任務は不可能。

 

 戦車も敗走中多数が燃料切れや損傷で破棄され辛うじて動ける物はトーチカにするか後方に退避。よって機動防御の航空支援も不要。

 

 軍の要である歩兵は敗走中に車両はほぼ喪失。更に精鋭の現役や予備役はこれまでの激戦で著しく消耗し機動力に劣る後備役の老兵や少年兵が多数混ざる現状ではまともな逆襲は困難。陣地に籠って防衛するのが精一杯。

 

 空軍も燃料不足により機能不全。敵の航空優勢に対してなすすべが無い。すなわち魔導師による近接航空支援は自殺行為に等しい。

 よって航空魔導師の任務はゲリラ的な遊撃に絞られる。

 

「敵の後続は⁉」

 

 酷使され高熱のサブマシンガンに構わず弾倉を入れ替えながらディナは問いかける。

 

「まだ距離3000です!」

 

「消耗は2機か…」

 

 呟いた彼女に管制の指示を聞いた部下が絶句して彼女に伝える。

 

「エリアに敵対地攻撃機複数が侵入、最優先の迎撃要請が来ました!」

 

「…まだ作戦可能な空軍機でもいましたか?」

 

「この空域で作戦行動を行っているのは我々魔導師だけです」

 

 ディナの言葉はバッサリと否定される。彼女のジョークはいつも通りであった。

 

「反航戦ですれ違う瞬間を狙うしかないか…私が一個小隊で対応するので残りは引き続き敵魔導師の迎撃を続行!爆撃を逸らせればいい!」

 

 レシプロ機に航空魔導師が食らいついていたのは遠い昔。音速を超えるジェット機に対して航空魔導師は交戦する所か接触すら困難だ。それどころか音速波に撫でられただけで防御膜は消し飛ぶ。防殻術式ですら魔力量が足りなければ吹き飛ばされる。逆にジェット機はその音速波に耐える設計であり、至近距離の攻撃か脆弱な箇所を狙わねば魔導師は傷すら付けられない。

 ただ、ジェット機からしても小型の航空魔導師など職掌範囲外だ。住み分けがされている。

 

「目標確認、距離3000」

 

「超長距離術式、撃て」

 

 高度2000、航空支援の態勢に入った5機の対地攻撃機の前に術式の火炎と煙幕がばらまかれる。長距離で威力も減衰し、それだけの距離を出すにも魔力を割かれる為目くらましにしかならない。冷静に爆炎の壁を突き破って攻撃を続行しようとする。それがパイロットの最後の景色となった。

 反射的に機首を引き上げた指揮官機のみ機体に貫通術式を受けるだけで済んだ。しかし僚機はいずれもコクピットに正確に穿たれ地面に墜落する。その瞬間パイロットは先ほどまで遠く離れていた筈の共和国軍の航空魔導師が顔を視認できるまでに真上に接近していた事を理解する。余りにも至近距離で防殻は音速波で吹き飛ばされ体もボロボロになりながらソレは哄笑していた。

 残る指揮官機はディナを置き去りにして攻撃を続行する。刹那の間に距離を開ける。

 ディナは血まみれのままライフルを構えて詠う。

 

「お前は剣や槍、投げ槍で私に向かってくるが、私はお前が挑戦した戦列の神、万軍の主の名によって立ち向かわん」

 

 九七式演算宝珠にありったけの魔力を投入し放たれた長距離術式は狙いを過たずジェット機のエンジンに命中し撃墜した。

 一部では航空魔導師がジェット対地攻撃機を撃墜したり、後備役の歩兵部隊が数倍の敵に追撃されながら後退に成功するなど総括して共和国軍は善戦した。

 しかし最終的に共和国国防軍の熾烈な抵抗を跳ね除けてパルミラ帝国軍がクネトラ市を奪還。

 狭隘な地形で縦深のある防衛線を構築し、対するパルミラ帝国軍が“原子力の日光”のせいで戦力の展開に制限がかけられている。それでも帝国軍は航空優勢の下じりじりと圧迫し続けた。ただ、攻めあぐねた。お互い決定打に欠ける膠着した戦況で帝国軍は要衝のクネトラ市を奪還したまま攻勢を停止する。

そして奪還されたばかりのクネトラ市で彼らは邂逅した。

 

「足労を掛けたなアズラ・フリードマン少佐。歓迎しよう。可能な限り君への便宜も図ってもいい」

 

「では将軍一つよろしいですか?」

 

「何か?」

 

「なぜ自分を指名されたのか理解出来ないのですが要件はなんでしょう?」

 

 取り付く島も無い様子の彼に肩を竦めたアバ―シュは話を切り出す。

 

「そっかー…要件だが出所不明の疫病が流行っていて、我が軍の将兵、国民、あと共和国軍の捕虜が多数罹っていてね、何か知っていることは?」

 

「はい、その件は共和国軍でも把握済みです。パルミラ帝国の少数民族が生物兵器を入手して使用していたようで案の定杜撰な管理で流出したようです。おまけに見境なく敵対的で我が軍も非常に手を焼かされました。生物兵器のサンプルも確保しており治療法もある程度研究されているので、そちらにも融通することは可能です。引き換えに4日の休戦期間を」

 

 アバ―シュから訊かれた質問に間髪入れずアズラは喋る。それはもう流暢に立て板に水とペラペラと喋る。嘘は言っていない。どうせ下手人は割れているから開き直るしかないだろう。

 攻め側と守り側だと休戦期間をより活用できるのは基本的に守り側だ。休戦期間の間に陣地の修復や新たな構築など出来るのに対して攻め側はこれといって優位を得られない。精々攻城用の塹壕を掘り、邪魔な“物体”をどかすぐらいだ。休戦期間は値切られるとアズラは考えていた。

 

「なるほど愚かな連中がいたものだな」

 

「ええ本当に困ったものです」

 

 和やかに会話は進む。二人とも談笑しつつ目は笑っていない。なぜかアズラの目に至っては死んでいるように見えるが恐らく連日の激戦での疲弊や慣れない交渉のせいだろう。

アバ―シュとしても既に地に落ちた共和国の評判が劇的に落ちる訳でもないので正直どうでもいい。自分で勝手に掘った墓穴に蹴り落とすだけだから一応地より下に落とすことも出来る。

 

「まあ“そういう事”にしてもいい。休戦期間も五日と言わず一週間でいい。あとこれは別に本題では無い戯言だから軽い気持ちで答えて欲しいのだが」

 

「小官に可能な範囲であれば」

 

 アズラの目のハイライトが更に消えたように見える。値切る所か大盤振る舞いでこれからする話題がアバ―シュの欲する情報なのだろう。彼としては断ろうにも断れない。

 

「彼女いる?」

 

「いますが…何か?」

 

 明らかに碌でも無い予感をひしひしと感じながら彼は答える。

 

「何故彼女とは親しい仲だったのに別の人と?今の共和国戦略局局長代行をしている彼女、……少佐とは付き合わなかった?」

 

 彼は内心深い溜息をつく。S.B.Fとの付き合いで面倒事以外に押し付けられなかった事が無いからもうそういうものだと割り切るしかない。

 なぜか休戦交渉の軍使として指名されたと思ったら、何時ものように気軽に電話をかけてきたS.B.Fは「ちょっとアバ―シュ将軍と交渉してきて。あっ聞かれた事は何でも答えていいよー。秘密を調べられるのは恥ずかしいけどしょうがないよね」と妄言を吐いてきた。   

 発狂にも種類があるのかと彼はどうでもいい知見を得た。

 

「彼女は…頭が良過ぎるので小官と釣り合いが取れていなかったので。端的に言うなら彼女は理解の範疇を越えている。自分が付き合える訳がないでしょう」

 

「そんな事も無いと思うが…なるほど、理解が出来ない、か。いやありがとう。有意義な会話だった」

 

 S.B.Fもこの将軍も脳を酷使し過ぎて馬鹿になったか、とアズラは内心気の毒に思った。因果な商売の職業病なのだろうか。

 

__

 

 アズラを見送ったアバ―シュは頭を振る。収穫と言えば収穫だ。存在すら覚束なかった彼女の輪郭は把握出来た。それに彼、アズラ少佐と面識を持てたのは後々役に立つはずだ。ラコブス共和国の暗部を彼ほど熟知している人間はいないだろう。されども、決定的とは程遠い。

 

「親しい人間ですら理解が及ばない、となると彼女の思考を読むのは真っ当なやり方では無理だ。まともに付き合うのが間違いという事が分かった」

 

「将軍?」

 

「なんでもない…そうだ、この共和国軍の防衛ラインは堅固で我々にはお手上げだな」

 

「はい?休戦が明け次第速やかに攻略する為の攻勢準備を行うのでは無かったのですか?」

 

 唖然とする参謀にアバ―シュは如何にも深刻そうな重々しい表情で“愚痴”を漏らす。

 

「よくよく考えたが敵の抵抗は本土に近づくにつれ苛烈を極めるだろう。根こそぎ徴兵した兵士も続々ここに送られてくるだろう。となると我が軍の犠牲も甚大なものとなり戦争継続すら危うくなりかねない」

 

「いや先ほどの会議では敵のかき集めた兵は訓練も装備も足りない烏合の衆で後方支援組織も脆弱だからまともに戦力として展開できず脅威足り得ないと仰っていましたが…それに主防衛線は突破してクネトラ市まで奪還した以上残りの予備陣地は突破する事が可能なのでは?」

 

「という訳で我が軍は一時攻勢を停止する」

 

 断言したアバ―シュに参謀は泡を食って訊ねる。

 

「しかし、プトレマイオス連邦も運河沿いに主力の残存兵力を展開させて共和国に二正面作戦を強いる事になっていたのでは?宮中からも念を押されていたのでは?」

 

「将、外に在っては、君命も受けざる所ありという言葉もある。まあ攻勢は停止するが無理せずゆるゆると陣地を攻略しよう。勝ちが決まった戦争で無理をする必要も無いだろう。私もその内後方に下がる。では寝てくるから何かあれば起こしてくれ」

 

「…」

 

 絶句する参謀に葉巻を勧めて断られたアバ―シュは一服する。その口元には笑みがこぼれていた。

 

 そしてその数時間後、運河沿いに展開していたプトレマイオス連邦軍が共和国の核攻撃で“消滅”したという知らせでアバ―シュは叩き起こされる。

 




前の筆者はクロスボーンのアニメにハマってしまい投稿が遅れる反逆者でしたが次の筆者はもっとうまくやるでしょう。
中央が放置して一部の先駆者が切り開いてほぼ手付かず、無限の可能性があるフロンティアに惹かれずにいられなかったです。
反省はしています。特に後悔はしていないです。
次回作は多分違いますが
次回投稿は6/16になります。(6/16追記)
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