巫女戦記   作:零デイ

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37話

「敵の前線の突破に成功!後方に進出成功との事です!」

 

「複数の後方拠点へのコマンド襲撃も半数近くで成功したようです」

 

「まだ敵の玄関をノックしただけだ。この程度で終わるとも思えないが…」

 

 “揺れる床の上”で彼らは呟く。

 

「この作戦はあくまで“バルバロス”の陽動だ。そして攻撃目標が攻撃目標だけに敵も反応せざるを得ない」

 

 アバ―シュ個人にとっては現状は苦痛でしかない。あとは戦争の指揮というより一切ミスが許されないだけの作業だ。敵の反撃の芽を全て潰して着々と詰ませていくだけというのに、相手は投了をせずに最後の最後まで指し続ける誰も得しない盤面。

 

__

 

 戦場では幾多の悲劇あるいは喜劇が起きる。幾つかは後世に語り継がれ幾つかは忘れ去られる。基本的には証拠やら証人が残るものであり完全に闇に葬られるのはごく少数の例外だろう。

 

「中尉!直ぐに中隊と合流して出撃するのでは!?」

 

通信にノイズが入る中、辛うじて航空魔導師への命令は拾えた。

 

「貴官は直ぐに中隊と合流して下さい。自分は後から合流します」

 

「何をされるのですか?自分も同行」

 

 尋ねられ振り向いたディナの顔を見たライは聞いた事を後悔した。彼女の形相は形容しがたい物だった。理解出来ないというより、理解しない方がいい物だろう。しかしライはどこかで見たことが有るような気もした。

 

「司令部に“用“が出来ました。ただこの通信状況では中隊と連絡が出来ないので貴官は中隊と合流して出撃させてください。自分も後から合流します」

 

「敵前逃亡になりますが…」

 

「私は命令しました」

 

「…はっ。早めに合流して下さいね。さもなくば合流する前に我々全滅しかねませんよ?」

 

 ジョークとも真剣な頼みとも取れるそれを聞いて一瞬彼女は笑って後降下していく。全速力で中隊の場所に向かいながらライは振り向く。九七式演算宝珠を起動したのかディナはあっという間に小さな点になって見えなくなった。

 

「やはり止めた方が良かったか…?」

 

 ライは自問自答するが答えは出ない。なら自分がやれる事をやるしか無いのだろう。

 戦争が終わってしばらくたった後になってようやく彼は思い出した。かつて共和国内部で蜂起した解放戦線の指揮官の一人。魔導師部隊の編成など多種多様な任務に関わっていたその人間とはライはそれなりに顔を合わす機会があった。そして最後に会った時の彼の顔はこのディナの顔とどこか似ていた。

 彼はその後、人質を皆殺しにして地獄を作り出した。その顔は目は泣いているようで口元は笑いが浮かんでいる、絶望と希望など人間の持つ感情という感情全てが崩壊してカオスに入り混じったソレだった。

 

 ディナは迷わずその場に到着した。恐らく一番乗りだろう。

 

「状況を説明願えますか!?」

 

「ディナ中尉!?」

 

 ディナが“交戦”している部隊の司令部に飛び込むと見知らぬ部隊番号にも関わらず顔が通じた。

 

「何処かで会ったことが?」

 

「この戦線でエースたる貴女を知らない人間はいませんよ。そもそも片足の魔導師は世界広しと言えど中尉だけですよ。かくいう自分もファンです」

 

 若いというか幼さの残る少尉が彼女に言う。彼女は相変わらず義足を付けず机に手を置いて支えにしていた。

初対面の人間に名前が知られていることに警戒した様子のディナだったが、そのお陰で話は早く進んだ。

 

「司令部を襲撃した第447中隊の反乱を制圧している。事は緊急を要する為貴官にも協力を要請したい。…中尉?」

 

「…」

 

 400番台の中隊は例外なくアレリア人から構成された歩兵部隊だ。ちなみにこの“鎮圧”部隊である第14大隊はラコブス人しかいない。

 

「彼らにも確認は取りましたが、司令部を排除したコマンドを排除した結果と」

 

「その証拠は?それが真実だとしても既に奴らとの交戦で戦死者も出ている。叛意は明らかだろう。今すぐ鎮圧すれば混乱が前線に広まる」

 

 弾丸の吹きすさぶ中、彼女は部隊の指揮官に訴えるが淡々と退けられる。

 誰が悪いという訳では無い。ただ巡り合わせが悪かった。もし少しでも違っていれば彼らは戦友として肩を並べて戦っていたかもしれない。

 

「…なるほど」

 

「友軍相撃は心苦しいが事ここに至れば仕方がないことだ」

 

 ディナは唐突に彼女に初めて会った日の会話を思い出した。

 

「…それは聖絶すべきものである」

 

 彼女が最後自分に投げかけた聖句はこんな状況も想定していたのだろうか。

__

 

「了解です。また何かあればお願いします」

 

 受話器を下した彼女はにこやかに言う。

 

「北部でパルミラが攻勢を始めたらしい。機甲部隊を伴った本格的な物だね。まあ多分湖を狙う…と見せかけた陽動だろう」

 

「…根拠は?」

 

「突破を果たしたとしても維持出来るだけの数が前線にはいない。それだけの数を展開すれば兆候は隠しきれないし、核の的にしかならない。核攻撃を覚悟して前線に大量展開した可能性は無い事も無いけどそこまでギャンブルをする必要は彼らには無い。よってこの攻勢の目的は共和国軍、具体的には航空魔導師当たりかな。航空魔導師がいなくなった共和国軍は歩兵だけの民兵より多少マシな武装集団でしかない」

 

「そこまで分かっていながら座視するのか」

 

「私の仕事は祖国にこの戦争を完遂させることだよ。それ以外はまあ余禄かな」

 

 投げ槍とも傲慢とも嘆きとも言えるその言い分に呆れたともアズラは言葉少なに返す。

 

「もうお前は法では裁けないだろうな」

 

「なら何が私を裁くと思う?」

 

「歴史がお前を裁くだろう。だが今は手っ取り早く終わらせる。もう貴様を止める事も今更止めても手遅れという事も分かったからせめて…」

 

 アズラは拳銃を取り出して彼女に突き付ける。

 

「友人として、今の内に楽にしてやる」

 

「ああ、なるほど彼女か」

 

 得心したようにS.B.Fは嬉しそうに言う。

 

「何の話だ?」

 

「君は法の範疇から外れる事はしない。私はもう法…いや理の外にいる外道だがそれでも以前の君なら法に基づいて裁こうとしただろう。今でもその志操自体は変わってない。なら当然一押しした人間がいて、その人間はこの世の理に盲従する気が微塵も無い。君の知り合いでそこまで壊れた人間はそこまで多くは無い…いや普通に複数人候補がいるのが怖いって」

 

「…言い残す事はそれだけか?」

 

「彼女、ディナ・へイル中尉をどう思う?」

 

「何の話だ?」

 

 茶化しを無視されて問われた彼女は笑みを引っ込めて独り言のように話し始めた。

 

「…私にはこの国で生まれ育ってから数多くの喜びと絶望を見て聞いて体験した。その絶望に比べたらただ所詮そんなもの他人と共有できるような、極々ありふれたものでしか無かった。そして最初はその絶望が何かという事すら正確に認識すら出来なかった」

 

 アズラに向けて話すでもなく話し続ける。ふとした拍子に周波数を拾って明瞭に音声を流すラジオのように。そして書類を取り出して机の上に放り出す。

 

「これが何か?」

 

 計画書のタイトルは無く、形式も公的な文書というよりレポートのそれ。ただし受領や回覧など執筆者以外の人間が読んだ形跡は無い。

 中身を確認すると、そこにはパルミラ帝国に対する全面攻勢作戦の失敗、そしてそれに伴う中立国の参戦とそれに伴う迎撃としての核攻撃、極めつけに国際的な支持を完全に喪失し完全に海上封鎖をされた時、要するに現状への対処計画が書かれていた。

 

「それを書いたのはクーデターの時だったかな…ああそう言えば彼女に初めて会った時もその時か」

 

「…」

 

「私は少し先の未来で起きうるあらゆる可能性が見える、いや見えてしまうんだ」

 

彼女は諦観したように話す。

 

「小さい頃は読み違える事の方が多かったのに歳を重ねるにつれてどんどん外れなくなって、今では外す事が稀でね。だから現実が退屈でしょうがない。傑作は何十回と繰り返し味わっても傑作だ。でも一度あらすじが分かれば飽きる作品もある」

 

「私にとって現実は一度あらすじが分かれば飽きる作品だった。先に起きる展開は予想の範疇でしか無い。ただ、君とか時に予想を越えてくるから人は面白い。そして特に彼女は、ディナ中尉の思考は人知の及ぶ範囲にはない。彼女は全てを“最終的解決”に出来るかもしれない存在…言わばデウスエクスマキナかもしれないとすら思った」

 

__

 ディナは走馬灯のようにこれまで殺めてきた人間の顔を思い出す。少将達も、遊牧民の長も、パルミラ帝国軍将兵も、爆弾を抱えた母親も、友軍の兵士も死んだのはこのような結末の為だったのだろうか。

 いや地獄の後はそれ相応の、天国のようなハッピーエンドで終わるはずだ。終わらなければいけない。

 

「主は心の砕かれた者の近くにいつくしみ、魂の悔いる者を救われる。」

 

 彼女には自分の為すべき事が分かった。なるほど他の人間一人には想像は出来ても実際には不可能だろう。戦術単位程の数がいれば可能だが、しかし人数が多いほど実行すれば情報が漏れるリスクがある。

 しかし単騎でもって強力な戦力足りうる魔導師なら。一騎当千たる魔導師なら古の猛者の真似事も不可能では無いだろう。単独でもって戦場に割って入った古の逸話も。秘密を秘密のまま闇に葬る事も。

 

「神が御心のままに創造された世界で、その偉大な御名があがめられ、聖別されますように」

 

 そして彼女は第14大隊の指揮所を出て飛び立つ。後に死体を残して。

 

「神がご自身の御国を、あなたの生涯とあなたの時代、そして全家の命のあるうちに速やかに打ち立ててくださいますように」

 

「がっ!?」

 

「なぜ我々を…!」

 

 高速で上昇した彼女は躊躇いなく真下の“第14大隊“を襲撃した。一人残らず丁寧に”戦死“にさせていく。

 

「神の偉大な御名は永遠から永遠にわたりほめたたえられますように」

 

 この状況を放置は論外。なぜならばアレリア人将兵の反乱はラコブス人誰もが恐れている事態であり、逆にアレリア人は誰もがラコブス人によって粛清されるのではないと戦々恐々としている。双方が相手を特に根拠は無くただこれまでの歴史からお互いにやりかねないと疑う相思相愛。

 放置すれば生き残りが確実に前線に友軍相撃の噂を広げるだろう。火薬庫に火を付ける所か火炎瓶を投げつけるに等しい。

 火が広がれば最後燃え残った物が燃え尽きるまで燃え続け、燃え尽きた後もなお燻り続けるだろう。

 

「祝福と賛美、栄光と賞賛、高揚と光栄、崇拝と称賛が聖なる方の御名にあるように。神はほむべきかな」

 

 しかしどちらかに肩入れするのも結果は同じ。割って入り戦闘を止める事も不可能。既に死者が出ている以上説得は通じずお互い相手を敵と確信している。そんな中に魔導師一人が割って入っても止める前に日が暮れるだろう。

 そして増援を呼べば幾ら緘口令を敷いても噂は広がりかねない。しかも指揮系統が混乱している以上徹底した統制は望めない。

 

「世界中でかつて語られたすべての祝福や賛美、称賛や慰めを超えて天からの豊かな平和と命が、私たちと御国の上にありますように」

 

 しかし直ちに戦闘を停止させて関係者全員の口を封じる為に取れる手段がある。そんな銀の弾丸を彼女は持っている、いや彼女が銀の弾丸足りうる。

 

 彼女は拡散術式を連射して第14大隊を全て皆殺しにすると彼女は魔力を籠めて空間爆撃術式の照準を司令部に合わせる。

 

「いと高き所で平和をつくられる神が、私たちと御国に平和を与えてくださいますように」

 

 放たれた術式は司令部を吹き飛ばす。彼女には“敵”を全て排除した事が分かった。

 

__

 

「デウスエクスマキナか」

 

 アズラにはどこかで聞いたような気がした。そういえば上司の大佐もそのように言っていなかったか、確か摘むべき花と。

 

「その言い方で言うならファム・ファタールの方がまだ分かるな。関わる人間皆狂うところが」

 

「この国の人間は皆素面では無いよ。最初からね。まあそれはいい。大事な事は彼女を見て私は希望を見出し、そしてこの戦争を完遂させることが私の使命だと確信した。もし主がおられる、いや違うな意思疎通可能な人格を持っているなら彼女は間違いなく主に愛されているだろうね」

 

 話終えたS.B.Fは煙草をくわえて火を付ける。

 

「まあ大体話し終えたしもういいよ。私の私物は整理しているけど残りの煙草は消費しといて」

 

「了解。じゃあさよならだ。友人としては良い思い出を持っておくから安心して」

 

 彼は撃鉄を下す。

 

「死ね」

__

 

「さて時は満ちた。この作戦はこの戦争を終わらせるものとなるだろう」

 

 アバ―シュは“船上“から将兵に放送で語り掛ける。

 

「これより“バルバロス“を発動する。諸君の奮闘に期待する」

 

 海上に大量の船からなる船団が浮かんでいた。パルミラ帝国とプトレマイオス連邦からかき集められた漁船から貴重な大型クルーズ船まで百隻を超える大船団。

 その更に別れた複数の船団が“二百キロ”以上に及ぶ“複数”の上陸地点に対して殺到し、同時に上陸作戦が開始された。




京都人にとっては先の戦は応仁の乱らしいですが奈良人にとっては何でしょうね…治承・寿永の乱か大坂夏の陣?
というか天文法華の乱とか禁門の変とかあるから応仁の乱別に先の戦やないやろって突っ込みはダメですかそうですか
ピッコマにて幼女戦記が6/30まで小説全話漫画はアニメ範囲無料なので気になる人はぜひ
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