発射サイロの襲撃と制圧はアレリア解放戦線に所属する人員、脱走兵を加え急激に膨張した彼らが実行した。
「核弾頭は全て押さえる事が出来そうか」
正規軍ではない彼らの作戦は如何に内部の情報が提供されようと実行段階で様々な摩擦は生じたが、それ以上に共和国が弱体化していた。同時襲撃の筈がタイミングがずれそれぞれの班が別々の時間に襲撃する羽目になり、しかも共和国の対処はそれ以上に後手に回った。
「数ヶ所の守備隊は直ぐに投降した模様。それぞれの場所の電源も破壊したと」
「サイロ周辺にある電線鉄塔の爆破は完了しているので通信網も遮断出来ています」
「作戦成功です」
快哉を叫ぶ解放戦線のメンバーの中で老人も喜びながら独りごちる。
「…大佐の情報によるとこれで共和国が保有する全ての核弾頭は抑えた筈だが。もし他にあったとしたら把握漏れか重度の機密か…」
老人は笑みを浮かべて言う。
「あるいは敢えて我々に黙って泳がせたか…まあその方が面白いのだが」
__
「やはり浮世というものは良く分からん」
「バルバロス」の成功後、続々と後続が揚陸されパルミラ軍は“順調”に進撃していた。
作戦行程は極めて順調、共和国軍の抵抗は苛烈なれど微弱、政治的外交的干渉も今の所目立ってはなし、共和国内部の反乱分子との協力も円滑。共和国首都を着実に締め上げつつある。
「やりやすいのは助かるが…」
共和国の入植地を歩きながらアバ―シュは嘆息する。抵抗は極めて“貧弱“なものだった。
「やはり早く終わらせるに限るか」
彼が案内されてある建物で足を止める。建物の中には一面の死体、死体、死体。死で満ちていた。子供と老人ばかりで成人の物はない。
「物流が途絶えて、かといって孤立している上に体力がある大人は根こそぎ動員され逃散する事も出来ず、更には地元の人間との“複雑”な関係もあって要塞化された入植地から離れられず、結果がこれか」
「…」
惨劇に対して感傷を抱かずにはいられないのだろうと察した副官は沈黙する。
「期待以上だな」
「はい?」
「こうも自然を味方につけた大量虐殺は歴史上にもそう無いだろう。確か南の砂漠で多数の放置された死体を発見したと報告があったな」
「はい、ただ白骨化も進んでいて身元も特定できず実行した人間も足取りが追えないとか」
「まさか実行部隊も殺したか?共和国も形振り構ってられんか」
“綺麗な”焦土戦術とでも言うべきか。ラコブス共和国全土に渡って、文明を切り捨てた結果として自然が容赦なく人間に牙を向いていた。
「で、共和国軍はどこに集結している?」
「民兵が国中で分散して配置されていますが、機動性がある部隊はある程度集結しつつあるようです。場所は…」
「首都か。さて、情報が間違っていなければ使用可能な核ミサイルは残っていない筈だが…まだ何発か残していてもおかしくはないか…」
首を振って彼はしばらく考えていたが命令を下す。
「反包囲が完了次第攻撃を始めさせろ。並行して共和国の制圧も予定通り進める」
__
「彼らは発射サイロなど重要拠点を制圧する人員を出し、こちらは情報提供、調略、武器の横流し、あとは指導者の暗殺など」
収容所に放り込まれていたアズラに彼の上司の大佐が会いに訪れた。ただし部隊を連れて“平和的”に。碌な兵力がいないその収容所はあっさり制圧された。
数週間ぶりに大佐が目にした彼はガリガリに痩せてやつれていたがそれ以上に疲れ切っていた。
「この戦争は完膚なきまで、救い様が…余り…いや殆ど無いほど無残な共和国の敗北だ。しかもラコブス人に対する世間の目は一変した」
「…“模範的”な民主国家の国民にですか?」
「人として見られなくても不思議は無いな。所業が現代人の出来る事では無い」
諦めた様に苦笑する大佐は煙草をアズラに勧めながら火をつける。
「せめて国名が“ラコブス“でさえなければ…うん大差無いな。それはともかくラコブス人が許されるには人身御供が要る。歴史上何度もスケープゴートにされたラコブス人から更に”諸悪の根源“となるスケープゴートを出す」
「具体的には?」
「世間一般から見て悪逆非道の出来事の責任者、実行役。そして彼女が主犯としてうってつけだろう。共和国を支配していた悪の一派をラコブス人とアレリア人が一致団結して打倒したというストーリーで上書きする」
笑いもせず淡々と展望を話す上司の姿にアズラは奇異な物を感じる。
「素敵な御伽噺ですね。それで、ラコブス人は責任逃れが出来るとしてアレリア人がそれを受け入れるとでも?」
「面倒な民族浄化をせずに利点を得る事が出来ると納得させられれば可能ではある。我々の普段の行いと長年培った信頼があれば難しくはないだろう」
つまり、相当に交渉で苦労しているのだろう。最強硬のタカ派と交渉が出来ているという事それ自体が偉業でもあるのだが。
「実際の所賽を投げてみないことには先がどうなるかは全くわからん。私の主張がラコブス人の総意である訳が無し、逆も然り。ラコブス人もアレリア人も血を流し過ぎたから、さらに紛争を行うだけの体力は残っては無い筈ではある」
「あと気にかかる事は人の流れの全体像を追えないということか。数が合わない。例えば南部の開拓という目的で動員したはずの労働奉仕団がごっそり消息途絶えているが何か知ってるか?」
「…彼女から概要は聞かされました。」
「取り合えず今はどんな情報でもいい」
溜息をついて彼はぽつぽつと話し始める。
「曰く…リソース配分の効率化が目的と。銃後の人的資源を無作為に“処理”しそれによって生じた余剰資源を全て前線に回し、少しでも長く戦争継続能力を維持する事を主眼とした殺戮を提案したと言っていました」
「その処理に割く人員やリソースの事を考えれば釣り合いが取れていないようだが…それに子供まで殺して戦後はどうするつもりだ」
「変換が出来ないリソース、特に水や穀物、医療資材などの資源を前線の兵士に優先して回す。要は兵士さえ数か月食わせられたらいいという想定で行っていたようです。あとは…この国に戦後は無いから考慮する必要が無いとも言っていました」
__
「…」
パルミラ軍は共和国首都を着実に締め上げていた。地域において最も発展した都市であるそこは世界で最も進んだ激戦地と化していた。
「やはり手古摺るな」
双眼鏡を片手に時間を確かめながらアバ―シュは呟く。少し離れた丘から観測出来る、砲撃と爆撃に晒され続けているその首都の外観は人工物というよりコンクリートのジャングルに見えた。
市街地戦においては航空優勢も機甲部隊も装備の質も真価を発揮出来ない。すなわち優位性が相殺され、純粋に歩兵による近接戦闘が主体。しかも建造物に潜み待ち構える民兵部隊の頑強さは野戦陣地に籠る正規軍と遜色無いものであった。
「厄介ですね。民兵風情相手に損害を出し過ぎていますが…攻撃を中止しますか?」
参謀が暗澹たる面持ちで言う。歴戦の兵士を民兵相手に消耗させるのはどう考えても割にあっていない。
「いや続行だ。待機させていた7師と24師も投入させろ。グリッド4-18-5と8-6-7に砲撃を集中。鼠を炙り出せ」
「はっ」
「そもそもこの地獄に救われたのは以前の我が方なのだから文句を言える筋合いではなかろう」
「それはそうですが…」
長躯進撃して首都で熾烈な市街地戦をしているこの状況は立場を逆転させたものと言える。決定的な違いとしては伸びきった戦列の後方を突き崩せる機甲部隊が彼らにはあったが、共和国には無い。
ただ、盤面を全て壊せる核ミサイル、バランスブレイカーというレベルではなくゲームブレイカーを共和国が握っている可能性が排除出来ない以上安心安全とは程遠い。
「さて、これで4個師団が集中している訳だが…首都に近接さえしてしまえば比較的マシか…」
共和国軍の通常兵力で警戒すべき物はほぼ存在しない。NBC兵器のいずれかを使用された場合は相応に損害が出るだろう。何せそんな対策をするだけの余裕は帝国軍にも無かった。
(ただ戦局を変えるような損害を齎すことはあるまい…問題は土地を焦土にされると後始末が面倒な事とラコブス人への憎悪が制御出来なくなる可能性があるか)
とても口に出せない碌でもない事を考えながら彼は嘆く。
「儘ならんものだな」
戦争に勝利しつつあるというのに彼らの気分は爆弾処理のソレだった。爆発するにしてもせめて被害を抑制出来れば上出来なのだろう。
__
「はいはい大人しくしててください。貴女の負傷も大概なんですから」
「…」
ディナはライを見る。彼の被弾は急所を外れてはいるので一先ずは一命を取り留めていた。彼女の部隊の内生き残れたのは僅か数人だった。突撃を敢行し、重傷を負って体中に止血帯を巻いて辛うじて銃を支えに立っている彼女は何か声にならない声を発する。
「…」
「はい?その体でまだ動く気ですか?普通なら無理ですよ?」
「…」
壊れた機械が完全に壊れきる前に奇跡的に動くことがあるが、彼女の状態はそれに近い物だった。
左目の視力は失われて久しく、欠けた左足の代わりに酷使された右足は慢性的に軋み激痛をもたらしていた。魔力を限界を越えて振り絞った結果脳の神経の一部は焼ききれ、体中の毛細血管は破裂している。心筋も一部壊死し術式を繰り返し通した筋肉の細胞は一部融解してそれも激痛を呼ぶ。
「…」
「もういないし…」
衛生兵が振り返ると既に消えていた。
__
「時間か…」
時計を確かめながらS.B.Fは呟く。彼女が手に持った発射装置はまだ生きていた。
「縫製工場」と呼称されたその場所に二発の核ミサイルが発射態勢を整えて指令を待つ。地下深くに建造された原子炉施設に設置されていた発射サイロ。何基もサイロを建造出来る予算が無いという切実な理由で頑丈に作られたその地下施設に併設されていたその切り札は解放戦線の襲撃から逃れていた。
ルーシー連邦による核攻撃で施設の機能は失われ、当然サイロも使用不可になっていた。ただし、核攻撃を受けても核攻撃を行えるように残存性を極めて高く持つよう設計されていたサイロは密かに息を吹き返した。周囲一帯は未だ核汚染で入ることが出来ず、奇跡的に回線が繋がった結果未だ彼女が使える核ミサイルが残ってしまっている。
「賭けはやりたくないけど、まあいいか。結果は同じだ」
そして二発の核ミサイルが共和国の首都に向かって投射された。
前の筆者は救国と炎上世界modにかまけて投稿が遅れに遅れた反逆者でしたが、次はもっとうまくやるでしょう。
プラン315はシェリーフェンプランの上位互換みたいな狂気だとは思いますが、実際の所全方位に対する内線戦略が成功した例があるというさらなる狂気
代表的なのはロシア内戦の赤軍で縦深が捨てる程あったりするのであんまり参考にはならないですが
兵士視点で書かれた「バルバロッサ」を読んでいると歩くだけの描写でSAN値が削れましたね
あと次回最終回です
投稿は遅れます 7月中には出せるようにします…(7/26追記)