巫女戦記   作:零デイ

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7話

 ディナが立ち去って暫く経ち、殺気立った緊張した空気は弛緩した。 

 そして遊牧民のテントでは牧歌的な、親密さを感じられる平和な話が始まった。

 

「で、水源に入れた毒はどの程度の時間で完全に回り始める?」

 

「あと2,3時間程です族長、水を飲んでそろそろ一時間程だろうから奴ら今頃寝るか体がしびれ始めてまともに動けなくなってますぜ」

 

「では武器の確認をしろ。毒が回り切ったときに襲撃をかけて連中を皆殺しにする」

 

 毒は当然遅効性、しかも煮沸させても蒸留しても除去出来ない揮発性の植物由来の猛毒である。

 

「神よ、感謝します。まさか私が生きている間に息子一家の無念を晴らすことが出来るとは」

 

「しかしラコブス軍の兵士、しかも魔導士に手を出したら奴ら怒り狂って報復しに来ませんかね」

 

 ラコブス軍を四字熟語で表すなら見敵必殺、因果応報というのはその界隈、特にその地域では常識だった。

 若者のそんな心配を族長は鼻で笑う。

 

「考えてみろ。あの腐れ十字軍共破れかぶれになってついに子供すら兵士にでっち上げ始めた。まるで“700年前の十字軍”のように。今度こそ連中もお終いだ。報復などしている余裕も無いだろうよ」

 

「ガゴギギガギギゲ」

 

「!?」

 

 唐突にテントの扉が開き、人間の声とはとても言い難い音がテントの中に響いた。

 明るい月の光が差し込む中、“ソレ”は立っていた。

 

「ガギギガガガ」

 

「全員武器を捨てろ!」

 

 相変わらず壊れかけの機械の稼働音のような耳障りな音を口から漏らすディナに続いて完全武装した148の将兵がテントになだれ込んでテントにいた者全て(老若男女に区別をつけないという“先進的”な思想による)小銃を突きつける。

 

「っ!この」

 

 重い銃声が鳴り響く。

 隠し持っていた拳銃を出そうとした若者がその瞬間頭部を撃たれ血漿と共に床に死体が転がる。

 

「アブドゥル!?」

 

「おのれ悪鬼どもが!」

 

「全員武器を捨てろ!」

 

 動揺して今にも捨て身で抵抗しようと殺気立った仲間を族長が一喝で

 

「何故毒が喰らって立っていられる?毒を何らかの方法で除去して水を飲んだとしてもなぜ貴様だけ毒を喰らった?」

 

「それを答える必要が」

 

 銃を突きつけたまま拒絶しようとした下士官をディナは制して口を開く。彼女の眼は真っ赤に充血し顔色はとても健康的とは言い難い、一番近いのは陳腐ながらやはり死体だろうか。

 

「ガガッ…ガギガヒグギヒュ…」

 

(いや分かんねえ)

 

(毒のせいで呂律が回らないのになんでこの人喋ろうとしたんだ)

 

 148の兵を含めその場にいた人間誰もがそう感じた。

 最初は水に対して普通の処理を行っただけだった。検査キットを使っても特に異常はない澄んだ水。しかも遊牧民にとっては命の次に貴重な水源の水にまさか毒を入れる訳が無いだろう、と。

 しかし隊員が飲もうとすると唐突にディナが制止した。その後徹底的に解毒術式を使用して一部の水は毒がほぼ中和され安全に飲めるようになった。

結局致命的な毒性の水を飲んだのは誰もいない。

 

「ガガッ」

 

 その水を無造作に飲んだその狂人以外を除いて。ただ結果的には士官一人重体である。非武装民間人による正規軍に対する明白な意図的かつ直接的な暴力行為が成立した。

 

「我々の要求としては毒を投げ入れる前に汲んだ水を余剰分全て供出する事と速やかにここから退去する事、以上2点です」

 

「…分かった。すぐに準備させよう」

 

「族長!?」

 

「なぜ奴らの言いなりに!?」

 

「急げ。ワシの最後の指示だ。」

 

 きっぱりとそう言って硬直したままの部族の人間達に武器を捨てさせ要求通りにするよう急き立てた。

 呆然としたまま動き出す彼らを確認した後、族長は杖を立ててふらふらと立ち上がる。今までずっと隠れていた右足の義足が露わになった。

 

「ラコブス人共…貴様らへの怨嗟はとても言い尽くせるものでは断じて無い…せめて」

 

「少尉殿!」

 

 下士官が即座に銃を構え警告を促す。

 

 その瞬間銃声が響いた。

 

 ディナと族長がお互い放った拳銃の弾丸はそれぞれ狙った相手に命中していた。

 族長の拳銃の弾丸はディナの脳天を咄嗟にに発現した防殻術式のせいで大きく斜めに逸れて彼女の口の端を抉った。

 一瞬のタイムラグのお陰で間に合った術式だったが代償もそれなりとなった。彼女の右頬はぱっくりと割れて赤黒い肉が露出する。

 

「ヒューッ…ガハッ…」

 

 一方ディナの拳銃の弾丸は族長の心臓を正確に打ち砕いた。杖を手放し崩れ落ちるように彼は倒れ伏す。

 

「足さえ地雷で…あの悪魔の花園で吹き飛ばされてなければ…」

 

 息をするだけでも刻一刻と命を削っている族長にディナはよろよろと近づく。血があふれる右頬を手で抑えながら。

 

「ハァ…ハァ…呪ってやる…貴様らの国“擬き“がまともな死に方を迎えられると思うな…忘れるな…こんな死に方ですら貴様らには有り得ない…」

 

 止まりつつある命を最大限酷使して彼は呪詛を言い続ける。テントの中が静寂に包まれ誰も身動き一つしない中、ディナは彼の傍に立って態勢を低くする。

 

「グァギギグァ、ググァギガガギッ…ギグァ、グァギゴ…グァギゴゴグァギグァゴギグァ」

 

 息が切り裂かれた頬から息が漏れる。毒のせいで呂律が回っていない上に息も漏れて人間の声とはとても理解できない声。とても聞くに耐えない耳障りな音が彼女の口から発せられる。

 多分罪を許す祈り(後で下士官が確認した時彼女はそう説明した)をした後彼女は彼の脳天に拳銃の弾丸を放った。

 




短めです。
あるネタをパク…オマージュしました。
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