巫女戦記   作:零デイ

9 / 33
9話

 北部軍による反攻作戦、「投石」が発動後、既にラコブス軍は敵を吞んでいた。勝利を確信していた。“卑劣な”奇襲や小賢しい「防空の傘」などのせいで調子が狂っただけで、本来の能力ならば相手になる訳がない。

 クネトラに一部の部隊が立て籠っているのも不愉快ではあるが、敗残兵を取りまとめてくれて追撃する手間が省けたと嘯く参謀もいた。

 

「警戒陣地、第一防衛線の制圧は完了。引き続き敵防衛線に圧迫しています」

 

「敵のレーダーサイトの破壊の進捗は?」

 

「反応は後1,2基です」

 

 が、作戦が想定通り順調に進んでおり、今陣地を蹂躙しつつあるにも関わらず北部軍司令部の雰囲気は硬かった。

 もはやプライドにかけて遅滞などの醜態は見せられないのだ。先の戦争における完勝。    

 “国家の危機”という大義の元、奇襲をしかけ、航空殲滅戦を完遂し、ラコブス共和国を包囲した敵国を悉く粉砕した勝利の立役者としてのプライドにかけて。

 

 完全勝利という最高の美酒を飲んだ後には他の酒では酔えない。

 彼らにとって勝利とはもはや許容下限、耐えうる限界だ。

 

「待機していた航空戦力、魔導部隊を前に押し出させろ」

 

「了解」

 

 上層部のストレスはどこに伝わるだろうか。曰く、水は高きより低きに流れるものだ、と言う。

 

「攻撃命令が下りました!」

 

「各自飛行準備!」

 

 魔導反応を抑えて前線の歩兵に紛れていた航空魔導士が一斉に臨戦態勢に入る。

 

「“デコイ“が予定通りに発射されました!」

 

「総員着剣!彼の他に神は無し」

 

「「彼の他に神は無し!」」

 

 口元に包帯を巻いたディナが小銃に銃剣を付ける。他の隊員達も地面に伏せながら唱和しつつ着剣する。

 

__

 

「レーダー消失!」

 

「残りは!?」

 

「一基です!しかしジャミングのせいでほぼ機能不全です!」

 

 パルミラ軍の切り札である移動式レーダーシステムの数はどうしても余り確保できていなかった。しかも虎の子であるそれらも逆探され砲撃で次々と沈黙していった。

 

「潮時か」

 

「まだ前線は持ちこたえています!」

 

「まだ決壊していないだけだ。敵の航空支援が始まればただ蹂躙される。既に十分稼いだ。予定通り撤退を始めさせろ。第一線の兵を収容しだい第二線から下がらせる。司令部も移動準備」

 

「…っ了解!」

 

「レーダーに多数感有り!捉えきれません!」

 

「報告!敵航空機と魔導戦力が侵入しました!」

 

「司令部!敵魔導士が接近!応援を!」

 

 状況は数秒毎に悪化しつつあった。まるで砂漠の天気のように。ただしこの場合晴れのち爆撃だ。

 

「やはり種が割れた手品は脆いな。こうも迅速に対応されるとは!」

 

 数日前敵に対して放った“唾”がそのまま自らに落ちてきた事をアバ―シュは苦々しげに認めざるを得なかった。

 

__

 

「対空砲火に構うな!突っ込めぇっ!」

 

 第148含め、それまで地面に張り付いていた航空魔導士達、ラコブス軍の暴力機械が出しうる最高速度で対空砲火をかいくぐる。

 

 緒戦の悪夢。共和国の安全保障の根幹と言って過言ではない航空魔導士の精鋭が炎に集まる蛾のようにあっさり壊滅したあの惨戦。その悪夢から戦訓を引きずり出して即座に対処したのは称賛されるべき練度だろう。

 

 まずレーダー網を逆探し、補足したそれらを砲撃で徹底的に叩いた。残りは徹底的なジャミングでレーダー網を麻痺状態にさせる。

航空戦力の十八番である低空飛行が大分安全にする為タンクデサントという派手なやり方で陽動も行った。

 

「何機脱落しました!?」

 

「我が部隊では二機のみです!」

 

 ディナの問いに返した下士官の横で飛んでいた“スピリット“、無人航空機に対空砲火が命中して砕け散る。

 

「やはり敵陣に投げ込むのが一番効果的でしたね!」

 

 直撃コースのロケットを防殻術式で防ぎながら下士官が笑う。その前で新兵の航空魔導士が防殻を貫かれミンチと化した。

 

 さらに突入の際は航空機、航空魔導士、さらにデコイとして魔導術式を発現させた宝珠を括り付けた無人飛行機を投入。北部軍が保有するスピリットを全て使い潰した。しかしその代わりに敵の残存レーダー、さらにあの悍ましい「防空の傘」の迎撃を飽和させる。

 

「市街地戦用意!」

 

 そして最短で敵の懐に切り込む。文字通り、だ。

 

 緒戦で甚大な損害を被った最大の要因は慢心、油断というより自信と言うべきだろう。自信は往々にして無知の別名である。

 少数精鋭を誇る軍の常として指揮官率先を美徳としていたラコブス軍。決してそれは過ちでは無いが、しかしこの戦争においては致命的な過ちだった。

 

 その代償は高く付いた。

 

「高出力術式確認!」

 

「退避ぃぃっ!」

 

 至近距離で発現した爆裂術式が陣地の一角を吹き飛ばす。

 

 清算をするべく魔導部隊は敵陣地を切り裂かんとしていた。少数の古参と多数の新米指揮官、新兵の集団。しかれどもその破壊力、抜群なり。

 上空に展開した航空機も対地支援を始める。打ちのめされた「防空の傘」はもはや十分に機能していなかった。

 動揺した前線を戦車と歩兵が蹂躙を始める。

 

「このまま司令部を目指しま…っ!」

 

 手早く対地襲撃を続けながら指示を飛ばそうとしたディナに建物の影から魔導士がライフルに装着した銃剣で突きかかる。

 銃剣を受ける事は間に合わなかったが心臓へのコースは躱して銃剣は左肩を裂いた。小さな戦闘服が鮮血に染まる。

 

「っっ!」

 

 至近距離の敵航空魔導士に短機関銃を連射して返り血を浴びながら蜂の巣にする。

 

「ルーア36、負傷!」

 

「一旦下がります!指揮権の継承を!っっ!」

 

 左肩を抑えながら下がろうとしたディナは建物から覗かせた銃口に気づく。瞬時に発現させた防殻に複数の貫通術式が命中した。何度目か数えきれない“死“の気配を感じながら走馬灯のように過去の光景がチラついた。

 

 射殺した人間の目、自爆テロで“死“が散乱する日常的な光景、核シェルター、縁も所縁も無い墓、なぜか明るかった営倉、そして自殺に成功し、失敗した日の事を。

 




シリアス回です
現代戦はアルファベットの略称多過ぎるじゃないですかね
個人的な願望ですが日ノ本言葉でも書いて欲しいです…
辛い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。