火の国を救うRTA~抜刀禁止縛りを添えて   作:あるこばれの

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住民視点1_雑貨屋の店員ベティ

私は故郷が、この火の国が、嫌いで嫌いで仕方ありません。文字通り、火山の真隣にあるこの小さな国は年がら年中、灰に覆われています。暗くて埃っぽくて、きれいな所なんて一つも無い、そんな燻んだだけの何もない場所。外に出れば服に灰が付いて気持ち悪いです。お洒落をしようにも、そんな服は一日も経てば駄目になる。女の子にとって住むには余りにも刻過ぎる環境ですよね。

 

 

 

 この国の問題はそれだけじゃありません。火山には大きくておっかないモンスターたちが棲んでいるのです。その所為でこの都が滅び掛けたことなんて一度や二度じゃありません。なんなら、年に3、4回は文字通り街が死にかけています。だから、ここの人たちはみんな、みんな暗い顔をしているし、空気も重いんです。そんな優しくないこの場所が、私は心の底から好きになれない。

 

 

 

 

 

 そんな代り映えしないこの国にも、ちょっとだけ変化があったんです。今から約2か月前、ついにこの国にもハンターズギルドの支部が出来ました。といっても、タンジアみたいな豪華絢爛な装いじゃなくて、街の集会所、もといボロ屋を間借りしただけの簡素にも程があるこじんまりとした施設だけど。私は縁あってそこの一角にある雑貨屋さんで店員として働いています。雑貨屋さんといっても、生活用品を売っている訳ではありません。ハンターさん向けのお薬や狩猟道具なんかが主なので、傍から見れば結構物騒な感じです。

 

 

 

 

 

 陰鬱としながらも恙なく働いていたある日のことでした。この都にて、ある意味有名な人物がギルドの門戸を叩いたのです。その人の名は「ほも」さん。幼少期の事故が原因で片腕が満足に動かせないのに、ハンターを目指してるかわいそうな人。街の人はそんな彼に憐憫や呆れの視線を送っています。私もその人を間近で見た事はないけど、きっとうだつの上がらない人なんだろうなと、失礼ながら思ってます。けど、彼にとって幸か不幸か、この街にギルドが出来る際の話ですが、ロックラックの本部からの支援として、地場出身ハンターの育成が打ち出されました。彼は運命の悪戯か、なぜかそのプロジェクトへの参加が許されてしまったそうです。娯楽が少ないこの街では、そういうゴシップの類はすぐに広まるんですよね。

 

 

 

 

 

 ほもさんはどういう訳か全速力で走りながら集会所に入って来ました。変わり者という噂はどうやら真実だったらしいです。周りの人たちはそんな彼を見て、ヒソヒソと何かを囁き合っています。私も、この変人の来訪が気にならない訳では無かったので、店員として平静を装いつつも、時折彼の方へ目を向けていました。

 

 

 

 

 

 彼は集会所に入るや否や、寸分の迷いもない足取りでここの長、ギルドマスターの元へ駆け寄りました。目的はハンターとしての活動を始める際に無償で貰える支度金でしょう。ここの狩り場は他の地域よりも危険が大きいからか、通常の倍の額が支給されるんです。一般人の一月の稼ぎと同等なくらいの額はあるので、それ目当てでハンター登録のみを行おうとする人もいるくらいです。酒場の人たちも、彼をその類だと思ったのか、嘲笑や侮蔑の目で彼を見ています。

 

 

 

 

 

 どうか、面倒事だけは勘弁してください、というかこっち来ないで。という祈りも虚しく、ほもさんは支度金を受け取ると、先程と同じような足取りでこの雑貨屋へと歩を進めてきました。私は内心では、面倒事は嫌だなぁと辟易しながらも、店員としての顔を取り繕いました。

 

 

 

 

 

 「いらっしゃいませ!お探しの品は何でしょうか?」

 

 

 

 

 

 私は努めて明るい声を出したつもり。大丈夫、ちゃんと口角は上がってる、大丈夫。親に怒れらた時の様に、私は内心を悟られまいと年甲斐もない思考を巡らせていました。そんな子供じみた発想になる程、彼の眼は怖かったんです。その視線や佇まいは私の想像していた冴えない愚男のそれでは決してありませんでした。一言で表すなら、そう、歴戦の戦士。そんな感想が浮かぶほど、彼の眼はどこか機械的で冷たく恐ろしい物でした。見ただけで幾度もの死線を想起させる、何とも形容し難い凄みは、私を小人にしちゃいました。彼の装備は最初に支給されるレザーの一式にハンターナイフ。でも、それが私の目にはとてもミスマッチに映ってしまいました。装備に着られてるという表現はよくありますが、彼の場合はその真逆なんです。装備が彼の醸し出す雰囲気に追い付いていないというべきでしょうか。

 

 

 

 

 

 「この最上級のピッケルと虫あみをそれぞれ一つずつ。あと、小タル爆弾を一つ頂きたい。これで丁度、3000 zだろう。」

 

 

 

 

 

 まるで新人とは思えない、何か大きな自信に裏打ちされたかのような、一切のよどみが無い注文に圧倒されてしまいます。本来であれば、新人には薬草やクーラードリンクなど狩り場で必須になる物を優先的に進めるのが私たちの仕事です。勿論ピッケルなんかも重要ですが、そこで背伸びしなくてもいいと思います。むしろ、ボロピッケルで節約しつつ、回復に当てて生存率を高めるという方向性の方がギルドからは推奨されています。それは頭では分かっているのに、私はいつも発しているその言葉が口から出て来ませんでした。

 

 

 

 

 

 「は、はいっ。ぴ、ピッケルG2がお一つに、虫あみG2がお一つ、しょ、小タル爆弾がお一つですね。さ、3000 Z丁度でお預かりしますね。」

 

 

 

 

 

 雰囲気に気圧された所為か、自然と声が上ずってしまいました。そんな私を怪訝に思ったのか、彼はじーっと私の方を見つめています。なんだか気まずいな。それで私は余計に慌ててしまいました。

 

 

 

 

 

 「失礼、他意はなかったんだ。不快にしてしまったのなら謝罪しよう。」

 

 

 

 

 

 「い、いえいえ!こちらこそすいません。お気になさらず!よきハンターライフを送れるよう祈ってます!」

 

 

 

 

 

 ああ、やっちゃった。クレーム入れられたらどうしよう。私が消沈していると、彼は先程とは打って変わって、まるで小動物を見るかのような優しい微笑みを携えていました。なんだか胸のつかえが取れたような気がして、一気に疲れが押し寄せてきます。彼はそんな私の様子を見て、名残惜しそうにこちらを見つめてきます。案外、良い人なのかも。それも束の間、ほもさんは何かを決心したかのようにすぐにクエストカウンターの方へと去って行きました。なんだか嵐のような人でしたね。

 

 

 

 

 

 しまった。今思えば、せめてクーラードリンクは勧めておくべきでした。支給品があるとはいえ、多く持ち込んだ方が生還率は上がるに決まっています。というか、新人は採取クエストに行くのに小タル爆弾なんて本当に必要なのかな?考えれば考える程、彼の選出の意図が分からなくなります。やっぱり今からでも止めるべきかな。そう思って動こうとしても、最初の彼の眼が脳裏にチラついてしまいます。それはまるで何も聞かないでくれと言外に言っている様で、ついぞ私には踏み込めませんでした。そんなこんなしている内に、次のお客さんはやってきます。

 

 

 

 

 

 どうにか気持ちを切り替えようとするものの、時折なぜか彼の事が頭に浮かんでしまいます。何て言うか、ほっとけないっていう気持ちが沸々と湧き上がってくるんです。クエストカウンターの方を見やると、彼は採取ツアーの依頼を持っているのが見えました。それなら恐らく文無しの彼でも契約金を支払うことなく、狩り場に赴けます。代わりに報酬も子供のお小遣い程度にしかありませんが。要は、ギルドが用意した、資金繰りに悩むルーキーへの救済措置です。無事に見つけらえたようで、私は一安心です。良かった。幸い、あの火山なら適当に石を掘っているだけでもそれなりの稼ぎにはなります。それは当然、生きて帰れたらの話ですが。

 

 

 

 

 

 出発口を背にした人が必ず戻って来るとは限りません。ここは火の国、モンスターの足音が絶えない人類の最前線ともいえる過酷な地。私もこの雑貨屋での勤務はまだそう長くはないですが、幾人もの狩人を見送ってきました。そして、その殆どは非業の帰還を遂げています。今でもその人たちの顔は、はっきりと覚えています。思い出すと胸が締め付けられます。私自身の無力さと、この国の無力さ、そしてこの世の不条理の全てを見せつけられている様な気がして。私には願う事しか出来いんです。目の前の人たちが無事に帰って来ますようにと。

 

 

 

 

 

 彼が出発してから私はどうにも落ち着けませんでした。先程現れた新人ハンターのほもさん、彼からは相反する二つのものを感じました。どんな依頼でも達成してしまいそうな全能感と、今にも消えてなくなってしまいそうな儚さ。その二つが私の内に貼り付いて剥がれないんです。理由は分からないけど、なんとなく彼から目を離してはいけないような、彼との関りを絶ってはならない様な気がして。

 

 

 

 

 

 それから、幾刻かの時間の後、彼は何事もなく戻ってきました。私は内心、荷が下りかような安堵感を覚えました。それと同時に彼は一目散にこちらへ向かってきます。

 

 

 

 

 

 「え、えっと、初めてのクエストクリアおめでとうございます。」

 

 

 

 

 

 「ありがとう。ところで、採取した物を売る場合、どうすればいい?」

 

 

 

 

 

 「そ、それならここでも出来ますけど、今日から3日後に有名な行商の方が火の国に来られるので、その時に売却されるのはいかがでしょうか?その方が、た、高い価格で買い取ってもらえると思いますし。あ、あと、素材なら溜めておかれるというのも一つの手段ですね。装備の強化で急に入用になることもあるので。」

 

 

 

 

 

 彼は、「有益な情報をありがとう。」と言うと、そそくさとクエストカウンターへ赴き、また同じクエストを受注しました。後になってから気付いたけど、ほもさんから硝煙の臭いがしたました。私も曲りなりに”そういう”商品を扱っているから分かるんです。あれは間違いなく火薬の臭いでした。それも高濃度の。まるで自分のすぐ横で爆発したかのような。それに、よく見たら彼のレザー装備の正面には焼けた様な痕が付いていた気がします。私はほんの少しだけ、嫌な予感がしました。どうか無茶だけはしないでくださいと、私には願うことしか出来ません。

 

 

 

 

 

 それから3日が経って、行商人のおばあちゃんが来る日になりました。彼女は世界的に名の知れた商人なようで、珍しい物やハイカラな物を沢山扱っています。火山で採れる鉱石やモンスターの素材は都会では高級品で、需要も高いそうです。だから、こんな僻地にまで足を運んでくれます。定期的に訪れたその日には、彼女と取引を行おうと長蛇の人だかりができます。その日ばかりは色の無いこの街にも僅かな活気が生まれす。この日に関しては私の雑貨屋も臨時休業し、集会所内での整列や取引の補助などの業務に追われます。私も今日はおばあちゃんの側について、記録の手伝いを行います。

 

 

 

 

 

 人だかりの先頭にはほもさんがいます。大袋を抱えていおり、この三日間で相当頑張ったことが伺えます。彼は私の姿を見ると、軽く会釈してくれました。生きていてくれて本当に良かった。そう思えるほどにこの国での3日という時間は長いんです。

 

 

 

 

 

 「”拾い物”で恐縮なのだが、買い取って頂けないだろうか。」

 

 

 

 

 

 彼はそう言うと、袋の中から茶色に輝く鉱石を取り出します。その瞬間、後ろに並んだ人たちから次々に驚きの声が上がり、ちょっとした熱気に包まれました。

 

 

 

 

 

 「おい、あれってよ、溶岩塊だろ?なんだってあんな新人が?」

 

 

 

 

 

 「大方、ウラガンキンの通り道に偶然落ちてたやつを拾ったんだろう。いわゆるビギナーズラックってやつだろうね。」

 

 

 

 

 

 「にしちゃ、結構質がよくねぇかぁ?」

 

 

 

 

 

 そんな声を物ともせず、彼は取引を続けます。騒ぎを気にかけてか、ギルドマスターがいつもの定位置から眉間を上げ、睨みつける様にこちらを見ています。あんな露骨な表情を見たのは初めてです。私の周りの気温は一足飛びに下がっていくのを感じます。周りの人たちも急に黙ってしまいました。もしかしなくても、マズい状況だったりする?内心大慌てする私を余所に、彼はギルドマスターを一瞥しただけで、何事も無かったかのように商談を続けています。その肝の太さが今は羨ましい。おばあちゃんも場の雰囲気を意に介することなく紙に小さく数字を書き留め、他の人から見えない様に彼にだけ見せていました。

 

 

 

 

 

 「これでどうだい?かなり良質だから色付けといたよ。アンタ、中々見込みあるよ。」

 

 

 

 

 

 「ありがとう。これを元手に幾らか買い物がしたい。スリンガーが欲しいのだが。」

 

 

 

 

 

 彼の言葉を受けて、おばあちゃんは背中の大きな背嚢を降ろし、慣れた手付きで小さな弩を取り出しました。その瞬間、周りの野次馬、特に男性陣からワッと歓声が上がりました。どうやら琴線に触れる程すごい代物みたいですね。

 

 

 

 

 

 「おー、あれが噂の。」、「何だありゃ?あんなちっこいのなんて撃っても大したダメージにはならないだろ。」、「知らねえのか?ありゃスリンガーっつって、遠く新大陸のエリート様たちが開発された代物だぜ。なにやら都会の方では流行ってるらしい。」、「都会の人間の趣向はわからんもんだねぇ。」

 

 

 

 

 

 確かに、そのスリンガーなる物は洗練されたデザインで、いかにも男性が好みそうに見えます。ただ、私もこれにお金を使うよりも強い武器を用意する方が良いように思えてなりません。大陸中の頭が良い人が考えた物ですから、私たちの知らない何かすごい使い道でもあるのでしょうか?しかし、ほもさんはそんな声など歯牙にもかけていない様子です。まるで我こそが最大の理解者であると言わんばかりの、揺るぎない態度。私はそんな彼を尊重しようと思いました。

 

 

 

 

 

 「旧型の方は無いのか?」

 

 

 

 

 

 「あるけど、新しい方が使い勝手はいいよ。ちょいと値は張るが、命を預ける道具さね。蔑ろにしちゃいかんよ。」

 

 

 

 

 

 彼の言う旧型というのが何かは分かりませんが、おばあちゃんの言う事は尤もです。道具を軽んじた人たちは長生きできませんでしたから。私も一言助言しようと、口を開こうとした時、ほもさんは静かに語り始めました。

 

 

 

 

 

 「それなら尚のこと、旧型を所望したい。私は生まれてこのかた、片手にあまり力が入らなくてね。武器くらいの重い物が持てないんだ。周りからはその身体ではハンターにはなれないと言われ続けてきた。それでも、それでもだ!私には夢がある!成し遂げなければならない悲願がある!しかし、モンスターは待ってはくれない。武器が使えないからには、その他の部分で全力を尽くす必要があるのです!だからこそ、考え抜いた結果の選択なのです。だからどうか、売ってはくれないだろうか。」

 

 

 

 

 

 彼の言葉は段々とグラデーションのように熱を帯びていきました。その一つ一つから確固とした信念が伝わります。それは信じられない程に熱くて真っすぐで、でもその裏にはほんの少しだけ最初に見た機械的な冷たさも感じ取れました。きっと彼の思いは本物なんだと思います。そうでなきゃ、周囲からあんなに詰られてまで、自身の夢を追おうとは考えられないでしょう。彼の言葉に私の胸の内がこれまでにない程に、熱く照らされているのを感じます。

 

 

 

 

 

 「そうかい。そこまで言うならわかった。売るよ。あたしゃ色んな狩人を見てきたが、アンタは大成するよ。そんな眼をしとる。まあ、このスリンガーは中央では型落ち品でね、最近は売れなくて困ってたんだ。安くしとくよ。」

 

 

 

 

 

 「感謝します。」

 

 

 

 

 

 それからも、彼は粛々と注文を行っています。爆薬に、カクサンデメキン、光蟲に雷光虫、トラップツールに、私でも知っているようなオーソドックスな狩猟道具を目いっぱい買い込んでいます。本当に迷いが無い。まるで、勝手知ったる反復作業の様に、一切の間を置かない。そして、購入品のどれもが大型モンスターとの戦いを想定した物ばかりだったのに気付きました。新人の彼にはまだ少し早いと言わざるを得ない品々の数々。

 

 

 

 

 

 その山を見て私は少しだけ、彼の事が理解できた気がしました。きっと彼は未来を見つめているんだ。叶う保証は何処にもない。それでも自分の信念を持ち続ける彼は、今の私にとってはこの街に似合わないほど眩しかったのです。それと同時に、彼の持つ得体の知れない静けさに心地良さを感じる自分がいました。だからこそ、これからも彼の様なハンターさんたちが帰るこの場所を、守りたいと思わずにはいられませんでした。

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