ミレニアムの秘密の研究室   作:まったり愛好家

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小説って書いてるとキャラが予想外の挙動したりするのでなかなかむずいですね。


第一話 入学初日!憧れのミレニアム

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。」

 

その言葉が、体育館の天井に高く響き渡った。

柔らかく、澄んだ声。それは空気を震わせ、春の光を帯びて広がり、聞いた瞬間に胸の奥の不安をすっと撫でていくような、不思議な温度を持っていた。

 

声の主――早瀬ユウカ先輩が壇上でマイクを握っていた。

 

春の陽光がユウカ先輩の落ち着いた佇まいを淡く照らし、その眼鏡のレンズが控えめにきらりと反射する。背筋をすっと伸ばした姿は、清潔感と知性を象徴しているみたいで、初対面でも「この人は信頼できる」と思わせる説得力があった。

 

入学前の説明会で“ミレニアム随一の天才数学者”なんて噂を耳にしていたけれど、実物の持つ気品と余裕は、それを軽々と超えていた。 その場に立っているだけで、周囲の空気が整えられていくような、不思議な存在感。

 

「私は、セミナー会長の調月リオに代わり、本日の式典で挨拶を務めさせていただく、セミナー会計の早瀬ユウカです。今日から皆さんは、この学校の一員として新たな一歩を踏み出します。」

 

ざわついていた新入生たちは、ユウカ先輩の声が発せられるたびに静まり返り、体育館に淡い緊張が張っていく。私も椅子に座りながら、自然と姿勢を正していた。その声には、背筋を伸ばさずにはいられない“柔らかな威厳”があった。

 

「期待と同じくらい、不安を抱えている人もいるかもしれません。ですが、この学校には、皆さんを支えてくれる仲間、そして挑戦できる環境が整っています。どうか恐れず、一つひとつの経験を大切にしていってください。」

 

その言葉がまっすぐ胸に届いた瞬間、肩から力が抜けたような気がした。

 

“挑戦できる環境”。“恐れなくていい”。“仲間がいる”。

 

それらの言葉は、まだ何者でもない新入生の私にとって、どこか救いのように感じられた。

 

ふと壇上の後ろに目を向けると、薄い影のように静かに立つ女子生徒の姿があった。生塩ノア先輩――セミナー書記であり、完全記憶能力という異能を持つ人物。その存在は、動かず、語らず、しかし圧倒的な静寂を纏っている。

 

ユウカ先輩の柔らかさに対して、ノア先輩は研ぎ澄まされた無音の刃のようで、まるで“知の守護者”のような佇まいだった。

 

壇上で光と影のように対照的な二人。その光景は、この学園がただの学校ではない、特別な場所であることを改めて感じさせた。

 

「私たちセミナーも、皆さんが安心して楽しい学校生活を送れるよう全力でサポートしていきます。困ったことがあれば、気軽に声をかけてください。」

 

──気軽に声をかけてください。

 

その一言で、胸の奥に渦巻いていた霧が、少しだけ晴れた。それほど大げさな言葉ではないのに、ユウカ先輩が言うと、不思議と「本当に大丈夫なんだ」と思えてしまう。

 

 

式が終わると同時に、体育館は一気にざわめきで満たされた。折りたたみ椅子の足が床をこする音、友人同士が再会して笑いあう声、教師が生徒を誘導する声。そのどれもが、ついさっきまで静まり返っていた空間に生命を吹き込んでいく。

 

私は立ち上がり、伸びをしながら深く息を吸い込んだ。張りついていた緊張がふっと解け、春の空気が肺に入り込んでくる。

 

体育館を後にして歩き出すと、廊下は春の陽光に満ちていた。ガラス窓に反射する光の粒子がきらきらと揺れ、壁に描かれたサイバーな装飾が反射光で踊るように見える。

 

このミレニアムは、どこを歩いても毎秒未来感を押し付けてくるような校舎で、見ているだけで胸が高鳴る。

 

――挑戦していい。

――仲間がいる。

 

その言葉が、何度も頭の中で反芻される。

期待と不安が入り混じる胸の内に、うっすらとした明るい灯りがともり始めていた。

 

知らない場所。知らない人たち。知らない未来。

 

それでも、歩みが止まらないのは、ユウカ先輩の言葉があったからだ。

 

 

校内案内のために移動していると、廊下の一角で生徒会メンバーが誘導をしていた。その中心に――淡いブルーの髪が見える。

 

早瀬ユウカ先輩だ。

 

周囲の新入生にいくつも声をかけられているのに、先輩は一人ひとりと丁寧に向き合っていた。質問攻めにしている新入生にも、不安で泣きそうになっている子にも、同じように柔らかい表情で応じている。

 

壇上の凛々しい姿とはまた違う、親しみやすい一面がそこにあった。

 

その姿を見ているうちに――胸の奥に小さな決意の火が灯る。

 

――いま言わないと。

――ここで挑まないと、きっと後悔する。

 

勇気を搾り取るように息を吸い込み、強く踏み出した。

 

「……あの、会計、少し、お時間いいですか?」

 

自分でもびっくりするほど大きな声が出た。周囲の新入生がこちらを振り向く中、ユウカ先輩はすぐに視線を向け、柔らかく微笑んだ。

 

「新入生?どうしたの?」

 

その声は、緊張の糸をほぐすように優しくて。だからこそ、逆に胸がきゅっと締めつけられる。

 

でも、言わなければ。

 

「わ、私……この学校で“神秘研究会”を立ち上げたいんです。まだ企画書もないし、メンバーもいないんですけど……どうしても、やってみたくて……」

 

先輩の目が驚いたように丸くなる。けれど否定ではなく、小さな驚きのあとに“興味”の色が浮かんだ。

 

「神秘研究会……? 新入生でいきなり部活を作るっていうのは珍しいわね。でも、あなたの気持ちはよく伝わってきたわ。どんな研究をしたいのか、詳しく聞かせてくれる?」

 

ああ、よかった。

否定されなかった。

 

そこから私は、胸に溜め込んでいた想いを一気に口にした。

 

キヴォトスの生徒の異常な身体能力。撃ち手で威力が変動する銃弾。ヘイローの構造。ゲヘナのツノやトリニティの羽の特殊性。生徒の頑丈さのメカニズム。

 

「これらを解明できれば……医療、戦闘、安全性、あらゆる分野で進歩があると思います!」

 

早口になりながらも、必死に言葉を紡いだ。気づけば呼吸が荒くなっていた。

 

それでもユウカ先輩は、途中で遮らなかった。むしろじっと、興味深そうに私の目を見て聞いてくれていた。

 

「……熱意は十分伝わったわ。本当にやりたいんだってこともね。ただ、部活を作るには人数が足りないの。」

 

その言葉が胸に刺さる。でも、それは当然のことだった。

 

「でも、同好会なら……?」

 

「ええ。同好会なら、私たちセミナーの認可は必要ないわ。まずはそこから始めてみたらどう? 人数が増えれば、部活への昇格も夢じゃないわ。」

 

 希望の光が見えた。

 

 部活じゃなくてもいい。

 最初は小さくてもいい。

 “形”になって前に進めるなら、それで十分だった。

 

 「では、同好会の活動場所は……?」

 

 「あるにはあるんだけど……」

 

 ユウカ先輩は眉を寄せた。

 

 「今すぐ使える教室は地下しか残っていないの。上階にも空きはあるけど、使用料が高くて普通の同好会にはおすすめできないわ。」

 

 地下。

 研究らしくていいじゃないか。

 そう思ったところに、先輩は重ねるように顔をしかめた。

 

 「そしてもう一つ問題があるの。……その地下室、すっごく広いのよ。もともと学園がまだ小さかった頃に作られた戦闘訓練場でね。広いけどアクセスが悪すぎて、誰も使わなくなっちゃったの。」

 

 戦闘訓練場!?

 それはつまり、頑丈で、広くて、多少の爆発が起きても平気……?

 

 研究には最高じゃないか。

 

 しかし先輩は真顔で続ける。

 

 「でもね、本当にアクセスが悪いの。ミレニアムの敷地西端の売店からさらに西へ進んだところにある階段を降りて……そこから150メートルくらい下なの。階段で。」

 

 …………150メートル。

 

 階段。

 

 荷物運びで足が終わるやつだ。

 

 確かに誰も使わないはずだ。

 

 でも――。

 

 誰にも邪魔されない。

 広い。

 自由に使える。

 そして、もともと訓練場なら、多少の“実験”にも耐えられる。

 

 むしろ最高だ。

 

 「分かりました。私そこに決めます。」

 

 「ええ!?ほんとに?立地最悪なのよ?中心からも遠いし、毎回階段で……」

 

 「はい! それでもお願いします!」

 

 ユウカ先輩は呆れたように笑い、そして最後には嬉しそうに微笑んだ。

 

 「……やっぱり面白い新入生ね。がんばってね。」

 

 その一言が、胸の奥で金色に光った。

 

 

 こうして私は――

 ミレニアムの誰も使っていない“最悪の立地”にして、“最高の自由度”を持つ地下研究所を手に入れた。

 

 150メートルの階段の先。

 誰も足を踏み入れない巨大な地下空間。

 旧戦闘訓練場。

 

 これからの挑戦は、そこから始まる。

 

 胸を満たす不安も期待も、全部まとめて抱えながら――

 私は、ゆっくりと、けれど確かに新しい世界へ歩き出したのだった。

 




書き忘れてましたが主人公の名前は 真田利コハク (またりこはく)です。
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