ミレニアムの秘密の研究室   作:まったり愛好家

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もうすぐ期末ですので投稿頻度が落ちるかもしれません。ご了承ください。ー


第十二話 悲報:部屋、壊れる

ゲーム開発部を後にした私は、手の感覚の鈍さに気づき、指を軽く揉んだ。普段からゲームを長時間することは珍しくないが、あれほど集中し、なおかつ緊張感のある対戦を何度も繰り返したのは久しぶりだった。指先に微かに残る痛みは、格闘ゲームに注いだ時間と情熱の証であり、同時に達成感の余韻を指先で感じる不思議な感覚でもあった。

 

廊下を歩きながら、自然と口元に笑みが浮かぶ。あの戦いの一瞬一瞬――意図的にコンボを外すブラフ、相手の無敵技を逆手に取った必殺技、そしてユズの驚きの表情――それらすべてが鮮明に脳裏に焼きついている。胸の奥から湧き上がる高揚感は、単なる勝ち負けでは味わえない種類のものだった。

 

「……すごかったな」

 

思わず小さく呟き、自分の言葉に微笑む。あの散らかった部室の光景が頭に浮かぶ。床に転がる原画や設定集、雑然と置かれたゲームパッケージ、お菓子の袋やゴミ――誰も気にせず放置されているその空間の中で、ただひとり、ユズだけが完全に自分のリズムで世界を支配していた。その存在感は圧倒的で、見る者に畏敬と興奮を同時に与えるものだった。

 

そして思い返すと、ミドリやモモイの存在もまた鮮やかだった。二人の小柄な姿は、私に奇妙な感覚を与える。守りたい、保護したいという衝動――それは戦闘やゲームの興奮とは全く異なる熱であり、心の奥底から沸き上がる感情だった。手を握られたときの心臓の高鳴り、体温の上昇、そして思わず抱きつきそうになった自分――私は、自分の感情を整理できずにいた。

 

「……私は、ロリコンなのか……?」

 

問いかけても答えは出ない。ただ、あの小柄な人たちに対する庇護欲や微妙な高揚感は確かに存在している。理性では理解できる。だが、理屈で説明できない感覚が身体を支配していたのだ。

 

今日は色々な部活を回って疲れ切った。そんなことを考えながら、私は帰りの電車に揺られていた。空は既に夕暮れ時で、太陽が地平線に沈みかけ、まるで燃え盛る炎のように赤く染まっている。窓の外の景色をぼんやりと眺めながら、私は今日の出来事を反芻していた。

 

ふと、視線を下ろすと、向かいの席に座る女の子が目に入った。アビドス高校の制服を着ている。同じ電車に乗っているということは――きっと連邦生徒会に何か用事があったのだろうか。

 

その子の表情は暗く沈み、視線は下を向いたまま。何か嫌なことでもあったらしい。確かアビドスはかなりの借金を抱えている学校だ。もしかしたら、今日もその関係のことで気が重くなっていたのかもしれない。

 

「……何ジロジロ見てんのよ」

 

その声にハッとして、私は目線を逸らす。やはり、気づかれていたのか。あれだけじっと見つめていれば、気づくのも無理はない。

 

「いや、何か浮かない顔をしていたので、ちょっと気になりまして……何かあったのかな、と思っただけです」

 

「……あんたには関係ないでしょ。ほっといてよ」

 

明らかにイライラしている。何か上手くいかないことがあったのだろう。私はそっと息をつき、肩の力を抜いた。

 

「まあ……そうですね。すみませんでした」

 

素直に謝ると、彼女も小さく息をつき、少しだけ表情を和らげた。

 

「あ……うん。こっちこそ、ごめんね。当たっちゃって」

 

しばしの沈黙が流れる。電車のリズムだけが、窓の外の景色と共に静かに時間を刻んでいた。

 

「うちの学校ね、借金があるの」

 

その言葉に私は顔を向ける。やはり借金関係だったか。

 

「借金?」

 

「うん。自治区が砂嵐に襲われて、それを復興するためにお金を借りたの。最初は返せるくらいの額だったんだけど、砂嵐が何度も襲ってきて……お金を返すどころじゃなくなっちゃったんだ」

 

「それは……お気の毒に……」

 

「それはまだなんとかなるからいいんだけど、お金がないせいで物資も揃わなくて。だから、連邦生徒会に物資の申請を出してるんだけど、なかなか通らなくて……今日、直接行ってみたの」

 

「それでも……うまくいかなかったんですね」

 

「うん……先輩たちはどうせ無駄だって言ってたけど、私我慢できなくて……」

 

「……あの、気を落とさないでください。今は新学期が始まったばかりで、連邦生徒会も慌ただしいのかもしれませんが、もう少しすればきっと申請も通りますよ」

 

彼女の瞳が少しだけ輝きを取り戻す。私の言葉で元気づけられたのか、肩の力が少し緩んだようだ。

 

「あ……ありがとう。関係ないのに、話も聞いてくれて、元気づけてもらえるなんて思わなかった」

 

「いいえ。こういうのは助け合いですから」

 

その後、私たちはしばらく世間話を交わした。学校の話や、日常の小さな出来事のこと――気まずさや緊張が徐々にほぐれていく。やがて、彼女は次の駅で電車を降りていった。

 

一日一善――そう思い、少しだけ胸が軽くなる。今日の自分へのささやかなご褒美として、黒服さんの分も含め、スイーツを少し多めに買って帰ることにした。指先に残る疲労と、胸に残る高揚感。今日一日の出来事は、思い返すだけで満たされた気持ちにしてくれるものだった。

 

ーーーー

 

 

家に帰ると、目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。床と壁には大きな穴が空き、オフィスのように整えられていた部屋は、まるで強盗でも入ったかのように荒れていた。散乱する書類、壁に刻まれた衝撃の跡、天井から垂れ下がる照明。日常の静けさは微塵も残っていない。

 

その中で、唯一傷ひとつついていない机の前に黒服さんが座り、本を読み進めていた。その落ち着きように、部屋の混乱が余計に際立つ。私は息を飲みながら、まず理由を尋ねずにはいられなかった。

 

「なんでこんなことに……一体何があったんですか、黒服さん」

 

黒服さんは冷静に答えた。

 

「まあ……簡潔にいうと小鳥遊ホシノが激昂しまして……私を撃たなかったあたりまだ理性はあったのでしょうが。それで床と壁を打ちましてね。特に自分のことも話さず帰ってしまいました」

 

部屋の荒れ具合から、彼女の怒りがどれほど激しかったかが伝わってくる。思わず顔をしかめた。

 

「うわ……怒ってるとは思ってたけど、そこまでだったんですか……小鳥遊ホシノに何をしたんです」

 

黒服さんは淡々と説明する。

 

「少し契約を持ちかけているだけですよ。彼女の身柄をこちらに譲渡する代わりに、アビドスの借金を肩代わりする。それだけです」

 

私は眉をひそめた。

 

「なるほど……でもアビドスの借金って、カイザーローンですよね?あなた、カイザーと契約してるんだから、それってマッチポンプじゃ……」

 

黒服さんは軽く笑った。

 

「クックック、言ったでしょう?私は悪い大人だと」

 

私も思わず笑い返す。

 

「クックック、お主も悪よのう」

 

「貴方、たまに変なテンションになりますね」

 

「通じてない……ですと……これがゼネレーションギャップか」

 

笑いの合間にも、荒れた部屋の緊張はまだ残っている。しかし、日常に戻る瞬間はすぐにやってきた。

 

「まあそれはいいです。それよりも、約束のもの、買ってきてもらえましたか?」

 

「もちろんです。今回はチーズケーキとアーモンドタルトを用意しました」

 

黒服さんは満足げに頷く。

 

「ふむ……いいチョイスですね。場合によってはワインを開けても良いかもしれませんね」

 

「いいな〜。私はまだ未成年なので、コーヒー牛乳をいただきますね」

 

「そういうこと、気にするんですね、貴方も」

 

「キヴォトスって、治安はめちゃくちゃでも、こういうところは厳しいんすよ。未成年飲酒は即退学ですし」

 

「はあ……まあ、治安が不安定な方が、個人的には助かるんですけどね」

 

その時、風呂の方からアラームが鳴る。

 

「お風呂が空いたみたいですね。先に入ってきます。コンタクトはここに置いておきます」

 

「わかりました」

 

風呂から上がった後は、各々夕食を済ませ、買ってきたスイーツを楽しむ。チーズケーキのしっとりとした甘さ、アーモンドタルトの香ばしさが、荒れた部屋の印象を少し和らげる。こうして、長くも不思議な一日は、静かに終わっていった。

 




私の小説って一話が短いんですよね…他の人は5000文字くらいが当たり前なのに…みんなすごい
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