ミレニアムの秘密の研究室   作:まったり愛好家

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第二話 研究所整備及び金策

 早瀬会計に諸々の確認を取ってもらった結果、思いも寄らない展開が待っていた。なんと、初日から部室の確保にこぎつけてしまったのだ。言うまでもなく、これは幸運以外の何物でもない。いや、幸運という言葉では足りないほどだろう。ミレニアムのような巨大学園で、研究室となる大規模スペースを“空き部屋として使える”など、普通なら一生のうちに一度出会うかどうかの機会だ。

 

「確認が取れたわ。案内するから、ついてきてちょうだい」

 

 涼しげな声でそう告げると、早瀬会計は手元の端末を軽く操作し、歩き始めた。彼女の後を追いながら、私はこれから訪れる“未知の空間”へ想像を膨らませていた。地下室――という言葉はどうしてこうワクワクさせるのだろう。何かが眠っている予感がする。埃にまみれた古書、半分壊れた実験装置、誰にも気づかれず持ち主を失った資材……ミレニアムに似つかわしくない、不揃いで雑多な魅力が詰まっているかもしれない。

 

 しかし、その想像を膨らませるよりも先に、目の前の光景の壮大さが、私の意識の大半を奪っていくことになった。

 

 ミレニアムはとにかく広い。あまりにも広すぎる。敷地内に生徒用の電車が走っていること自体、普通の学校では到底あり得ない。しかも、その電車が普通に“必要”とされるだけの土地があるのだ。端から端まで移動するだけで、ちょっとした旅行である。私たちが向かっているのはその“端のさらに奥”らしく、歩けば歩くほど、まるで地図の端を探検している気分だった。

 

 早瀬会計は歩きながら何度も地図を確認していた。普段から頻繁に訪れる場所ではないのだろう。その動作が示す通り、私たちは学園の生活圏から徐々に外れていき、建物の密度が薄れ、代わりに研究用の区画や資材庫、整備エリアらしきものが増えていく。

 

 その道すがら、私はミレニアムの建築物を観察し続けていた。いや、観察せずにはいられなかった。

 

 ――まさに未来都市。

 

 それが最初に浮かんだ率直な感想だった。空には無数のドローンが飛び交い、ビルの外壁は巨大なモニターとなって情報を映し出している。道路には自律移動する清掃ドローンが行き交い、ベンチは自動で座り心地を調整し、ゴミ箱は捨てられた廃棄物を種類別に仕分けて圧縮していた。学園都市というより、ロボットが人間よりも多く暮らしているような場所――そんな印象を受ける。

 

 ミレニアムの技術力が、他校とは比べ物にならないほど異常なレベルにあることを、歩くだけで理解できた。

 

 未来都市を抜けると、急に環境が静かになり、広い芝生にぽつんと“場違いな建造物”が現れた。それは、倉庫のように四角く地味で、どこか古めかしい鉄製の入口だった。

 

「さあ、ついたわね」

 

 早瀬会計が足を止める。目の前にあるのは、芝生の上にぽつんと立ったコンクリートの塊。その中心にぽっかりと穴が空いたように、地下へ続く階段の入口が現れている。

 

 未来的な景色に慣れきった私の目には、あまりにも異質な存在だった。まるで“取り残された文明の遺物”のようであり、タイムスリップして紛れ込んだ倉庫の入口のようでもある。

 

「ここまで来るだけでも結構長かったんだけど、ここからが本番よ。150メートル階段で降りるんだから」

 

「……150メートル」

 

 それが、この部屋が長らく使われていない最大の理由らしい。階段の縁に立ち下を覗いてみるが、濃い影の奥深くへ続くだけで底は一切見えなかった。

 

 ――どうしてエレベーターをつけなかったのか。

 

 誰もが一度は抱く疑問だろう。もしエレベーターがあるなら、ここは引く手あまたの研究室になっていたはずだ。

 

「うわー……わかってましたけど、実物を見ると本当に凄まじく長いですね。これは確かに不便すぎます。誰も使わないのも納得です。汚れも傷もゴミも放置されてますし……使うなら整備が必要ですね」

 

「記録が正確なら、ここは十年くらい誰も使ってないらしいわよ」

 

 十年。なるほど、確かに入口が古臭く感じた理由がわかった。ミレニアムはここ数年で一気に学園都市として発展したらしい。それより前の建造物であるここが古びて見えるのは当然というわけだ。

 

「じゃあ、一番下まで降りるわよ。大変だろうけど、本当に使えるかどうか、残留物がないかどうか、現地で確認しないといけないから、私も一緒に行くわ」

 

「ありがとうございます」

 

 こうして、私たちは階段を降り始めた。

 

 階段の一段一段がやけに高く、地味に足へ負担がかかる。降り始めて二分ほどで、息がわずかに上がった。冬の冷気が地下まで残っているのか、あるいは長年閉ざされていたからなのか、ひんやりとした空気が肌を刺す。壁には古びた配管や電線が乱雑に這い、本来あるべき場所から外れて垂れ下がっているものもあった。

 

 降りても降りても、景色は同じだった。繰り返しのように階段と壁が続き、まるで無限ループしているのではないかという錯覚さえ覚えた。しかし汚れや配管の位置が毎回微妙に違うため、自分がちゃんと下へ進んでいることだけは分かった。

 

 足裏の感覚が薄れてきた頃――ようやく、底へ辿りついた。

 

「つ、着いた……長かった〜〜! 150メートルって、ビルで言えば30階分よ? そりゃ足も棒になるわ……」

 

 本当に長かった。ていうか、部室を利用するたび、これを往復するのか……? 想像した瞬間、心が少し折れかけた。

 

「じゃあ扉を開けるわね」

 

 早瀬会計が取っ手を握り、大きな力で引く。

 

 ――ガチャン……ギィィィィ……。

 

 重い防火扉がきしむように開き、その奥に広がったのは――

 

 広大な空間だった。

 

 天井は高く、コンクリートの壁は遠く、照明はところどころで錆びた鎖に吊られてぶら下がっている。新入生歓迎式が行われた体育館より、遥かに広い。壁にも床にも、過去の戦闘訓練の跡が黒く残り、焦げや弾痕がミレニアムの歴史を物語っている。

 

 天井から垂れ下がった配線、薬品のような独特の匂い、完全に沈殿しきっていない埃――あらゆるものが“使われていないまま眠り続けた戦闘訓練場”の雰囲気を醸し出していた。

 

「これは……すごい。設備を置くスペースが足りないなんてこと、まずありえないですね」

 

「まぁね。でも現実から目を背けちゃダメよ。設備の前に――まず掃除が必要なの。多分これ、掃除だけで一ヶ月はかかると思うわよ?」

 

 彼女の言うとおりだ。空間一面が埃に覆われ、歩いただけで白い足跡がつくレベル。とてもこのままでは使えない。

 

 だが問題は……人手も、金もない。

 

 外部に清掃を頼むべきだが、私は金欠だ。そもそも金があるなら、ミレニアムタワー上層階の教室を借りている。金がないからこそ、この地下室に望みを託しているのだ。

 

「これ、どうすればいいと思いますか?」

 

「ここで私に聞くの? ……そうね。C&Cに依頼したら? あの人たち、メイドだし、こういうの専門よ?」

 

 確かにC&Cはメイド。しかし“戦うメイド”という印象のほうが強い。

 

「いやそれも考えたんですけどね……私、お金がないんですよ」

 

「そっか……お金がないからここを使う話になったんだったわね。C&Cは基本有料だし……。どうにかしてお金稼ぐしか――あなたがめちゃめちゃ強かったらよかったんだけどね」

 

 ――ん?

 

 なんだそれは?

 

「今なんて言いました?」

 

「どうにかしてお金稼がないとねって」

 

「違います。その後です」

 

「後……? ああ、“あなたがめちゃめちゃ強ければよかった”って?」

 

「それです。それ。強かったら何とかなる、って聞こえたんですが」

 

「ああ、それね。C&Cの部長がね、とにかく強いやつが好きなのよ。だからめちゃめちゃに強い相手なら、模擬戦とか付き合ってくれる代わりに、依頼を無償で受けてくれることがあるのよ」

 

「それですよ! それ絶対いけますって!」

 

 なるほど、戦闘狂か。実に都合がいい。

 

「でもね、C&C部長に匹敵する強さなんて――」

 

「いや私、見た目の印象微妙かもしれないですけど、普通に強いですよ?」

 

 確かに第一印象では弱そうに見えるかもしれない。緊張で声が震えていたし、腰も引けていた気がする。

 

「ほんとに? どう見ても強そうには……」

 

「本当です。本気で言いますけど、耐久力だけならキヴォトス一です」

 

(生命力、のほうが正しいかもしれないが)

 

「……それ本気で? 本当ならワンチャンどころか、十分いけるかもしれないわよ」

 

 希望が一気に開けてきた。さすがC&C部長、あなたの戦闘狂ぶりに感謝したい。

 

「でも“ちょっと強い”くらいじゃ無理よ? 学園で名が売れるくらい強くないと」

 

「じゃあ、一回戦ってみましょうか?」

 

「えっ……急に戦う? いや、でも……私防御力には自信あるし、私と戦えばあなたの実力は把握できる、かも……」

 

 まさか承諾されると思わなかった。しかし好都合だ。自分の現在の戦闘能力を確認する絶好の機会。

 

「では、この辺りからでどうでしょう」

 

「そうね。そのくらい離れていれば安全だと思うわ。……怪我しないようにね?」

 

「わかりました。では――行きます」

 

 そうして、私の実力を測るための戦いが始まった。

 

 まずは接近してみる。銃の撃ち合いになる前に距離を詰めるのが正解だ。私の耐久なら、至近距離に入るまで生き残れないということは絶対にない。

 

「んなっ――!?」

 

 開幕突撃――予想外の行動に会計が驚いた声を漏らす。キヴォトスでの戦闘は銃撃が基本。開幕で真っ直ぐ突っ込むのは自殺行為に近い。しかし、私は違う。

 

 会計が腕を上げ構える瞬間、私は右へ一歩跳び、射線を外す。その動作に生じるわずかな隙へ、迷わず踏み込む。

 

 会計は驚きつつも即座に後退しながら銃を撃ってくる。

 

「ちょ、普通止まるでしょ!? なんで銃なしで突っ込んでくるのよ!」

 

 だが私は、彼女の後退速度よりも明らかに速く追いついた。至近距離に入り、懐から銃を構える。

 

 私の銃――トリプルアクションサンダー。ハンドガンサイズなのに、対物ライフル弾を撃ち出す化け物だ。一発装填式だが、至近距離なら“当たれば終わり”。

 

 銃口を向けた瞬間、会計が低く呟いた。計算式を唱えるような、規則的で素早い声。

 

 直後、彼女を包むように光学バリアが展開された。

 

 さすがミレニアムの会計。あの一瞬で座標計算と展開処理を終えたのだ。

 

 ――しかし。

 

 バキィンッ!!!

 

「……は?」

 

 バリアは粉々に砕け散った。




初めて先頭を書きました。いやーなかなかむずかしい!他の人のをみてると、予期こんなにわかりやすく書けるよな〜ってなりますもん
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