ミレニアムの秘密の研究室   作:まったり愛好家

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教習所デビューしました。今後は投稿頻度が落ちる期間があるかもしれません。度々すいません。


第二十四話 C&C初戦:廃墟の狙撃手

今日はいよいよ、C&Cとの戦闘訓練の日だ。

 

午前中の掃除を終えた私たちの額には、うっすらと汗がにじんでいた。雑巾をしっかり絞って教室の床を磨き続けたせいで、腕は鈍く重い。けれど、それも悪くない疲労だ。達成感があり、気持ちがいい。

 

 掃除用具を片付けた私たちは、足早にミレニアム校外へ向かう。校舎の裏手を抜けると、まるで時代に取り残されたかのような廃墟地帯が広がっている。風が吹き抜けると、枯れ葉と粉塵が巻き上がり、不気味な音が廃墟に響いた。

 

 かつては研究施設だったというその建物群は、今ではほとんど骨組み。コンクリートは崩れ、鉄骨があらわになっている。錆で赤茶けた梁が空に突き出し、まるで朽ちた巨人の腕のようだった。足元には瓦礫が散らばり、所々に生えた雑草が、失われた文明を侵食するかのように蔓を伸ばしている。

 

 私は廃墟の一角に立ち止まり、ふと空を仰いだ。灰色の雲の隙間から、細い光の帯が差し込み、舞い上がった粉塵を銀色に輝かせる。廃墟なのに、どこか幻想的な、夢の残滓が漂っているような景色だった。

 

 訓練場所としては少々物騒。だが、実戦想定という意味では、この上なく現実的だ。弾丸が跳ね返ることも、足を取られることも、敵の視界が遮断されることも……すべてが本物の戦闘に近い。

 

 

 

 そして、その廃墟の中心に、すでにC&C部のメンバーが整列していた。

 

 四人。こちらをじっと観察するように、ひとりひとりが静かに佇んでいる。こうしてみるとちゃんとした戦闘部隊みたいだな。メイド服なことを除けば。

 

 私は息を整えながら口を開いた。

 

「戦闘訓練って言っても……何するんです?」

 

戦闘訓練をするとは言われているが、それ以外は何も聞かされていない。

 

 私はちらりと四人の輪郭を見る。

 

「……流石に4体1じゃないでしょう?」

 

 冗談めかして言ったつもりだが、内心は半分以上本気だ。いや、正直に言えば八割本気だ。美甘ネル相手でもどうにか勝てるか怪しいのに、それが四人同時なんて。訓練どころかリンチになる。

 

「今回はタイマンだ。単体での戦闘能力向上を目的としてるからな」

 

 ふっと美甘ネルが口角を上げながら答える。それだけで少し安心した。

 

 一対一か。それなら――いや、それでも勝てるかはわからないけど。

 

「お前と私たちが順番に戦っていく。場所はあたしたちが今立ってる廃墟全体だ」

 

 言われて改めて周囲を見回す。壊れた階段、途切れた回廊、崩れた壁、その向こうに闇のような空洞。確かに広い。視界の悪いフィールドでの戦闘は、索敵能力と即席の判断力が必要だ。

 

「互いに好きなスタート位置から始めて、どちらかのギブアップ、もしくは戦闘不能で決着だ。反則は特にないが、危険すぎると判断したら止めるぞ」

 

「そこはしっかりしてるんですね」

 

 思わず苦笑しつつ答える。安全対策があると聞いて少しだけ胸が軽くなる。

 

 しかし、美甘ネルはすぐに続けた。

 

「ああ、あと反則は特にないって言ったけどな、一個だけ禁止事項がある」

 

「なんです?」

 

 嫌な予感がする。絶対ロクな内容じゃない。

 

「お前、あの銃使うの禁止な」

 

「はあ⁉︎」

 

 本当に意味がわからない。素手で戦えと? 

 

「なんでですか⁉︎あれないと戦えませんよ⁉︎」

 

なんで⁉︎縛りプレイ⁉︎

 

「まあ待て落ち着け。説明するから」

 

私を制止するように手を出して。

 

「あのな、お前の銃、威力強すぎんだよ」

 

「それはまあ…そうですね。そういうコンセプトの銃ですから…」

 

 威力、強い。うん、否定できない。

 

「私でさえ腹にでっけぇ痣が残るレベルのものを撃たれちゃあ、こいつらの体が持たねぇ」

 

 他のC&C部員たちを指す。彼女らの顔に苦笑が浮かんでいる。冗談ではなく、本気でダメらしい。

 

「あー…そういうことですか……そりゃそうですよね……」

 

「つうわけで……悪いがこれを使ってくれ」

 

 美甘ネルが差し出してきたのは、大口径ハンドガンとしては最大級の威力を誇るサウス&ウェッソン・モデル500。

 

 ずっしりとした重さが掌に伝わる。冷たい金属が手の温度を奪う。

 

 いつものトリプルアクションサンダーに比べれば、弾の威力は三分の一程度。でも六発装填。十分戦える。

 

「わかりました。まあ大口径なことに変わりはないんで、いつもとおんなじように使いますよ」

 

 私はもらった弾と銃を装備し、深く息を吸った。

 

「じゃあ早速……まずはカリンから行くか」

 

 美甘ネルがカリンの背中を軽く叩く。

 

「私か? 一番目がスナイパーって大丈夫なのか?」

 

 スナイパー。遠距離狙撃。廃墟の内部戦。この組み合わせは、常識的には私が有利……のはず。

 

 でも、そう思うからこそ逆に怖い。彼らはこの状況で戦える術をすでに知っているのかもしれない。

 

「まあ大丈夫でしょう。これは一応実戦想定なので、相手を選ぶことはできませんし、どのみちいつかは戦うんですから」

 

「そうか。わかった。では、時間も惜しいし早速始めるか」

 

 カリンは落ち着いた声で言うと、中へと足を踏み入れた。

 

 廃墟の奥。暗い通路の向こうへ吸い込まれる影。そこからどう動くか、想像すらできない。

 

 私は思わず唾を飲み込む。

 

 スナイパーは距離を取る。だがここは狭い建物群。遮蔽物だらけ。一体どう戦う気なのだろう。

 

 わからない。だがだからこそ面白い。恐怖と期待が混ざり、胸が熱くなる。

 

「では私も位置につきますね」

 

 そう言い、私は屋上から内部へ降りていった。

 

 廃墟の闇へ。これから始まる一対一の戦闘へ。

 

 心臓が跳ねる。緊張と昂揚。その二つが同時に私の背中を押していた。

 

廃墟内部――陽の光が届かない暗がりは、まるで口を開けた獣のように私たちを飲み込んだ。崩れた階段、砕けたコンクリの壁、散乱する鉄骨。足音を吸う静寂の中、空気は冷たく、重い。

 

 私は息を整える。リボルバーの重量を右手で感じる。六発。決して多くはない。だが、十分。

 

 一方のカリンはすでに陰へ消えていた。視線を巡らす。影と影の境界が濃い。狙撃手には理想的だ。

 

 ――来る。

 

 耳鳴りが一瞬だけ、ひどく大きくなる。

 

 直後。

 

 金属が割れるような激しい破裂音。

 

 「ぐっ!!」

 

 背中に思い衝撃が走る。肺の中の空気が強制的に押し出される。視界が揺れる。しかし、私は踏ん張った。

 

 痛みはある。だが、数秒後にはヒビの入った骨や皮膚の再生が始まるだろう。慣れている。

 

 銃声の方向を逆算しながら走り出す。足音をできるだけ殺し、瓦礫の間を縫うように走る。

 

 カリンのスナイパーライフルは対戦車ライフル。遠距離狙撃用の高威力、貫通性も高い。二発、三発もらえば普通の人間は戦闘不能。私とて、高頻度で撃たれれば再生に専念するしかなくなる。

 

 もう二度目の引き金音がした。確かボルトアクションの五連発射ができるんだっけか…

 

 今度は肩を撃ち抜かれた。皮膚を弾丸が削ぎ値が出てきた。腕は落ちない。筋繊維も多少ダメージを負っているが、すでに再生が始まっている。数秒で筋肉が盛り上がり、皮膚がつながる。

 

 カリンの声がわずかに震えた。

 

「今のを耐えるのか……!?」

 

 位置は掴んだ。距離は中距離。高所じゃない。床の破片と鉄骨の間から撃っている。

 

 私は壁に駆け寄り、破砕音とともにモデル500を構えた。

 

 撃つ――

 

 その瞬間、カリンの姿はすでに消えていた。

 

 ヒット&アウェイ。さすがスナイパー、回避行動が速すぎる。

 

 ――でも、逃げる方向は分かる。

 

 廃墟内部は入り組んでいるとはいえ、限界がある。逃走ルートは三本。足音、壁への反響、空気の動きから推測できる。

 

「……いた」

 

 私は足音を殺しつつ低姿勢で回り込む。

 

 そして影が見えた瞬間、反射的に彼女は撃つ。

 

 肺に衝撃。真正面からの、しかも至近距離からの狙撃。胸に杭を打ち込まれたかのような衝撃が走る。

 

 しかし――それでも走った。

 

「ば……化け物か!?」

 

 目の前、たった数メートルにいたカリンが狼狽する。

 

 胸から血を撒き散らしながら、私は笑った。

 

「ちょっとやそっとじゃ私は止まりませんよ」

 

 彼女は撃つ。私は突っ込む。距離が縮まる。

 

 銃と銃の間が限界まで近づいた瞬間、私は壁を蹴って横転し、視界に身体を滑り込ませた。

 

「――――ッ!」

 

 カリンのスコープが私を捕らえる。しかしその瞬間には、すでに私は彼女の懐にいた。

 

「終わりです。すみませんね」

 

 モデル500が火を噴く。

 

 至近距離。腹部に一撃。彼女が吹っ飛ぶ。

 

 だがまだ終わりじゃない。

 

 カリンは倒れながらもライフルを放り捨て、懐の拳銃に手を伸ばす。タフだ。起き上がる意思を持っている。

 

 しかし――その前に私は彼女の手首を踏んで制止した。

 

「戦闘不能……ってことでいいですか?」

 

 息を荒げながら聞く。

 

 カリンは苦笑しつつ肩を落とす。

 

「……ああ。あんたの勝ちだ。やられたよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私はその場で膝をついた。

 

 胸の穴が塞がっていく。どうやら相当な威力だったらしい。痛みはあるが、それもすぐに薄れていく。

 

 カリンが息をつきながら呟いた。

 

「……戦闘スタイル、滅茶苦茶だな。あんなの反則だろ……」

 

「私の仕様です」

 

 そう言って笑うと、彼女は肩を震わせて笑った。

 




私のコハクちゃんのイメージって、身体能力は馬鹿高いけど体の硬さは普通よりもちょっと下くらいに思っています。身長が小学生の3、4年生くらいなので、柔らかそうだと思いまして。
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