ミレニアムの秘密の研究室   作:まったり愛好家

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今回、アカネが爆薬を使うこともあってコハクが結構痛い目に遭います。苦手な人はご注意を。


第二十六話 C&C3回戦:ミレニアムの掃除屋

廃墟からの帰路を、私はアスナをお姫様抱っこしたまま歩いていた。

 

肩に担いで運ぶという選択肢も一瞬考えたが、私の身長ではどうやっても彼女の足が地面を擦ってしまう。

それも屈辱的だし、なにより危険なので却下した。

 

お姫様抱っこは、その体勢を取った瞬間に痛感したが――

アスナの大きな胸が視界の半分以上を埋めて、前が見えづらいのだ。

 

しかしゴーグルを通して周囲は見えているため、私は問題なく帰還できた。

まるで煙幕の中を平然と歩く幽霊のような気分だった。

 

屋上へ戻ると、一番に駆け寄ってきたのは美甘ネルだった。

 

「戻ったか……」

 

言いながら、じろっと私を見てくる。

そして深く息を吐いた。ため息だ。

 

「なんです?帰ってきて即ため息って、私なにかしました?」

 

多少オーバーキル気味だったとは言え、そこまで怒られる謂れはないはずだ。

 

「お前……スモークグレネードをバカスカ投げやがって……観察用のドローンが役に立たなかったじゃねぇか。煙ばっかで何も映らねえ」

 

腕を組みながら、呆れ混じりの声が飛んでくる。

 

「いやいや、仕方ないじゃないですか。正面から突っ込むってバレてるんだから、奇襲一本しか手がないんですよ」

 

アスナをそっと地面に降ろし、倒れないよう残りの二人に任せる。

 

「っていうかドローンで観察してたんですか?」

 

「ああ当然だ。戦闘訓練なんだから、情報は宝だろ? お前らの戦闘データも集めるに決まってる」

 

なるほど。

確かにその通りだ。

 

「でもな……せっかく飛ばしたドローンも、お前が煙をぶちまけたせいで何一つ見えなかった。最初の煙で視界は真っ白、やっと晴れたと思った瞬間には第二波。しかも濃度が桁違いに濃かった。絶対二発同時に投げただろ」

 

「あれは視界を完全に奪う必要があったので」

 

自信たっぷりに言うと、美甘ネルは更に深くため息を吐いた。

 

「んでもって、煙が晴れたころには決着済み。お前何したんだよ……あれだけやられりゃ、さすがに気になるだろうが」

 

「……説明するの面倒なんですけどね」

 

「いいから言え」

 

────────────

 

そして私は説明を終えた。

 

瓦礫の位置、初手の奇襲の失敗、煙の濃度、分散、撹乱。

アスナの対処と、最終的に読みを逆に読んだ一手。

 

説明する間、美甘ネルは一言も挟まず、顎に手を当てて黙って聞いていた。

 

「……なるほどな。ということはだ……スモークの中でもお前は見えてたんだよな? なんでだ? そのゴーグルか?」

 

「そうですね。このゴーグルには熱感知機能がありますから。相手が生物なら位置は見えます」

 

私はあえて「透視」については言わない。

さすがに企業秘密だ。

 

「お前さ……“アスナのデータを取るため”ってゴーグルつけてたけどさ……ほぼズルじゃねえか」

 

「反則と言われてませんし、装備制限ありませんでしたよね?」

 

「……それは言ったな……くっ……じゃあ次から使用禁止だ」

 

「了解です」

 

別に構わない。

アスナの神秘データも取れたし、目的は果たせた。

 

美甘ネルは、アスナの容体をチラッと見た後、腕を組んだまま言う。

 

「さてと……これで折り返しだ。残るは私とアカネだ。どっちからやる?」

 

言われるまでもなく、私は即決だった。

 

美甘ネルとの戦闘は……正直、やりにくい。

経験も戦闘勘も異常で、それこそアスナ以上の面倒さだ。

 

アスナ戦では頭を振り絞った。

だが美甘ネルはそれを更に上回るだろう。

 

だから、消去法でもあり――同時に戦術的判断でもある。

 

「アカネさんでお願いします」

 

「わかった、おーいアカネ!お前が先だとよ!」

 

呼ばれたアカネは、眼鏡の奥をきらりと光らせながら近づいてくる。

 

「ようやく私の番ですね。楽しみです」

 

その声音には、穏やかな響きの奥に、何か捕食者のような強者ゆえの余裕があった。

 

手にはハンドガン。

そして、もう片方の手には……

 

なんだ、それ。

 

分厚く、金属質で、ゴツく……

盾とも違う。サイズも形も妙に個性的。

 

「戦う前に聞きたいんですが……その手に持ってる大きなもの、何です?」

 

アカネは、手に持ったそれを軽く持ち上げて前に見せた。

 

「これですか?これは――ダイナマイトです」

 

…………ん?

 

「……今なんて言いました?」

 

「だから、ダイナマイトです」

 

数秒沈黙が流れる。

 

廃墟での戦闘直後、張り詰めていた緊張感が一瞬で霧散するほどの破壊力だった。

 

本能が告げる。

 

――これは美甘ネルから戦ったほうが楽だったかもしれない。

 

そう、心底思った。

 

 

廃墟内部は、先ほどの戦いとは違う意味で、張りつめた空気に満ちていた。

 

アスナとの戦いでは、私は廃墟の複雑な構造を味方にし、煙で翻弄した。

しかし今回は、違う。

もう奇襲は効かない。

私の戦術は既に読まれている。

 

それなら──正面からだ。

 

私はアカネと一瞬視線を交わし、目で宣言した。

 

「真正面からいきますよ」

 

アカネは眼鏡を指で押し上げ、微笑んだ。

 

「想定通りです。あなたの正面突破──私は好きですよ」

 

彼女の右手にはハンドガン。

だがこれは飾りだと見てわかる。

本命は左腕に抱えられた巨大な爆薬の束だ。

 

廃墟の床には亀裂が走り、瓦礫が積み重なり、空気は軽く乾いている。

破壊に最適な場所。

 

誰がいうでもなく、始まりは唐突だった。

 

スモークも使わない。

奇襲もしない。

ただ一直線、足と体力と瞬発力で距離を詰める。

 

「来ると思ってました」

 

アカネは迷わない。

繊細な手つきで、爆薬の導線に火をつける。

 

次の瞬間──

 

視界が白に弾けた。

 

爆風が襲い、瓦礫が宙を舞う。

鉄骨が悲鳴を上げるような音。

耳をつんざく衝撃と、土煙と熱気が肌を焼いた。

 

だが私は、その爆煙を突き破って走っていた。

 

「っ……ほんとうに突っ込んでくるんですね」

 

アカネの驚きすら余裕の内だ。

その眼に焦りはない。むしろ計算だ。

 

爆風の中心──私の着地点。

そこに何かが仕掛けられている。

 

ゴーグルが告げる。

 

(まずい、ここに反応……)

 

対戦車地雷。

 

しかも複数。

 

踏んだ瞬間──

 

地面が、爆音ごと消えた。

 

衝撃は爆薬そのものより深かった。

対戦車地雷は地を抉る。

身体ではなく「位置」そのものを破壊する爆発。

 

私は地面を離れ、空中に舞い上がる。

 

骨がしなる音が聞こえる。

いや、折れたのだ。

 

腕。

肋骨。

視界が揺れる。

 

だが眼は閉じない。

意識を手放す暇などない。

 

空中で体勢をひねり、落下の体勢をつくる。

 

そして地面に叩きつけられた瞬間──

 

脚で踏みとどまり、その勢いで再び走り出した。

 

折れた腕は垂れ下がり、肋骨が内臓に刺さりかけている痛み。

だが再生が始まっている。

 

足は止まらない。

 

足跡が地を削るほどに踏み込み、爆煙の中を突進する。

 

アカネの姿が、煙の切れ目に浮かんだ。

 

彼女は驚いてはいない。

 

「やっぱり来ますか」

 

銃など構えない。

それは本当に緊急用なのだろう。

彼女は爆薬の専門家だ。

 

だが、私は至近距離だ。

 

リボルバーを構え、折れた腕を無理やり持ち上げて──

わき腹に響く痛みを無視し、

 

「……終わりです!」

 

引き金を引いた。

 

零距離に近い発砲。

弾丸は確実にアカネの中心線を捉え──

 

しかし。

 

アカネはほんの一瞬だけ後ろに下がり、笑った。

 

「ここまで読んでますよ」

 

足元の床が「沈んだ」。

 

いや、違う。

 

爆薬がそこにあったのだ。

 

彼女自身の退却ルート。

その退路に地雷を仕掛けている。

 

自衛のためではない。

確実な反撃のため。

 

次の瞬間──

 

世界が弾けた。

 

衝撃は私の足元を吹き飛ばし、体を宙に投げ返す。

まるで先ほどの地雷爆破に巻き戻されたように、私は元いた位置へと弾き戻された。

 

地面に転がり、瓦礫が突き刺さる。

血が飛び散る。

皮膚が裂ける。

 

腕は折れたまま。

肋骨は治りきる前にまたダメージ。

 

だが、まだ“終わっていない”。

 

煙の中、アカネの声が響く。

 

「概ね想定通りですが…あなた、本当に凄いですね」

 

私は立ち上がる。

全身が悲鳴を上げながらも、再生が痛みを押し流す。

血が流れ、肉が塞がり、骨が軋みを上げながら元に戻る。

 

視界が揺れても、心は揺れない。

 

(まだ……まだ終わらない)

 

戦闘は、継続中。

 

廃墟はまだ崩れきっていない。

爆薬はまだ残っている。

私の弾もまだ残っている。

 

そして何より──

 

私はまだ戦える。

 

戦場は、まだ終わらない。

 

立ち上がった私の姿は、まともに戦える状態じゃなかった。

折れた腕、ひび割れた肋骨、肉が焦げる再生熱――けれど目はまだ死んでいない。

 

深く息を吸い、神秘を銃身へ流し込む。

体が震え、耐久力が意図的に下がる。細胞が暴走ぎみに再生を始める。

 

(ここで終わらせる……!)

 

銃口を太ももに当て――

 

ドンッ!!

 

骨と肉が吹き飛ぶ。

鮮血が霧のように散った。

 

その瞬間――

 

それを見たアカネの反応は速かった。

 

爆炎の中で、アカネの顔色が変わる。

 

「何を…何をしているんですか‼︎」

 

俺がもう片方の足を撃つ瞬間、

アカネは素早く手を振り上げ、

戦闘中止のサイン を送った。

 

(あれは――安全性を欠いた戦闘状況の申告。)

 

アカネは爆薬狂ではあるが、

命が飛ぶ領域には絶対踏み込ませない主義だ。

 

「リーダー!止め――」

 

その瞬間、私の再生能力が暴走的に働く。

 

吹き飛んだ脚部を壁に突き刺し――

その反動と再生の爆発的エネルギーで、私の全身が射出される。

 

コンクリートを砕く衝撃音。

 

アカネが咄嗟に反応し爆薬を投げる。

 

ゴォオオオオン!!

 

炎。粉塵。衝撃。

でも私は止まらない。

 

爆炎を切り裂き、アカネの目の前。

 

銃口を腹に押し当てる。

 

「終わりです」

 

ドッ……!

 

アカネの身体が吹き飛び、廃材に叩きつけられる。

 

そして――静寂。

 

私は地面に座り込んで息を吐く。

 

奥の手を使わされたが……勝った!




二十二話でわかった人もいるかもしれませんが、アンデットアンラックという作品の戦闘方法を一部パk…オマージュしています。
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