ミレニアムの秘密の研究室   作:まったり愛好家

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単体で出したらあまりにも短いなーって短編を、本編の後に挟む形で入れています。そのため、本編は普段の半分くらいしかありません。


第二十七話 尋問 短編あり

数十秒も経っただろうか。

廃墟の空気がざわりと動いたかと思うと、階段の影から弾丸のような足音が近づいてきた。アスナを先頭に、C&Cのメンバーが血相を変えて飛び込んでくる。

 

砂埃を巻き上げ、息を切らせながら駆け寄ってくる三人の姿は、まるで火事現場に飛び込む救急隊員のようだった。

 

先頭の美甘ネルは地面に膝をつく勢いで私の前まで滑り込み、そのまま私の肩を掴んだ。指の力が強くて、骨に響くほどだった。

 

そして次の瞬間、私の顔と吹き飛んだ足の痕跡を交互に見比べ、瞳に浮かぶ感情の色が混ざり合う。怒り、動揺、そして心配――それらがうまく分離できず、彼女の表情は完全にパニックじみている。

 

「足は⁉︎ どうなってる⁉︎ 何したんだ一体⁉︎」

 

声が震えていた。怒鳴っているようにも、狼狽えているようにも見える。

あの美甘ネルが、こんな顔をするなんて。

 

「そうだ!何したのか言え!」

 

すかさずカリンが声を重ねてくる。怒っているようで、しかし声に焦りが滲んでいた。

 

「さっきのどういうことか説明してよ!」

 

さらに後ろのアスナが叫ぶ。彼女は距離を置いているのに、それでも声量が増すほど混乱している。

 

三人がこんな至近距離で怒鳴り合う形になって、頭がガンガンしてきた。

 

「わかりました!説明します!説明しますからちょっと静かにしてください!」

 

自分でも妙に冷静な声が出た。

興奮している三人に釣られて、こちらまで混乱したくなかった。

 

ネルの指が、私の肩を掴む力をようやく弱めた。

ほんの数秒の沈黙。しかしその静寂が、逆に空気を重くした。

 

「お前…自分が何したかわかってんのか?」

 

彼女は肩から手を離し、地面に片膝をついて私の目線に合わせてくる。その目は数秒前とは一変して、尋問官のようだった。

 

「自分の足吹っ飛ばして…かと思ったらアカネの方にかっ飛んで…普通じゃねえよな…どういうカラクリだ?」

 

視線は鋭いが、そこに宿っているのは恐怖ではない。

理解しようとする意志、そして私が不可解なことをやったことへの混乱。

 

私は一度深呼吸し、言葉を選びながら話し始めた。

 

「えっと…簡単に説明しますと、ものすごい速度で再生したんですよ。その再生で体を押し出して吹っ飛んだんです。カタパルトみたいなもんですよ」

 

できるだけ分かりやすく。

できるだけ冗談めかさずに。

 

ネルは口を閉じたまましばらく私を見つめ続ける。

突拍子もない説明を頭で嚙み砕こうとしているようだった。

 

やがて、ぽつりと彼女は呟いた。

 

「…自分の足を吹っ飛ばした説明にはなってる。手足がなくなっても再生できると事前に聞いてもいた…お前の再生ってのはそんなに馬鹿げた速度でできたのか…」

 

私は親指を立て、冗談めかしてみせる。

 

「そうですね。意識すれば結構な速度での再生も可能です」

 

グッ、と親指。

相当やばいことを言っている自覚はあった。

 

後ろで聞いていたアスナとカリンは、まだ納得には程遠い表情だった。

けれど一旦は落ち着いてくれたのか、アカネの方へと歩いていく。

 

その背中を見送り、再びネルがこちらを向く。

今度は少し冷静さを取り戻した顔だ。

 

「じゃあ次の質問だ。お前、そのリボルバーで自分の足を吹っ飛ばしたろ。どうやった?というかなんでそんなことができる?精神的なことじゃなく、物理的に私たちキヴォトスの生徒はリボルバーなんかじゃ足を吹っ飛ばせない。スナイパーライフルだって、うまく行って骨が折れるとかだろ」

 

真正面から見据えてくる視線。

その問いは核心だった。説明次第で、この先の信頼に関わる。

 

「どうやったか、ですか…ちょっと説明が長くなりそうですけど、いいですかね?」

 

ネルは数秒考え込んだ。廃墟の風が髪を揺らす。

そしてようやく、彼女は小さく頷いた。

 

「そうだな…お前の戦闘方法にも関することだし、一旦この廃墟の屋上に戻って、アカネが目覚めてから全員に説明してもらおうか。そのほうが聞きたいこととかいっぺんに聞けるし。何よりアカネには隠し事はできねえからな」

 

そう言いながら、ネルは立ち上がり、右手を差し出してきた。

その手は相変わらず強いが、先ほどの焦りは消えていた。

 

「ありがとうございます」

 

私はその手をしっかりと掴み、身体を起こす。

廃墟の埃っぽい空気を吸い込みながら、先に屋上へ向かうアスナとカリンの背中を追った。

 


 

短編 ホシノ視点1

 

冷たい黒い箱のようなビルだった。

その入り口で──私は、ひとりの少女に出会った。

 

エントランスから降りてきたその子は、まるで影の一部が人の形をとったかのように、力なく足を運んでいた。

 

そして、ふとした瞬間──私と目が合った。

 

その目は、虚ろだった。

感情の色がどこにも見えない、均一に濁った水のような、深く沈んだ光。

一瞬、胸の奥が、爪でひっかかれたように痛んだ。

 

私はこのビルに誰がいるのかを知っている。

そして、その人物が何をしているのかも、嫌というほど知っている。

 

だからこそ──

今、目の前の少女がなぜそんな目をしているのか、想像できてしまった。

 

その想像は、脳裏で形を成す前に、拒絶反応のように胸を締めつけた。

 

放っておけなかった。

思考より先に、体が動いていた。

 

「だ、だいじょうぶ? 何かされなかった? 脅されたりは──」

 

言葉を吐き出す私の声は、どこか震えていた。

少女は俯いたまま、小さく、息を漏らすように答えた。

 

「はい… まあ……」

 

その声に、まるで生気がなかった。

風に吹かれればそのまま倒れそうな儚さだった。

 

気づくと私は、そっと少女の肩や腕に触れていた。

乱暴にならないよう、指先で確かめるように。

 

何か変なものを付けられていないか、傷はないか。

幸いにも、特段気になるものはなかったが…

 

あまりにも、細い。

 

あまりにも、小さい。

 

高校生という言葉がまったく似つかわしくないほど、頼りなくて、ただ触れただけで壊れてしまいそうだった。

 

よく見ると、彼女が着ているのはミレニアムサイエンススクールの制服だった。

 

ミレニアムの子…?

こんなに小さくて、痩せていて──

どうしてこんな状態で、ひとりでこんなビルに?

 

胸の奥に、じわりと重たいものが溜まっていく。

怒りか、悲しみか、自分でもわからない。

ただ、込み上げてくる感情が喉を熱くした。

 

あいつ──

あのビルにいるあの男が、こんな子にまで手を出していたのか。

 

想像するだけで、胃が裏返りそうだった。

腑が煮えたぎって、体中の血が逆流するような感覚。

なのに目の前の少女は、今にも消え入りそうな声で言った。

 

「だ、大丈夫ですから……お構いなく……」

 

そんなわけがない。

さっき目が合ったときに見た、あの虚無の瞳を私は忘れられない。

あれは、何もされていない人間の目じゃない。

そしてあの身体──

栄養が足りていないどころじゃない。長い間、何かを奪われ続けた身体だ。

 

「大丈夫……ですから。大きい声は……やめてください……」

 

言われて、ようやく気づいた。

私の声が、怒りと焦燥で大きくなっていたことに。

 

しまった。

この子は私の怒りを、自分に向けられたものだと誤解したかもしれない。

怯えたように肩を縮めたその仕草に、胸がひどく締めつけられた。

 

「ごめん、ごめんね。怖がらせるつもりじゃない。大丈夫だから。私は怖くないから……話してごらん?」

 

できる限り柔らかい声でそう告げる。

けれど、少女は小さく首を振った。

 

「……いえないです。どうしても……言いたくないです」

 

その拒絶は、ただの意固地ではなかった。

あいつに口封じされているのか。

いや、もっと根深い、心に刻まれたものかもしれない。

 

これ以上問い詰めるのは、この子の傷口を広げるだけだ。

 

私は息を吸い、ゆっくり吐きながら、できるだけ清浄な声で言った。

 

「わかった。無理には聞かない。

でも……もし、どうしようもなくなったときは、アビドスに来て。私、そこにいるから。いつでも相談していい」

 

少女は一瞬だけこちらを見た。

その瞳に、感情らしき小さな波が揺れた。

ほんのわずかだが、心に光が差したように見えた。

 

「……はい……」

 

その返事は、か細いけれど確かに存在していた。

 

どうか、この言葉が彼女の救いになってくれればいい。

ただ、それだけを祈りながら、私は少女が去っていく背中を見つめ続けた。




ホシノってさあ、自分のことは置いておいて他人を心配するよね。そこが好き♡もっと自分を蔑ろにして削れていって♡
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