ミレニアムの秘密の研究室   作:まったり愛好家

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私からのクリスマスプレゼントです。

いつもよりも少し長めに書いています。


第三十九話 真田利●●● 短編曇らせあり

 私は昨日と同じように、ミレニアムのマップを片手に歩いていた。

 

 視線は紙面に落としているが、意識は周囲に散らしている。

 感情制御アルゴリズム部の部室は、表向きには目立たない場所にある。

 だからこそ、迷わず辿り着くにはマップが必要だった。

 

 その間も、他の生徒たちの視線は途切れなかった。

 

 すれ違いざまに一瞬こちらを見て、通り過ぎてからもう一度振り返る者。

 あからさまに足を止め、私とコピー体を交互に眺める者。

 中には、友人らしき相手に何かを囁いている生徒もいる。

 

 双子だと思われているのだろう。

 それ自体は問題ない。

 

 だが、彼女たちの視線には、単なる興味以上のものが混じっている。

 「似ている」という言葉では処理しきれない違和感。

 それを、無意識のうちに感じ取っているのかもしれない。

 

 コピー体は、相変わらず私の半歩後ろを歩いている。

 

 歩調は完全に一致。

 私が立ち止まれば止まり、私が歩き出せば同時に動く。

 

 横目で様子を窺うと、視線は前方に固定されている。

 周囲の生徒たちにも、建物にも、何の関心も示さない。

 

 このまま一日中歩き回らせても、文句一つ言わないだろう。

 

 ……いや、言えないのだが。

 

 そんなことを考えているうちに、目的地が見えてきた。

 

 感情制御アルゴリズム部の部室。

 

 昨日と同じ、言われなければ研究施設だとは気づかない扉。

 装飾も、看板もない。

 

 私は立ち止まり、一度だけ深呼吸した。

 

 昨日、話は通している。

 だが、それでも礼儀としてノックはしておく。

 

 コンコンコン。

 

 硬質な音が、静かな廊下に響く。

 

 昨日と同じく、すぐには返事がない。

 

 やはり、実験か何かに集中しているのだろうか。

 そんなことを考えながら、数秒待つ。

 

 すると、扉の向こうから、少し間延びした声が聞こえてきた。

 

「今開けるよ。待ってて」

 

 レイの声だ。

 

 その声を聞いた瞬間、肩の力が少し抜けた。

 どうやら、予定通りらしい。

 

 しばらくして、扉が開く。

 

「やあやあ、よく来てくれたね」

 

 昨日と同じ、白衣姿のレイが姿を現した。

 相変わらず髪は跳ね放題で、服には薬品の染みが残っている。

 

「入って入って」

 

 そう言って、軽い調子で手招きしてくる。

 

 私は一礼してから、中へ足を踏み入れた。

 コピー体も、何も言わずに私の後に続く。

 

 部室の中は、昨日と変わらない。

 こじんまりとした空間に、所狭しと並べられた機材。

 壁際にはモニターや配線が走り、床にはコードが這っている。

 

 だが今日は、空気が少し違った。

 

 どこか、準備された空気。

 これから何かが始まる、そんな予感が漂っている。

 

「……おっと?」

 

 レイが一歩下がり、私の後ろに立つコピー体を見て、目を細めた。

 

「もしかして、その子が件の?」

 

 興味と好奇心が、隠しきれずに滲み出ている視線。

 

「はい、そうです」

 

 私は頷き、あらかじめ用意していた答えを口にする。

 

「私の双子の妹です」

 

「ああ、なるほど」

 

 レイは納得したように頷き、私とコピー体を交互に見比べた。

 

「いやあ……それにしても、そっくりだね」

 

 視線が、顔から顔へ、細部をなぞるように動く。

 目、鼻、口。

 輪郭、姿勢、立ち方。

 

「ここまで似てる双子は、なかなか見ないよ」

 

 その言葉を聞いて、内心で小さく安堵する。

 

 よし。

 どうやら、双子設定は問題なく受け入れられたらしい。

 

「名前は、なんていうんだい?」

 

 レイが、軽い調子で尋ねてくる。

 

 名前。

 

 一瞬、思考が止まる。

 

 ……そういえば、考えていなかった。

 

 とはいえ、ここで詰まるわけにはいかない。

 私は一瞬で結論を出す。

 

 私の名前、コハク。

 同じ宝石系でいけば、違和感はない。

 

「サンゴです」

 

 はっきりと告げる。

 

「真田利サンゴ。私と同じで、宝石の名前なんですよ」

 

「サンゴか」

 

 レイはその名前を口の中で転がすように繰り返した。

 

「いい名前じゃないか。よろしくね、サンゴちゃん」

 

 そう言って、コピー体の肩を軽くポンポンと叩く。

 

 その動作に、コピー体は何の反応も示さない。

 瞬きすらせず、ただ立っている。

 

 レイは、その様子をじっと観察してから、小さく息を吐いた。

 

「……うーん。反応、なしか」

 

 その一言には、残念さと、納得が混じっていた。

 

「どうやら、昨日言ってたことは本当みたいだね」

 

「ええ」

 

 私は頷いた。

 

「見た感じ、どうにかなりそうですか?」

 

 率直に、そう聞く。

 

 レイは腕を組み、少し考え込むような仕草をした。

 

「今の段階では、なんとも言えないね」

 

 即答ではなかったが、拒絶でもない。

 

「ただ、机上であれこれ考えるより、実際に見た方が早い」

 

 そう言って、部室の奥を指さす。

 

 そこには、昨日会った三人――ユリ、サラ、ミコトが、すでにスタンバイしていた。

 

 机の上には、見慣れない装置や端末が並び、モニターには初期画面が映っている。

 

 こちらに気づいた三人は、それぞれ軽く手を振った。

 

 私はそれに応えるように、軽く手を振り返す。

 

「じゃあ、早いとこ検査しちゃおうか」

 

 レイがそう言って歩き出す。

 

 私はコピー体に視線を向け、短く指示を出した。

 

「ついてきて」

 

 コピー体は、即座に反応し、私の後に続く。

 

 部室の奥へと進みながら、胸の奥が少しだけ高鳴るのを感じていた。

 

「皆さん、おはようございます」

 

 私はそう言って、軽く頭を下げた。

 

 研究室の奥に設けられたスペースは、昨日よりも明らかに「準備された空気」を帯びていた。

 机の配置が変わり、ケーブルは整理され、いくつかの機材には既に電源が入っている。

 壁際のモニターには待機画面が映り、かすかに電子音が鳴っていた。

 

「おはようっす」

 

 最初に返ってきたのはユリの声だった。

 少し砕けた調子だが、今日はどこか真剣味が混じっている。

 

「おはようございます」

 

 サラは丁寧に、姿勢を正して挨拶を返してきた。

 昨日よりも視線が鋭く、こちら――正確には、私の隣に立つ存在を意識しているのがわかる。

 

「おはよう」

 

 ミコトは短く、それだけ言った。

 感情の起伏をあまり表に出さない彼女だが、その視線は明らかに観察者のものだった。

 

 三者三様。

 同じ挨拶でも、返し方ひとつでこれだけ印象が違う。

 

「さて、と」

 

 レイが一歩前に出て、軽く手を叩いた。

 

「早速だけど、この子の紹介を頼もうかな」

 

 そう言って、私の隣――コピー体へと視線を向ける。

 

 その瞬間、四人の意識が一斉に集まったのを感じた。

 空気が、わずかに張り詰める。

 

「わかりました」

 

 私は頷き、用意されていた椅子に腰を下ろした。

 

 コピー体は、私の横に立ったまま動かない。

 まるで、次の指示を待つ人形のようだ。

 

「座って」

 

 そう言うと、コピー体は一瞬の迷いもなく、近くの椅子に腰を下ろした。

 背筋は伸び、手は膝の上。

 姿勢まで、教科書通りだ。

 

 私はそれを確認してから、改めて口を開いた。

 

「この子は、真田利サンゴ。私の双子の妹です」

 

 その言葉が出た瞬間、レイ以外の三人の表情が、ほんのわずかに曇った。

 

 ユリはペンを握る手を止め、

 サラは唇をきゅっと引き結び、

 ミコトは目を細める。

 

 ――予想通りの反応だ。

 

 私は構わず、用意してきた説明を続ける。

 

「生まれた時から、こんな状態らしくて」

 

 声のトーンは一定に保つ。

 感情を乗せすぎても、逆に怪しまれる。

 

「自分から言葉を話したり、何か行動を起こしているところを、私は一度も見たことがありません」

 

 四人は、私とサンゴを交互に見ながら、黙って聞いている。

 

「基本的に、指示されたことしかしません。食事も、就寝も、歩行も……顔の向きですら、自分から変えることはありません」

 

 話すにつれて、空気が少しずつ重くなっていくのがわかる。

 

「今、何をしたいか。どう感じているか。そういうものを、自分から表に出すことは一切ないです」

 

 ユリの眉が、少しだけ寄った。

 

「指示した内容は、どんなものであっても実行しようとします」

 

 私は言葉を選びながら、淡々と続ける。

 

「頭を使う指示でも、複雑な内容でも、理解して実行します。指示さえすれば、一応……会話のようなものもできます」

 

 だが、と付け加える。

 

「サンゴ自身の意見とか、意思を聞いても、答えは返ってきません」

 

 ここは、何度も確認してきた点だ。

 

 今、寒い?

 暑い?

 痛い?

 楽しい?

 

 そういった、主観を必要とする質問には、沈黙か、無意味な返答しか返らない。

 

 一方で、

 

 ここは暖かい?

 冷たい?

 今、立っている?

 

 そういう、客観的に判断できる質問には、正確に答える。

 

 私は、その差を何度も試してきた。

 

「……これくらいですかね」

 

 一通り話し終え、そう締めくくる。

 

「詳しいことが聞きたい場合は、質問してくれれば答えますよ」

 

 その言葉が終わるや否や、ユリが手を挙げた。

 

「サンゴさんは、普段どうやって食事をしてるんすか?」

 

 即座に出た質問。

 それだけ、この点が気になっていたのだろう。

 

「食事……ですか?」

 

 一瞬、記憶を辿る。

 

「私が食事のたびに、『食事をして』って言うと、食べ始めますね」

 

 これは、かなり前に検証した結果だ。

 

「こう……腕の動きとか、口に運ぶとか、そういうのを一つ一つ指示するわけじゃないんすね?」

 

「ええ」

 

 私は頷く。

 

「サンゴは、指示された内容を理解して、その目的を達成するための最善策を、自分で判断して行動しているみたいです」

 

 曖昧な指示でも問題ない。

 

「あれ取って」

 

 そう言えば、状況から判断して正しいものを持ってくる。

 

 曖昧すぎる場合は、

 

「もっと具体的な指示をしてください」

 

 と、確認してくる。

 

 判断力は、確かにある。

 

「ふむふむ……」

 

 ユリはそう呟きながら、手元のメモに何かを書き込んでいる。

 

「じゃあ、完全に何もないってわけじゃなくて」

 

 ペンを走らせながら、続ける。

 

「指示に応じて最適解を判断する能力もあるし、曖昧な指示に対して確認を取る能力もある、と」

 

 一度、ペンを止める。

 

「……完全に知能が欠落してれば、ある意味わかりやすかったんすけどねえ」

 

 その言葉に、私は内心で同意していた。

 

 本当に何もできなければ、原因も特定しやすい。

 だが、サンゴは違う。

 

 できる。

 考えられる。

 判断できる。

 

 それなのに、自我がない。

 

 だからこそ、私はここにいる。

 

 ユリが再びメモを取り始める。

 

 その横で、サラとミコトも、何かを考え込むように視線を落としていた。

 

 二人とも、明らかに次の質問を探している。

 

 ――まだ、始まったばかりだ。

 

 私は、そう思いながら、静かに次の言葉を待っていた。

 

ーーー

ホシノ視点 12

 

 爆発の瞬間、世界が裏返ったように感じた。

 

 音が――来た、と思った次の瞬間には、もう“音”という概念そのものが壊れていた。

 轟音。

 閃光。

 そして、空気そのものが握り潰され、ねじ曲げられるような衝撃。

 

 鼓膜を引き裂くような圧が、思考を一瞬で吹き飛ばす。

 視界は真っ白に染まり、上下も前後もわからなくなる。

 

 ――自爆した。

 

 その理解が、遅れて、しかし確実に脳裏へ突き刺さった。

 

 背筋が凍りつく。

 血の気が一気に引き、心臓が不自然なほど強く跳ねた。

 

 情報漏洩を防ぐためか。

 捕まることを拒んだからか。

 あるいは、最初からそれを選ぶように命じられていたのか。

 

 理由は、わからない。

 考える余裕もなかった。

 

 けれど――。

 

 放っておけるはずが、なかった。

 

 爆風は、容赦なく私の身体を巻き込んだ。

 盾を展開しようとしたが、判断がほんの一瞬遅れた。

 

「――っ!」

 

 視界が回転する。

 身体が宙に浮いた感覚のあと、激しい衝撃。

 

 数メートル先へ吹き飛ばされ、地面を転がった。

 砂と瓦礫が容赦なく全身を叩きつけ、息が肺から押し出される。

 

 呼吸が、うまくできない。

 喉が焼けたように痛み、咳き込むたびに砂の味がした。

 

 腕が、熱い。

 じりじりと、焼けるような痛み。

 

 ようやく身体を起こすと、自分の制服が黒く焦げているのが見えた。

 袖口は煤にまみれ、ところどころが溶けたように縮れている。

 

 髪も、一部が焼けていた。

 指で触れると、ぱらりと崩れる感触がして、胸の奥がひくりと震える。

 

 ――でも。

 

 そんなことは、どうでもよかった。

 

 本当に、どうでもよかった。

 

「……あの子は……?」

 

 声が、自分のものとは思えないほど掠れていた。

 

 胸が激しく脈打つ。

 呼吸が浅く、速くなる。

 

 それを無理やり押さえ込み、私は立ち上がった。

 痛みを気にしている余裕はない。

 

 爆心地へ。

 

 ただ、それだけを考えて、走り出した。

 

 まだ熱を帯びている瓦礫を踏み越える。

 靴底から、じんわりと嫌な感触が伝わるが、構わず進む。

 

 煙が立ちこめ、視界は悪い。

 白と灰色が混ざった世界の中で、咳き込みながら進む。

 

「……お願い……」

 

 誰に向けた言葉なのかも、わからないまま。

 

 心臓が、痛いほどに鳴る。

 嫌な予感が、胸の奥で膨れ上がる。

 

 そして――。

 

「……え……?」

 

 思わず、声が漏れた。

 

 爆心地。

 焼け焦げた地面の中央。

 

 そこに、横たわっていた。

 

 ――あの子が。

 

 白い髪は、煤に汚れ、ところどころが黒くなっている。

 小さな身体は、ぴくりとも動かない。

 

 一瞬、時間が止まったように感じた。

 

 頭の中が、真っ白になる。

 思考が、音を立てて崩れ落ちる。

 

「……嘘……」

 

 足が、震える。

 一歩踏み出そうとして、力が入らない。

 

 さっきまで。

 ほんの、数十秒前まで。

 

 確かに、そこに立っていた。

 言葉を交わしていた。

 迷って、悩んで、それでも生きていた。

 

 それが――。

 

「……なんで……」

 

 声が、喉の奥で消えた。

 

 私は、ゆっくりと近づいた。

 一歩ずつ、慎重に。

 

 爆風の余熱が、まだ空気に残っている。

 その中で、彼女は静かに横たわっていた。

 

 小さな身体。

 あまりにも、細い腕。

 

 ――守りたかった。

 

 そんな言葉が、遅すぎる後悔として胸を締めつける。

 

 もっと早く気づけていたら。

 もっと強く、止められていたら。

 

 違和感に気づいた時点で、無理にでも拘束していれば。

 話を聞こうなんて、悠長なことを考えていなければ。

 

 後悔が、波のように押し寄せる。

 

 私は、膝をついた。

 焼けた地面の熱が伝わるが、それすら感じない。

 

「……起きて……」

 

 声は、震えていた。

 

「……お願いだから……」

 

 返事は、ない。

 

 煙の中、世界は静まり返っている。

 さっきまでの銃声も、爆音も、嘘だったかのように。

 

 ただ、焦げた匂いと、重い沈黙だけが残っていた。

 

 胸の奥が、きりきりと痛む。

 

 ――放っておけるわけが、なかった。

 

 それなのに。

 

 私は、間に合わなかった。

 

 その現実だけが、重く、残酷に、そこにあった。

 

 ――さっきまで、言葉を交わしていた少女。

 

 ほんの少し前まで、息をして、考えて、迷って、こちらを見ていたはずの存在。

 

 けれど今、私の腕の中にあるそれは、もう“人の形”として認識するのが難しいほどに、崩れていた。

 

 服はどこにも見当たらない。

 装備だったものは原形を失い、無意味な金属片として周囲に散らばっている。

 熱と衝撃に晒された身体は、どこからどこまでが“彼女”だったのか、視線を向けるだけで胸が締めつけられた。

 

「……こん、な……」

 

 声を出そうとしたが、喉が震えて音にならない。

 言葉が、頭の中で砕け散る。

 

 生きている――のか?

 

 いや。

 そんな希望を口にすること自体が、残酷に思えた。

 

 目の前の現実は、あまりにも明白で、あまりにも取り返しがつかない。

 

 私の腕は、無意識に彼女を抱え上げていた。

 軽すぎる。

 信じられないほど、軽い。

 

 まるで――最初から、そこに何もなかったかのような感覚。

 

「……っ……」

 

 歯を食いしばる。

 目の奥が熱くなり、視界が滲む。

 

 違う。

 泣いている場合じゃない。

 

 まだ、終わっていない。

 終わらせてはいけない。

 

「ホシノ先輩!!」

 

 遠くから、ノノミちゃんの声が聞こえた。

 

「大丈夫ですか!? ホシノ先輩!!」

 

 私は振り返らなかった。

 振り返れなかった。

 

 代わりに、腕の中の少女を、無言で掲げるようにして見せた。

 

「……ノノミちゃん……」

 

 声は、かろうじて形を保っていた。

 

「この子が……この子が……」

 

 言葉の続きは、喉で詰まった。

 

 ノノミちゃんは一瞬、状況を理解できていないようだった。

 だが、次の瞬間、彼女の表情が凍りつく。

 

「……っ……」

 

 息を呑む音。

 

「……これは……」

 

 一瞬だけ、判断が遅れる。

 だが、すぐに顔を上げた。

 

「……急ぎましょう!!」

 

 声は震えていたが、迷いはなかった。

 

「医務室に!! 今すぐ!!」

 

 私たちは言葉を交わすことなく、動き出した。

 

 ノノミちゃんと二人で、できる限り揺らさないように、慎重に。

 それでも、走らなければならない。

 

 校舎へ向かう通路は、異様なほど長く感じられた。

 一歩進むたびに、腕の中の“重さ”が、現実を突きつけてくる。

 

 床に、赤い跡が残る。

 それは線となり、点となり、途切れながらも確かに続いていた。

 

 消えない。

 消えてくれない。

 

「……お願い……」

 

 誰に向けた言葉なのか、自分でもわからなかった。

 

「……お願いだから……」

 

 足がもつれる。

 呼吸が乱れる。

 

 医務室の扉が見えた瞬間、胸の奥にわずかな希望が灯る。

 だが同時に、その希望があまりにも小さく、脆いことも理解していた。

 

 ――間に合うのか?

 

 ――本当に?

 

 ――まだ、間に合うと言っていいのか?

 

 答えは、どこにもなかった。

 

 ただ、走るしかなかった。

 腕の中の現実を、否定し続けるために。

 

 床に残った赤い線は、

 私たちがどれだけ必死だったかを、

 そして、どれだけ絶望的だったかを、

 無言で語り続けていた。

 




ホシノちゃん!救いたかった子が!頭から離れなかった子が!後輩を元気付けた子が!ホシノちゃんが余裕ぶってのんびりしてたせいで自爆しちゃった‼︎‼︎

助かるかな?助かるかな?

こんなボロ雑巾みたいになって、息もしてないし血が止まらないのに助かるのかな?

楽しみだねホシノちゃん‼︎

ってことで、19話の後半で書かれていたホシノ視点のリメイク…ていうか強化バージョンです。

救えなかった小鳥遊ホシノ(2回目)を思う存分かけて、私はもう素晴らしくいい気分ですよ。

これです!これを描きたいがためにホシノ視点を描き始めたのですよ。

19話の後半に書いてある、あんなちょびっとのホシノちゃんじゃあ満足できなかったんですよね。

でも、皆さんも嬉しいですよね⁉︎間違えて救えなくて絶望して後悔したホシノちゃんを未ねるんですから‼︎

この話が気に入ったよって方は、ぜひお気に入り登録、高評価、コメントの方を何卒よろしくお願いします。

ついでにお知らせです。私は年明けまで休みますので、1月1日まで更新はありません。ご了承ください。良いお年を。
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