ミレニアムの秘密の研究室   作:まったり愛好家

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第四十七話 シンクロニシティ 短編あり 

「あー、まあ大体わかったよ」

 

レイが、張りつめていた空気をそっと緩めるように、わざと軽い調子で言った。

それは、話の内容を軽く受け流したというよりも、この場に漂っていた重苦しさを、これ以上深刻な方向へ転がさないための、彼女なりの配慮のように見えた。

 

彼女は肩をすくめ、いつものように少しだけ口角を上げる。

 

「ちょっと予想外にバイオレンスだったけど……まあ、それよりもだ」

 

そう言って、話題を意図的に切り替える。

 

「その“謎のシンクロ現象”が気になるね」

 

レイはそう前置きしてから、私の方をちらりと見て、今度は慎重に言葉を選ぶように続けた。

 

「……頭、触ってもいい?」

 

さっきまでの軽薄さは影を潜め、どこか実験者としての真剣な眼差しがそこにあった。

無断で触れることはしない、という最低限の礼儀と、今しがた自分が殴られたことへの学習成果が、ちゃんと反映されているらしい。

 

「いいですよ」

 

私は即答した。

拒む理由はないし、どうせ隠しても意味はない。

 

「ありがとう」

 

レイはそう言ってから、一歩近づく。

距離を詰める動きはゆっくりで、まるで警戒心の強い小動物に近づくかのようだった。

 

指先が、私の髪にそっと触れる。

髪をかき分ける動作は慎重で、爪が地肌に触れないよう細心の注意を払っているのがわかる。

 

「……うーん」

 

観察するように、小さく唸る。

 

「ちなみにさ」

 

彼女は視線を私の頭部に固定したまま、少しだけ声を落として聞いてきた。

 

「どうやって、耳を取ったんだい?」

 

恐る恐る、といった調子だった。

聞きたいが、聞くのが怖い。そんな逡巡が、声色ににじんでいる。

 

「どうって……」

 

私は特にためらいもなく答える。

 

「シンプルに、サバイバルナイフでズバッといきました」

 

言葉を選ぶこともしなかった。

それが事実だったからだ。

 

一瞬、レイの顔がぴくりと引きつる。

眉間にしわが寄り、口元がわずかに歪んだ。

 

「……痛そーだね」

 

絞り出すような感想だった。

 

「まあ、痛かったですね」

 

私は淡々と返す。

痛かった、という事実は否定しない。

けれど、それ以上でも以下でもなかった。

 

「じゃあ……尻尾も、同じように切ったの?」

 

レイは指を引っ込め、今度は少し距離を取った状態で尋ねてきた。

その声には、さっきよりもはっきりとした警戒心が混じっている。

 

「尻尾は、骨が入ってるんで」

 

私は少し考えてから、説明するように言った。

 

「ナイフじゃ全部切れないんですよ。だから、まず皮膚と筋繊維をナイフで切ってから、鋸で骨を切りました」

 

その瞬間、レイの表情はさらに険しくなった。

顔色がわずかに悪くなり、唇がきゅっと結ばれる。

 

「……そう、か」

 

一拍置いて、彼女はそう呟いた。

 

「なんと言うか……すごいね。それ」

 

感心とも呆然ともつかない口調だった。

 

「私だったら、怖くてできないと思う」

 

「私は……」

 

私は少しだけ視線を逸らしながら答える。

 

「痛みとか、そういうのに慣れていたので。あまり、そういう恐怖はなかったですね」

 

嘘ではない。

痛みは感じる。

けれど、それが行動を止める理由になることは、私にはほとんどなかった。

 

レイは私をじっと見つめていた。

観察するようでもあり、探るようでもあり、どこか困惑しているようでもある。

 

――この人は、何を確かめたいんだろう。

 

質問の表層は理解できる。

だが、その奥にある本質が、どうにも掴めない。

 

「……じゃあさ」

 

レイは気を取り直すように、今度はサンゴの方へ視線を移した。

 

「サンゴちゃんの頭も、見ていいかい?」

 

「いいですよ」

 

私がそう言うと、レイは再び一歩踏み込み、今度はサンゴの前に立つ。

 

サンゴは指示がない限り、微動だにしない。

視線も表情も変わらず、ただそこに“置かれている”ような状態だった。

 

レイはサンゴの髪を分け、私の時と同じように、慎重に頭部を確認する。

 

「……」

 

しばらく無言で観察した後、レイは小さく息を吸った。

 

「コハクちゃんの断面と……そっくりだね」

 

そう言って、私とサンゴを交互に見比べる。

 

「いや、“そっくり”って言うより……」

 

言葉を探すように一度止まり、

 

「全く同じだ。コピペしたみたいに」

 

レイは、半ば呆然とした様子でそう断言した。

 

「本当に、同じ断面だよ。位置も、形も、切断面の状態も」

 

その声には、研究者としての純粋な興奮が混じっていた。

 

「一体、どういう現象なんすかね」

 

ここで、さっきまで沈黙を守っていたユリが、ようやく口を開いた。

顎を掻きながら、困惑と好奇心が入り混じった表情をしている。

 

「……多分、情報量が多すぎて、整理に時間かかってたっす」

 

苦笑しながら、そう付け加える。

 

ミコトも、サラも、同じだったのだろう。

二人とも、今になってようやく思考が現実に追いついてきたような顔をしている。

 

「双子の……シンクロニシティ……」

 

ミコトが、ぽつりと呟いた。

独り言に近い声だった。

 

「一卵性双子の体や精神に、同時刻に同様の変化が見られる現象ですね」

 

すぐに、サラが補足するように説明を始める。

 

「世界中で確認されています。例えば、片方の体に傷ができると、もう片方の体の同じ場所に、理由不明の痣やミミズ腫れができる、といった報告があります」

 

落ち着いた口調で、淡々と。

知識として整理された情報を、そのまま提示する。

 

「でも……」

 

ユリが首を傾げる。

 

「聞いた感じ、欠損レベルの変化が共有されるって話は、あんまり聞かないっすね」

 

「そうですね」

 

サラも頷く。

 

「通常は、感覚的なものや、軽微な外傷に留まることが多いです」

 

「まあまあ」

 

そこで、レイが手を叩くようにして、場をまとめにかかった。

 

「キヴォトスだよ?ここ」

 

楽しげに笑いながら言う。

 

「何が起こっても不思議じゃない。双子の欠損がシンクロしても、まあ“そういうこともある”で済ませていいんじゃないかな」

 

「それで済ませちゃうのは、さすがに雑すぎるっすよ……」

 

ユリが呆れたように返す。

 

「――真面目な話をするとさ」

 

レイは一度、軽く咳払いをしてから背筋を伸ばした。

さっきまでの軽口や冗談めいた雰囲気は消え、感情制御アルゴリズム部の部長としての顔が、はっきりと表に出ている。

 

「私はね、コハクちゃんとサンゴちゃんの異様な一致率には、何かしらのカラクリがあると思ってる」

 

そう言いながら、レイはくるりと踵を返し、ホワイトボードの前に立った。

キュッ、とマーカーのキャップを外す音が、やけに大きく部室に響く。

 

白い板に、迷いのない筆致で文字が書き連ねられていく。

 

「身長――同じ」

 

一行目を書き、間を置かずに次。

 

「体重――おそらく同じ」

 

さらに続けて、

 

「骨格、同じ。筋肉のつき方、同じ」

 

テンポよく、しかし雑ではない。

一つ一つの文字が整っていて、読みやすい。

 

……この人、案外字が綺麗だな。

 

そんな、どうでもいい感想がふと頭をよぎる。

 

「髪質、同じ。髪色、同じ。毛量、同じ」

 

マーカーの先が止まることはない。

 

「前髪の分け目、同じ。寝癖の跳ね方、同じ」

 

そこまで書いてから、レイは一歩引いてボード全体を見渡した。

 

「――ここまで一致する?」

 

そう言って、肩越しにこちらを振り返る。

 

部室の照明を反射して、ホワイトボードがやけに白く眩しい。

そこに並ぶ箇条書きは、改めて見ると異常なほどだった。

 

「っていうかさ」

 

ミコトが、腕を組んだまま私たちを交互に見て言った。

 

「目の色以外、全部同じように見えるんだけど」

 

淡々とした声だったが、その視線は鋭い。

観察眼の鋭さは、さすがと言うべきか。

 

「――そのことなんだけどさ」

 

レイはマーカーを置き、こちらに歩み寄ってきた。

数歩の距離が、やけに長く感じる。

 

「サンゴちゃん」

 

穏やかな声で呼びかける。

 

「それ、カラコンだよね?」

 

一瞬、空気が止まった。

 

……ああ、やっぱりバレてたか。

 

「えっと……」

 

私は一瞬だけ言葉を選んでから、観念したように肩をすくめた。

 

「そうですね。カラコンです」

 

取り繕う意味はない。

外で目立たないためにつけただけのものだ。

至近距離で、しかも研究者の目で見られれば、気づかれて当然だろう。

 

「だよね」

 

レイは特に驚いた様子もなく、むしろ納得したように頷いた。

 

「じゃあさ」

 

今度は、私の正面に立つ。

視線が、まっすぐにぶつかる。

 

「サンゴちゃんの本当の目の色って、コハクちゃんと同じなんじゃない?」

 

追及というより、確認。

だが、曖昧な答えは許されない、そんな圧があった。

 

「……あたりです」

 

私は、少しだけ口元を緩めて答えた。

 

「私とサンゴは、目の色も同じです」

 

「……では」

 

サラが、少し戸惑ったように口を開く。

 

「お二人は、本当に……全く同じ、ということですか?」

 

言葉を選びながら、慎重に。

 

「双子とはいえ……そこまで一致するのは、さすがに……」

 

「すごい、ですよね」

 

感心と困惑が入り混じった声だった。

 

「いや、すごいなんてレベルじゃない」

 

レイが、少し興奮した様子で言葉を重ねる。

 

「これはもう、奇跡に近い」

 

指で空をなぞるようにしながら、語気が強まっていく。

 

「ここまで完全に一致するなんて、双子って枠じゃ説明が――」

 

そこまで言いかけて。

 

「――……」

 

レイは、突然言葉を失った。

 

口を半開きにしたまま、ぴたりと動きを止める。

まるで、自分の発した言葉に、今さら気づいたかのように。

 

「……」

 

視線が、ゆっくりと床に落ちていく。

次第に、額にうっすらと汗が滲み始めた。

 

「……レイ?」

 

サラが、心配そうに声をかける。

 

「だ、大丈夫っすか……?」

 

ユリも、様子をうかがうように一歩近づいた。

 

しかし、レイは答えない。

顎に手を当て、深く考え込むように俯いたままだ。

 

部長のあまりに急な変化に、サラとユリは完全に状況を飲み込めていない様子だった。

二人とも、体調不良か何かだと思っているのだろう。

 

だが。

 

久遠ミコトだけは違った。

 

彼女は、レイと同じ場所を見ている。

いや、同じ結論に辿り着いた、と言った方が正しい。

 

ミコトの視線が、私とサンゴを射抜くように鋭くなる。

 

その目つきは、どこか――

どこかで見たことがあるものだった。

 

冷静で、警戒心が強く、感情を内に押し殺した獣のような眼。

 

……砂狼シロコを、思い出させる目だった。

 

部室には、説明のつかない沈黙が落ちた。

 

ーーー

ホシノ視点 15

 

私は、自分が誰かに利用されるのが大嫌いだ。

それは昔から変わらない。

命令されること、役割を押し付けられること、選択肢を奪われること。

それらすべてが、どうしようもなく嫌いだった。

 

けれど――それと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に。

誰かが、誰かに利用されているのを見るのが嫌いだ。

 

自分のことよりも、そっちのほうが、ずっと耐え難い。

 

「……そうですね」

 

コハクちゃんは、私の視線を受け止めたまま、静かに言った。

声は落ち着いていて、揺れはない。

まるで、すでに何度も自分に言い聞かせてきた言葉のように。

 

「対価はあります。ですが――答えることはできません」

 

はっきりと、断言するような言い方だった。

 

「……なんで?」

 

思ったより、声が低く出た。

責めるつもりはなかったはずなのに、自然とそんな響きになってしまう。

 

信用されていないのか。

それとも、話せないほどの契約なのか。

 

――もし、私が信用されていないだけだったら。

 

胸の奥に、ちくりと小さな痛みが走った。

それは怒りでも悲しみでもなく、もっと曖昧で、言葉にしにくい感情だった。

 

私は、目を逸らさなかった。

コハクちゃんの表情を、一つも見逃したくなかった。

 

白い髪が風に揺れ、頬にかかる。

その小さな仕草一つ一つが、妙に現実感を伴って胸に迫る。

 

コハクちゃんは、少しだけ息を吸ってから、口を開いた。

 

「……だって」

 

一瞬の間。

それは、躊躇というより、言葉を選ぶための沈黙だった。

 

「話したら、放っておいてくれないじゃないですか」

 

――予想外だった。

 

思わず、言葉を失った。

反論も、否定も、すぐには出てこなかった。

 

放っておかない。

確かに、その通りだった。

 

私は、無意識のうちに拳を握りしめていた。

指先に力が入る。

爪が掌に食い込む感触が、やけに生々しい。

 

ここまで関わってしまった。

偶然の出会いなんて、とっくに言い訳にもならない。

 

コハクちゃんが、どんな子かも知ってしまった。

電車の中で、俯いて震えていたこと。

見知らぬ相手を、何の見返りもなく励ましていたこと。

自分の痛みを後回しにして、他人を優先してしまうこと。

 

そして――

自分自身のことを、驚くほど軽く扱ってしまうところも。

 

そんな子が、今。

あの男と契約を結び、何かを差し出している。

 

その「対価」が、どんなものであれ。

私は、知ってしまったら、きっと止まらない。

 

止まれない。

 

助けようとするだろう。

引きずり出そうとするだろう。

たとえ本人が望まなくても、手を伸ばしてしまう。

 

それを、コハクちゃんは分かっている。

 

だからこそ、言わない。

だからこそ、隠す。

 

「……」

 

喉の奥が、きゅっと締め付けられた。

胸が、苦しい。

 

それはつまり――

私が知れば、動いてしまうことを前提にしている、ということだ。

 

そしてそれは同時に、

動かれたら困るほど、

見過ごせないほど、

「対価」が重いということでもある。

 

「……」

 

風が吹いた。

体育館裏の影が、ゆっくりと形を変える。

砂が舞い、空気がざらつく。

 

私は、何も言えなくなっていた。

怒鳴ることもできない。

説得することもできない。

 

だって――

この子は、私の性格を、私以上に理解している。

 

その事実が、胸に重くのしかかっていた。

 

利用されるのが嫌いだ。

利用するのも嫌いだ。

 

でも、守りたいと思ってしまった瞬間から、

もう、同じなのかもしれない。

 

胸の奥が、ぎゅう、と強く締め付けられる。

息を吸うのが、少しだけ苦しい。

 

私は、コハクちゃんから目を離さずに、ただ立ち尽くしていた。

 

「……そうだね」

 

私は、思わず苦笑するようにそう返した。

喉の奥がひりつくのを誤魔化すみたいに、口角を少しだけ上げる。

笑顔――その形をなぞることだけは、昔から得意だった。

 

胸の内側では、不安が渦を巻いていた。

底の見えない沼みたいに、静かで、重くて、足を取られる感覚。

それを表に出さないように、表情という薄い膜で覆い隠す。

 

「君が、どんな対価を求められているのかは……正直、わからないけどさ」

 

言葉を選ぶたびに、舌が重くなる。

一歩踏み込めば壊れてしまいそうな何かを、慎重に避けながら話している感じだった。

 

乾いた風が吹き抜け、体育館裏の壁に積もった砂埃をさらっていく。

ひび割れたコンクリートの隙間から伸びた雑草が、かさりと音を立てて揺れた。

 

「多分ね」

 

私は、少しだけ視線を落として続けた。

 

「私は、助けようとすると思うんだ」

 

淡々とした声だった。

感情を抑え込んで、事実だけを並べるような口調。

自分自身の性質を、第三者みたいに説明する。

 

それは決意でも宣言でもなく、ただの確認だった。

“私はそういう人間だ”という、逃げようのない事実の確認。

 

「でも……それって」

 

一拍、間を置く。

胸の奥が、きゅっと締め付けられる。

 

「君にとっては、迷惑なんだよね」

 

口にした瞬間、言葉が自分自身に返ってきた。

鋭くも鈍い、嫌な感触。

 

自分で言っておきながら、情けなくて仕方がなかった。

助けたいと思うことすら、相手にとっては重荷になる。

その現実が、ずしりと胸にのしかかる。

 

――私は、頼りないわけじゃない。

 

それなりに戦えるし、判断もできるし、経験もある。

それでも。

 

頼り“にくい”。

 

近づくと厄介なものを背負わされる。

放っておいてくれない。

巻き込む。

余計なことをする。

 

そういう存在だという自覚が、今さらながら突き刺さる。

 

「……」

 

砂を踏む音が、やけに大きく響いた。

自分の心音が、耳の奥でどくどくと鳴っている。

 

その沈黙を破ったのは、コハクちゃんの声だった。

 

「迷惑……ではありませんよ」

 

その声は、驚くほど柔らかかった。

否定でも、拒絶でもない。

静かで、落ち着いていて、それでいて、どこか気遣うような響き。

 

私は、思わず顔を上げた。

 

コハクちゃんは、ほんの少しだけ目を細めていた。

さっきまでの張りつめた雰囲気が、わずかにほどけている。

 

「でも」

 

そう前置きしてから、彼女は続ける。

 

「あんまり、関わってほしくはないです」

 

その言葉は、刃物みたいに鋭くはなかった。

けれど、はっきりとした境界線を引く力を持っていた。

 

「多分……ろくなことにならないので」

 

自嘲でも恐怖でもない。

どこか達観したような、諦めに近い声音。

 

私は、その言葉を噛みしめる。

 

ろくなことにならない。

それは、彼女自身のことだけを指しているわけじゃない。

 

私たちが関われば、私たちまで巻き込まれる。

そう理解しているからこそ、距離を取ろうとしている。

 

「……優しいなあ」

 

思わず、そんな言葉がこぼれた。

 

自分のことより、周りのことを考えている。

それを当然のようにやってのけるのが、この子なんだ。

 

「心配してくれてるんだね」

 

私は、少しだけ表情を緩めて言った。

笑顔というより、ようやく力を抜いた顔。

 

迷惑ではない。

でも、関わってほしくない。

 

その矛盾した言葉の裏にあるものが、痛いほど伝わってくる。

 

「一応……」

 

コハクちゃんは、少しだけ視線を逸らしてから、付け加えた。

 

「勘違いとはいえ、二回も慰めてもらっているので」

 

その言い方が、なんだか照れ隠しみたいで。

私は、はっとしてから、思い出したように息を吐いた。

 

「ああ……」

 

オフィス街で。

電車の中で。

 

虚ろな目をした小さな少女。

何かに怯えながら、それでも誰かを気遣っていた姿。

 

「そっか……二回も、か」

 

胸の奥に、じんわりと温かいものが広がる。

それと同時に、どうしようもない後悔も混じっていた。

 

風が、足元の砂をさらっていく。

乾いた音を立てて、粒子が転がり、どこかへ消えていく。

 

短い沈黙。

その間に、空気がゆっくりと落ち着いていくのを感じた。

 

やがて、コハクちゃんが顔を上げる。

 

その眼差しは、まっすぐだった。

敬意を払うような、そして――驚くほど純粋な目。

 

「それに」

 

一拍置いて、彼女は言った。

 

「あなたの在り方は……結構、好きですよ」

 

その言葉は、飾り気がなくて。

計算も、打算もなくて。

 

ただ、事実をそのまま差し出すみたいに、そこにあった。




ホシノ視点の肝っていうか、私が思う面白い場所は、ホシノがコハクを誤解してることがと思うんですよ。

コハクって私のイメージでは、結構中途半端なんですよ。

再生能力が覚醒して、恐怖心とかためらいとかが薄れて行ってて、結構ぶっ飛んでる。

カイザー理事や黒服と多く接したことで、倫理観とかがちょっとなくなってきてる。

けど根底には、青春に憧れを持ったちょっと怖がりでめんどくさがりの女の子がいるから、時と場合で心象が大きく違うんです。

中途半端ゆえに、小鳥遊ホシノを突き放せないし許容できない。

でも憧れというか慕ってはいるので、そこだけ切り取って見てるホシノは、コハクが自分を慕ってくれてるめっちゃいい子に見えるってわけですよ。

そこの入れ違いが面白いって個人的には思ってますね
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