ミレニアムの秘密の研究室   作:まったり愛好家

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最近一層寒さが増して布団が気持ち良くなってまいりました。


第五話 共同研究者

「……は?」

 

ぽつりと漏れたその一言は、驚愕というより思考停止に近かった。

目の前で粉々に砕け散った自分のバリア。その破片の向こうで、会計――ミレミアムのセミナー会計である彼女は、目を大きく見開いたまま硬直していた。

 

無理もない。

ただバリアが破られたのならまだわかる。

だが、銃で殴られて割れた となれば話は別だ。

 

そう、今の私は撃ったわけではない。

握った銃身ごと振りかぶり、そのままバリアを叩き割ったのである。

私の愛銃は単発式。撃つたびに再装填の時間がかかるし、そもそも弾薬は――

 

一発三千円。

 

そんな高価な弾、無駄撃ちなんてできるはずがない。

だから接近できたなら、撃つより殴る方が圧倒的に効率がいい。

自然とこうした戦闘スタイルに落ち着いたのは、むしろ合理的とすら言えた。

 

呆気にとられたままの会計へ、私はすっと銃口を向けながら言う。

 

「私の勝ちですね?」

 

「……え? あ、あぁ……そうね……」

 

魂がちょっと遅れて体に戻ってきたような生返事だったが、勝ちは勝ち。

これで、私は――

“美甘ネルに届き得る存在だと認めてもらえたはず”

そう確信しかけた、その時。

 

「ねえ、今のどうやったの? 私の目が確かなら、バリアを叩き割ったように見えたんだけど」

 

瞬きもそこそこに、会計が距離を詰めてくる。

興味と恐怖がないまぜになったような目だった。

 

「どうやったって……こうして(銃を振りかぶる)こうです(振り抜く)」

 

ブオン、と空気が揺れる。

その様子を見て、会計は額を押さえた。

 

「どんな馬鹿力なのよ……私のバリア、対物ライフルでも一発は耐えられるはずなんだけど」

 

「ふっふっふ。甘いですよ会計。銃殴打は銃発砲より強いんです。

私は神秘研究の一環で身体を鍛えているので、防弾シールドだろうと戦車の装甲だろうと、ぶっ叩けば壊せます。」

 

「えぇ……(ドン引き)なんで神秘の研究でそんな馬鹿げた身体能力が必要なのよ……」

 

想定どおりの反応だった。

少しだけ説明を省略して話す。

 

「簡単に言うと、身体能力と神秘総量って比例関係にあるんですよ。体を鍛えれば神秘が増える。だから鍛えてるんです」

 

もちろん、厳密には比例ではない。

身体能力が低くても神秘量が多い例はある。

だが――身体能力が高くて神秘量が少ない例は見つかっていない。

 

つまり、

 

『神秘総量は、その生徒の身体能力以下にはならない』

 

そういう仮説が立てられるのだ。

鍛え始めてから神秘量が目に見えて増加したこともあり、この理論には十分な根拠があった。

 

「なるほどね。研究するなら自分の体で試すのが一番早いし……合理的だわ」

 

会計は感心したように頷き、そして時計を確認すると、少し焦った様子で鞄を手に取った。

 

「ごめんね、予定詰まってて……今日はここまでにしましょ」

 

「あ、はい。ありがとうございました」

 

会計は階段へと向かい、足早に姿を消していった。

忙しい中で研究室選びを手伝ってくれたのだから、感謝しなければならない。

 

私は訓練場予定地の写真をいくつか撮り、寸法を記録してからミレミアムを後にした。

 

 

◆帰り道、そしてメイド喫茶

 

せっかくの入学祝いだし、とトリニティの有名メイド喫茶へ立ち寄る。

C&Cのメンバーが当番で来ることもあると聞いていたが、今日は見当たらない。

 

代わりに――

正義実現委員会の副部長が、スイーツを爆食いしていた。

 

その迫力にちょっと引きつつ、私はパフェを食べ、帰り用のモンブランを二つ注文した。

黒服さん――研究協力者が大好きなので、お土産だ。

 

ドライアイスを詰めてもらい、電車に揺られること一時間半。

アビドスのオフィス街に着く。

 

砂漠に呑まれつつあるこの街も、オフィス街周辺だけはまだ健在で、夜景がガラスに反射して美しかった。

 

 

◆黒服さんのオフィスへ帰宅

 

大きなビルに入り、エレベーターで20階へ。

ロボ市民たちと軽く挨拶を交わしながら、廊下を歩き、自室のドアを開ける。

 

「黒・服・さ・ん・、ただいま帰りました〜!」

 

「おや、真田利さん。高校入学おめでとうございます。思ったより早いお帰りですね」

 

黒服姿の人型の異形。

いつも通りの落ち着いた声だった。

 

「研究室予定地がすぐ見つかりまして! だから早く戻れたんですよ」

 

「見つかったのですか、それはよかった。ようやく腰を据えて研究できますね」

 

「いやー……でも、すぐに使えるわけじゃないんですよ〜」

 

荷物を片付けながら説明する。

 

「研究室予定地、ミレミアムの地下訓練場跡なんですけど……とにかく広くて汚いんですよ。掃除だけで1か月はかかりそうで」

 

黒服さんはコーヒーを一口飲み、静かに聞いてくれていた。

 

「清掃業者……では予算が足りませんね。何か策が?」

 

「なんと! C&Cに無料で頼めるかもしれないんです!」

 

上着を脱ぎながら言うと、黒服さんは片眉を上げた。

 

「無料で? 弱みでも?」

 

「違いますよ〜。C&Cの部長、バトルマニアらしくて。模擬戦で善戦すればタダで依頼受けてくれるらしいんです!」

 

黒服さんはクッキー袋を開けようともがいている。

固いらしい。

代わりに開けてあげた。

 

「それは運がいい。あなたなら、よほどの相手でなければ善戦どころか圧勝でしょう」

 

「ですよね? せっかくだから戦闘データも取りたいので……3D録画のコンタクト貸してくれません?」

 

水筒をすすぎながらお願いすると、黒服さんは目を細めた。

 

「いくらあなたの頼みでも、タダでは――」

 

「はいはい、こうなると思って“これ”買ってきてますから」

 

袋からモンブランを取り出す。

 

「クックック……扱いを心得てきましたね。いいでしょう。貸してあげます。ただし、データはこちらにも渡してもらいますが」

 

「もちろん。最初からそのつもりですよ」

 

私はクッキーを一つつまみながら、今日ぶんの神秘量データを測定したコンタクトを外し、黒服さんに渡した。

 

黒服さんは丁寧に受け取り、すぐ分析用端末へ繋ぐ。

 

「では私は風呂入れてきますね〜。気になることがあれば言ってください」

 

「風呂なら、もう沸かしてありますよ」

 

「ほんとですか!? じゃあ入ってきまーす!」

 

足取り軽く浴室に向かう。

 

 

黒服、データ解析中

 

「さて……今日のデータに何か変わりは……ん? これは?」

 

黒服さんの指が止まった。

 

「この制服……救護騎士団? 画像解析……鷲見セリナ……。ふむふむ、献身的で信頼も厚い……なるほど。特に変わった点はない…なのに妙に神秘量が異様に多いですね。小鳥遊ホシノには及びませんが、それでも相当……」

 

 

十分後。

 

「お風呂あがりました〜!」

 

「ちょうどいいところです。真田利さん、少し気になることがありまして。お時間をいただけますか?」

 

タオルで髪を拭きながら近づく。

 

「大丈夫ですよ。どうしました?」

 

黒服さんはディスプレイをこちらへ向ける。

 

「今日の測定記録に、不自然な点がありまして。この生徒、神秘量が異常に高い。ですが、調べた限り突出した実績はなし……普通の生徒です」

 

「……ほんとだ! 優秀だけど特別じゃない。なのに神秘がこんなに多いなんて……確かに変ですね」

 

“神秘の最低保証の法則”。

私が発見した、神秘量に関する重要な理論。

能力値が高いほど神秘量も上がり、逆に言えば、能力値が平均的なのに神秘量が多ければ何かしら突出した才を持つ。

 

だが鷲見セリナは――

そのどちらにも当てはまらない。

 

これは調べる価値がある。

 

「明日の用事が終わり次第、トリニティに調査に行ってきます。黒服さん、何かついでに調べてほしい人います?」

 

「では……可能なら、正義実現委員会委員長――剣先ツルギのデータも」

 

「めちゃくちゃ難しいと思いますけど、努力はしますね」

 

「ありがとうございます」

 

黒服さんは席を立ちつ。

 

「では、そろそろ晩御飯にしましょう。私は新作のパスタが出たらしいので食べにいってきますね」

 

「いいですね。黒服さんって洋食好きですよね〜。好きなお菓子もモンブランとクッキーだし」

 

「……そういえばそうですね。和食と中華は、食べた記憶がありません」

 

「何か理由でも?」

 

「私は飲食が必要ではありませんから、食べ物は嗜好品です。自然と洋食が多くなるのでしょう」

 

なるほどね。

必要じゃないからこそ、好みが偏るのか。

 

「では私は行ってきますね。帰るのは遅くなると思うので、先に寝てて構いませんよ」

 

「はい。お気をつけて」

 

扉の閉まる音が響き、コハク静かにひとりごちる。

 

「さて……私もいただきますか」

 

そして――

 

 

このあとめちゃくちゃデリバリー寿司食べた。

 




黒服同居人概念入れたかっただけです
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