ミレニアムの秘密の研究室   作:まったり愛好家

6 / 78
ネルってどんなに強い攻撃でも、一発目はしたり顔で受けてそうだよね。


第六話 美甘ネル激突

ミレニアムの敷地は、早朝特有の白い霞に包まれていた。まだ太陽は校舎の上からわずかに顔を出しただけで、駐車場に伸びる影は長い。

 昨日、会計――早瀬ユウカが指定していた待ち合わせ場所である倉庫脇の駐車場に私が到着したのは、約束の時刻より三十分も早かった。

 

 時間は朝の七時半。待ち合わせは八時。

 ただでさえ広いミレニアムの敷地は、この時間帯になるとすでに運動部の生徒たちが何組もランニングを開始しており、息を切らしながら倉庫横の通路を通り抜けていく。

 

 ――朝から熱心だな、ほんと。

 

 そんな感想をこぼしつつ、コンビニで飲み物でも買って時間を潰すか、と歩き出そうとした瞬間だった。

 

「あら? まだ待ち合わせまで時間があるけど、ずいぶん早く来てるのね。おはよう」

 

 声をかけてきたのは会計のユウカだった。

 薄紫の髪を揺らしながら小さくため息をついたその姿は、どこか呆れながらも安心したようで、私の胸の緊張を少しだけ和らげてくる。

 

「おはようございます。いや〜……C&Cの部長と戦うってなると、どうしても緊張しちゃいまして」

 

 自分でも苦しい言い訳だと思う。しかし、相手が 美甘ネル――それだけで胃が重くなるのだから仕方ない。

 

「そんなに気張らなくていいわよ。べつに勝てって言ってるわけじゃないんだし」

 

「それはそうなんですが……あの美甘ネルが相手となると、舐めてると思われないように早く来たほうがいい気がしまして」

 

 そう、これはただの戦闘ではない。依頼を受けてもらうための“条件付きの勝負”なのだ。

 彼女に「挑む」以上、緩い気持ちなど見せられるはずがない。

 

「勝つ必要がないとしても……私は勝つ気で行きます」

 

 そう言い切った瞬間、背後から声が落ちてきた。

 

「よく言ったなぁ。軽い気持ちで戦おうってわけじゃなさそうだ」

 

 空気が、一気に張り詰めた。

 振り返るとそこに立っていたのは――

 

 C&C部長。コールサイン“ダブルオー”。

 ミレニアムが誇る最強の突撃屋、美甘ネル。

 

 髪を乱暴に後ろへ跳ねさせ、銃火器の匂いをまとった少女は、まるでそこに“最初から”いたかのように自然に立っていた。

 

「み、美甘ネル⁉︎ いつからそこに……!」

 

「お前がおはようって言ったあたりからだな」

 

「最初からいたんですか⁉︎ 気づかなかった……」

 

 ――実戦だったら、これもう死んでるだろ。

 

 気配察知を鍛える必要性を、久しぶりに真剣に感じた。

 

「来てるなら来てるって言いなさいよ! びっくりしたわ!」

 

「悪い悪い。こいつがどんな奴か見ときたくてな」

 

 品定めか。正直、あまり気分のいいものではない。

 

「それで……見た結果、どう思いました?」

 

「まあ、いいんじゃねぇの? 体幹はしっかりしてるし、動きに無駄がねぇ。気合も十分。あとは依頼を聞くだけだ」

 

「私の依頼は研究室予定地の清掃です。体育館の何倍も広い場所で、一人では掃除が難しいので」

 

「掃除ぃ? そんなもんのためにアタシに挑もうってか? 随分と軽い腰じゃねぇの」

 

「これでも一応、“耐久力キヴォトス一”を名乗ってますので、いけるかなと」

 

 その言葉の瞬間、美甘ネルの眉がぴくりと跳ね上がった。

 

「キヴォトス一だぁ? アタシの前でそれ言うってことは……覚悟できてんだろうな?」

 

「もちろん。これは喧嘩を売っている、と捉えていただいて結構です。その方が話が早いでしょうし」

 

「ちょ、ちょっと、何で喧嘩腰なのよ!? もっとこう、交渉とか――」

 

「いったん黙ってろ。これはもうアタシとこいつの問題だ」

 

 空気が、バチッと火花を散らすように緊張した。

 

「喧嘩を売られた以上、買わねえ道理はねえ。いいぜ――やってやるよ」

 

 美甘ネルはサブマシンガンを肩に担ぎ、薄く笑う。その表情は、獲物を見つけた猛獣のものだった。

 

「では、ウダウダ話してても仕方ありませんし、始めましょうか」

 

 私は深く息を吸い、戦闘態勢に入る。

 

 

◆ 戦闘開始

 

 美甘ネルは、開始の合図すら待たなかった。

 

 最初の一歩と同時に、銃口が火を噴く。

 連射された銃弾は一直線ではなく、こちらの回避方向に“置く”ように流れ、進路を潰してくる。

 

 体捌きで躱したつもりでも、二発、三発が肩や脇腹に食い込む。

 

 ――会計の時とは、重みが違う。

 

 一発一発が、まるで拳で殴られたような衝撃を持っていた。

 

 私は一度大きく息を吸った。

 

 そして――避けるのをやめた。

 

 真正面から、ノーガードで突っ込む。

 

「はっ!? てめぇ、正気か!」

 

 予想外だったのだろう。だがもちろん計算だ。

 確かに痛みは強い。しかし致命傷にはならないと判断した。

 

 私は、耐えた。

 

 だが美甘ネルの反応はもっと速い。

 

「甘ぇよ!」

 

 バックステップで距離を取りながら、射角を変え、さらに激しく撃ち込んでくる。

 

 身体能力はこちらが上のはずなのに――距離が縮まらない。

 加速した瞬間、彼女はすでに次のステップに入っている。

 フェイントにも引っかからず、回避と射撃を完全に同期させていた。

 

 ――実戦経験の差、ってやつか。

 

 このままでは押し切られる。

 

「仕方ない。こちらも撃ちますか」

 

「おう! どんどん撃ってこい! ぜってぇ当たらねぇからよ!」

 

 私は懐から一丁の“奇妙に大きな”ハンドガンを引き抜いた。

 

「――ッ! なんだそれ……ハンドガンか?」

 

「その通り。トリプルアクションサンダー。単発式のハンドガンです」

 

 薬室に12.7×99mmの巨大な弾丸を装填する。

 

 それを見た瞬間、美甘ネルの目つきが変わった。

 

「おいおい……冗談だろ。そんな化け物みてぇな弾をハンドガンで撃つ奴があるかよ」

 

「当たれば痛いでしょうけど……あなた、当たらないんですよね?」

 

 私はスモークグレネードのピンを抜いた。

 

「はあ!? スモーク!?」

 

 瞬く間に濃い煙が広がり、視界をすべて覆い尽くす。

 

 美甘ネルは怒声をあげた。

 

「見えねぇのはテメェも一緒だろ! サブマシンガン相手にそりゃ悪手だったなぁ!」

 

 そして乱射を始める。

 見えていないはずなのに、弾は私の周囲を正確にかすめ、数発が腕や肩に命中した。

 

 ――やっぱり勘が鋭い。

 

 だが問題ない。私はすでに“見えている”。

 

 3D録画コンタクトの特殊視界が、煙の向こうの美甘ネルの輪郭をはっきり捉えていた。

 こちらだけが一方的に視認できる――完全な優位。

 

 私は彼女の胴体中央へ銃口を向けた。

 

「――撃ち抜く」

 

 引き金を絞った瞬間。

 

ズドォォォン!!

 

 大気を揺らす爆音。

 ハンドガンとは思えない砲撃音が耳をつんざく。

 

 美甘ネルの体が、まるで車に轢かれたかのように後方へ吹き飛んだ。

 

 服の中央が弾け飛び、腹部には巨大な痕。

 衝撃に身体が折れ曲がり、膝をつきながら呻き声が漏れた。

 

「がっ……ゴホッ……お、おおお……ってえなぁ……!」

 

「え〜……当たったのになんで立ってるんですか。私でも結構効きますよ、それ」

 

 予想以上の耐久だ。本当に皮膚が鉄より硬いのでは?

 だが、倒れないなら撃てばいい。

 

「二発目、行きますよ」

 

 私はすでにリロードを済ませ、煙の中から静かに近づき、確実に額へ銃口を向けた。

 

「私の勝ちです」

 

ズドォォン!!

 

 二発目が、美甘ネルの額へ直撃した。

 

 

「…………あ?」

 

 美甘ネルが意識を取り戻したのは二十分後。

 場所は保健室のベッドの上だった。

 

「おお、目が覚めましたか。結構早いですね」

 

「い、いてぇ……これは跡が残るぞ……」

 

 彼女は腹を押さえながら呻く。見ると、腹部には巨大な痣が残り、おでこには包帯。

 

「そこより、おでこのほうが問題じゃない? 結構血が出てたけど」

 

「これ? 大丈夫だろ。アタシの頭は対戦車地雷でも割れねぇよ」

 

「……冗談に聞こえないのが怖いんですよ」

 

 するとネルは、こちらを睨むようにして言った。

 

「それよりよ。お前のあの銃は一体なんなんだ?」

 

「ああ、これですか?」

 

 私はバッグから例のハンドガンを取り出した。

 

「観賞用でしか見たことねぇデカさだぞ」

 

「観賞用でしか見たことないのは当然ですよ。これ観賞用の銃ですもん」

 

「…………は?」

 

「このトリプルアクションサンダーは、ロマン銃愛好家が作った“世界最大口径の単発ハンドガン”です」

 

 ネルが言葉を失った。

 

「もちろん市販なんてされてませんけどね」

 

「……いや、それにしたって威力が異常だったろ。あれだけであの威力は出ねぇはずだ。他に何かしてるよな?」

 

「それよ。煙幕越しにどうやって当てたのよ?」

 

 ――まあ、そこは誤魔化すとして。

 

「威力の理由は、まあ神秘のおかげです」

 

「神秘属性か。なら納得はするが……」

 

「あなたたちは普段、弾に神秘を“こめる”だけでしょう?

 私は神秘に“指向性”を持たせてるんです。さっきのは先端だけに66000Jくらい神秘を込めて、元の威力と合わせて88000J。だから吹っ飛んだわけです」

 

「88000J……ってどのくらいだよ?」

 

「時速80キロの自動車に金属棒をつけて突っ込んでくるのと同じくらいですね」

 

 ネルは腹の痣を見て固まった。

 

「……よく死ななかったな、アタシ」

 

「ほんとそれ」

 

「じゃあ最後だ。煙幕越しにどうやってアタシを見てた?」

 

 ――さて、どう誤魔化すか。

 

「それは……企業秘密です!」

 

「やっぱなんかあるじゃねぇか。言え」

 

「全部は言えませんけど、概要だけなら。共同研究者の同僚が作った装置ですよ。実験的に戦闘で使ってみたかったので」

 

「装置……まあ神秘研究してるくらいだし、変なガジェットは作るか」

 

「いや、実験段階の装置使って勝とうとしたんですよ? あなた強いんですから、それくらいやらないと勝てませんよ」

 

「……ふん。まあいい。次は勝つからな」

 

「わかりました」

 

 ――初見殺しはもう通じないから、次は勝てないんだろうな。

 

「で、依頼の話だ。研究室の清掃だったな?」

 

「はい。お願いします」

 

「任せとけ。腐ってもメイドだからな。そっこーで終わらせてやるよ」

 

 依頼受注。

 これで研究室の準備も進むだろう。

 




会話文書くの苦手なのに小説書くもんじゃねえな
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。