こんにちはみなさん。まったり愛好家です。
コハク過去編が一段落つき、私は割と達成感を感じております。前々から考えていた展開を、自分なりにうまく形にできたと思います。
コハクが、あそこまでキヴォトスを駆け回ってコピー体の自我を発現させようとしている理由。多少後付けチックではありますが、多めに見てください。
思うのですが、ホシノ含めアビドス生の心配と好意をコハクが頑なに受け取ろうとしないのは、誰かが自分のために自らを犠牲に頑張るという好意(行為)そのものがトラウマになっているのではないでしょうか?
別にそこまで考えていたわけではないですが、考察は自由なので。私はそう解釈しておきます。
さて、今回は本編でも過去編でもない、私の回です。
漫画の単行本の巻末あたりに、作者がぽつりと本音をこぼす場所があるでしょう。ああいう、少しだけ物語の外に出た空間。今日は、そんな気持ちで読んでいただければ幸いです。
今回このような場を借りて話したいことというのは、完全に私ごとでございます。
私は、不思議が好きです。
とはいえ、ただ摩訶不思議な現象を無条件に崇めたいわけではありません。むしろ逆です。説明のつかない出来事に、空想で理由を与えること。偶然に物語を与えること。そうして世界を少しだけ豊かに見せる営みが、たまらなく好きなのです。
日本には、昔から「妖怪」や「神」といった文化があります。
森で迷うのは、天狗や山童のせい。
人が突然姿を消すのは、鬼や妖狐に攫われたせい。
元寇を退けた神風は、神様のおかげ。
本来なら、偶然や自然現象、不幸や幸運で片付けられてしまうものに、意味を与え、形を与え、語り継げる物語へと昇華させる。私はその発想が、どうしようもなく愛おしいのです。
そんな私ですが。
今日、妖怪に化かされました。
今日の日付は、2026年二月十九日。
最近は暖かい日も増え、過ごしやすくなってきていた私の地元ですが、この日に限ってはやけに肌寒く、十九時ともなれば太陽は完全に沈み、夜の冷気が山を包み込んでいました。
そのとき私は、自動車教習で山にいました。
一時間前には、急ブレーキ、急ハンドル、スピードを出してのカーブと、恐怖心を容赦なく刺激する実技を受けたばかり。怖がりな私はすでに満身創痍で、「さっきの時間、怖かったなあ」などと半ば現実逃避しながら、真っ暗な山道を登っていました。
真っ暗な山道。
それだけで、十分すぎるほど怖いのです。
私の地元はなかなかの田舎で、山には猪や猿が出ます。飛び出してくるかもしれないという予感が、ただでさえ濃い闇をさらに重くする。ヘッドライトに照らされた世界の外側は、すべてが未知で、何かが潜んでいそうで、心臓が落ち着きませんでした。
そうして山の頂上、展望駐車場に到着し、少し車を止めて休憩を挟み、今度は下りへ。
上りも怖かったのですが、下りはそれ以上でした。少し気を抜けば車が加速する。ブレーキの踏み加減一つで命運が変わるような錯覚に陥り、私はひどく神経を使って運転していました。
そのときです。
道路の先に、何かの影が見えました。
反射的にブレーキを踏み、その手前で停止します。
黒い猫でした。
小柄で、野良にしては毛並みが整っていて、ライトに照らされて艶やかに光るその姿は、どこか現実離れして見えました。
教習の先生は、横によけて進もうと言います。私は指示に従い、ハンドルを切りました。
しかし猫は、まるで進路を塞ぐかのように横へ移動し、再び車の正面に座り込みます。
奇妙でした。
真正面からライトを浴びているというのに、目を逸らさないのです。あの光の中で、こちらを見据えたまま、微動だにしない。
先生は反対側へ切れと言い、私は再びハンドルを動かします。
するとまた、猫は正面へ。
まるで、遊ばれているかのようでした。
先生はため息をつき、安全を確認してから車を降ります。近づき、しっしっと手を払う。
それでも猫は慌てる様子を見せませんでした。人を恐れないのか、それとも別の何かか。しばらくして、仕方ないとでも言うように立ち上がり、茂みに消えていきました。
私は額に冷や汗を浮かべながら、再びハンドルを握ります。
教習を止めるわけにはいかない。
そのまま山を降り続けました。
大きめの山で、下るだけでも時間がかかります。急な坂、緩やかな坂、ずっと続く下り。次第に感覚が曖昧になっていきました。
さきほどの黒猫のこともあり、私はかなり神経質になっていました。
そして――。
急な坂を下りきり、平らな道に出た、はずでした。
なのに車が、みるみる加速していく。
アクセルには触れていません。むしろ、軽くブレーキを踏んでいたはずでした。
何が起きているのか分からず、私は咄嗟に強めにブレーキを踏み込みます。
そこでようやく気づいたのです。
今走っている場所が、まだわずかに下り坂だったことに。
夜の山道。不可解な黒猫。延々と続く下り坂。
それらが重なり、私の平衡感覚は静かに狂っていたのでした。
私は深呼吸をして、自分に言い聞かせます。大丈夫。落ち着け。
そうして無事、教習所へ戻りました。
先生には、ビビりすぎだと注意を受けました。
けれど、私の胸の内には、まだあの黒猫の視線が残っていました。
帰り道。私は教習所まで自転車で来ていたので、もちろん帰りも自転車です。
肌寒い夜道を漕いでいると、ふと、カレーの匂いがしました。
いつも通る、入ったことのないインドカレー屋から漂う香り。
その匂いを吸い込んだ瞬間、私は唐突に思ったのです。
ああ、自分は妖怪に化かされたんだ。
もちろん、本気で妖怪の存在を信じているわけではありません。
けれど。
「妖怪」という概念が語られるようになったのは、きっと今日の私のような経験をした誰かがいたからではないでしょうか。
一見不可解な現象に出会い、理由が分からず、恐れ、それでも納得したくて、怪異という物語を与えた。
それこそが妖怪の始まりなのだとするならば。
私は確かに、妖怪に化かされたのです。
それが、嬉しくてたまらなかった。
怖い思いをしたはずなのに、胸は多幸感でいっぱいでした。
インドカレー屋の前で、私は少し泣きました。
夢が、叶ったような気がしたのです。
誰かに話したい。
そう思って、これを書きました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
最後にこれだけ言わせてください。
信じるか信じないかは、あなた次第です。