デンジの人生はクソだった。
父親が残した借金のせいでヤクザにこき使われ、借金返済のために右目と臓器のほとんどを売っても足りず、アルバイトや悪魔退治をして金を稼いでも手元に残るのはほんのわずかな金だけ。
唯一の家族であるチェンソーの悪魔のポチタと一日の食事が食パン1枚なんてことはしょっちゅう。
しかも、心臓の病気のせいで長生きも出来ない運命だった。
夢も希望もない人生。
おまけに、デンジの最後は欲をかいてゾンビの悪魔と契約してゾンビになったヤクザどもに殺されるというもの。
しかし、そのまま死ぬはずだったデンジを救ったのはポチタだった。
ポチタと契約してポチタがデンジの心臓になったことで、デンジはチェンソーマンへと変身出来る能力を手に入れて復活!!
そのままヤクザを皆殺しにしてデンジは借金から解放されたのである!!
そして今、デンジは東京にある公安対魔特異課に来た。
ゾンビの悪魔を討伐しに来たマキマによってスカウトされ、デンジはデビルハンターとなることになった。
「デンジ君、うちは基本制服だからこれ着てね。着替えたら君の同僚に会わせるから」
「あの……マキマさん」
「どうしたのデンジ君?」
デンジに制服を差し出すが、デンジの反応は薄い。
もしかして制服を着るのが嫌なのかと思ったが、デンジは制服を着るのが嫌という反応ではなく困惑していると言っていい反応をしている
「あれ……なんですか?」
「あれ?」
デンジがマキマの背後を指差す。
2人のいる部屋は地上からエレベーターに乗って上がったところにある。
おそらく遠くに悪魔で飛んでいるのだろうと予想したマキマの目に写ったのは。
「マキマさァァァん!!結婚してくれェェェ!!」
窓に張り付きマキマへ結婚してくれと叫ぶ1人の人間であった。
「何度フラれようと俺は倒れんよ!!女はさァ!!愛するより愛される方が幸せなんだよ!!って母ちゃんが言ってた!!」
子供の頃からヤクザの借金のせいで小学校にすら通うことが出来なかったデンジには一般常識というものがない。
窓に張り付きマキマへ求婚する男をおかしいと思っても、おかしいのは自分であって世間ではこれが普通なのかではないかと思いそうになっていたデンジだったが、部屋の扉が勢いよく開く。
「ちょっとぉぉぉ!!近藤さん何やってるんですかあんたぁぁぁ!!」
そう叫びながら入って来たのは、スーツを着て刀を携えたちょんまげの男。
そいつは窓に張り付いている男、おそらく近藤というであろう男に向かって叫ぶ。
「危険ですから早く降りてくださいよ!!」
「落ち着けアキ!!たとえどれだけ危険だろうと悪魔から市民を守るのがデビルハンターってやつだ!!ならこの程度の危険!!俺は乗り越えてみせる!!」
「なんかいいこと言ってるつもりかもしれませんけど、今のあんたはデビルハンターじゃないですから!!ただのストーカーですから!!」
近藤の言っていることはたしかに立派かもしれないが、やっていることは思い人のいる部屋の窓に張り付いて結婚してくれと叫んでいるだけ。
悪魔を殺すためでも、市民を守るためでもない。
デビルハンターなんてどこのもいない。
ただのストーカーがそこにいた。
「あの……マキマさん」
「デンジ君、ちょっと待っててね」
どうすればいいのかマキマに聞こうとするデンジに待つように言うと、マキマは窓に張り付く近藤に近づき。
「マ、マキマさん!!もしかして俺のこと」
「ふん」
窓ガラスごと近藤をぶん殴った。
「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁ!!」
「近藤さぁぁぁん!!」
ぶん殴られ叫び声を上げながら落ちていく近藤。
それを助けようとアキは窓から身を乗り出す。
アキの目に写ったのは潰れたカエルのようにピクピクとしている近藤の姿だった。
「マキマさん!!どうして!?」
「ごめんねアキ君。窓に野生のゴリラが張り付いていたから、つい」
「野生のゴリラってなんですか!?」
「そうだね、東京に野生のゴリラなんていないよね。たぶんあれは動物園から脱走したゴリラだろうね」
「動物園から脱走したゴリラでもないですからぁあああ!!」
ゴリラと疑わないマキマにアキの叫びが部屋に響く。
いくら近藤が周りからゴリラと言われていようと、人間であると言わなければならなかった。
「近藤さんは人間ですよマキマさん!!」
「近藤……ああ、そっか」
「マキマさん、やっとわかってくれたんですね」
近藤という名前を聞いて思いあたった様子のマキマにアキは安堵する。
「あのゴリラの名前、近藤っていうんだね。動物園で名付けられたのかな?」
「いや、結局ゴリラァアアア!!」
どこまでいってもマキマにとって近藤はゴリラだった。
野生のゴリラ、動物園のゴリラ、近藤という名前のゴリラ。
ゴリラの学名はゴリラ・ゴリラ・ゴリラ。
どこまでいってもゴリラ。
輪廻転生ゴリラなのである。
「どうすんですか……あれ?」
地面に叩きつけられた
「あのゴリラはあとで動物園に連絡して引き取ってもらうからほっといていいよ」
「まだゴリラァアアアア!!」
悪いのは完全に近藤の方だが、思い人にここまでゴリラ扱いされる近藤にあとでフォローをしておこうと思うアキなのであった。
「あの……俺はどうすればいいんすかマキマさん?」
「デンジ君はアキ君について行ってね」
このような混沌とした状況に思考を放棄して全ての判断をマキマに委ねようとするデンジに、元々そうするつもりで呼んでいたのだろう。
マキマはアキと共に行くようにデンジに言う。
「え?俺マキマさんと一緒に仕事すんじゃないんすか?」
「そんなわけないだろ。お前とマキマさんとじゃ格が違う。見回り行くぞ」
「いやだぁ!マキマさぁん!!」
「おい、立てよ」
マキマと一緒に仕事が出来ないと知り座り込んでごねだすデンジを立たせようとするアキ。
マキマはそんなデンジに近づいて目線を合わせる。
「君の働きぶりがよければ一緒に仕事が出来るよ」
「それは本当ですかマキマさん!!」
「テメェは!?」
「近藤さん!?まさか登って来たんですか!?」
一緒に仕事が出来るというマキマの言葉に反応したのは、まさかの地面に叩きつけられたはずの近藤だった。
「こんなチャラチャラしたやつ!!マキマさんにはふさわしくありませんよ!!」
「なんだとテメェ!!」
「マキマさんには俺という頼りがいのある男がいるじゃないですか!!」
「あなたのような人は嫌です」
「マキマさんには俺という質実剛健な男がいるじゃないですか!!」
「あなたのような人は嫌です」
自分こそがマキマにふさわしいと豪語する近藤をマキマは嫌と全否定するが、近藤には全く効いていない。
この程度で諦めるような奴ならば窓に張り付いてまで求婚をしたりはしない。
「そうだ!マキマさんは俺がタイプなんだぜ!!」
「なんだって!?それは本当ですかマキマさん!?」
「はい、私はデンジ君みたいな人がタイプです」
「そ……そんな」
「あの……近藤さん」
マキマのタイプがデンジみたいな人と知り、ショックでうなだれる近藤。
ストーカーとはいえ、近藤がマキマ一筋なのことを知っているアキは近藤にかける言葉が見つからなかった。
「……認めん」
「あ?なんだよ?」
「認めんぞぉおおおお!!」
うなだれていた近藤が叫びながら立ち上がる。
その目には強い決意が宿っている。
「いくらお前がマキマさんのタイプだったとして、俺は絶対に認めん!!」
自分がマキマのタイプではなかったとしても決して諦めない。
一途といえば聞こえはいいが、やっていることはストーカーそのもの。
マキマにとってはいい迷惑である。
「認めないつってもどうすんだよあんた。マキマさんのタイプは俺だぜ」
「ふん、たしかにマキマさんのタイプはお前かもしれんが、だからといって付き合えるとは限らんだろう!そもそもお前とマキマさんとじゃ格が違う!そんなお前が付き合ったところで、マキマさんを幸せに出来るとは到底思えん!!」
「ぐっ!」
近藤の指摘に言葉が詰まるデンジ。
事実、義務教育すら受けていないデンジと内閣官房長官直属のデビルハンターであるマキマとでは立場が違いすぎる。
仮にデンジがマキマと付き合ったところで、デンジがマキマにしてあげられることなど全くといっていいほど無いのだから。
「だけどよ!俺がマキマさんと付き合えなかったとしても、あんたがマキマさんと付き合えるわけじゃねぇだろ!!」
「ふふふ、それはどうかな?」
「なんだよ?」
今までのマキマとのやり取りからは脈などこれっぽちも感じられないにもかかわらず、自信ありげな近藤の様子を疑問に思うデンジ。
「マキマさんが言っていただろう、『君の働きぶりがよければ一緒に仕事が出来るよ』とな!!」
「たしかに言ってたけどよ」
「つまり!!お前より俺の働きぶりがよければ!マキマさんと一緒に仕事が出来るのは俺ということだ!!」
たしかに近藤の言う通り、マキマは『君の働きぶりがよければ一緒に仕事が出来るよ』と言った。
だが、それはデンジに対して言ったのであって近藤に適応されるとは限らない。
「近藤さんはああ言ってますけど、一緒に働けるんですか?」
「デンジ君は今日公安に入ったばかりで何も決まっていないからどうとでもなるけど、近藤さんは2課の隊長だから難しいと思うよ。お互いに立場があるしね」
公安に入ったばかりでまだ所属すら決まっていないデンジならば働き次第である程度自由がきく。
しかし、公安対魔特異2課の隊長である近藤と内閣官房長官直属のデビルハンターであるマキマを普段から一緒にするのは戦力的にも政治的にも難しいのだが、そのことを近藤は理解していなかった。
「仕事を一緒にしていくことから始まって、仕事やプライベートの相談されたりしながら少しずつ信頼を深めていき!休みの日はデートなんかしたりして、なんやかんやあって最終的に俺はマキマさんと結婚する!!」
「結婚しません」
仕事が出来るという言葉のせいで近藤から結婚までの過程を言い切った近藤だが、聞かされたマキマは結婚しないと一刀両断した。
「というわけだ!!お前はマキマさんを諦めて、大人しく他の人を探すんだな!!」
「ふざけんな!!」
マキマの結婚しないという言葉が聞こえていないのか、それとも聞こえていても無視しているだけなのかはわからないが、近藤はデンジにマキマを諦めるように言う。
「なんだよテメェ!!さっきからふざけたことばっかり言いやがって!!俺こそテメェみてぇな変態野郎なんて認めねぇ!!」
デンジからすれば近藤は初対面でいきなりマキマにふさわしくないと言って来た変態である。
そんな変態をマキマの相手として認めるわけがなく、そもそもデンジもマキマを諦めるつもりは微塵もなかった。
「そもそも悪魔は全部俺がぶっ殺すからテメェはマキマさんと働けやしねぇよ!!大人しくメスのゴリラを探すんだな!!」
「誰がゴリラだ!!」
「……2人ともいい加減に」
「ええい!!このままじゃ埒が明かん!!」
お互いにマキマと付き合うのは自分だと主張し続ける2人に呆れながらもこのままでは埒が明かないと割って入ろうとするアキだったが、どうやら割って入るのが遅かったらしい。
「俺とお前のどっちがマキマさんにふさわしいか!!勝負だ!!」
「勝負って何すんだよ!?言っとくが俺は学校とか行ってねぇから頭使うのはやめろよ!!」
「え」
「安心しろ、頭を使うようなもんじゃない!!」
デンジがさらっと言った学校に行っていないという事実にアキ反応したが、近藤はそれを無視して続ける。
「今日なったばかりとはいえ、お前もデビルハンター!!ならばやることは1つ!!悪魔をぶっ殺すことだ!!今日1日でより多くの悪魔を殺した方の勝ちだ!!」
「へっ!!わかりやすくていいじゃねぇか!!」
悪魔をぶっ殺す。
それだけのわかりやすく、かつ単純なルールにデンジは楽しそうに笑う。
子供の頃からデビルハンターをしていたこと、ポチタが心臓になったことでチェンソーも力を使えるようになったことがデンジに大きな自信を与えていた。
「マキマさん!!俺悪魔をぶっ殺しまくってすぐに一緒に働きますから!!」
「ふん!!お前じゃ無理だ!!待っててくださいねマキマさん!!」
「がんばってね」
「「はい!!」」
マキマのがんばってにとてもいい笑顔で返事する2人。
アキは思った、『もしかしてこの2人似たもの同士なのか?』と。
「おい!!何テメェが返事してんだよ!!マキマさんは俺に言ったんだよ!!」
「いーや!!今のはどう考えても俺に言ったね!!」
マキマの全く心のこもっていないがんばってに同時に反応したことで言い争う2人。
アキは思った、『こいつら面倒くさい』と。
「ここで言い争っていてもマキマさんとは働けん!!俺は悪魔討伐に行かせてもらう!!」
「あ、ずりーぞテメェ!!待て!!」
「あ、おい!!2人とも!!」
「「うぉおおおおおお!!マキマさんと一緒に働くのは俺だぁああああああ!!」」
マキマと働くための成果を上げるため、悪魔を捜しに走り出す近藤をデンジは慌てて追いかける!!
アキが止めようとするが、2人はあっという間に部屋を出て行ってしまう。
部屋には2人に向かって手を伸ばしたままのアキと、マキマだけ。
「アキ君、2人のフォローお願いね」
「…………はい」
マキマに肩に手を置かれデンジと近藤のフォローを頼まれたアキは、力なく出会った肩を落とすのであった。
お妙さんとマキマさんで文字数が一緒なのがすべての原因だと思います