これは、一人の殺人鬼であり一人の人間の物語である。
※ジョジョの奇妙な冒険第4部のネタバレを多く含みます。ご容赦ください。
「どういう、事だ……」
今、はっきり分かる。私の名前は吉良吉影、年齢は33歳。
杜王町北東部に別荘を持っていて、結婚はしていない……
カメユー商店の社員で大した役職には就いていない。
……成程、大体思い出せるな。
しかし私がこの記憶を取り戻したのは、巨大なこの広間であった。
何だこの場所は……あまり頭の整理が付いていない、記憶をはっきりと思い出した反動で、元々この体で生きている記憶と混同しているのか?
全く……いや、そもそもだ。この世界にいる理由もよく分からんな。
私はあの……忌々しい東方仗助に敗北し、赤っ恥のこきっ恥をかかされたって言うのに……
「(となれば、この場所にいるのは……『スタンド攻撃』と言ったところか)」スクッ…
軽く立ち上がってみてみたが、足元は台座のような場所だ。他の場所と比べて位置が高い。
大体2m半くらいの形か。周りには……私と同じように呆然と周囲を見渡す者共。この記憶を頼りにするなら……あの時、教室にいた私が通う学校の者達は全員来ているって訳かね……
にしても、会社員が今や学生なんて……なんだか手元が狂いそうになるな。
しかし……
「(ほう……いいな。学生って響き、いいじゃあないか。何より綺麗な手が多い)」
周りの女の生徒を見つめてみる。状態はまちまちだが綺麗で健康的な手ばかり。
まるで替えの物が欲しい時に唐突に遭遇するバーゲンセールみたいじゃあないか。
ふむ、特にいいのは……やはりあの白崎香織という女の手だ。今まで見た中ではかなり上澄みに見えるな……
お、おお……!あの……なんだったか、そうだ、畑山愛子の手!いいぞっ、身長は低いし手は小さいがとてもいい!
くっ……爪が伸びてきそうだ。手袋を付けているとはいえ、キリキリしてきた。
「(……新しい〝彼女〟候補を見つけるのもいいが、その前に……キラークイーン!)」
『………………』ドドドド……
よし、しっかりと出るな。何かの拍子で見つかる可能性はある、消しておこう……
キラークイーンはあの
この体のお陰か?だとすれば本当に好都合だな。
強いて問題を言うなら、面倒臭い女……という性別だが。
だがこの世界でも、私は人を殺さないと生きていけない性を背負って生きていかなくてはな……その為にも、厄介そうな奴には目星を付けておかなくては。
「(……アイツか)」
周囲には私達以外にも、どうやら呼び寄せたであろう奴らが大勢いた。そしてその内の一人、法衣集団の中でも特に煌びやかな衣装を着ている老人が私達の方に接近してきた。
……この老人をただの老人として扱うのはいかんな。面倒臭いオーラを纏っている……スタンド使いか?
「ようこそトータスへ。勇者様と、並びにご同胞の皆様。
歓迎致しますぞ……ああ、私は聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者です。以後、宜しくお願い致します」
何とも好々爺の様な笑みを浮かべながら、その強い存在感を知らしめてくる。
この爺……只者ではないな。気を付けておいた方がいいだろう。
何よりも間違いなく、スタンド使いではありそうだが……その気概が全く感じない。私の気の所為か?
……一先ず案内してくれるそうだ。それに従おうじゃないか……舐められている気がしてむず痒いがな。
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場所を移すと、大体10mある枠な装飾がされたテーブルが幾つも並んだ大広間に通された。
この部屋自体もよく出来ている、晩餐会を開く様な会場なのだろう。にしても……上座には天之河光輝達が座っているな。
奴らに近い席を取れて正解だった。
他の生徒共は、意外と冷静であるが困惑の表情は隠せていないようだ。
これも天之河光輝が他の生徒を宥める事が出来たから、か……あの男は人を束ねる様な才能があるみたいだね…
すると、私の視界に今度写ったのは給仕服を着たメイド達だった。
どれもいい手をしている……若い女ばかりか。
女生徒達にもメイドを付ける辺り、同性趣味で付けたというより話しやすくする為に付けたってところかね?
メイドによって飲み物が私の元に送られ、それが全員に配られたタイミングでイシュタルが会話を始める。
「さて……あなた方においてはさぞ、混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますので、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言って始めたイシュタルの話は実に、創作的な話だった。そしてどうしようもないくらい、笑えてくるくらいの本の設定のようなものだった。
この世界はトータスという地球の様な星であり、この星には大きく分けて三つの種族があるそうだ。
人間族、魔人族、亜人族……全員が人の形を象っているというのは共通点の様だがね。
そして人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中で生きている。これは、アメリカやイギリスと言った大きな種族が大陸……というには島国ではないが、土地を支配して暮らしている大国の様なものだ。
この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。
これの例に当たるのは……まぁ、例を出すまでもないか。
その内の魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きい。その力の差に人間族は物量の数で対抗してきていたのだが……最近、異常事態が多発していると。
それが、魔人族による魔物の使役というものだった。
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形の存在だと言われている。どうにも曖昧な答えなのは、この世界の人間達も正確な魔物の生態は分かっていないという事だった。
強力な種族固有の魔法が使えるそうだが、まぁ獣が使う魔法は人間より精密かは怪しい所だ。
ただし、魔物は今まで本能のままに活動する生態のお陰か使役できても、精々一匹二匹程度。しかしここ最近その常識が覆されたのだ。
もし固有魔法が魔物の操作者にも使えるようになった場合、まぁ人間が勝てる確率はがくんと下がるだろうな。
「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。
我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。
エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅んでしまう、と。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位のものとされており、個人個人が例外なく強力な力を持っています。少し前、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。
是非あなた方のその力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し……我ら人間族を救って頂きたい」
「(スタンド能力ではなく、それ以上の強い存在……おそらく〝振り向いてはいけない小道〟の様なスタンドや人の力でさえも及ばない強力な存在が私やこいつらを呼び付けた訳か。
スタンド能力じゃないのは救いではあるが、実に面倒だ)」
危機感を覚えながらも、イシュタルという存在を危険な存在として頭に刻み込みながらどうこのハードな状況を乗り越えるか思考している最中、突然立ち上がり猛然と抗議する存在が現れた。
畑山愛子、こいつらの生徒だ。
「ふざけないで下さいっ!
結局、この子達に戦争させようって事でしょう!?
そんなの許しません、先生は絶対に許しませんよっ!
私達を早く元の世界に帰して下さい!あなた達のしていることはただの誘拐なんですよ!」
「ふむ……お気持ちはお察ししますが、あなた方の帰還は現状では不可能なのですよ」
イシュタルの言葉によって場に静寂が満ちる。
まぁ、だろうな。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様ですので。我々人間には異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな……あなた方が帰還できるかどうかも、エヒト様の御意思次第という事です」
「そ、そんな……」
パニックになる生徒共を見つめながら、思考を始める。
エヒトが何処まで関われるかは不明だが、イシュタルの言葉には少しおかしな点があるんじゃあないのかね?
異世界と異世界を繋げる事が出来るのなら、私が住んでいた地域とこのトータスを繋げられるんじゃないのかね。まぁ、聞いた所で答えてくれるわけではないが……
私の父……
写真の世界と現実の世界をリンクさせる様な力があるのなら、この世界にそれに似た魔法という幾何学的な力で出来るんじゃあなかろうか。まぁ、この男がその方法を易々と教えてやるとは思えがんね……
未だパニックが収まらない生徒共を見つめていると、天之河光輝がテーブルを叩きながら立ち上がった。周囲に天之河光輝に対しての注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始める。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言ってもキリがないよ。
彼にだって事情はあるんだ…俺は、戦おうと思う。
この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実だし、それを知って放っておくなんて俺にはできない!
それに人間を救うために召喚されたのなら、救い終われば帰してくれるかもしれない……イシュタルさん、どうなんですか?」
「そうですな……エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい。帰してくれる可能性はありますぞ」
「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと……この世界の者と比べると数倍、いや数十倍の力を保持していると考えていいでしょう……」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う!人々を救い、皆が家に帰れるように……俺が世界も皆も救ってみせる!!」
何とも綺麗事の様な発言だ。要するにこいつらの言う事を聞いて『私はこいつらの戦争兵器になります』と言っているようなもんじゃあないか。
コイツの頭の出来は理解出来たが、ここまで正義脳だと何時か道を踏み外しそうだな。
……あの東方仗助の様な精神性でなくて実に良かった。こいつは最後の最後まで利用できそうだ。
しかも他の生徒共もこいつに同調して熱くなり始めている。何ともまぁ、若い人間というのは場の空気に流されやすくて困ったものだな……今の空気に悪乗りする方が不味いというのに。一番のトラブルの種が見えているのに、その種ではないものを摘んで取り出している大馬鹿者に見えるね。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
いつものメンバーが光輝に賛同する。後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前では無力だった。
そうして、空気感と同調圧力によって結局全員で戦争に参加することになってしまった様だ。
私も下手な意見を出して目立ちたくないから流されたが、上手い形で死んだ扱いになってこの国から出る事しよう。その為にも本を漁らなくてはな……この世界の情報等を手に入れなければ。
無知なのは恐ろしい事であり、何よりも自分の首を絞める事になるんだ。
思い込む事も何よりも恐ろしい。それは私の実力を見誤っていた事もある……ここで本格的に身体能力を鍛え抜いて、ある程度の実力を持ってから都合のいい時に抜け出すとするかね。
まぁ、一つ問題が出来たとなれば……イシュタル、あの好々爺は油断ならない事だ。明らかに天之河光輝の反応を見て、まるで持ち上げる様に流れを動かしている。
魔人の存在が全員危険と言われると、私には分からん。
だがそれを押し上げる様な発言や魔人の醜い部分だけを邪推する様な言葉の選び方は何とも、怪しいとしか思えん。
この世界の聖教教会とやらも何か面倒事が多いと見る他ないだろうな……チッ、どうしてこうもトラブルばかりが私に飛び込んでくるのやら。
「(だが、私のやる事は変わらん……人を殺さずにはいられない性はあるが、この世界でも平穏に生き延びてみせるぞ……)」
to be continued……