凛と起つ〜祠を壊した少女と長髪無精ヒゲ退魔師オジさん〜   作:卯月幾哉

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13話 夜明け

 十二月に入って、譲悟(じょうご)が退魔師として()け負った依頼。それは、ある地方で怪異が封じられた(ほこら)の安全確認を行うというものだった。

 簡単な仕事と思われたが、なんとなく嫌な予感はあった。

 山に踏み入った譲悟は、破壊された祠の残骸(ざんがい)を見て、思わず天を仰いだ。

 

 ――また、馬鹿がやらかしたバカの後始末か。

 

 その場に(ただよ)っていた、怪異に起因する妖気の残滓(ざんし)辿(たど)ることで、下手人(げしゅにん)の一人はすぐに見つかった。

 

 神風凛(かみかぜりん)――この辺りの中学生と見られる少女はそう名乗った。小柄で芯の強そうな少女だった。凛に出会った譲悟の脳裏には、自分がかつて救えなかった少女たちの姿がフラッシュバックした。

 その少女は悪戯(いたずら)で祠壊しの()を犯すような悪童には見えなかった。しかし、実際に壊してしまったものは仕方がない。この嬢ちゃんには犠牲(ぎせい)になってもらおう――譲悟は初め、そう考えた。

 

 凛が普通の少女ではないと譲悟が気づいたのは、彼女が単身、「クラスメートの様子を見てくる」と言って林の奥に駆け出した後だった。

 

 退魔師の素養は髪や瞳の色に表れることが多い。

 譲悟の朽葉(くちば)色の髪と(はしばみ)色の瞳は、退魔師の間ではそれほど珍しいものではない。

 凛という少女は、髪色こそ黒だが、双眸(そうぼう)は青みを帯びていた。

 青は五行の「木」に由来することが多く、風や雷にも通じる。

 

 見捨てるには惜しい才能だ――譲悟はそう思った。

 神刀が使えない譲悟にとって、凛を助けながら上級の怪異と渡り合えるかは賭けだったが、保険として近隣で活動している退魔師へ応援要請は上げておいた。最悪、応援が来るまで時間が稼げれば良い。

 

 ……そう考えていたら、なんと凛はあの神刀を(さや)から引き抜いていた。

 それを見た譲悟は、開いた口が(ふさ)がらなかった。

 

 神刀の名が示す通り、その脇差(わきざし)には何らかの〝神〟が宿っているらしい。

 その〝神〟はどうやら、()り好みが激しいようだ。

 譲悟はかつて、自分が神刀を扱えるようになるまでに経験した苦難の日々を思い返し、やや(くら)い気持ちになった。

 

 

    †

 

 

 巨蟹(きょがに)の怪異〝ガイナカニゴ〟を倒した後――。

 

 譲悟はなんとか神刀を鞘に戻し、アタッシェケースに収めていた予備の義手を装着して、気絶した凛を両腕で抱え上げた。

 霊力を使い切った彼女は泥のように眠っていた。怪異を倒したあの一振りを放つ際に、神刀から霊力を根こそぎ吸い上げられたのだ。時間が立てば自然回復するものだが、しばらくは目を覚まさないだろう。

 

(……どうしたもんかな)

 

 冷酷(れいこく)非道な退魔師となった譲悟だが、さすがにこの状態の凛を放置して帰る気はなかった。

 譲悟は結局、(いま)だに木陰(こかげ)から様子を伺っていた岡部円香(まどか)に声を掛けた。それから、林の入口付近で待っていた残り二人の少女らと合流し、親を呼ぶという彼女らに凛を任せることにした。

 怪異や退魔師の存在は、一般の人々には秘匿(ひとく)されている。

 譲悟は、少女らに一連の出来事について口止めをした後で、現場を離れた。

 

「――あ」

 

 しばらくして、譲悟は応援要請を上げた退魔師への連絡を忘れていたことに気づいた。

 

 

 

    †††

 

 

 

「おはよー」

「知っとる? 昨日、県道で熊が出たんやって」

「ウソっ! この辺、熊やらおったっけ?」

 

 翌朝。

 怪異との死闘から一夜明け、神風(かみかぜ)(りん)は全身に気怠(けだる)さを感じつつ、普段通り登校していた。

 

 

 昨夜、目を覚ました凛が最初に見たものは、見慣れた自室の天井だった。祖父母の家に帰ってきたのだ、とそれでわかった。

 凛がまだ起きていた祖母に(たず)ねたところ、彼女が寝ている間に、帰り道で一緒だったクラスメートが親の車で送ってくれたのだという。

 

『大きな男の人はいなかった?』

 

 凛の問いに対し、祖母は首をかしげるばかりだった。

 

 ――何がどうなったの……?

 

 凛は狐につままれたような気持ちになった。

 まるで、夕方からの出来事すべてが夢だったような――

 ただし、凛の体のそこかしこに残った痛みや()り傷、極度の疲労感は、「夢なんかじゃない」と(うった)えていた。

 

 

    †

 

 

 登校した凛は重い足取りで校舎の三階まで上り、無言で教室に入る。

 円香らからいじめを受けるようになった凛は、この三か月クラスメートと(ろく)挨拶(あいさつ)を交わしていなかった。教室内での凛は、()れ物のような扱いを受けていた。

 

「――あ! リンリン、おはよぉ〜」

 

 そこへ来て、全く予想外の明朗な挨拶が彼女を出迎えたので、凛は不意を()かれて面食らった。

 

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