凛と起つ〜祠を壊した少女と長髪無精ヒゲ退魔師オジさん〜 作:卯月幾哉
彼女に背を向けて立つ大男――
なのに、その男が凛を
「――う、うう、腕がっ!」
凛は震える手で譲悟を背後から指差し、ショックを
しかし、譲悟はそんな凛を
「【
譲悟は左手で型をなぞりながら呪文のような言葉を唱えた。
そのとき、
譲悟が呪文を唱え終えた瞬間、その「右腕」を起点に淡黄色の光が
『ギチギチギチ……』
巨蟹はハサミや
凛にとってその光景はまるで、ファンタジーかバトルアニメの世界の出来事だった。
「すごっ……」
凛は絶句した。――霊能探偵とは、かくも
そんな中学生女子に対し、譲悟は
「――そうだな。持って五分ってとこか」
「たったそれだけっ!?」
凛は驚きのあまり、
それはさておき、凛としては他にも譲悟に掛けるべき言葉があると感じていた。なにせ彼は凛を今まさに命の危機から救い、「右腕」を失ってしまったのだ。
「……あの、その、腕は――」
「悪いが、説明してる暇はねぇ」
譲悟の対応はにべもないものだった。
左手一本で掌印を構える彼は、巨蟹の動きを封じるのに集中していた。
「俺はこの結界の維持で動けねぇ。そこで頼みがある。そこにある俺の荷物の中から
「は、はい!」
凛には譲悟が実際に何をやっているのかはわからなかったが、時間も余裕もないことは理解できた。なぜ、一度は見捨てたはずの自分を助けに来たのかは気になるが、それを問い
譲悟が持っていた黒革のアタッシェケースは、彼の左後方五メートルの位置に置かれていた。凛は一足飛びにそちらに移動する。
「ひっ……」
鞄を開けた凛がまず目にしたのは、人間の腕のような物体だった。それを見て、びくっと体を震わせた凛だったが、すぐにそれが生身の物ではなく人工物だと気づいた。
(――義手?)
それは譲悟の
(……そっか。そういうことだったんだ)
これを見たことで、凛の胸中で
なぜ譲悟は「右腕」を失ったにも関わらず、血の一滴さえ流すことなく平然としているのか。それは、アレが元々装着していた義手だったからだ。
「――おい、まだか!」
「は、はい! もうすぐ!」
考え込んでいる場合ではなかった。
譲悟の催促によって、凛の思考は現実に引き戻された。
凛は義手の件を頭から追い出し、アタッシェケースの中から目的の物を探す。
しかし、……
(ええと、何だったかしら? マガタ……?)
凛は、肝心のその物の名前を上手く聞き取れていなかった。――そもそも凛は「勾玉」という言葉も、それが示す物についても知らなかった。
譲悟に確認すれば済んだ話なのだが、差し
(……お
凛が消去法的に選び出したのは、荷物の中で最も直接的な攻撃手段になりそうな物――
(――マガタ
脇差の中でも比較的小振りなその
脇差を取り出した凛は、念のため少しだけ鞘から刀身を抜き出そうとする。まさか、玩具などではないだろう――そう思いつつも、
「……おい、いい加減に――」
一向に指示した物を
譲悟は凛が手にした物に気づくと、ギョッとした。
「ば、馬鹿! それじゃねぇよ!」
「――え?」
折しも凛は脇差を目の前に
――するりと、何の抵抗もなく鞘が外れ、脇差の美しい刀身が夕闇に
それを