俺は『ラスボス系ヒロイン』になりたくない   作:匿名

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第二話

 

 

 不穏な『文字群』が見える上に、不安要素がいくつもあるが、この世界でやるべきことは理解できた。俺は勇者として、何れ復活する魔王を倒せばいい。『文字群』に書いてある内容は一旦無視だと、胸の奥に押しとどめる。

 

 

 そう持ち直して、俺は部屋にあった椅子に座って向かい合い、早速セリアに勇者として何をするべきか尋ねた。正直に言って荒事と無縁だった元男子高校生なので、「戦うのは嫌だな……」と内心思いつつも、俺はそんな弱音を少しでも隠したい為に、セリアの綺麗な碧眼を見つめた。彼女の瞳に映る少女()は、とても勇者の肩書きを持っているとは思えなかった。

 

 

 そりゃあ、そうだ。他にも「魔王を倒したら、婚約以外に元の世界に帰れないのか」と聞きたいくせに、セリアにまで失望されたくないせいで、無難な質問しかできない臆病野郎なのだから。

 

 

(……自分から聞いてあれだが、勇者って魔王討伐以外に何をするんだ?)

 

 

 さっきまでの話的に魔王はまだ蘇っていないはず。なので修行をするとか、近くに出没する魔族やモンスターを倒すとか。その程度の内容しか思いつかない。

 

 

 セリアは俺の初歩的な質問に嫌な顔一つせずに、微笑を浮かべたまま答えてくれた。

 

 

「……確かに勇者様には修練や『加護』の確認など、やってもらいたいことはたくさんありますが、今はゆっくりと休養をなさって下さい。いきなり、こちら側の都合でお呼びしてしまったので。それと何かあったら、私や他の者に言って下さい。私はやり残した仕事がありますので、夕食の時間にまた。失礼します」

 

 

 そう言って、セリアはスカートの裾を摘んで軽く会釈をして、扉の向こうに消えていった。侍女達の方も「部屋の前に、少なくとも一人は控えておりますので」と言い残して退出した。

 そうして、部屋には俺が一人だけが残された。ようやく一息が吐けそうであった。

 

 

 怒涛な事態の変化に、未だについて行けそうにない。先ほどは無視するとは言ったものの、やはり一人になると『文字群』に書かれている不穏な内容が気になってしまう。

 

 

 【固有スキル】『ラスボス系ヒロイン』。少なくとも現状の俺の身に起きている異変の一つ、性別の変化は『コレ』に因るものに間違いない。

 拉致同然に異世界召喚されて、性別まで変えられた。この時点で不幸というレベルですまないのだが、『コレ』の残りのデメリットは二つ。

 

 

 力を使用する度に、正気を失っていくこと。十年以内に世界を滅ぼさないと、【スキル】保持者()は死んでしまうこと。

 

 

 どちらも信じられない程に、重い内容だった。【スキル】を使えば、俺という人間の自我は擦り減らされていき。だからといって、一切使わなかったとしてもタイムリミットが来て命を落とす。

 

 

 これらの事実を羅列するだけでも、異世界召喚された時点で俺は詰んでいることを認識する他なかった。これでは一息を吐くどころではなく、がんがんと頭痛がしてきた。吐き気もだ。

 

 

 慌てて、両手で口を覆う。幸いなことに、中身が口から出てくるようなことはなく、高そうな服や床を汚すような事態にはならなかった。

 だって、今の俺は身一つで異世界に投げ出された、正真正銘の無一文なのだから。俺の肩書きは、いつ剥奪されるのかも分からない勇者というものだけ。

 

 

「はあ……はあ……」

 

 

 必死に乱れた呼吸を、思考を整える。

 とりあえずの方針で、セリアやその他大勢が望むように勇者として振る舞うことは確定事項だ。召喚直後で事態が上手く呑み込めていない俺を慮ってくれたセリア。そんな彼女だけが、この異世界にて唯一頼れそうな人物であり。

 彼女からの期待を裏切るような真似は、自殺行為に等しい。

 

 

 だが、魔王を倒すと言っても俺に特別な力はない。――【固有スキル】『ラスボス系ヒロイン』以外は。

 勇者として呼ばれたのだ。もしかしたら別の力に覚醒する可能性もなくはない。そうでなければ、『コレ』を使うしかないのだが、それはリスキー過ぎる。

 デメリットの内容的に、下手をしたら暴走した俺自身が魔王――そんな最悪な未来もあり得なくはない。本当にどうするべきだろうか……。

 

 

(あれこれ考えても仕方ないか……今は寝よう。特に出歩きたいとも思わないし)

 

 

 覚束ない足取りで、与えられた部屋にある大きなベッドに倒れ込む。元の世界で使っていた物とは比較にならない程に、柔らかい感触が俺を包む。

 それでも異常過ぎる状況のせいで、人肌が恋しくなるのは誤魔化せない。自分はそんな性格ではなかった気がするが、これも肉体の変化の影響だろうか。

 

 

 そんなことを考えても答えが湧いて出てくるはずもなく、余計に気が滅入るだけ。

 

 

(……セリアが来るのって、夕食の時だったよね)

 

 

 部屋には、時計のような物はない。夕食の時間までどのくらいあるのかは正確に分からないが、一眠りぐらいはできるはずだ。

 瞼を閉じる。疲れのせいか、眠りに落ちるのは一瞬だった。目が覚めた時に、見慣れた天井――いつもと変わらない日常の光景が広がっていることを願いながら。

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