死んだことにした悪役令嬢、 辺境で騎士団長に溺愛されつつ帝国を建て直します   作:来巻梓

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パンくず拾いの価値

 見張り台を降りる。

 夜気は刃物のように研ぎ澄まされていた。

 カイは外套の襟をきつく引き寄せた。

 石畳を踏みしめて砦の中庭を横切る。

 

 靴底から石の冷たさがじわじわと伝わる。

 甲のあたりまで冷気が染みてくる気がした。

 馬屋の方から寝言みたいな嘶きが一度だけ上がる。

 短い声は、すぐに闇の底へ沈んだ。

 

 今は馬たちも眠りの側にいる。

 起きているのは見張りと、物好きだけだ。

 焚き火は落ちて久しい。

 灰の上にうっすらと白い皮が張っている。

 

 残っているのは冷えきった石と、守備兵たちが吐き出した息の名残だけだった。

 

 砦の壁際を回り込むと、薄く灯りの漏れている窓があった。

 文官室の灯りとは違う。位置が低い。

 カイは足を止める。

 

(また起きてやがる)

 

 呆れが半分。

 その下で、言葉にならない安堵が静かにふくらむ。

 誰もいない廊下に、カイの足音だけが続く。

 足は考えるより先に動き出していた。

 

 自然と文官室の方へ向かっていく。

 扉の前に立ち、ノックの手間を省く。

 拳で扉を二度、軽く叩いた。

 

「文官」

 

 返事の代わりに、中から紙をめくる音がした。

 それから、掠れた声。

 

「開いてます」

 

 押し戸を押すと、暖かさが顔にぶつかった。

 廊下よりほんの少しだけ温かい空気。

 それでも、そこに人の体温があることは分かる。

 

 蝋燭の光が床を照らしていた。

 机の方ではない。石床だ。

 

 羊皮紙の切れ端が、床一面に広がっている。

 細い線があちこちに走り、ところどころに小石や砂の山が乗っていた。

 

 乾いた紙とインクの匂い。

 冷えた石の匂いとは別の、閉じこめられた夜の匂いだ。

 

「……戦場みたいだな」

 

 思わず口からこぼれた。

 羊皮紙の切れ端。

 小石。

 細かい砂の山。

 潰れたパンくず。

 錆びた鉄片。

 焼け焦げた木片。

 

 一つ一つは取るに足らない。

 けれど全部を乗せた床は、妙に緊張をはらんで見えた。

 

 子どもが拾い集めた宝物の山にも見える。

 今にも崩れそうな縮小地図にも見えた。

 

 蝋燭は二本。

 どちらも短くなっている。

 溶けた蝋が皿の縁から零れ、石床に固まっていた。

 インク壺の周りには黒い染みが星のように散っている。

 その真ん中で、シュアラが座り込んでいた。

 

 膝を折り、背を丸め、羊皮紙に顔を近づけている。

 髪が少し乱れていた。

 いつものきっちりした結い上げがほどけかけている。

 部屋を満たしているのは、ペン先が紙をカリカリと削る音だけだ。

 ときどき、羊皮紙をめくる乾いた音が混ざる。

 

「……ちゃんと、寝ているのか?」

 

 問いかけると、ペン先が一瞬だけ止まった。

 

「寝ましたよ。人並みに、三刻ほど」

 

「人並みじゃねえ」

 

 三刻で人並みを名乗られては困る。

 カイはため息をついて、部屋の隅の椅子を引いた。

 腰を下ろし、マグに残っていた白湯をひと口飲む。

 ぬるい。

 

 それでも、外の空気と比べれば十分にあたたかかった。

 

「こっちはこっちで、戦場だな」

 

「ええ。こちらは、数字の戦場です」

 

 シュアラは紙から目を離さずに答える。

 声に眠気は混じっているが、目だけは冴えたままだった。

 

「三つの村と砦を、一つの生き物として動かすゲームです」

 

 ようやく顔が上がる。

 目の下に濃い隈。

 頬の色は少し落ちている。

 それでも瞳の奥だけは、危ういほど冴えた光を宿していた。

 

「生き物?」

 

「はい。南のミルストーンは『胃』。粉を挽き、栄養を取り込む場所」

 

 丸く描かれた印の上に白い砂粒が盛られている。

 指先でなぞった跡が小さく波打っていた。

 

「東のシルバークリークは『脂肪』であり『貯蔵庫』。魚と獣の肉を燻して、冬じゅうの熱量に変える場所です」

 

 炭の粉で引かれた黒い線が、燻製小屋から立ち上る煙みたいにくねっている。

 線のそばには小さな木片が並び、小屋の柱のようにも、薪の束のようにも見えた。

 

「西のアイアンストリームは『骨』。鉄と道具で、この痩せた身体の骨格を支える村です」

 

 鋭い鉄片が数個、炉の印のまわりに置かれている。

 太い線で描かれた炉の輪郭が、夜目には暗い口のように見えた。

 

「そしてここが。私の考える心臓ってやつです」

 

 シュアラは自分たちのいる砦を示す丸に、インクで汚れた指をそっと置いた。

 節の目立つ白色の指だ。生まれが良いのか、シミなどが一切見られなかった。

 書き物に慣れた指だが、最近は鍬や壺も握らされている。

 丸の上には黒い小石が一つ、きちんと鎮座していた。

 

 砦の丸の下。

 薄くこすり消された文字の跡が、皮膚の痣みたいに残っている。

 その上から「心臓」の二文字が少し強めの筆圧で上書きされていた。

 

「誰がそんな甘やかしを」

 

「東と西と南から、情報を集めてくれた人たちです」

 

 シュアラは視線だけカイに向ける。

 ほんの一瞬だけ、目が笑ったように見えた。

 

「そいつらは酔っぱらいだ」

 

「今夜は飲んでいないはずですが」

 

 いつもの軽口が口をつく。

 それでも、床を走る線は冗談を許していなかった。

 紙から伝わる緊張が、膝のあたりに刺さる。

 

「東の燻製と魚は、血流のように三つの村と砦を巡ります」

 

 シュアラの指が動く。

 砦から東へ。

 東から南と西へ。

 迷路のような矢印を、一つずつなぞっていく。

 

「南の粉も同じです。西の鉄は、砦の廃武具を呑み込んで、鍬と釜と新しい武具に形を変えて戻ってくる」

 

 指先が矢印を渡るたび、砂や鉄片がわずかに揺れる。

 それが、見えない血流のように思えた。

 

「帝都から何も来ねえ前提ってやつか」

 

 問いというより確認だった。

 ここ数日のシュアラの目の動きを見ていれば、想定している「最悪」の深さは分かる。

 

「はい。補給線が壊死した場合、この身体がどこまで持つか」

 

 紙の端には細かい数字の列がびっしりと並んでいた。

 行と列が重なり合い、黒い格子のようになっている。

 カイには暗号にしか見えない。

 だが、それが「あと何日持つか」の目盛りであることくらいは察しがついた。

 

「ミルストーンの倉に、今どれだけ粉袋が眠っているか。臼を一日に何度回せるか」

 

 ひとつ挙げるごとに、指が紙の端の数字をそっと押さえていく。

 

「シルバークリークで、今季どれくらい獲物が減ったり増えたりしているか。燻製小屋の梁が、あと何本ぶら下がっても折れないか」

 

 紙の上の黒い格子の隙間に、村人たちの顔がちらつく。

 

「アイアンストリームの炉がどこまで熱を保てるか。砦に積んだ鉄くずを、どこまで鍬や釘に戻せるか——そういう数字です」

 

 シュアラの声は淡々としているが、一つ一つを口にするたび、部屋の空気が少しずつ重くなった。

 

「よくまあ、そんなに全部数えたな」

 

「数えさせました。村長と親方と、ラルスに」

 

「ラルス?」

 

「板の上に数字を書いて、自分で頭を抱えていたのを、団長はご覧になってないのですね」

 

「ああ。見た。あいつ、あんな真面目な顔ができたんだな」

 

 あの時のラルスの表情がよぎる。

 ふざけた笑いの影が消え、数字の列を前に何度も眉間を押さえていたあの顔が。

シュアラの強張っていた口元が、ほんのわずかだけ緩んだ。

 それは自分の計算が合った時の顔ではない。

 誰かが変わり始めた時の顔だった。

 

「全部合わせると——」

 

 ペン先が紙の真ん中に丸を描いた。

 インクがじわりと滲み、大きな点となる。

 三つの村から伸びる矢印が、その丸へ一斉に流れ込んでいく。

 砦という心臓。細い線が集まって太くなり、またそこから別の線として伸びる。

 

「『凍死と餓死が日常』という状態からは、少し離れられます」

 

 そこで、シュアラの声が途切れた。

 言葉の先を探して、見つからなかったような途切れ方だった。

 カイは蝋燭の火に照らされた彼女の横顔を見る。

 

 頬の皮膚が薄く、骨の輪郭が夜の光で浮かび上がる。

 淡々とした口調の奥に、飲み込みきれない澱のようなものが沈んでいた。

 

「……もっとマシな言い方はねえのか」

 

 思わず口に出る。

 耳に残る「日常」という言葉が、どうにも気に障った。

 

「探したのですが、これが一番、現実に近い表現でした。すみません」

 

「いや、別にいいさ。お前がどんな人なのかは分かったしな」

 

「…そうですか。なら続けますね」

 

 シュアラは紙から目を離さない。

 ペン先が端の数字をコツンと叩いた。

 小さな音がやけに響く。

 

「死亡率。七割から二割台まで下がる試算です」

 

「——」

 

 数字だけ並べれば、奇跡に近い成果だ。

 帳簿の上では、褒め言葉しか並ばないだろう。

 だが「二割」という響きは、あまりに軽すぎて重すぎる。

 

「十分だ」

 

 気づけば、喉の奥から声が出ていた。

 自分でも驚くほど低い声だった。

 シュアラが、弾かれたようにこちらを向く。

 目に、数字とは別の何かを探すような色が宿る。

 

「十分?」

 

「帝都にとっちゃ、辺境の冬の死人なんざ、『想定内』の一行だ」

 

 カイはマグを持ち上げる。

 ほとんど冷めた湯を一口飲む。

 薄い味。

 

 けれど、そのぬるさが今はありがたかった。

 湯気がかすかに立ち上り、視界を曇らせる。

 その向こうで、紙の上の非情な数字が少しだけ輪郭を失った。

 

「俺はあの冬、その一行の中の一文字になる予定だった」

 

「赤い谷の話ですか」

 

「ああ」

 

 短く答える。

 視線は床の地図へ落ちていく。

 小石とガラクタで組まれた、ぎりぎりの盤面。

 それでも、赤い谷の雪原よりはずっとましな盤面だ。

 

「誰が凍えたかなんて、いちいち数えちゃいなかった。雪かきして、埋めて、翌日もまた戦って、それでおしまいだ」

 

 あの頃の自分が、雪に埋もれた顔を何度見て、何度忘れたか。

 今となっては数えようがない。

 二割まで減った数字を見て、どこかでほっとしている。

 そんな自分が、ひどく気に入らなかった。

 同時に、かつて七割を「仕方ねえ」と飲み込んでいた自分も、同じくらい気に入らない。

 どちらの自分も、今の砦にはあまり置きたくなかった。

 

「だから」

 

 カイは指先で、砦から三つの村へ伸びる線を一本、ぐっとなぞる。

 ざらついた羊皮紙の感触が、指先に引っかかる。

 

「二割でほっとしてる連中が、この砦に何人いてもいい」

 

 そう言いながら、自分の胸の内を少し探る。

 その「連中」の中に、自分も混ざっていることを認めざるをえなかった。

 少しの間を置き、言葉を足す。

 

「その二の中に、お前も俺も入らねえって前提ならな」

 

 シュアラの肩が、ほんのわずかに揺れた。

 それを震えと呼ぶかどうか、カイには判断がつかなかった。

 

「……それは、理屈としては破綻しています」

 

「知ってる」

 

「計算にも入りません」

 

「分かってる」

 

「では、なぜ——」

 

「そういうもんだよ。何より、絶対があるなら、お前は正解しか引かないだろうしな」

 

「確かに、そうですね」

 

 少し自慢げな声に聞こえる。こいつにも感情はあるらしい。

 

 カイは小さく笑う。

 口にしてから、自分でも苦笑が漏れた。

 彼女の理屈の世界にはあまり似合わない答えだ。

 それでも、こういう無茶な前提がなければ、戦場では歩けない。

 紙の下の方。走り書きのような文字が目に入る。

 

『ゲーム2』の欄に、「盤面設計者——仮・シュアラ」と走り書きがしてあった。

 

「勝手にゲームの主催者名乗ってんじゃねえ」

 

「仮です」

 

「仮ねえ……」

 

 カイは、ペンの横に置かれた手を見る。

 インクと炭と細かい傷にまみれた文官の手。

 その手が兵の命の数字を握っていると思うと、少しだけ可笑しい。

 そして、少しだけ怖い。

 どちらの感情も完全には否定できなかった。

 

「なあ、軍師殿」

 

「はい」

 

「俺はな。戦場じゃ、自分の嗅覚と、横にいるやつの背中で動いてきた」

 

「ずいぶん乱暴な戦い方ですね」

 

「お前の言うことじゃねえな」

 

 軽く睨むと、シュアラの口元がかすかに上がる。

 笑った、というほどではない。

 けれど、さっきまで数字だけを見ていた目が、少しだけこちらを向いた。

 

「数字の正しさでしか動かねえ砦なら、俺はとっくに死んでた。あの冬にな」

 

「……」

 

「だから、お前の数字は信じる。けど、その数字の外側を歩く役目は、こっちがやる」

 

 それは、彼なりの宣言だった。

 シュアラはペン先を持つ手を止め、しばらく黙ってカイを見つめる。

 

「……了解しました」

 

 短い返事。

 それでも、今の彼女の口から出たそれは、妙に重みを持って響いた。

 

「じゃあ、俺は寝る。心臓が止まったら困るだろ」

 

「心臓が勝手に酒臭い血を送るのは、もっと困ります」

 

「もう飲んでねえって」

 

 口ではそう言いながら、マグの底に残った湯を思い出す。

 かすかなぬるさと、紙とインクの匂い。

 どれも、戦場の酒とは違う酔いを運んできていた。

 

「お前こそ、ちゃんと寝ろよ」

 

「今の一言で、進捗が五分ほど遅れました」

 

「ケチだな」

 

「冬は長くないので」

 

 即答だった。

 それが冗談か本気か、カイには判別がつかない。

 たぶん両方なのだろう。

 

「……背中は、預けていいんですよね」

 

 唐突に落ちてきた言葉に、カイは振り向いた。

 シュアラは視線を紙に落としたまま、ペン先をいじっている。

 

「さっき、そうおっしゃったので」

 

「預ける気がなきゃ、こんな時間にここまで来ねえ」

 

 それは、自分でも思っていたより素直に響いた。

 その選択がどれほど無謀でも、今はそれしか選びたくなかった。

 それだけ言って、マグを持ち上げる。

 すっかりぬるくなった湯を飲み干し、扉の方へ向かう。

 足元で、さっきとは別のパンくずを踏んだ。

 カリリ、と小さな音が静寂の中でやけに大きく響く。

 

「今のは?」

 

 背中越しに、試すような声が飛ぶ。

 

「心臓がたまに余計なことする例だ」

 

「心臓が自分で血管を踏みつぶすのは、医学的に推奨されません」

 

「じゃあ、ただの酔っぱらいの千鳥足だ」

 

「だから、今夜は——」

 

「昔飲んだぶんが、まだ血に残ってんだよ」

 

 手をひらひらと振る。

 カイはそのまま廊下の闇へ歩き出した。

 扉が閉まる音が背中で小さく響く。

 その向こうで、ペンが紙を走り出す気配が、すぐに戻ってきた。

 

*

 

 ひとりになると、音の輪郭が変わる。

 さっきまで部屋に満ちていた体温が抜ける。

 シュアラは、自分の心音だけがやけに大きく聞こえるのを感じた。

 静かな部屋で、鼓動がひとつひとつ数えられる。

 数字に置き換える前の、生々しいリズムだ。

 

 砕けたパンくずを指先で丁寧に集める。

 砦の丸の上に寄せ集め、小さな山をつくった。

 そこは砦で守り切った粉の、ほんの欠片だ。

 それでも、今の彼女には十分な手がかりに思えた。

 

「……背中」

 

 小さく口の中で転がす。

 言葉の質量を量ろうとする癖は、帝都で身につけた。

 役所の机の上で、言葉を数字や判子に置き換えてきた年月。

 その癖はもはや呪いに近い習慣になっている。

 

 戦場で、その言葉が持つ意味も知っている。

 死角を預ける。命を委ねる。

 数字に直せば、限りなく無限大に近いリスクだ。

 

 だから、本来なら計算の外に追い出すべき項目だ。

 

「……本当に、計算が合わない人ですね、あの方は」

 

 誰にともなく呟く。

 ペン先で「心臓」と書かれた丸の縁をなぞる。

 インクが乾きかけていて、指先にかすかなざらつきが残った。

 

 蝋燭の火が小さく揺れる。

 窓の外では風が石壁を撫でていた。

 遠くで、夜番の兵士が交代の合図をしている。

 その声が、砦の壁を伝ってかすかに届いた。

 

 シュアラは床に広がる羊皮紙の海を見渡した。

 粉。燻製。鉄。廃材。兵。子ども。村長。親方。ギルド。帝都。

 その全部をつなぐ線が、一度カイという心臓を通り、また村々へと巡っていく。

 

 心臓の丸の上には、先ほど集めたパンくずの小さな山。

 飢えを遠ざけるための粉が、象徴のようにそこに乗っていた。

 

 シュアラは小さく息を吐き、手帳を開いた。

 新しいページの隅に、『天秤の再設計』とだけ書き添える。

 

 その下に、今夜の自分への目安として「七割二分」と数字を置いた。

 盤面のどこまで手を入れたか、あとどれだけ残っているかを示す、自分だけの印だ。

 

 ペン先が紙を滑る感触が心地よい。

 数字は冷たい。けれど、ここまで来たという形にして並べると、胸の奥がほんの少しだけ温かくなる。

 冬はすでに半ばを過ぎつつある。

 

 沈みかけていた皿は、ゆっくりと、だが確かに水平へ戻りつつあった。

 石壁の向こう。

 東の空が、わずかに紫を含んだ灰色に変わり始めている。

 夜と朝の境目の色だ。

 

 息を吐くと、その色の中に溶け込んでいくような気がした。

 新しい一日の、冷たくも確かな光を予感しながら、シュアラは一度だけ深く目を閉じる。

 瞼の裏に、さっきの男の背中が浮かぶ。

 戦場で何度も見た背中。

 

 その背中が今、自分の描いた盤面の上に立っている。

 砦の心臓が、今夜は少しだけ力強く脈打っている——。

 

 そんな予感が、胸の内側で静かに鼓動していた。

 

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