死んだことにした悪役令嬢、 辺境で騎士団長に溺愛されつつ帝国を建て直します   作:来巻梓

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引き金の重さ(1)

 リオの指先が、弦の上で震えていた。

 

「距離二十……風、右から……少し」

 

 途中で声が細くなる。数字を並べているようでいて、実際には「怖い」を数えているだけなのだろう。本人はたぶん、自覚していない。

 

 弓の先、いつもの的の手前に、昨日はなかったものがぶら下がっていた。細い横木から垂れた縄。その先に括り付けられた木の棒。赤い線が、それぞれ違う場所に引かれている。真ん中。端。少し低い位置。妙に高い位置。

 

(肩。肘。太腿。手首……致命傷ではなく、動きを止める場所)

 

 横から眺めているだけなのに、位置がだいたい分かってしまう自分の方に、シュアラは一瞬だけ眉をひそめた。

 

 足元の雪は表面だけ固く、踏めばすぐにじわりと水が滲む。霜と土と焦げた藁の匂いが、冷気の中で鈍く立ちのぼっていた。朝の空気はまだ刺さるほど冷たいが、きのうよりは少しだけ丸い。

 

 リオは、手袋を外した指で弦をつかみ直した。節のあたりが赤くなっている。寒さのせいだけではない。

 

 弓がしなる。

 

 矢が空気を裂き、棒を根元からへし折った。乾いた「こん」という音が、霜を噛んだ地面に落ちる。ぶら下がっていた先端が一度だけ頼りなく回転して、雪の上を転がった。

 

「一本目、命中」

 

 ゲルトの声が、射場に響いた。からかい半分、安堵半分の響きだ。

 

 リオの肩が、ほんの少しだけゆるむ。息を吐き切る前に、彼はもう次の矢に指を伸ばしていた。今度の棒はさっきより高い位置にぶら下がっている。赤い線は、手の甲のあたりだろうか。

 

 二本目の矢は赤い線のわずかに上を掠めて突き刺さり、棒を揺らしただけで留まった。

 三本目でようやく真ん中を割る。折れた木片がぱらぱらと足元に散った。

 

「三本中、二本。昨日よりマシだな」

 

 ゲルトが顎をしゃくる。

 

「臆病者のくせに、いい腕してやがる」

 

 兵たちから笑いが漏れた。悪意の少ないざらついた笑いだ。

 リオは肩をすくめ、照れ隠しのように視線を逸らした。

 

「……物なら、まだ、どうにか」

 

 誰に向けたでもない呟きが、白い息の中でほどけていく。

 

 シュアラは手帳の端に書き付けた。

 

『吊り棒:命中率 2/3。震え:目視で確認。前日比、改善あり』

 

 行を変えようとして、ペン先が紙の上で止まる。そこに本当は、「死者期待値」とか「損耗率」とか、父好みの数字の欄を並べるはずだった。昨夜までは。

 

 実際には、そこが白紙のままだ。空欄を見ているだけで、舌の付け根のあたりが妙に固くなった。

 

(人の顔を見てから、ここに「死者四人」なんて書けるでしょうか、父上)

 

 喉の奥が、紙粉で乾いた時と同じ感覚でひりつく。シュアラは小さく息を吐き、手帳を一旦閉じた。数字は、後でいい。

 

 訓練がひと巡りする頃には、雪の表面は靴跡と泥でぐちゃぐちゃになっていた。矢を抜くたびに、矢羽根に染みた水が冷たく指を濡らす。藁人形の近くには、油と焦げた藁の匂いがうすく漂っていた。

 

「今日はここまでだ! 弓を片づけろ、指が折れる前に湯で温めてこい!」

 

 ゲルトの声に、兵たちがどっと笑う。

 誰かが「もう折れかけてますよ、副団長!」と返し、別の誰かが自分の指を見せて見せる。赤紫に膨れた節が、ひどく人間くさい。

 

 わいわいと騒ぎながら兵たちが矢を集め、射場を離れていく。そんな喧噪の少し外側で、リオだけが地面に散った矢を黙々と拾っていた。

 

 一本拾うごとに、雪の冷たさと薄い鉄の匂いが指先に残る。矢羽根の根元にこびりついた茶色は、誰かが切った指から出た血だろう。乾きかけて、色だけ残っている。

 

「リオさん」

 

 声を掛けるとき、自分の声が思ったより低くこわばって聞こえた。

 

 リオの肩がぴくりと跳ねる。

 

「……はい」

 

 振り向いた顔には、うっすら汗が浮いていた。頬が赤い。寒さだけでできる色ではない。

 

「片づけが終わったあと、少しお時間をいただけますか」

 

 言ってから、待たずに続けてしまう。

 

「終わるまで待つと、指がさらに冷えますね。手伝います」

 

 足元の矢を一本拾い上げる。霜が指と矢羽根のあいだで潰れ、じわりと水が滲んだ。指先の感覚が、痺れと痛みの中間くらいに落ち着いていく。

 

「じゃあ……お願いします」

 

 少し間をあけてから、リオがうなずいた。返事と一緒に、息が白く揺れる。

 

 矢筒を一つ分埋める頃には、射場から兵の姿はほとんど消えていた。残っているのは、切れた縄、折れた棒、踏みならされた雪だけだ。

 

「こっちへ」

 

 シュアラは、風よけの塀の陰へ歩いた。昨日、ゲルトに怒鳴られ、カイに諭された場所だ。雪の上にはまだ、細い縄の切れ端が残っている。靴の裏で踏むと、湿った感触が伝わった。

 

 リオも弓を抱えたままついてくる。距離をとりすぎず、近づきすぎず。逃げる足の運びではない。

 

 塀の陰は風が弱い。そのぶん、冷えがじわじわ染みてくる。指先の痺れが、ようやく痛みに変わり始めていた。

 

「……昨日は、すみませんでした」

 

 開口一番、出てきたのはそれだった。

 

「昨日?」

 

 リオがきょとんとする。矢筒の紐を指先でいじる癖が出ていた。

 

「あなたに、『撃たなければ二人死ぬかもしれない』と説明した件です」

 

 自分の口から例の文をもう一度出した瞬間、胃のあたりではなく、背骨のどこかが冷たくなる。

 

「数字としては……たぶん、間違っていませんでした」

 

 そこで言葉が途切れる。雪の白さがじわりと目に痛い。

 

「でも、あの渡し方は、よくありませんでした」

 

 言い換えるのに、もう一呼吸かかった。

 

「俺、別に怒って――」

 

 リオが慌てて口を開く。

 

「怒る権利は、あなたにあります」

 

 先に言ってしまった。

 また遮った、と気づいた時には遅い。

 

 塀の向こうで、誰かがくしゃみをする。小さな音が、間を埋めた。

 

「私は、自分の都合だけで計算を押しつけました」

 

 シュアラは言葉を選び直す。

 

「あなたの頭の中にいる“あの人”を、数字の外に置いたまま」

 

 リオの瞳の色が、ふっと濃くなる。

 

「……あの人」

 

「去年の遠征で、肩を撃ってしまった仲間のことです」

 

 報告書には「兵士一名・肩部貫通」としか書かれていなかった行。そこに血の色も笑い声も貼り付いていない。

 

 リオは顔をしかめた。

 

「忘れてないですよ、あれは」

 

 息を吐くたび、白がちぎれて空に昇る。

 

「忘れられたら楽だなって、何回も思いましたけど」

 

 握った手が、小刻みに震えはじめる。

 

「一回だけのはずなのに、頭の中では何百回も繰り返すんです」

 

 視線は雪の上、けれど見ているものは別だ。

 

「あいつが振り向くところとか、『お前何やってんだよ』って笑って言う顔とか」

 

 笑っている、と口では言いながら、その表情を思い出した瞬間に、リオの頬の筋肉が引きつった。

 

「……笑ってるのに、全然笑ってるように見えなくて」

 

 言葉の最後が少し掠れる。

 

「だから俺……人に向けて矢を放つの、もうやっちゃいけないって、どっかで思ってて。俺が弦を引いたせいで、また誰かが――」

 

 そこで、リオははっと口を閉じた。

 「倒れる」と言う前に、喉が止まったのだろう。

 

 沈黙だけが一瞬、風より冷たくなる。

 

「引き金で、合っています」

 

 シュアラは、少しだけ声を落として言った。

 

「弦でも、剣でも、旗でも。人の命が動き出すきっかけになるものは、全部“引き金”です」

 

 外套の内ポケットから手帳を取り出す。紙束が冷えた掌にずしりと乗った。

 

「今までは、“あなたが撃てば守れる命”と、“撃たなければ死ぬ命”を、こうして数字で比べようとしていました」

 

 昨夜書き足したページを開いて見せる。そこには、矢印と人数と、「想定死者」という単語が不自然に空欄になっている。

 

 リオは眉間に皺を寄せたまま、目だけで文字を追った。どこまで読めているかは分からない。だが、逃げる気配はなかった。

 

「でも、それだと、あなたの頭の中で何度も倒れている“あの人”を、計算に入れていないことになる」

 

「計算に……」

 

「はい」

 

 そこでシュアラは手帳をぱたんと閉じた。

 

「だから今日は、別の問いを一つ、渡しにきました」

 

 自分の心臓が、その瞬間だけきゅっと縮む。

 数字ではなく、名前を扱うほうが、よほど怖い。

 

「リオさん。今、一番『死んでほしくない』と感じる顔を、三つ思い浮かべてください」

 

「え」

 

 あまりにも唐突だったのか、リオはあからさまに固まった。

 

「三つ、ですか」

 

「三つ。……三つで足りなければ、増やしても構いません。でも、まず三つ」

 

「いきなり言われても……」

 

 リオは視線を落とし、雪の上に落ちた自分の影を見つめる。影が少し揺れた。

 口の中で何かを数えているように、唇が小さく動く。

 

 沈黙が、指折り数える時間だけ伸びた。

 

「……ひとつは、やっぱり、あいつです」

 

 ようやく漏れた声は、少し掠れていた。

 

「あいつ?」

 

「その……肩、撃っちゃったやつです」

 

 リオは、照れ隠しとも苦笑ともつかない顔をした。

 

「本当は、顔見たら殴られるかもしれないって、ずっと思ってて」

 

 息が白くちぎれて、空の方へ逃げていく。

 

「でも、それより先に……あいつが、今度こそ本当に倒れるとこなんて、もう見たくないです」

 

 言い方が、妙に子どもっぽく聞こえた。

 

「二つ目は?」

 

 問いながら、シュアラは意図的に視線を一点から外した。答えを急かさないための、小さな逃げ道だ。

 

「東の村の、粉引き婆さん」

 

 全く予想していなかった名前に、思わず眼を戻す。

 

「粉引き婆さん?」

 

「この前、団長と軍師殿が来たとき、いましたよね」

 

 リオは片手で、自分の腰の少し上を指さした。

 

「腰悪いのに、自分で粉袋持ち上げようとしてた人。燻製小屋の裏の。倒れたら、子どもらがパン食えなくなるからって、笑ってました」

 

 節くれだった手と、皺だらけの笑顔が頭に浮かぶ。「粉と水があるうちは、子どもは死なん」と笑った声まで一緒に。

 

「あの笑い方、ずるいと思うんですよ」

 

 リオは頭を掻いた。

 

「ずるいの、嫌いなんですけど。ああいうのは……死んでほしくないです」

 

(ずるい笑い)

 

 シュアラは心の中で繰り返す。

 帝都のサロンで見た「計算済みの笑み」とは、別の種類のずるさだ。

 

「三つ目は?」

 

「門番のおっさん」

 

 今度の答えは早かった。

 

「寝てばっかりいる人です」

 

 シュアラの胸の奥が、ぴくりと跳ねた。初めてこの砦に来た夜、毛布をかけたあの男の顔が浮かぶ。

 

「どうして、その人なんですか」

 

「どうしてって……」

 

 リオは少し黙り込み、言葉を探した。

 

「なんかあのおっさんが門番してると、“今日も大丈夫だな”って思うんです」

 

 視線が門の方角へ行きかけて、塀に遮られる。

 

「寝てるみたいで、ちゃんと周り見てるし。ああいう人が一人いるだけで、砦の空気がちょっと楽になるっていうか」

 

 言葉はうまくまとまらなかったが、意味は伝わる。そういう「緩衝材」の顔が、砦には少なすぎる。

 

 シュアラは、手帳の裏に三つの名前を書き留めた。肩を撃たれた仲間。粉引き婆さん。門番の男。父が見たら、即座に「感傷的」と書き直しそうな偏り方だ。

 

「では、仮の話をします」

 

 シュアラは、雪の上に膝をついた。指で簡単な図を描く。一本の線が前衛、その後ろに小さな丸を三つ。

 

「敵が攻めてきました」

 

 線の端をなぞりながら言う。

 

「あなたは、いつも通り少し高い場所から戦場を見ています。前では団長たちが戦い、その少し後ろに、怪我をしている“あの仲間”がいる」

 

 指先で前衛の丸を叩く。霜がほんの少し飛び散った。

 

「さらに後ろには、避難してきた村人たち。粉引き婆さんも、その中にいます。門の前には、いつもの門番が立っている。門の向こうには、子どもたち」

 

 雪の上の丸が、頭の中で顔に変わっていく。

 

「そこへ、敵の騎兵が一人、槍を構えて突っ込んできます」

 

 新しい点を打ち、前衛へ向かって矢印を引く。

 

「狙いは、怪我をしている“あの仲間”」

 

 リオの喉が、ごくりと鳴った。

 

「……何もしなかったら」

 

 彼は、ほとんど自分に向かって言うように呟いた。

 

「一番危ないのは、怪我してるあいつですよね」

 

「そうです」

 

 うなずきながら、胸の内側がきゅっと縮む。当たり前すぎて意地悪な問いだ。

 

「馬の脚を撃ったら?」

 

 今度はリオの方から問うてきた。顔を上げる。

 

「それで――」

 

 シュアラは雪の図を指でなぞった。敵の騎兵。矢印。味方の列。

 

「全員、助かるんですか」

 

「……分かりません」

 

 今度は、即答にならないように、わざと一呼吸置いた。その間に、自分の舌が別の嘘を選ばないよう確認する。

 

「別の敵が来るかもしれない。他の場所で――」

 

 「誰か」と言いかけたところで、言葉が喉につかえた。

 雪に描いた丸を見てしまうと、そこにすぐ顔が乗ってしまうからだ。

 

「……どこかの誰かが倒れるかもしれません」

 

 言い直すときには、少し声が掠れていた。

 

 リオは黙って雪を見つめていた。図の上で、自分なりに線を引き直しているのだろう。

 

「それでも、その瞬間――あなたが守ろうとしているのは誰ですか」

 

 長い沈黙のあと、彼は答えた。

 

「あいつです」

 

 迷いのない言い方だった。

 

「あいつが、また倒れるのは嫌です。二回は、嫌です」

 

 「二回」という数字だけが、やけに鋭く刺さった。一度目は、すでに起きているからだ。

 

「もう一つ、別の場面を想像してください」

 

 シュアラは雪に描いた図をこすり、書き換えた。今度は騎兵の矢印を後方へ向ける。

 

「同じ騎兵が、粉引き婆さんに向かって突っ込んでくる。その少し前には門番がいて、その向こうには子どもたちがいる」

 

 説明の途中で、リオの喉がひゅっと鳴った。

 

「あなたが矢を放たなかった場合、一番危ないのは誰ですか」

 

「婆さん、か……門番のおっさん、か。その向こうの子どもら」

 

 絞り出した声だった。

 

「その場面でも、あなたが矢を放ったせいで、別のどこかで誰かが死ぬかもしれません」

 

 シュアラは目を逸らさずに言う。

 

「それでも、その瞬間、あなたは“誰の死なら背負えるか”を、選ぶ立場に立たされます」

 

 風が一度吹き抜け、塀の向こうで旗がぱたんと鳴る。遠くの鍛冶場から聞こえる槌のリズムが、妙に大きくなった。

 

 沈黙が、限界まで伸びる。

 

「……敵、です」

 

 リオはようやく口を開いた。唇の端がわずかに震えている。

 

「敵なら。俺が撃ったせいで、そいつが死ぬんなら、多分……多分ですけど、背負えます」

 

 胸に置いた手の下で、心臓がやかましく暴れているのが自分でも分かるのだろう。声にその鼓動の速さがにじんでいた。

 

「でも、味方とか、村の人とか……粉引き婆さんとか、門番のおっさんが、俺の矢で死んだら、多分、もう二度と弓引けません」

 

 それは、きわめて個人的で、きわめて偏った線引きだ。だが、人の線引きなど、そもそもみんなそんなものかもしれない。

 

「だから――」

 

 リオは深く息を吸い、冷たい空気を肺の奥へ押し込んだ。

 

「俺は、“仲間と村の人を守るためにだけ”矢を撃ちます」

 

 大きな旗印には程遠い。穴も矛盾もいくらでも見つかる。

 それでも、「撃つ理由」を自分の言葉で掘り当てた瞬間だった。

 

 シュアラは、喉の奥が熱くなるのをごまかせなかった。

 

「……分かりました」

 

 呼吸を整えながら答える。

 

「その選択を、私は支持します」

 

「軍師殿は、怒らないんですか」

 

 リオが、意外そうに目を瞬いた。

 

「もっと、“こうした方が死者が減る”とか、“この確率なら”とか……」

 

「怒る理由はありません」

 

 シュアラは小さく笑った。笑っているつもりでも、頬がうまく動いている自信はない。

 

「あなたが、“何のために引き金を引くか”を、自分で決めてくれたので」

 

 昨夜の自分に足りなかったものだ。数字ではなく、名前のある理由。

 

「ただ、一つだけ条件をつけます」

 

「じょ、条件」

 

 リオが身を固くする。

 

「矢を放つ時には、必ず誰か一人以上の“守りたい顔”を思い浮かべてください」

 

 さきほど書いた三つの名前の上を、指先で軽く叩く。

 

「今の三人に限る必要はありません。増やしてもいいし、入れ替わってもいい。でも必ず、人の顔を一つ以上、心の中に置いたまま弦を引いてください」

 

「そんなことで、何か変わるんですか」

 

 リオの問いは素直な疑問というより、半分はすがるような色を含んでいた。

 

 シュアラは少し空を見上げた。灰色の雲が、風でゆっくり流れていく。答えをどこかから拾ってこられるなら楽なのに、と思う。

 

「分かりません」

 

 正直に言う。

 

「ただ、少なくとも、その矢が『ただの殺すための道具』にはならないと、私は思います」

 

 リオはしばらく唇を噛んでいた。やがて、ふっと力を抜くように息を吐く。

 

「……やってみます」

 

 決意というより、「それなら、まだやれるかもしれない」という諦めに近い響きだった。それでも、昨日の「何も撃てない指」からすれば、大きな前進だ。

 

「今日は、これで終わりです」

 

 シュアラは軽く頭を下げた。

 

「手を温めて、よく食べてください。冷えた指だと、引き金はうまく引けませんから」

 

 リオが、思わずというように笑った。

 

「はい」

 

 短い返事のあと、彼は弓を抱え直し、湯気の方向――兵舎の浴場の方へ歩いていった。

 

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