助けて前世、逃亡を   作:おおは

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仕方なくレース

「それでは、此方に名前とサインをお願いします。名前は偽名でも大丈夫です」

 

受付の若男が俺に一枚の紙とペンを差し出す。

 

 

出走登録紙

 

 

――うん、なんで俺この紙を持ってるんだ……

 

 

 

 

 

時は遡り―――――おっさんの手術中。

 

ここに運んだときは、看護師に何かエゲつないものを見たような目で見られた。

 

「えー……暢気地さん、此方へどうぞ。あっ貴女は……此方に」

 

おっさんが医者と看護師に連れられて行った一方で、俺はスッと如何にも丈夫そうな椅子に座らされた。

 

まぁ座り心地良かったから何も文句はない。多分。

 

暫く待っていると手術が無事に終わったらしく、包帯が脚に巻かれまくってボルトで固定されているおっさんが運ばれてきた。

 

麻酔が効いているらしく、ぐっすりだ。

 

「あの、貴女はご家族か何かですか?」

 

看護師が用箋ばさみを片手に俺に聞いてくる。

 

「あ、いえ。バイトさせてもらっているだけです」

 

「そうですか。なら、この方のご家族の方の連絡先とかご存じないですか?」 

 

「確か家族はいませんよ」

 

看護師は一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに元の真面目顔に戻った。

 

はい優秀。

 

こういう看護師が欲しかったんだよなぁ。前世は……うん。不運だったとしか言いようがない。

 

「そうでしたか……有難うございます。もう帰っていただいて大丈夫ですよ」

 

「こちらこそありがとうございます。失礼します」  

 

用箋ばさみ上の紙を捲りながら去っていく看護師。

 

俺はそれを見送ってから病院を出た。

 

急いで配達をしなければ……!

 

慌てて店へと走る。

 

今日はただでさえ多いのに。

 

ちょっと本気で走らないといけんかもな……

 

俺は脚に込める力を少し強くした。

 

……蹄鉄してないから、靴の劣化が早くなりそうだ。食費から引くか……

 

 

■     ■

 

 

何とか配達を終えた次の日。

 

いやー昨日はキツかった。フランスでやらされたトレーニングレベルだったわ。

 

グチグチ思いながら俺はある病室に入った。

 

その部屋の隅で、おっさんは横になってテレビを見ていた。

 

「体調はどうだ?」

 

俺が問いかけておっさんは初めて俺に気づいたようで、慌てて此方へと振り返った。

 

「―――あぁ悪い悪い。久しぶりに昔の有見てたんだ」

 

俺は思わず呆れてしまった。おっさん……。

 

「入院中なのだからほどほどにな」

 

「入院中はガチ暇なんだぜ?」

 

うーん……確かに医者やってるときもよくじいさんに暇だと叫ばれた(発狂)な。

 

同じくらい心霊系の相談も多かったが。ウチの病院だけがおかしかったのか?

 

「そこまで喋れるのなら問題ないだろう」

 

「あぁ、ありがとさん」

 

「昨日の夜のメッセージで”シャンプー変えろ”と突然言われたのには驚いたが」

 

「いや、事実合ってないと思うぜ、シャンプー」

 

おっさんが俺の髪を見ながらジト目でそう言う。

 

この人、妙に綺麗好きなんだよな……ビックリなギャップだ。

 

「店でおススメと書かれていたのを買ったのだが、合っていないのか」

 

うん、俺にそれを聞くのが間違っている。実用主義の俺に。

 

シャンプー?おススメでいいだろ?大して変わらんだろ?

 

特売とおススメにはいつもお世話になっている。

 

フランス?友人とかから貰っていた。特売超えて無料である。有難い。

 

「昨日の感触からして合ってないぞ絶対。今すぐ変えとけ」

 

「感触……」

 

……おっさん、それウマ娘どころか一般人でもアウトだろうよ。

 

「大将、それはデリカシーに欠けると思う。一般人でもアウトだ」

 

「そうか?」

 

そうだ。

 

「俺は拘りを持ちてぇんだ」

 

「そうか……。拘りで自滅しないようにな」

 

おっさんは苦笑した。なんか……実際に経験したよ、みたいな顔だな。

 

「ハハハ……兎に角、もっと高いやつの方が合ってるぞ」

 

「高いものか?」

 

「そうだ。高い……といえば、お前、休業中生活費どうすんだ?流石に休業中はお前の分まで賄える余裕はねぇぞ」

 

おっさんがベッドをボタンで起こしながら問いかけてくる。

 

「今迷っている」

 

あまり働きたくはないが、ホームレスしたいわけじゃない。

 

フランスの金は全部銀行だ。引き下ろそうもんならトレーナーにバレてしまう。

 

あのトレーナーセコいし妙に鋭いからなぁ……隙は見せたくない。

 

そう悶々と思っていると、ふとおっさんが目の前に一枚の紙を差し出してきた。

 

「だったらこれに出てみたらどうだ?」

 

ん?どれどれ……

 

特別開催レース出走者募集中……??

 

「いや……だから私は走るのがあまり好きではないのだが??」

 

「安心しろ、俺のダチがコソコソやってるちょっとしたレースだ」

 

おいおい、猶更不安だ。それいけんの?

 

「さぁ? 聞いたことねぇわ。ヤンチャ時代のダチだから最近会ってねぇんだ」

 

「そんな無責任な……」

 

さぁって……どうしろってんだよ。

 

絶対違法すれすれ、というかそのものだろ。これは出ない方が……

 

あぁ、俺の医者としての真面目さが髪を引っ張ってくる……。

 

「一位は500万だとさ」

 

「……よし、出よう」

 

うん、生活費が全て賄えるぞ。

 

医者の俺も大きなおケマル水産してるし。

 

 

■     ■

 

 

――――そして今。

 

『――――それでは、今回の出走バの紹介です!!!』

 

俺は地下道を歩く。

 

昔貰って結局一度も使うことはなかった勝負服を纏って。

 

地下の薄暗さが今の俺には丁度良く感じる。

 

因みにだが栗毛色のカツラも被っている。だが急遽用意したから若干ズレが心配だ。

 

……うーん。やっぱり帰りたい。隙晒しまくってる気がする。

 

というか違法レースのくせに何であんな堂々してる実況要るんだよ。

 

警察何しとんねん……

 

ま、今は気にせず500万目指して勝つか。流石に負けられん。

 

レースに態々出てるんだからな――――――。

 




※用箋ばさみ……書類を立って書く時の下に使う奴。
というかうp主も知らなかった。名前が渋い。

〇アンケートに気づいたら増えていたパクパクさんが何故か2位というまさかの出来事。

〇あ、次話の次話の次話くらいに他者視点やるかもしれないんですが、そのウマ娘の名前決まってないんですよ……何か案があったら是非活動報告で教えて欲しいです。
作者ネーミングセンスが皆無だと周りから言われまくってるので( ゚Д゚)

〇有マをちゃんとうまゴに直しています。あんなフォントがあったとは……!

やっぱり掲示板は要る、よね?

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  • いや
  • え?
  • 既に掲示板にいる
  • パクパクですわ!!!!
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