俺は小さな錆びれたパドックに立つ。
フランス製のイケイケ勝負服と同時にカツラの栗毛色が靡く。
この勝負服、かの太陽王の服がモチーフだけあって分厚くて暑々しい。
『13番 デイスカン 今回がこのレース初出走のようです』
瞬間、観客がワーワーと騒ぐ。中には野次に近いものも普通に含まれている。
……初出走て。確かに違法レースは初めてだけんど。
『彼女のオーラは中々ですね。恐らくシニア級なのでしょう。ルーキーとして期待が持てますね。一切緊張もしていないようですから。よくここに来てくれました』
何で解説もおんねん。しかも無駄に玄人っぽいな。マイクちょっと音質悪いけど。
今までよく検挙されてないなマジで。
俺は内心吃驚しながらパドックを後続に譲る。
今回見ている限り、俺でも知ってるような存在もといウマ娘はいない。
ま、それもそうか。
中央に出ているほどのウマ娘がこんなレースに出るわけもない。
「ふむ……500万は貰えたかな?」
俺がボソッと呟くと、周りのウマ娘が気づいたようで、ギロリと見てきた。
ひやー。こんなレースだけあって、参加するウマ娘も剣呑な雰囲気醸し出してるな。
勝負服も厳ついのが多いし……おい君、タバコは体に悪いよ特に肺に。成人してんの?
俺の生暖かい視線に対して、タバコ君は人を殺せそうな視線を向けてきた。
……治安悪ぃ。
文句をクドクドと脳裡に垂れ流している間に、俺たちは今回のコースに出た。
野良だけあって隣に建物はなく、コースの周りを観客が取り囲んでいる。近い。
公式レースでは確実に許されない距離だ。5メートルもないだろう。
「オラァァ!!ルーキー!!お前に賭けたんだから勝てやオラ!!」
声が高性能耳に響いてマジで五月蠅い。ただの音響爆弾じゃねぇか。
そして、多くが手に例の紙きれを握っていることはこの際触れないでおこう。
俺は目の前に立つチープなゲートを見る。
今回のコースは芝・2500m。状態は良バだ。
『今、ファンファーレが鳴ります。お馴染み音質ガラガラです』
同時に若干歪なファンファーレが響く。
やっぱり音質荒いな。おいアレカラオケ用だろ。
『さて、今回は無事良バ場です』
『前回は雨でかなりの重バ場でしたからね。今回はパワーを必要としないので、スタミナが多く残るでしょう』
『ということはやはり決着は』
『そりゃあ最後の直線でしょう』
軽いストレッチをし、ゲートに入る。
何人かは一瞬渋ったが流石といったところ、すんなりと入っていく。
俺は前世人間が故に、やはりゲートの怖さが一ミリも分からない。
なんなら社畜時代の医者用宿舎を思い出して、残念ながら心地がいい。
『おっと6番カゲレートがゲート入りを若干渋っています』
『あ、今入りましたね』
隣では厳ついウマ娘が「ぶっ潰す!」と吐き捨てている。
元気だなぁと思いながら、俺は意識をコースへと集中させた。
さて、今日はどう走ろうか?
『レースが――――――今、スタートしました!』
ゲートがカシャンと開くと同時に、俺は走り出した。
脚に圧倒的な力を込めて、土を抉り蹴る。
うむ、我ながらパーフェクトな出始めだ。
『おっとデイスカンが綺麗なスタートを決めて先頭に躍り出た!』
『脚質は逃げなんですかね』
解説さん正解。俺は一応差し派なんだが、ところがドッコイこんなところで使うわけにはいかない。バレてしまう。
故に今回は逃げでいこう。(少しだけ走り方も変えている)
華麗なスタートを決めた俺が後続と何バ身か差をつけると、瞬時に後続からの視線が俺に集中した。
いいね。こういう緊張感も悪くない!
■ ■
『ここで半分を通過しました!タイムは測っていないんですが、一見速いペースです!』
『確かに、僕から見ても結構なペースですね』
『しかし、先頭は依然としてデイスカンだ!! 後続とどんどん差をつけている!』
俺は無駄に有能な実況の中、一人優雅に先頭を走っている。
「ふぅッ……残り半分か」
残り1000mと少し。俺と後続との距離的にそろそろだろう。
『――おおっと!!ここでモグモグパクパクがスピードを上げた!!』
『デイスカン狙いでしょうね。ポジション上げを兼ねてでしょう』
チラリと後ろを見ると、スカート型の少しメルヘンな勝負服を纏った栗毛のウマ娘がスピードを上げじわじわ俺へと迫ってきていた。
「うっしゃぁあああ!!!」
目を見開き、歯を食いしばりながら俺へと迫ってくる。
その迫力に少し感嘆する。
青春だなぁ……俺の青春は勉強と家で消えていったが。
だが今世はまだ青春時代。俺とて負ける気はない(金も、ね)
俺は呼応するように芝を力強く蹴り上げた。
ドガン、と芝が耐えられずに抉り舞う。
『おっとここでデイスカンが加速した!』
俺が速度を上げたことに驚愕の表情をする彼女に、俺は言い放った。
「此方も負ける訳にはいかないのでな」
その勢いのまま彼女を千切り、俺はカーブへと入った。
『さぁ最後の直線だ!!このままデイスカンの優雅な勝利となるのか!』
すぐ隣から観客が狂気のように叫ぶ。マジで五月蠅い。前世のタチ悪い競馬市民みたいだ。
……最後の直線か。
よし、一気に行ってやろう。
そう思って俺が更に脚へと力を込めた時だった。
カツラが風に妙に靡く感覚。
――――カツラが取れ始めていた。
ッまっず! これ以上の速度はダメか……!
感覚的に、少しズレている。これ以上ズレたら地毛が出る。
おいおいこのタイミングでズレんのかよ?!
『――――おっとここでミズホテイオーが追い上げてくる!』
解説の声にハッとし気づくと、背筋がゾクリとする感覚。
チラリと一瞥すると、一人のウマ娘が俺を猛追してきていた。
―――――マズいぞこれは……!
走ればカツラ取れてジエンド。
このまま走ってもギリギリ。
究極の二択だ。
悩んでいる間にも迫ってきている。
――もう祈るしかない!!
500万……500万よ来い……!
『デイスカンとミズホテイオーが並んだ!!並んだぞ!!』
俺の隣で必死の表情で歯を食いしばるウマ娘。
……かなり無理をしているな。走後何もなければいいが……
だが、まぁ多分今俺も必死の形相だろう。色んな意味で。
『さぁどちらが出るか!!どちらだどちらだ!!』
「はあぁぁぁああああ!!」
「負けるかぁぁああ!」
俺たちはその勢いのままゴールを駆け抜けた。
一早くカツラを片手で押さえながら、徐々に速度を落として俺は考える。
……これは映像判定だな。
確定の文字が出ないまま幾数十秒。
遂に極小サイズの電子板の一位欄に名前が載った。
一位 デイスカン
いえす!!
有難う500万さん。帰ったら土下座します。
同時に、周りから圧倒的な歓声と野次が飛んでくる。やはり五月蠅いぞ。
『デイスカンハナ差で一位です!ということで、500万はデイスカンに渡されます』
コースの中側からマスクを着てサングラスをつけた年配の男がやってくる。
「あ、じゃあはいこれね」
そしてポンと厚い封筒を手渡された。
……うん?こんな渡し方なん?びっくらこくわ。
男が去っていき、俺は封筒を呆気にとられながら見つめる。
呆気な……
とぼんやり思っている時だった。
視界の隅で先ほど俺に並んだ子がフラついて傾いた。
瞬間、俺は封筒を傍に投げ捨て、
ギリギリ間に合い、俺はホッとした。
助けられた子は驚いたような表情を浮かべている。
「なんでッ……」
「それは助けるのが医者の仕事だからだ」
抱えられながら、彼女は悔しそうに口を噛んだ。
「はぁ……はぁ……あなたが、いなければ私がッ……妹の学費をッ……」
うわぁ重。前世医者として色々見てきた俺でもこれはキツイ部類だ。
うーん……そんな恨ましい目で見られると医者の俺が……!!
「……なら半分いるか?」
「えッ?」
え?欲しいんじゃないの?
どうせ500万もいらんし。
そう思って俺が封筒の方へと視線を上げた時だった。
――――――反動でカツラが落ちた。
空中で舞ったそれは、悲しくもそのまま地面へと落ちた。
漆黒の髪が露になる。
「えッ……」
目の前のウマ娘が先ほどより目を見開く。
『ん?――ッあ、あの漆黒髪……!あれはまさか――』
実況の声と共に、観客の視線が俺へと確りと注がれる。
だが、俺にとってはそれは弓矢も同然。
終わった……サラバ平穏。
「Au revoir la paix……」
無意識に呟いた時だった。
入口方面からかなりの怒声が響いた。
「おらぁ!大阪府警の出張逮捕じゃぁぁ!おんどりゃ大人しく捕まれやおらぁ!」
ミズホテイオーとモグモグパクパク使わせていただきました。
いやぁネタ枠もいいっすね
ご提案ありがとうございます!!
先の話でも名前、使わせていただきます。
ネーミングセンス皆無の作者が感謝の土下座してます。m(_ _)m
やっぱり掲示板は要る、よね?
-
うん
-
いや
-
え?
-
既に掲示板にいる
-
パクパクですわ!!!!