助けて前世、逃亡を   作:おおは

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聖蹄祭に行っCHINA

何事もなく無事に家に帰ってこれた俺は、早速おっさんの病院を訪れていた。

 

面倒くさいが、あんな目にあって文句一つも言わないのは流石に癪だ。

 

カウンターに挨拶すると、馴染みの真面目顔看護師が出てきた。

 

「おや、貴女ですか。暢気地さんのお見舞いですか?」

 

「ええまぁ、そんなところです」

 

俺がハハと情けない笑みを浮かべる。

 

すると、看護師はふとしたように首を傾げた。

 

「そういえば、貴女はずっと帽子を被って髪を隠していらっしゃいますね」

 

ギクリ……まさかのふとした発言がクリティカルヒット。

 

「失礼ながら、何かご理由でも?」

 

「え、あぁ……まぁ些細な理由です。髪色がちょっとした程度の」

 

髪色だよ、はい。ある意味見られたら終わりだからな。

 

看護師がジッと俺を見てくるが、やがて看護師は視線を手元に落とした。

 

「……分かりました。面会時間は午後6時までですよ」

 

「……ありがとうございます」

 

俺は無意識に安堵の溜息を吐きながら、おっさんの病室へ向かう。

 

すると、扉に手をかけた時、中から声が聞こえてきた。

 

「――いやぁ……警察が……来る……わなかった」

 

……おっさんの友人かな?

 

そう思いながら、俺は扉を破壊しないようゆっくり開ける。

 

すると、俺に視線を向けるのがおっさんともう一人。

 

「お、何や」

 

おっさんのベッドの傍らに座っていたのは、一言で表すならチャラい男だった。

 

サングラスを掛け、トラ柄のジャージを纏い、糸目の男。

 

はっきり言って、お手本のような不良さを滲みだしていた。

 

あぁん??とか言って、大阪でカツアゲしていそうな感じだ。

 

「ノンちゃん、この子が言うてたコかいな?」

 

その男が俺を見ながらおっさんへと問いかけた。

 

「ああそうだ」

 

おっさんがそう言うと、男は席から立ち、俺の前にやってきた。

 

「ほな初めましてやな。挨拶は……」

 

男が一瞬逡巡した。何を迷っているのだろうか。

 

やがて男が閃いたように、顔を綻ばせながら言った。

 

「――Enchanté(e). Je m'appelle Araki.」

(初めまして、俺は荒木っちゅうもんです)

 

「――! Parlez-vous français ?!」

(お前フランス語喋れんのか?!)

 

おいおい、まさかのインテリ系だったわ。この見た目でそれはギャップで目が歪みそうだ。

 

驚く俺に、荒木と名乗った男は自慢げにその糸目を更に細めた。見えてんのかそれ。

 

「Il était nécessaire de faire beaucoup de choses.」

(ま、色々やっていくには必要やったんやわ)

 

「Je vois. Mais,,,,,,,私は日本語も問題なく喋れるぞ」

(そうか。だが………)

 

俺が日本語でそう言ってやると、荒木は驚愕の表情を浮かべた。

 

「えッ……そうなん……?」

 

荒木が振り返り、おっさんを見ると、おっさんはククク……と笑いを堪えているようだった。

 

「ノンちゃん騙したな?聞いとらんで日本語喋れるって」

 

ジトっと見つめる荒木に対し、おっさんは未だ笑みを浮かべていた。

 

「いやすまん。普通に忘れていたわ。そういやこいつフランスだったわ」

 

「忘れるか普通……? まぁいいや」

 

荒木は再び俺へと振り返って不敵な笑みを浮かべた。怪しさが漂いまくっている。

 

「じゃあ改めて、俺はレース取り仕切ってた荒木っちゅうもんです。以後よろしく頼んますわ、デイスタン」

 

急に本名を告げられ、少し驚いた俺に、おっさんは言った。

 

「あぁこいつ、俺の昔のダチな」

 

例のヤンチャ時代のダチかい……

 

 

■     ■

 

 

「いやーまさかこんな有名なウマ娘と会えるとは思わんかったわ。とんだ僥倖やな」

 

チャラ男こと荒木が屈託のない笑みを浮かべながらベッド横の丸椅子に座る。

 

俺も促され、用意された丸椅子に座った。

 

「なな、握手お願いしてもいいかいな??」

 

荒木が興奮気味に手を差し出してくる。断りづらいなこれ。意図的だろ絶対。

 

「まぁ別に構わないが……」

 

手を差し出し、握手を交わす。

 

暫くして俺が手を離そうとすると、荒木は俺の手をガッチリ握ってきた。

 

「な、折角やからさ、今度またレース出てくれへん??」

 

荒木は俺の手を確りとホールドしながらにこやかに微笑む。

 

だがその視線は妙に鋭く、蛇のようにぬるぬるとしている。

 

―――――おいおい、絶対狙いそれだろ。

 

だが路銀は十分稼いだからもう出る気はない。

 

荒木の微笑みが妙に腹が立つので、俺は朗らかな笑みを返す。

 

そして、ウマ娘パワーで握り返してやった。

 

ミシミシと言い出す荒木の手。

 

当の荒木は、微笑みこそ崩さないが、額から冷や汗が流れまくっている。

 

「なな、中々ッ元気やなな」

 

引き攣り始めた表情でそう言った荒木に、今度はおっさんがベッドから笑い声をあげた。

 

「ハハハ! 手痛いしっぺ返しを食らったな荒ちゃん」

 

「手痛いどころちゃうわ!」

 

荒木がガバッと立ち上がる。

 

そこで俺は漸く手を離してやった。

 

「これ折れてんちゃうか……?」

 

俺が握った右手を摩る荒木。

 

だが、やがてまた道化のように笑いだした。糸目をグッと細めて。

 

「クククッ。まぁ返事はよぉ分かった。でもまた走りたくなったらまたいつでも来たらええ。俺は大歓迎や。最近摘発されまくっとるけどな」

 

「そうだな。いけたら行くとしよう」

 

「それ大阪やと二度と来ぉへん返事やんか……」

 

俺は思わず笑った。つまり、やつの道化は素晴らしいということだろう。

 

流石あんなやりすぎレースをやっていただけはあるらしい。まるで医師会長を道化にしたような、油断のできないタイプだな。

 

「仲良くなれたみたいだな」

 

様子を見ていたおっさんが、柔和な笑みを浮かべながら俺達へ言う。

 

「かなり面白いやつだなとは思った」

 

「それが売りやからな」

 

「仲いいな。そんじゃ、そんなお前らにいいやつ見せてやろう」

 

瞬間、おっさんが目を輝かせながら懐をガサガサと漁る。

 

……また物騒なやつじゃないだろうな、おっさん?

 

やがて、一枚の紙――チラシを突き出してきた。

 

「これこれ。そろそろだろ」

 

「……なんや、聖蹄祭かいな」

 

荒木が興味を失ったように肩を落とす。

 

だが、その隣で俺は”ん?”と思っていた。

 

「……聖蹄祭?何だそれは」

 

俺が首を傾げると、荒木は驚いた。

 

「なんや、聖蹄祭知らんのか?……あ、そうか。フランス出身やったな」

 

「聖蹄祭ってのは、トレセン学園でやってる秋の大感謝祭のことだ。色々な出し物とかがやってあって楽しいぞ」

 

「なるほど……」

 

ふむふむ……。日本のトレセン学園でやってる大感謝祭ね。

 

で、それを”俺達”に突き出している理由は何ですかね……?

 

「お前らで行ってこい」

 

「……え?」

 

「そりゃだってお前、行くんなら案内欲しいだろ。荒ちゃん毎年行ってるから詳しいぞ」

 

視線が荒木へと集まる。すると、荒木は胸を張り拳をポンと置いた。

 

「そりゃ俺もウマ娘ファンやからな。毎年行くのは当たり前や」

 

「なるほど……確かに行くなら案内は欲しいな」

 

「だろ?だから荒木と行ってこいってわけ。お前にも楽しんでもらいたいしな」

 

確かに大感謝祭は楽しそうだ。フランスにも近いのはあったし、楽しかったしな。

 

しかも日本だ。前世日本人の俺なら猶更楽しめるかもしれない。

 

「だが……いいのか?」

 

「何が?」

 

「私は今逃亡生活中だ」

 

そう、俺は絶賛逃走中である。ハンターに捕まった、は即ちフランス行き。

 

だのに、自ら見つかりにいくような真似する必要はあるのか。

 

俺がそう考える一方で、おっさんは余裕の笑みを浮かべた。

 

ハードボイルドチックで頼もしいさが漂っている。

 

「いいだろ別に。灯台下暗しって言うじゃねぇか」

 

「せやせや。僕も楽しんで欲しいって思ってる。日本のトレセンを見て欲しいわ」

 

次いで、荒木も余裕の笑みを浮かべる。

 

だがそれは頼もしいよりも怪しいが上回った。

 

……二人に大丈夫だと言われると、さらに行きたくなってくる。

 

思えば、ここに来てからそういうのには行ってなかったな……。

 

―――――うん、行こう。後は野となれ山となれ()

 

「……分かった。いつ行くんだ?」

 

俺はそう聞くと、荒木は今更?みたいな表情をした。

 

「もうすぐやで。折角や、初日から行こうやないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「因みに……案内費用はあるんやんな……?」

「チ……仕方ねぇな。これだけあったらいいだろ」

ゴソッ

「流石はノンちゃん。分かってるやんけ」

「全く……現金なやつだ」


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