きよらかな王子さま   作:西風 そら

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二階組?

 

 

 

 最初の試験シーズンがやって来た。

 一年生はまだ基本の試験だけなので、科目が少なく二日半で終わるが、上級生になると二十科目近くまで増え、しかも半日がかりの論文作成が午前と午後に連なったりで、この一週間は皆土色の顔でフラフラしている。

(名門学園だけあって確かに厳しい……)

 

 そんな中で、四年生のアーサーとマリサは、入学以来ずっとワンツーフィニッシュを決めている。

 並んで歩いているとそこだけ切り取られた絵のようで、「騎士物語の王子さまとお姫様みたい。お似合いねぇ」と関係の無い下級生は呑気に言うが、二人ともパワーバランスの関係で、婚姻を結ぶ事はまず無い。

 アーサーの父が王弟、マリサの祖母が前王の姉と、血が近いのもあるが、お互いの家の力が大き過ぎて、婚約者候補からは一番に外されるのだ。

 十ヶ月後の卒業パーティーには、それぞれ違うパートナーを伴って出席するだろう。

 

 

 

「今の四年生が卒業するまでには、王子さま、婚約相手を決めておいて欲しいよなぁ。でないとアーサー様たち、エスコート相手に困るじゃん」

 

 試験期間四日目の昼休み。

 いつもの中庭、灌木がワサワサ繁ったランチ場所。今日はリリィがまだで男の子二人のみ。

 ほど良い日陰に仰向けに寝そべりながら、ロッチが言った。

 自分たち一年生は一足先に試験が終わり、午前中は自主学習。

 午後には、他の学年より先立って、試験結果が張り出される。ドキワクしながらそれを待っている所。

 

「アーサー様なら誰が相手でも絵になるだろうな。一年生は卒業パーティー出られないけれど、チラッとでも見てみたいよ」

「誰かのパートナーになったら出られるぞ。頑張れルカ」

「怖い事言わないでよ」

 

 ルカは教科書を開いて、終わった試験の自己採点をやっている。

 ダミアンに言われたからもあるが、今回の試験はかなり頑張った。三位だった入学前の事前判定よりも手応えがある。ひょっとするとひょっとするかもしれない。

 

 

「遅くなってごめんなさい」

 リリィがいつものバスケットを携えて、繁みの間から顔を出した。

 

 ルカとロッチはすっかりブルー家のジェフさんのランチに胃袋を捕まれている。

 最近の週末ブルー家のお手伝いは、ずっと手を付けられていなかった庭木の高い所の伐採。ブルー夫人にも庭師のトムさんにも大喜びして貰っているが、学校では内緒だ。

 端から見たら、FクラスのリリィとAクラスの男子二人の、アンバランスな取り合わせ。

 後ろめたい事なんて何も無いが、一度軽く注意された経験もあるしで、なるべく目立たないようにしている。

 中庭の灌木の繁みのこの場所は、周囲から見えない絶好の穴場だ。

 

「あれ、リリィ?」

 

 繁みを越えてやって来たのはリリィ一人ではなかった。見覚えのある女の子、確か……

 

「ベペー男爵令嬢のケイト様です。教室ではとても親切にして頂いているの。一度ランチを一緒にどうかと」

 

 後ろから来た身なりの良い女子は、スカートを摘まんで優雅に礼をした。

 

 ・・・・

 ――あっそうか!

「ランスロット・ハサウェイです、宜しく、ベペー男爵令嬢」

 初対面は、爵位が上の者から話し掛けないと会話を始められないんだっけ。貴族めんどい。

 

「ロッチ・ラツェット。ロッチって呼んで」

 

「ケイト・ベペーと申します。一度ランチをご一緒したいとずっと思っていて、図々しくもリリシア様にお願いしていまいました」

 

「構わないよ、どうぞ」

「どうぞどうぞ」

 

 リリィは罰悪い様子から、あからさまにホッとした顔になった。

 仲の良い友人ではあるのだろうが、『友達の友達はみんな友達』ってタイプではない。頼まれて断れなかったのだろう。

 まぁ一回二回なら構わない。自分たちは女子にとって居心地の良い空間なんか作れないし、すぐに飽きてくれるだろう。

 

 ケイトは艶やかな赤毛にはっきりした顔立ちの美人で、いかにも輪の中心になりそうな子だ。

 勧められて敷布に座る前に、ロッチに向かってヒョコンと頭を下げた。

 

「先日、私の連れがラツェット伯子息様に酷い言葉を投げ付けてしまい、謝らなければと、ずっと思っていたのです」

 

「あん? そんなに酷い言葉だっけ?」

 ロッチはどこ吹く風で、もうバスケットの中身に興味が行っている。

「やった! ローストビーフだ! リリィんちのローストビーフ絶品なんだよ。ケイト嬢も座って座って」

 

 キョトンとしているケイトに、「ロッチは照れてるだけだから」と説明し、ルカは場所を勧めた。

 ルカだって、女の子たちの誰がどの言葉を言ったかなんて覚えていない。

 確かに、自分は黙っていたのに悪口一味と一緒くたにされるのは嫌だろうな、と思った。

 

 ロッチはさっさと食器を取り出し、三人前の食器の内の一組を差し出した。

「はい、ケイト嬢の分。俺は手で行っちゃうからオッケー」

 

「あ、あの私、自分の分を買って来たので……」

 ケイトは持参の紙袋を見せる。食堂の売店で売っているテイクアウトのランチパックだ。肉を挟んだパン、チーズ、瓶の果実水にビスケットまで付いて、中々豪華。お値段も中々豪華で、学生食堂全般がハイソ寄り。

 自前の弁当組はそこそこ居て、大体が、購買の丸パンにチーズを挟んだような簡単な物。リリィと知り合っていなければ、ルカとロッチの昼食もそうだった。

 

「取り替えっこすりゃいいじゃん、女子同士のランチってそういうのやるんだろ?」

「そうなの?」

「あ、あの、ケイト様、宜しかったら味の感想が欲しいです。私も少し手伝ったので」

「分かったわ、ありがたく頂くわね。リリシア様、今日の清算は私も頭数に入れてね」

「え……」

「え?」

「はい……?」

 

 あ、ケイト嬢は、ルカやロッチが金銭で依頼して、リリィんちのコックに弁当を作らせていると思っていたんだ。

(そりゃそうか)

 侯爵家と伯爵家の令息が、男爵家に食事を無料で食べさせて貰っているとか、あり得ないよな。

 

「えっと、その、私、変な事を言ってしまったようで……」

 焦るケイト。

 いやこちらこそ。でもなんて言い訳しよう。身分の違う男子二人が週末家に入り浸っているなんて、リリィが変な先入観を持たれてしまう。

 

「べ、勉強を教えて頂いているんです」

 リリィが声を出した。

「ほら、私、すごくお勉強が遅れているでしょう? うちのお祖母様がこちらのお二方にお願いしたら、快く指導役を引き受けて下さったの。昼食はブルー男爵家からの心尽くしのお礼なのです」

 

「そうだったの」

 ケイトは納得してくれたようだ。

 この説明なら不自然は無いし、嘘も入っていない。

 普段寡黙なリリィだが、実際はかなり頭が回って賢い、とルカは思っている。

 

「それでは、試験の結果発表が楽しみですね」

 ケイトも賢く話題を変えてくれた。

「私も今回は気合を入れました。何としても二階組に入りたいのです」

 

 

 ***

 

 

「にかいぐみ?」

 

「はい。せっかく王太子殿下と同級生の年に生まれたのに、一階と二階に分けられてしまって、全然お姿を拝見出来ないのですもの。あの方と同じ空間で過ごせる機会なんて、今後の人生であるかどうか分かりませんのに」

 

 うー―ん、男爵令嬢だと、そうだよなぁ。

 

「それで、二階のクラスに変わるチャンスってあるの?」

 

「兄たちに聞いたのです。試験で抜きん出た結果を出せば、一階の下級貴族でもBクラスに編入された前例があると。その為にBクラスは少人数で空きを作っているらしいです」

 

 確かに、他のクラスは十五~二十人位なのに、Bクラスだけ十二人だ。

 しかも派閥関係なく『上位身分だけどAクラスになる程でもない』という中途半端な者が放り込まれていて、『二階のFクラス』って感じだ。

 

「へえ、知らなかった」

「やっぱり違う物なの? 二階と一階」

「そりゃ、一階から見上げていたら、同じ学生という気分になりませんもの」

「ふむぅ」

「入学する前は、王太子殿下のお姿を間近で見られるとワクワクしていましたのに、こんなにもお会い出来ない物だとは思わなくて」

 

 王子さま、窓辺から動かないもんなぁ。

 

「その、Bクラスに移動って、基準とかあるの? 何点以上取ったらとか」

 

「兄たちの時代は、一桁の順位を取った者が上がれたそうです」

「九番以内?」

「私たちにとっては奇跡のような数字ですよ。上位の十数人は、生まれた時から最上級の教師に個別指導を受けているのですから」

「ふぅむ」

「それに数字だけでは無いようです。やはり人と(なり)も加味されるのではないでしょうか。基準があやふやだから、はっきりとした規則になっていないんだと思います」

「そうだね、僕らも初めて聞いたし」

 

 

 喋っている間にバスケットは空になり、ケイト嬢は礼を言って、リリィと連れ立って去って行った。

 

「びっくりしたけれど、ケイト嬢って礼儀正しくてきちんとした人だったね。知らなかった情報もくれたし」

「遠慮してた割にモリモリ食ってたよ」

「ロッチ……そんな所ばっかり見てるの?」

 

 知らない女の子への対応に気を取られて、この日のルカは、中央棟の窓から誰が見下ろしていたかになんて、気付かなかった。

 

 

 

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