きよらかな王子さま   作:西風 そら

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王子さまinブルー邸

 

 

 

「うわっ、うわっ、うわ――っっ」

 

「ああっ、殿下、言わんこっちゃない!」

 

「ジョリィ、ヨーゼフやめなさい、ステイ!」

 

「ヒャンヒャン」

「クゥン」

 

「リンド殿下~、自分から突っ込んで行ったらダメってあれほど……ああもお、上等のブラウスがよだれでベロベロ。幾らするか分かってんですかそれ、国民の税金ですよ」

 

 ロッチの言動は相変わらずひやひや物だ。

 だけれど彼の前で犬と戯れながら、王太子殿下は、今まで見せなかった子供の顔になる。

 

「済まない、つい、嬉しくて、あひゃひゃ、くすぐったい、ひゃひゃひゃ」

 

 

 日曜日。

 ローザリンド殿下が希望し、宮廷から大業な先触れが来て、ブルー男爵邸での『子供たちのお茶会』が行われた。

 

 周囲が呆れるほど仲良くなったロッチと殿下。

 リリィの事に気を揉むのをやめて目の下の隈が消えたルカ。

 リリィは皆に了承を貰って、ケイト・ベぺー嬢を招待し、計五名。

 女子がリリィ以外にもいた方がいいとのソフィー夫人のアドバイスだが、ケイトは大喜びでリリィを街に連れ回し、お揃いの髪飾りだ双子コーデだと盛り上がった。

 ちなみに殿下のファンではあるが、「推しに対する自分ルール」とやらで一定の距離を保ってくれているので助かる。

 ベぺー家の方が大慌てで、(最初 男爵邸という事で油断していたら、王太子はじめ高位令息参加の変則ルールと聞いて真っ青になって)馬車の半分にギッシリと領地産ワインと農作物を積んで来た。

 

「凄いな、ケイトんち」

「両親が舞い上がってしまいまして」

「そういえば俺ら、リリィんちに来るのに手土産持って来た事ないな」

 

「何を仰いますやら。いつも十二分に頂いております。年寄りばかりで手の届かない屋敷内のアレコレを率先して営繕して頂いて、どれだけ助けられておりますか」

 執事のセバスチャンが急いで口を挟む。

 

 今度はケイトが目を丸くした。

「高齢の方ばかりですの? それは大変ですわね。でしたら次回は、うちから若くて身の軽い召し使いを何名か同行させますわ」

 

「少しだけ違うのですよ、ベぺー様」

 歓迎に出て来たソフィー夫人が、ケイトに寄ってそっと耳打ちをした。

「孫が訪ねて来ておうちの事をちょこっとやってくれるような週末に、皆あこがれていたのです。うちは領地が遠くて子や孫が中々来られなくて。

 リリシアが来てくれるまで、曜日の感覚も無い、どんどん枯れ果てて行くようなお家でしたの」

「まあ……」

「だから、また幾らでもお気軽にいらして下さいね。そう、リリシアに今の社交を教えて下さっているのでしょう? ありがとうねぇ、私じゃ知識が古くさくて」

「とんでもございません、古い教えは大切です。母によくそう言われます」

「素敵なお母様ね」

 

 どうやらケイトも馴染んでくれたようだ。

 ソフィーおばあちゃんのお喋り相手を分担してくれたら大いに助かる。ルカとロッチはうんうんと頷き合った。

 

「そういえばロッチは家から、王太子に対してああしろこうしろとか言われないの?」

「相変わらず、『若い内に何でも経験しておけ』的な手紙が来る」

「おおらかでいいな」

 

「ルカんちは?」

「……どうだろ、連絡とってないし」

「マジかよ、侯爵家」

「学費と寮費は入れてくれてるし、学内での買い物やランドリー代金も家に請求が行くようになってる。それだけ世話して貰えれば充分だよ。

 そういえば、今の所、買い物ぜんぜんしてないけど、特に何も言われない」

 

 ロッチは、ルカの袖の刷りきれたジャケットに目をやった。

 そういえば、ルカの休日の服装はずっと同じだ。制服の他はそれしか持っていないようで、寮の部屋は修道院かよって位すっからかん。無機な棚に、殿下の白い馬車模型だけがポツンと置かれている。

 寮は朝夕二食付きだしランチはリリィんちのお弁当。たまにソフィーおばあちゃんのクッキーも持たせて貰える。

 買い物は文具ぐらい、それも入学二ヶ月じゃそんなに消耗していないだろう。

 

(でも支払いがほとんど無いって、家の会計を預かってる人が家長に申告したりしないのかな?)

 

 っていうか、他の上級身分で寮住みの者は、特別室で、召し使いや護衛の帯同が当たり前になっている。

 普通棟に一人で、身の回りを自分でやり、部屋に手洗いの靴下を干しているような侯爵子息は、世間知らずのロッチから見ても奇矯だ。

 

 

「うわあああ、ロッチ、ロッチ、動けない!」

 

 大型犬二頭にじゃれられてこんがらがって喜んでいる殿下を、慌ててほどきに行く。

 侍従、オロオロしてないで助けに行けよ。

 

 

 ***

 

 

 お茶会は、庭師のトムが張り切って整えた庭園で行われ、一応リリィの主催者としての訓練も兼ねているので、最初はお手本通りの挨拶会話で始まった。

(殿下は顔を洗って、ブルー家子息の子供の頃の衣服を借りた。クラシカルもお似合いだわとケイトがうっとりと眺めている)

 

 勝手知ったる子供たち、すぐに体裁は崩れ、殿下の持参した見事な跳開式可動橋(ちょうかいしきかどうきょう)の模型にロッチが食い付いて、二人の世界に入っている。

 ロッチは仕掛け細工全般が好きみたいで、殿下の模型改造計画に熱が絶えない。どんどん専門的になって行って、ルカには着いて行けないが、たまに難しい物理の計算式を頼まれる。

 

 リリィとケイトはマナー講座のあと女子のお洒落トーク。やっぱりルカには着いて行けない。

 しかしソフィー夫人の着ているアシンメトリーのディドレスが、古い流行品をルカが改造した物だと聞くと、ケイトの目が輝いた。

「素晴らしい技術とセンスだわ、お金を取れるレベル……って、侯爵子息様に対して失礼ですわね。将来は服飾やデザインを手掛ける道に進まれるのですか?」

 

「いや、僕は母のやっていた事を真似しているだけで、本当に凄いのは母なのです」

 

「達人のお針子さん……」

 ケイトは少し考え込んだ。ルカが平民育ちの庶子だという噂は耳に入っているが、いちいち持ち出さない礼儀は備えている。

「あの、割と本気の話なのですけれど、ベぺー家は服飾ブランドも手掛けておりますの。庶民と貴族の中間くらいの、ちょっと背伸びした良い物を奮発して、大切に長く着ましょうってコンセプトのお店。

 これだけのお直しの腕を持つ女性がいらっしゃるのなら捨て置けないわ。是非一度お話をさせて下さいませ」

 

 リリィもびっくりしたが、ルカはもっと目を丸くしている。

「それは嬉しい話です。母は今入院中ですが、回復しだい是非」

 

「まあ、大変ですのね。早く良くなられるようお祈りいたしますわ」

 

 こっちで喋っている間に、ロッチと殿下は納屋の方へ行って、熱心に材料を吟味し始めた。

 どうやらロッチの実家から何やら図面が届けられたのだが、『出来上がるまで秘密』と、ルカもリリィも教えて貰えなかった。

 犬が邪魔をするので、往々にして進まなさそうだ。

 

 

 

 

 

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