きよらかな王子さま   作:西風 そら

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ひそやかなる攻防

 

 

 

「お話とは何でしょうか、ストラスフォード大公令息様」

「うん、まぁ取りあえず掛けたまえ、ルカ」

 

 本日はサロンでもない、教員棟の面談室。こんな所も自由に使えるんだから特権凄いな、サロン。

 

「この先、何か企んでいるなら、今、言っておいてくれ」

「はい?」

「君の事だから、二段三段があるんだろう? 今白状してくれた方がお互いの為だ」

「この件は殿下主導です」

「それなら尚更だ。自主的に喋ってくれないと、言わざるを得ない状況まで追い詰めるしかなくなるが」

「怖いですやめて下さい」

「なら、今話せ」

 

 ルカは息を吐いて、腹の中でみっつ数えてから話し始めた。

 

「マリサ様とイサドラ様がわざわざ僕に聞かせた『なんちゃってクーデター』の話。僕の寝惚けた頭では判断出来かねたので、仲間に頼りました。

『これは我が儘を言って別の事を主張したいのでは?』と推理したのはロッチで、『マリサ嬢の察して攻撃だろう』と指摘したのは殿下です。さすがですね、あの二人、ドンピシャでした」

「……そもそも殿下を巻き込むのが間違っている」

「そうですかね、見て分かったでしょう? 殿下が一番ノリノリだったじゃないですか」

「それが分からない、何故だ?」

 

「殿下はアーサー様が大好きなんですよ」

「は??」

「他の人間が怖がって近寄らなかった幼少期に、気にせず遊んでくれたと」

「ビカビカ光る子供など面白かったからな」

「アーサー様が、支持派を本気で嫌がっている事も知っています」

「王座など、清らかな人気者が座っていればいいんだ」 

 

「でも、マリサ様って何にどこまで本気なのか、全然読ませてくれないじゃないですか。イサドラ様はポーズだって何となく分かるんですが」

「マリサは立派な貴族の女性だ。君らが心配するには及ばない」

 

 アーサーはイライラした様子。とっとと本題を話せって所だろう。

 ルカは膝の拳を握った。

 

「殿下は心配していますよ。マリサ様じゃなくて、貴方の事をとても心配しています。

 このままではマリサ様は確実に貴方以外の男性に嫁ぐ。マリサ様が隣からいなくなった後の貴方がどうなるか…… 殿下の悪い方の予感って、悉く当たってしまうんです」

 

「そこは……申し訳ないけれど、余計なお世話という言葉を使わせて貰うよ、ルカ」

 

 深い青色の目に鋭く睨まれた(怖い・・)

 

「先日の、アレは予行演習です」

「予行演習?」

「本番は、七ヶ月後の卒業パーティーです」

「……は……」

 

「殿下は、それまでにマリサ様を婚約者に据えて、それで、パーティーの真っ最中に、あの寸劇をやる予定です。今度は一人で演じると仰ったけれど、僕は付き合うつもりです。

 先日のアレでは学園内の噂話だけで済みましたが、卒業パーティーともなると、大人の方も大勢いらっしゃるし、冗談では済まされませんよね」

 

 ガタリと椅子を蹴ってアーサーが立ち上がった。

 

「ふざけているのか」

「本当にやります」

「なっ、何のために!?」

 

<義姉さんに瑕疵(かし)を付け、貴族社会から孤立させて、駒としての価値を失わせる為です>

 

 さすがにアーサーの表情が変わった。

 

「本当に憎たらしい『義弟』だな。マリサが貶められたとして、僕が手を差し伸べる保証なんかどこにも無いだろう」

「差し伸べますよ」

「何でそんなに自信満々なんだ」

 

「僕たちの小芝居に乱入してくれたじゃないですか。放っておく事も出来たのに」

「・・!」

 

 アーサーが言葉に詰まった隙に、ルカは間を置かず、一言一言丁寧に喋り出した。

 

「殿下の年代周辺の未婚約問題って、殿下が十歳ごろまで病弱で決められなかったのが原因って言われていますよね。

 でもこれって、三つ上のアーサー様たちには関係無くないですか? 普通もっと早い、年齢一桁の頃に決まっているものなんでしょう? なのに何で、かなり広い範囲、十人もの女性が宙ぶらりんになっているんでしょう?」

「…………」

 

「貴方の世代は、貴方が起因なんじゃないですか? 同年代の頂点である貴方が、婚約が決まりそうになる度に画策して潰してしまうので、下の方も決められないで滞る。

 とうとう大公様が、『殿下が婚約するまでは猶予をやるから頭を冷やせ』って折れてくれたらしいですね。

 殿下はそれを聞いちゃいました、お漏らしさんは宰相様です。殿下に早い婚約を促す為に言ったのに逆効果でした。

 大好きな貴方の隠れ蓑になれるんならいいやって、殿下も婚約を引き伸ばし始めました、二人してどんだけ周囲の迷惑になってるんですか」

「…………」

 

「でもねぇ、卒業の年になって、いい加減決めなきゃならない。周囲も催促します。

 殿下、調べました。調べるまでもなかったです。殿下に言わせたら貴方、小さい時からマリサ様しか瞳に映していなかったそうで。

 合理的で模範的な貴族の貴方が、これだけ周囲に迷惑を掛けても抑えられない」

 

「黙ってくれ……」

 

(黙りません)

 

「マリサ様に貴方が必要なんじゃなくて、貴方『が』、ひたすらずっと、マリサ様を渇望しているんじゃないですか」

 

 椅子にドッカと身を落として、アーサーは額を押さえた。

 

「自分の性格は自分で分かっている、父にそっくりなんだ。僕の伴侶はハンパではない苦労をする、それが分かっていて……いや、だから、そんな女性はいない方がいいんだ」

 

「そういうのも、ちゃんと打ち明けて話し合えばいいのに。あ、これを言ったのはリリィです」

「あの娘とまでそんな会話をしているのか!」

「魔王と言っていたけれど、あんなに(すが)しい魔王はいない、とも言っていました」

「…………」

 

 アーサーはまた立ち上がって、額を押さえたまま首を振ってうろうろし始めた。

(しぶとい、さすがアーサー様)

 

「……そもそもそんな馬鹿をやったら、殿下自身が、確実に失脚するぞ」

 

「そうですね。ご自身でも自爆技って仰っていました。でも貴方に王冠が回って来るならば、それはそれで目論見どおりです。

 穢れなき王子様を前面に押し立てて裏で楽チンな執政を目論んでいらっしゃった大公様や宰相様にも、一矢報いてやれます。どんなお顔をなさるでしょうね、楽しみです」

 

「父たちに何の関係があるというのだ」

 

「ロッチとリリィにちょっかいを出そうとしました。殿下の婚約を斡旋して貴方の猶予を無くす予定だったようですが、触れちゃいけない場所でした。その点は、殿下、結構フツフツと怒っておいでです。僕も負けずに怒っています」

 

 立ち止まってまた頭を振るアーサーだが、心もち、動きが鈍って来た。

 

「……あ、遊びじゃないんだ、どれだけの範囲に迷惑を掛けると……」

「しようがないじゃないですか。殿下っていつも、自分にとって大切な人の事で頭が一杯なんです。勿論、貴方も含まれています」

「…………」

「観念して下さい。優先順位が違うんですよ、僕らの『きよらかな王子さま』」

 

「……どうしたらその自爆技をやめてくれるんだ」

「卒業パーティーで貴方とマリサ様がパートナーになっている事です」

「…………」

「殿下を思い留まらせるなら今の内です。でないと今日にでも王妃様にマリサ様との婚約を進言しちゃうかもしれませんよ」

 

「分かった、分かったから、殿下を押し留めてくれ。こっちは一族すべてを説得しなくてはならない。今日明日には無理だ。近日中にすべて形にハメるから」

 

「御意」

 

「御意じゃないよ、まったくもう……」

 

 

   ***   

 

 

 

 ――薄暮

 校舎の裏で崩折れる錫色の髪。

 

「――あぁあああ、怖かったぁあ……」

 

「怖かった?」

 しゃがみ込むルカに近付くのは、鳶色の髪のロッチ。

 

「滅茶苦茶怖いよぉ、二人きりになると尚更だよぉ、アーサー様」

「お疲れさん」

 額に冷たいレモネードの瓶。

「殿下からの差し入れ」

 ルカは急いでコルクを抜いて、カラッカラの喉を潤した。

「殿下の指令、厳しい・・」

 

 殿下はルカに、『アーサーに自分からマリサに求婚するよう仕向けろ』との高難易な指令を出した。

 それで自分の怪我に対する罪は相殺にしてくれると。

 

 ロッチは苦笑って、相棒の肩に手を回した。

「これからも覚悟しなきゃだね。思うより厳しくて激しくて頑固だ、僕らの『きよらかな王子さま』」

 

  

 

 

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