きよらかな王子さま   作:西風 そら

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三人娘

 

 

 嵐のように慌ただしかった初日の翌日、案の定ルカはダウン。

 夕方起き出した頃には、一族の女の子たちと出掛けていたリリィがすっかり馴染んで、満面の笑みで帰って来た。乗馬に野駆け、二輪馬車まで体験させて貰ったという。

 ミックとユーリの騎士二人も同行したが、女子供だけで軽々と外乗りをこなす風景に愕然としたらしい。

 

「ルカの為の馬も厩にちゃんと用意されていたわよ。明日は一緒に行きましょう」

「あ、うん……」

 

 でもやっぱり、自分がいない方がリリィは伸び伸びと楽しめている……

 

 ロッチは父親や兄たちと国境の砦の方を回って、夕陽の頃に帰って来た。故郷に帰ったらラツェットの一員としての立ち位置がきちんとある彼。

 置いてけぼりになった気分。

 

「ルカは使者としての役割を堂々とこなしたからいいじゃないか」

 帰還したロッチと出迎えたルカと、二人並んで厩から邸に向かう道。

 

「でも結局ガヴェイン家としての交流はミックさんとユーリさんが賄ってくれているし」

 

 二人の騎士が遠目に見える。現地の騎士たちと、もうかなり仲良くなっている感じだ。

 

「僕の『使者』ってやっぱりこじつけだったよなぁ」

 全然関係のない図書室の事で暴走して、翁に呆れられたり。

 

「そう? ここんちの中央に対する偏見を、だいぶ和らげてくれたと思うよ、ルカは」

「そう?」

「俺はさ、四年も故郷を空ける事が不安だった。卒業の十六なんてもう小隊を率いる歳だし、同年代の従兄弟たちにそれだけ差を付けられるんだ。

 でもルカに会って、色んな視点を持って、王都の学園で学べる身を生かそうって思えるようになった。

 その事を親父たちに話したら、存外スルリと受け入れてくれた。ルカが『使者』として役目を果たしてくれたお陰だよ」

 

「ホント……?」

 珍しく鼻を赤らめて俯くルカ。

 

「明日は馬の練習しよ。ルカの為に用意した馬、一昨年生まれの中で一番賢い奴だよ。きっとルカと気が合うよ。

 ルカが馬を乗りこなせるようになったら、大人になって何処に住んでも、会いに来られるよね」

「そうだね、うん」

「……本当はここに住んでくれたら嬉しいんだけれどね……」

「えっ?」

「ううん、何でもないっ」

 

 ロッチは駆け出した。

 待ってよ、と着いて行こうとするルカを、後ろから呼び止める声があった。

 

 

 ***

 

 

 振り向くと、乗馬服姿の女の子が三人、厩の方から歩いて来る。

 ロッチによく似たクセっ毛だが、こちらは(とび)色ではなく明るい麦穂色の髪。

 

「これ、ルカ様の持ち物ですか?」

 差し出されたのは、ポケットに入れていたハンケチ。

 

「いつ抜いた? ルカの気を引こうと機を伺っていたな!」

 前方でロッチが囃し立てる。

 

「失礼ね、あんたに話し掛けていないわ!」

「お前らみたいな山出し、ルカが相手にするもんか!」

「何ですってぇ!」

「誰が猿よ、誰が熊よ、誰が猪よ!」

「そこまで言ってない! でも確かに猪の方が上等だ」

「悪ガキ! 待ちなさいよ、ロッチ!」

 

 憎まれ口を言って逃げるロッチを、元気の良さそうな二人が追い掛けて行った。

 

「あ――ぁ」

 ルカの隣に年長の一人が残る。マリサと同じくらいな年で、髪を高く束ね上げた、お姉さんって感じの人だ。

 

「ハンケチ、ありがとうございました」

「いぇ、本当に今拾ったのよ」

「はい」

 

 行こうとするルカを、お姉さんは手を上げて引き留める。

「ぁ――、あのね」

「はい」

 手短にお願いしますという顔で振り向くルカ。

 

「あの、ね、リリシア嬢、素敵なお嬢さんよね。優しくて綺麗で」

「そうですね」

「お隣の共和国のご出身よね」

「え?」

「ほら、あの珍しい髪と瞳の色、隣の国の北の森林民族の色だって、うちの曾お祖母様が言っていたの。若い頃に見たんですって」

「へえ!」

 学園図書館では得られなかった知識だ。リリィは知っているのかな。

 

 どうやら予想外の所に食い付かれたらしく、戸惑ったお姉さんは少し置いて続けた。

 

「あのね、叔父様たちがね、ロッチが嫁さん連れて来たって騒いでいるんだけれど、実際の所はどうなの?」

「…………」

 そんな事聞かれても……

 

「本当ならエイミに…… あ、今追い掛けて行った娘ね、ちゃんと教えて諦めさせてあげなくちゃいけないの。あの子、小さい時からロッチしか見ていなかったから」

(ゔぇ・・)

 聞きたくなかったよ、そんな込み入った話。

 

「今回の訪問はリリィの絵本探しが目的だったので、紹介とかそういうつもりは無かったと思いますよ。ロッチはあの通り天然なので……」

「え、そう?」

「はい?」

「ロッチって、兄弟の中で一番気が小さくて、人の顔色ばかり伺っているような子だったのよ」

「ええっ!?」

「だから驚いたわよ、学園へ行ってたった四ヶ月であんなに顔を上げて堂々と……

 ……キャッ!」

 

 庭を一周回って来たロッチが、走り込んでお姉さんのほっぺを後ろから引っ張った。

 

「俺の事ペラペラ喋るなよ! ニーナのお節介!」

 

「もぉ!」

 

「お姉ちゃんに何すんのよ!」

「悪ガキ、待ちなさい!」

 

 また走って行く三人。ここの女の子は王都の女子に比べて、だいぶ……さ、猿? 猪? じゃなくて、……スタミナがある。

 

「ね、貴方は婚約とかは?」

 

 またパイのお茶会の時みたいに粘っこい話になる気配を察して、ルカはバッサリ返した。

「僕は何回も言っているけれど、借金持ちの平民で、伴侶なんて考えられる身分じゃないです」

 ダミアンに相場を教えて貰って軽く計算した事があるが、ハサウェイ侯爵に返済する、邸宅での十ヶ月の教育費と学園の入学金云々が、わりと笑えない金額だった(貴族の相場は桁が違った)。少なくとも二十代前半までは返済マシーン確定で、嫁さんどころではない。

 

「それは本当? 断る為の言い訳じゃなく?」

「本当ですってば」

「じゃあそんなの気にしない、借金を返す協力もするって女性なら、考えてくれる訳ね」

「…………」

「私たちね、なるべく外から来た人を選びなさいって言われているの。この山合いの盆地で何百年も交流が限られてしまっていたから、新しい血を受け入れる必要があるんですって。

 私たちでなくても誰かを気に入ってくれたら、遠慮なく言って頂戴」

 

 麦穂色の遅れ毛を揺らしてさやさやと、重い事を世間話みたいに言う娘。

 

「愛だの恋だのは考えないんですか」

「そんなのは相手を決めてから育めばいい事だわ」

 どこかで聞いた台詞だ。貴族ってこんな所まで来ても、一緒……

 

 

 

 

 

 

 

 




挿し絵:三人娘

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