きよらかな王子さま   作:西風 そら

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護衛騎士の証言・Ⅲ

 

 ・・

 ・・

『トトド爺さん――、どこ――?』

 うっそうとした山に、女の子の呼び声が響く。

『動けなくなった? 人を連れて来たわよ――』

 

 どうやら先に国境を越えて、付近の村人あたりに助けを求めたのだろう。

 

『ああ、時間がありませんね』

 ルカが老人の足に慌ててゲートルを巻いた。

『じゃあ、今晩襲撃に来る場所と時刻、人数と配置、兵士経験者の数と武装等を教えて下さい』

 

『・・!!?』

 

『火種がなくとも襲撃の予定だったのでしょう? ユーリさんに持たせて、走って貰いますから』

 

 ユーリはまた頭が混乱した。今晩襲撃なんていつ言った?

 

『やっぱり聖女様の恩恵を受けた子供は凄いわな。確かに今晩はその予定じゃ』

 またトトド爺さんがバラしてしまった。

 

『単純に、リリィが明日いなくなる事が知れているのなら、「聖女を取り戻せ」の号令で村人を動かすのは、今晩かな、と』

『…………』

『もうひとつ士気を上げる為に貴方たちを、ラツェットの子供たちの元へ送り込んだんですね』

『失敗だったがな』

『ええ失敗でした。一つも死体を作れませんでした』

『ああ……』

 

『死体になる予定だったのは、貴方たち六人ですよ』

『え?……え?』

『越境したとはいえ、無辜(むこ)の女性と老人を六人も斬り殺した…… 言い訳が立ちますよよね、農民たちが怒って襲撃する行為の』

『誰に、言い訳するのだ?』

『僕らの知らない、安全圏から見ている人たちですよ。外の人たちはラツェットが地道に積み上げて来た歴史なんか知りません』

 

『だから、誰なんだ、それは……』

『さあ。僕には知る術がありません、ちっぽけな平民の貧乏学生ですし』

『都合のイイ時だけ平民学生になりおるの』

 爺さんの突っ込みに苦い顔になり、ルカはあと一押しをする。

 

『あのですね、さっきも言いましたが、矛盾だらけなんですよ、貴方の教祖様は。

 貴方を簡単に捻ったロッチ以上の騎士がひしめいているのがラツェットですよ。農民の集まりが襲撃して何で良い勝負になると思えるんです? いつもの山賊のつもりで応戦したら、一瞬で死体の山ですよ。大量の無辜の農民を兵隊が虐殺した心痛ましい現場の一丁上がりです』

 

 老人の目が見開く。

 

『教祖の目的って、そっちじゃないんですか?』

 

『…………』

『後ろから教祖の糸を引いているのは、国際社会で王国の立場を悪くしたい何処かの大きな存在かもしれないし、旧帝国の怨念深い逆恨み集団かもしれません。

 どっちにしても、貴方が中央で仕えていたような、安全圏からタカを括っているロクでもない人たちです』

『…………』

 

『その先鋒の捨て駒にされたんですよ、要らない年寄りばっかり寄せ集められて。あの女の子は謎ですが』

『メムは村長んちの末っ子じゃが、妾の娘で頭も器量も悪いと来て、もて余されとったんじゃ。

 まぁ、最初の被害者に「幼気(いたいけ)な少女」が混じっているだけで、印象操作がやりやすくなるわな』

 

 トトド爺さんの冷静な言葉に、兵士上がりの老人は真顔でそちらを見る。

 

『それと、死体は六つではなく五つじゃ。わしは泣きながら村に知らせる役割じゃったからの。六つ目になった可能性も十分あったが、教祖様にはどちらでもよかったんじゃろ。

 あ、因みにわしは、騎士がいるのを聞かされておったぞ」

 飄々と語る爺さんを、ユーリは背筋を凍らせながら眺める。

 

『お、俺が、その辺の年寄りと一緒に、捨て駒扱い……? 馬鹿な、教祖様は俺の実力を認めて必要だと言ってくれたんだ……』

 

 娘の呼び声と複数の足音が近付いて来る。時間がない。

 

『本邸に知らせられれば、死体の山を妨げるんです。今はペデリオさんが必要だと思う行動をして下さい』

 

『……俺の名前は、ペデリオじゃない……ユタだ』

『ではユタさん、お願いします』

 

『兵士上がりは俺を除けて十一人、内、(スナイパー)が二人、これらは教祖の護衛・・農民の人数は・・配置は・・時刻は・・』

 見習い騎士のユーリが聞いても、攻める気の無い、山賊と間違えやすい、やらせる為だけの配置だと分かった。

 

 ルカはそれもまた素早くメモに書いて彼に渡した。

『さ、ユーリさん行って下さい。ここからだとあっちの尾根の物見台がすぐです』

『しかし』

 急がねばならぬのは分かっているのだが、ルカを置いていく事に躊躇するユーリ。

 

『僕はこっちに残って、出来うる限りの阻止をします』

 

『どうやって!?』

 

 

 その時、茂みを突き破って、とうとう娘が姿を現した。

 

『呼んでいるんだから返事してよ』

『すまんすまん、嬢ちゃん』

 

 後ろから二人の若い村人が、ルカたちを不審そうに睨んでいる。

 

 

『おぉぉ! メム嬢、再び会えて嬉しい!』

 ルカがいきなり今までと違う声を出した。

 

『え?』

 場違いな甘いボーイソプラノに、一瞬 踵を浮かせる娘。

 

『トトド爺さん、ユタさん、やはりどんなに止められても僕は自分の気持ちを抑えられません。

 メム嬢、僕は貴方の、暗い森の奥に湧く澄んだ泉のような清らかさに、強く惹かれてしまったのです。どうかこの気持ちを受けて下さい。そしてお父上への挨拶をお許し下さい』

 

 

 ***

 

 

 ゴン!!

 と音がしたと思ったら、ダミアンが机に額をぶつけていた。

 

 だって岩山での話を聞く限り、どうしたってルカのタイプじゃないだろ。何が澄んだ泉の清らかさだ。

 

「途中まで感動していたのに……」

 の声はエイミ。

「そんなのにほだされる女性がいるの?」

 はジヨアナ。

 

「それが、メム嬢はまんざらでもない様子で。……あの、直に聞いてみたら分かるんですけれど、ルカ様、本気で演じたらかなりな小悪魔ですよ」

 

「ああ、それは何となく分かるわ……」

 納得のニーナ。

 

 ロッチとリリィはひたすら頷いている。

 

「それでルカ様を置いて来たのか?」

 とのミックの質問に、ユーリは最後の締めくくりを話した。

 

 

 ・・

 ・・・・

『ほら、ユーリさんはもう行っていいよ、しっしっ』

 という感じで、ユーリは上手く追い立てられた。

 が、最後に

『騎士たるものの挨拶をして行って下さい。「使者」である僕の護衛騎士として』

 と、手を挙げて指輪を見せられたので、ピンと来て、

『御前失礼致します、ランスロット・ガヴェイン様』

 と言っておいた。

 

 

 ・・・・

 

「正解だったでしょうか?」

 

「多分正解じゃ」

 と入って来たのはラツェット翁だった。

 

 

 

 




今年も来て頂いてありがとうございました

よいお年を!!

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