きよらかな王子さま   作:西風 そら

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教祖の陰謀

   

 

 

 婚約ってやってみると案外呆気ないものなんだな。みんなが年齢一桁の子供の頃に当たり前にこなしている事だもん、そりゃそうか。

 ルカは、皆が振ってくれる祝いの葉っぱを眺めながら、ぼぉっと思った。

 

 

 ユタが「本当に婚約しちまいやがった」と呆れたように枝葉を振るう。

 一寸前に刃物向けられた人に祝福されるなんて不思議な気分です。

 

 背の低いトトド爺さんは枝を伸ばしながら「どうするつもりじゃ」と聞いて来た。

 頭を払って貰うふりをしながらルカは屈んだ。

「メムはあちらへ連れて帰ります。今晩、村は安全ですか?」

「それは保証出来ん」

「安全な所に匿ってやって下さい」

「何でわしが」

 

「何を差し出せば僕のお願いを聞いてくれますか」

「相変わらず小狡い童じゃ」

 爺さんは一寸考え、そして

「わしをメムの従者として共に連れて行け。王国の正式な住民籍が欲しい」

 なんと旧帝国語で言ってきた。

「即答は出来ませんが最大限の努力をします」

 やはり帝国語で答えた。

 

 

「ランスロット・ガヴェイン殿」

 

 祭壇から降りた教祖に呼ばれた。

 左右に数人ずつの信者が固めている。

 

「はぁい」

 軽い感じで返事をして、ルカは駆け寄ろうとするが。

「あれ」

 またトスンと尻餅を着いてしまった。

 

「一体どうしたのだ」

 ユタが肩を揺らしながら傍に来て引き起こしてくれた。

 

「僕、相当あの人が怖いみたいです」

「なんだそれは、式の最中は平気だったではないか」

「メムが横にいてくれたから」

「子供か」

「十二才は子供じゃないんですか」

「都合のいい奴だ」

 言いながら、ユタは教祖の前まで一緒に行ってくれた。

 

「ガヴェイン殿、隣国の貴族であるそなたがこの土地の娘と結ぶに当たって、領主殿に挨拶に行くのが妥当だと思える」

「あ、はい」

 領主っているんだ、そりゃそうか。

 共和国は爵位って無いんだっけ、このあたりの村をまとめている人……王国でいうと男爵、子爵くらい? 位置的に辺境伯?

 

「今、この村にある別邸にお見えになっている。丁度私も訪問の約束をしているので、ついでに連れて行ってやろう」

「今からですか?」

「ああ。先触れでお知らせすると、夜半にも関わらずお主に会う時間を作って下さった。感謝するがよい」

「わぁ、何から何までありがとうございます」

 

 ――ふぅん、領主様がたまたまいらしている。そして、就寝する暇もなく教祖を迎えたり、忙しい夜なんですね……

 

 領主の居所は、馬車だとすぐ。

 あの大きな白い壁がある谷の、こちら側の麓らしい。何でそんな危なかしい場所に別邸を? と思ったら、そこも昔の砦跡だとか。

 呼ばれたって事は、僕もめでたく今夜の輪に加えて貰えるんですね。

 

「ユタ、お前はご苦労だった。怪我の手当てをして休むがいい」

「いえ」

 ユタは教祖に寄って耳打ちし、ルカの隣に戻って来た。

 後で聞いたら「あの子供の突発な行動は目が離せない、自分に懐いているので側にいて監視する」と言ってくれたらしい。すみません突発子供で。

 でも確かに、一度切り捨てられた場所なんかに残ったってロクな事にならない。(だってあの教祖は本当に怖い……)

 

 

「メム、それじゃちょっと行って来るね。トトド爺さんの言う事をよく聞いて待っていてね」

 用意された馬車(ほぼ荷馬車)に乗り込みながら、優しい声で言うルカ。

 

「一緒に行っちゃダメなの?」

 トトド爺さんに肩に手を置かれて不安そうなメム。

 

「こういう時は接吻くらいしてやる物じゃ」

 余計な事を言うトトド爺さん。

 

「早いですっ、まだっ」

 と言いながら引き返して娘の手を取って、自分の手から指輪を外してはめてやる。

「この指輪は借り物だからごめん。落ち着いたらちゃんと君の指に合った物を贈るね」

「うぅん、可愛いワンちゃんと素敵なお花」

「きっと君を守ってくれる、大事に持っていて」

 

 もう一度手を握ってから馬車に戻ると、ユタがニヤニヤしている。

 今からそれどころじゃない場所へ行くんですけどっ。

 

 

   ***

 

 

 馬車が動き出すと、信者たちは元兵士だけあって騎馬に乗り込み、教祖は別馬車(屋根壁のあるちょっといい馬車)に乗り込んで行った。

 チラッと見えた座席に既に、信者でも村人でもない、高そうな生地のいい服着てる人が二人座っていた。

 誰だろな、誰だろな、これから秘密の打ち合わせ?

 

 お陰でルカも移動中はユタと二人きりで、色々聞く事が出来た。

 彼は彼で、馬車が用意される間の時間で、トトド爺さんにこそっと教えられた所だという。

 

 夕べたくさん集ったという人たちは、確かに近隣の村から集った信心深い人たち。

 そして夕闇に紛れて山に登り、伏せて待機をさせられている。『隣の領に奇襲をかけて聖女様を取り戻すぞ』という(げき)の元。

 とても成功するとは思えない作戦。作戦とも言えない。相手の戦力も何も知らされていない、そもそも聖女がどこに居るのかも分からない。

 湧いた疑問も何もかも、信仰心という蓋で覆い潰せてしまえる物なのだろうか。

 

「村長の家とか、来る途中見かけた村人とか、今日戦争をするって緊迫感はありませんでした」

「連中にしたらただの口減らしだそうだ」

「口減ら……」

「トトド爺さんみたいな者は他の村にも配置されている。住民の中に入り込んで、孤立して宗教に縋りたがるような者を見分ける」

 

 そういう者を選んで、あちらの領への憎しみを教義として刷り込む。『お前だけ特別に選ばれた』なんて手も使う。

 うぇ、なんでアーサー様の笑顔が浮かぶ? 消えろ消えろ。

 

「さっき爺さんに聞いた話では、百人にも満たないという。少なすぎて驚いた。それで総攻撃とはちゃんちゃら可笑しいが、死体の山としては十分なインパクトだ。一瞬でそれを見越したお前に、爺さんは感嘆していたぞ」

 

 はあ…… その程度の人数が分散して襲撃したのなら、それこそ、またいつもの山賊が湧いて出たと思って、各所で迎え討ってしまうだろう。

 幾ら国同士で定められた国境越え斬り捨て御免でも、一度の数が多過ぎる。

 誇りが服を着て歩いているようなラツェット家の人々が、相手が山賊でなかった事実の衝撃、(こうむ)った不名誉にどれだけ苦しめられるか……、ルカは胸と背筋が一緒に震えた。

 

「そういえば、山賊ってどこから湧くんですか?」

 ルカは、山賊は、村のグレた若者の成れ果てだと思っていた。だから山菜取りが老人ばかりでも、大して疑問に思わなかったのだが。

「若いのはグレたら都会へ行っちまうよ。山に住みついて悪さをするのは、大体が余所者だ。村の住民も迷惑している」

「こっちでも被害を出していたんですか」

 

「『豊かな隣の国をターゲットに出来る』って噂で、愚連隊みたいなのが集まって来るようだ。教団が教義でラツェットの悪印象を流布するのも拍車を掛けている。治安が悪くなるのはラツェットのせいだなんて逆恨みする村人もいる」

「酷い……」

「今回、ついでにこちらの山狩りもして山賊も狩ってくれんかなと、都合のいい事を言う者もいる」

「都合がよすぎです。ラツェットは国境は越えませんよ。自分たちの国の犯罪者は自分たちで何とかして下さい」

「俺に言われてもな……」

 

 ユタは黙り込んでしまった。

 中央にいた彼がそうなのだから、国その物が『他力本願』なのだろう。

 兵士あがりを集めて組織を作るようなバイタリティがあるのなら、山賊狩りをやって皆を喜ばせる方に動いてくれればいいのに、とルカは思う。

 そんな事ユタに言ったって、青臭いと鼻で笑われそうだけれど。

 

「教祖の言う聖女様を、幹部の人たちは信じているの?」と聞くと、

『教団の力を強めるのに必要な存在』ぐらいの認識だという。

「トトド爺さんは信じていましたよね?」

「あいつはクセ者だ」

「…………」

 

 

 

 

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